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■■小鳥遊 美晴 ’s View■■


 6月30日。

 放課後、具現化研究同好会の扉を開ける。

 いつもテクスタントで勉強ばかりしている先輩の姿は無かった。

 明日から長期ボランティアに参加するというので今日はその準備と言っていた。

 居ないのはわかっていても「やあ、小鳥遊さん」という挨拶が空耳で聞こえてきそうだ。



「あ~、先輩、行っちったね~」


「うん」



 工藤さんも先輩の存在が無くて寂しいのかな。


 この部活を見学に来た時に「居場所って思ってくれれば」と。

 何だか慌てながら口にしていた、先輩のリア研の紹介。

 根暗で引っ込み思案の私は他の部活には入れなかった。

 気後れしちゃって、どこの部活でも話しかけられるのが怖かった。

 けど、リア研だけは私に何も迫らなかった。

 ただ、居るだけでいい。とても魅力的に思えた。

 だから私は入部した。

 同じように、仲間内からハブられたという工藤さんも一緒に着いてきた。

 私と一緒にいるって聞かなかったから。



「・・・静かだね」


「ん~? むっつり先輩はいっつも静かじゃん」


「もう、そうじゃなくて」



 先輩は本当に挨拶だけで何も話しかけてこなかった。

 最初は怖かったけど、段々と一緒にいるのが当たり前な感じになって。

 1週間前にいきなり長期不在にするという説明を受けた。

 すると、いつも挨拶するだけの間柄だった先輩は1週間限定で先生に変わった。



「先輩と、もっとお話しておけば良かった」


「あ~、うん。そだね。あんな話しやすかったの、知らなかったよ」


「また、夏休み明けて戻って来たらだね」


「ん~、待つのだりぃ~。誰か先輩みたいに勉強教えてくんねぇかなぁ」


「先輩みたいに、ここでやる?」


「え~。あたし頭悪ぃぜ~」



 工藤さんは文句を言いながらもテクスタントを取り出した。

 なんだ、やる気があるんだ。

 先輩に火をつけられたからかな、私も勉強がやりたくなっていた。

 居場所だけど・・・居るだけじゃなくて何かを一緒にやりたい。

 そう教えてくれたのが先輩だったから。



 ◇



 ふたりで1時間くらい勉強した。

 分からないところは互いに教え合って。

 ひとりでやるより楽しくて、思った以上に捗った。


 突然、がらがらと部室の扉が開いた。



「こんにちは~」



 知らない制服のお姉さんが部屋に入ってきた。

 前髪が長くてちょっと暗い感じの人。高校生かな?



「こ、こんにちは・・・」


「あ~? お姉さん、だれ~?」


「いきなりでごめんね? 私、具現化同好研究会の所属だったんだ」


「え? せ、先輩なんですか?」


「うん。君たち、1年生の新入部員かな?」


「は、はい・・・」


「あ、本当!? 良かったよ~、まだここが存続するよ~」



 先輩と名乗るそのお姉さんは何だか感激していた。

 こんな何もない部活なのに、我が事のように喜んでいる。



「私、飯塚 恵って言うの。京極君の2つ上なんだ」


「ほ~、先輩、高2なんだ。大先輩じゃん」


「うんうん、君たちの大先輩」



 その大先輩は優しそうな雰囲気で私達を見ていた。

 何だかそれが先輩の雰囲気と似ていた。



「それで、京極君はいないの?」


「それが・・・」



 私は明日から3か月、先輩が不在になることを伝えた。

 折角、ここまで足を伸ばしてくれた大先輩は残念そうな感じだった。



「そっか、ありがとう。それじゃ私、京極君の家まで行ってみるよ」


「あ? 大先輩、先輩の家、知ってんの?」


「うん。場所が気になるなら本人に聞いてみてね?」


「ほ~い」



 ・・・大先輩は、先輩とどういう関係だったんだろう。

 家まで知ってるってことはそれなりの関係だったのかな?

 もう行ってしまった先輩に聞くのも3か月後だ。

 私は・・・時間は待ってくれないのだと、その時、初めて体感した。

 先輩が帰ってくるまで、工藤さんとここで勉強を続けようと思った。



 ◇



■■京極 武 ’s View■■


 3か月分の荷物。

 正直、そんな長期間の旅をしたことがないのでちょっと困惑していた。

 フェニックスで旅行用の道具を買ってリュックに詰めた。

 暇つぶしの道具は自習のためにテクスタントだけ。

 その他は通訳の仕事が、そのまま世界語の勉強になる。


 これで持っていくものは揃えた。

 あとは明日、港南の出港場所へ行けば良い。


 やり残したこと・・・。

 挨拶、か。

 御子柴君と花栗さんはあれが決定的になった。

 俺と話をすることも、目を合わせることもなくなった。

 ふたりで会話することが多く、たまに九条さんとも会話する。

 俺を除いて過ごすのが日常になりつつあった。


 九条さんはずっと、俺に話しかけようとしていた。

 すれ違いのまま放置していたので、未だにまともに話してない。

 直接、この部屋に訪問したり、PEで話してきたり。

 そういったこともなかった。

 今までなら何かしらアクションがあると思うんだけど・・・。

 何も無いのがかえって不思議だった。


 香さんにも話をしていない。

 だって・・・言ったら絶対に止めに来る。

 だから出港直前にちょろっと連絡して誤魔化すつもりだ。

 あれこれ長話になっても困るから。

 実情を知られるわけにはいかない。


 あとは・・・飯塚先輩くらいか。

 でも先輩のPEとか、連絡先を知らないからなぁ。

 ま、10月以降にホログラムチャットに付き合ってもらうって約束したし。

 それまで沙汰無しの予定だったから問題ないだろう。


 コンコン・・・。

 ん? もう21時前なのに。

 誰だ?

 もしかして九条さんか?



「どちら様?」


「京極君、いる?」


「え!? 先輩?」



 がちゃり、と扉を開ける。

 久しぶりに見る飯塚先輩の姿があった。



「先輩、どうしてここに」


「ちょっとお話がしたくなってね。寮の人には断ってるから、お邪魔するね」



 そう言って先輩が部屋に入ってきた。

 わざわざ来てくれたのだ、断る理由もない。



「ホログラムチャットもしなくなっちゃったからね。3か月ぶりくらいかな」


「うん。お陰様で世界語は自信ついたよ」


「ふふ、良かった」



 よく見れば先輩は制服だった。

 あれ、学校帰りに寄ってくれたのか?



「あのね。実は今日、同好会の部室へ顔を出したんだ」


「え? そっか、俺が居なかったから」


「うん、そう。だからこっちまで来ちゃった」



 部屋に来て「来ちゃった」って言われるとアレな発言に聞こえる。



「そこで聞いたんだけど。明日からボランティアで留守にするんだって?」


「ああ、うん。そうなんだ。3か月ほど」



 あのふたりに会ったなら仕方ないか。

 それにしても大した偶然だな。



「それ、AR値のために?」


「・・・うん」



 なんか先輩、鋭くね?

 タイミングといい、内容といい。

 でもAR値の話は先輩にしかできねぇし・・・来てくれたんだから話はしておこう。



「先輩、魔王の霧って知ってるか?」


「・・・うん、知ってる。そこまで調べたのね・・・」



 先輩の表情がいっぺんに強張った。

 それが何を意味するものかも知っているのだろう。



「行き先はどこ?」


「・・・南極だ」


「南極!? まさか・・・そういうこと・・・」



 え、先輩。これで分かんの?

 もしかして・・・俺と同じ可能性に気付いたってことか。



「ねえ。そこまで調べたなら・・・知ってるよね。もし浴びたらどうなるのかも」


「・・・知ってる」


「駄目だよ!!」


「!!」



 いきなり先輩が怒鳴った。

 あまりの大声にびっくりした。

 こんな剣幕の先輩は見たことがなかった。



「京極君! 分かってる!? 無事なの1割だよ!? 致死率、90%だよ!?」



 俺に掴みかかって身体を揺さぶる先輩。

 ・・・そのあまりの必死さに、かえって俺は冷静になった。



「先輩・・・」


「駄目だよ! そんなの絶対に駄目!!」


「先輩」


「行っちゃ駄目!! それだけは良いって言えない!!」


「先輩!」



 俺は先輩の肩を掴んで引き離した。

 先輩はそれでも力を入れて俺の服を離そうとしない。



「俺の・・・やらなきゃいけないことだ」


「ね、間違ってるよ、やり方。他に方法があるからさ。一緒に探そう?」


「先輩」



 先輩は服を離してくれない。

 必死なのだろう、そりゃ自殺しに行くって言ってるようなもんだからな。

 俺だって逆の立場なら止める。



「ね、お願い。止めるって言って」


「先輩、俺は行く」


「お願いだよ・・・・・・」



 先輩は俺の服を掴んだまま・・・泣いていた。

 こんな必死な先輩を見るのは最初で最後かもしれない。



「先輩、聞いてくれ」


「・・・」


「俺は・・・知ってることがあるんだ」


「・・・」



 先輩は涙を流しながらも、俺の目を見ていた。

 諭すように・・・俺は話をした。



「俺、この先に起こることをちょっと知ってるんだ」


「・・・?」


「その、魔王が。近いうちに世界を滅ぼすよう動き出すって」


「・・・」



 虚言だと思われるかもしれない。

 だけど俺の行動を説明するにはこれを言うしか無い。



「来年、高天原学園に入る生徒達が、そのための対抗手段になる」


「・・・」


「俺は、その傍らでサポートをしなきゃならないんだ」


「・・・」



 ぽたり、ぽたり、と。

 何度も床を濡らす音がする。



「・・・それで、ずっと。あんなに必死に・・・」



 震える声だった。

 俺の行動原理を理解したのだろうか。

 服を掴む力が弱くなった。



「・・・」



 ずっと、先輩は俺を見ていた。

 俺はこの人に、本当に助けられてきた。

 もしかしたらこれで最期になるかもしれない。



「ね、それ・・・貴方じゃなくても良いかもしれない・・・」


「俺じゃなけりゃ、サポートは駄目なんだ」



 先輩の望む、一縷の可能性を否定する。

 これは俺が最初に決めたことだ。

 この世界の流れに任せはしない。

 自分で選び自分で進める。

 それがこの俺(プレーヤー)としての生きる意義だと、どこかで悟っていたから。



「・・・駄目・・・なの・・・?」



 俺は肯首した。

 先輩はしばらくそのまま俺を見つめた後・・・手を離した。



「・・・京極君」


「ん」


「ふたつ、お願いがあるの」


「できることなら」



 俺をずっと見据える瞳は、有無を言わさずその意思を伝えてくる。



「必ず、帰ってきて」


「もちろん。死にに行くつもりじゃない」



 これは本心だ。

 俺だって死にたいわけじゃない。

 だからこそ、明確に言葉にした。



「もうひとつ。明日の朝、もう1度、私に会って欲しいの」


「朝に?」


「うん。船で行くんでしょ? 出港場所と時間、教えて」


「えっと・・・」



 すべての事情を話した先輩を拒む理由もない。

 俺は港南の位置と時刻を説明した。

 先輩はPEにメモを入力したようだった。

 そして念のために、と先輩のPEと連絡先を交換した。



「明日の朝。駅を出たところで待ってるから。絶対に会って」


「わかった」


「・・・うん。今日は、やることができちゃったから、これで帰るね」


「ん・・・送ってく?」


「ううん。準備もあるだろうから。また、明日ね」


「わかった。気をつけて帰って」


「うん。それじゃ」



 そう言って先輩は部屋から出ていった。

 ・・・まさかのタイミングで、まさかの説明。

 でも、ずっと心の内に閉まっていたことを口に出せた。

 それが俺の気持ちを少し軽くしていた。


 ・・・。

 はぁ。

 先輩だけでもこれだ、九条さんや香さん相手だとどうなることやら。

 

 ・・・。

 可能性だけでも、先に摘んでおこうかなぁ・・・。




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