037
12月となり肌寒い日が続いた。
後戻りした地球温暖化が再び仕事をするまで、この寒さを堪能できることだろう。
コートを着込んで登校し、いつもの席に座る。
いつも通りテクスタントを開き、授業の予習を始めた。
「武! おはよう!」
「おはよう、御子柴」
元気そうな御子柴君。
こいつ、コート着てねぇな。運動部って基礎代謝高いのね。
「武さん、諒さん、おはよう」
「おはよう花栗さん」
続けて花栗さんも登校してきた。
彼女は寒そうにピンク色の可愛い手袋をしたままだ。
「いつもどおり精が出るね。今日の歴史の小テスト範囲、予測してほしいよ」
「ん・・・このへんってくらいならあるけど」
「あ、教えて!?」
「俺も教えてくれ!」
食いつきが良いな、おい。
・・・まぁ、俺も1番最初の世界語の小テスト結果を考えるとね。
気持ちはよく分かる。平常点を稼ぐ意味でも。
「みなさん、おはようございます」
「「おはよう」」
九条さんが登校してきた。
俺の予測範囲に、目を皿にしてかじりついているふたり。
挨拶もそこそこに読み込んでいる。
「小テストの予測を知りたいんだと」
「なるほど。武さんの予測はよく当たりますから」
「え? そんなに当ててる?」
「はい。何というか、直感がとても優れていると思うことが多いです」
え? 俺、第六感強いの?
そんなことを考えたこともねぇよ。
つか、そんなに予測を披露したことあったっけ?
俺が記憶を辿っていると九条さんが顔を覗き込んできた。
「ところで・・・12月といえばクリスマスのお話をしたいのです」
「クリスマスか」
昨年は俺の希望を聞いてこぢんまり開催してくれた。
今年はどうなんだろう。
どう考えてもこのふたりも一緒だよな。
会場は橘先輩にお願いすれば、橘先輩の家で大丈夫な気がする。
決めるとしたら開催日かな?
「今年は24日が土曜日だから、その日に集まるのが良いかな」
「そうですね。おふたりはどうですか?」
「私は大丈夫。だって狙ってる人が行くならそっちに行くでしょ」
「右に同じだ」
はい決定。ふたりともそれどころじゃない的な反応だよ。
即答なのは助かるんだが、もうちょっと情緒的な何かを、ね?
って、橘先輩の予定を聞いてねぇな。
これで断られたら、またアバターカラオケとかでも良いかもしれん。
とにかく打診してから考えよう。
◇
今日の科学では地学をやった。
地球温暖化と隕石による氷河期の説明だった。
2150年頃には1900年と比べ平均気温が15度上昇していた。
極地の氷は殆どが溶け出し、水没した陸地も多数あった。
けれども隕石による粉塵で地球が覆われ急激に冷やされた。
これによる一時的な氷河期は平均気温を一気に下げ、約10度低下した。
人口の大幅な減少に伴い、温室効果ガスの排出も大幅に減った。
これにより世界は2000年頃の温暖化以前の生態系に戻りつつある、という。
魔王の霧事件を調べたからね、ちょっと事実と違うのは分かってる。
しっかし・・・奇想天外だね。
ラリクエの開発陣はこの逆行を利用して、未来なのに現代風気候を作り出したのか。
奥が深いというか、業が深いというか。
それで面白いゲームになってるんだから良いけどさ。
1度、水没した陸地の都市は壊滅したまま復興されていない。
いずれまた温暖化で水没すると考えられているからだ。
そういった沿岸都市の名前などがテストで出る。
凄いんだぜ、日本国内だけでも都市部がかなり沈んでた。
広島とか岡山とか大阪とか名古屋とか東京湾とか札幌近郊とか。
他にも利根川流域も酷かった。4~5メートル上昇した結果だ。
それが氷河期で戻ったってんだから。
そしてまた沈むって予測されちゃね、再利用なんてできない。
ましてや人口が減ってるんだから土地をケチる必要も無くなった。
こういう未来を見ると、リアル現代の問題をどうにかしなきゃと思ってしまう。
・・・未来って、良いことばかりじゃないね。当たり前か。
◇
部活が終わって帰り道。
いつもは時間が合わない九条さんと下駄箱で遭遇した。
「あ、武さん! お疲れ様です」
「九条さん、お疲れ様。久しぶりだね、このタイミングで会うの」
「はい、ご一緒させてください!」
既に靴を履いていた俺は九条さんが出てくるのを待った。
日が落ちてもう外は暗い。
マフラーにくるまってポケットに手を突っ込んでも、寒いものは寒い。
「お待たせしました」
「うん、行こうか」
九条さんとふたりで歩き出す。
白い横顔も銀髪も、闇に溶けてはっきり見えない。
けれどもその表情が嬉しそうにしていることは分かる。
・・・最近は距離を置くためにぞんざいに扱っている俺に、どうしてここまで靡いてくれるのか。
こうしてキープしている状況をたまに自分で嫌になる。
いや、俺、九条さんはキープしてないんじゃなかろうか。
はっきりと俺からキープ発言を・・・したよ。
「自分で、自信がついて。大丈夫だって思えたらその時に」って。
駄目じゃん俺!
あー・・・何で俺はこんな罪なことをしてんだ。
「あの・・・どうしました?」
「あ、ああ、ごめん。綺麗だなって思って」
「え!?」
九条さんの心が、ね。
だから俺の打算的な行動が余計に汚く思える。
こういうことを考えちまうから・・・クリスマスをやりたくねえ。
「あ、あの・・・」
ん?
あ、ナチュラルに発言してたよ俺。
顔、真っ赤にしてんじゃん・・・ごめんよ、無意識だった。
「・・・」
無言で歩く。無視もしちゃったから気まずい。
そうだよな・・・このままって良くねえ。
現段階ではフラットな関係性で良いはずなんだ。
いくらラリクエ攻略のためとはいえ、気持ちを弄んで良いわけない。
改めて・・・向き合うときじゃねぇのか。
「九条さん」
「はい」
「ちょっと・・・話しない?」
「えっと」
「ほら、途中の公園ででも話そう」
「・・・はい」
九条さんはちょっと嬉しそうな雰囲気を出していたけれど。
俺が少し深刻そうな顔をしていると良い話ではないと思ったのか、真顔になった。
ほんと・・・ごめん。
寮の手前にある公園に入った。
未来仕様でもベンチとかブランコはある。
俺は適当な位置のベンチに腰掛けた。
九条さんも隣に座る。
冷たい風が頬を刺す。
早めに切り上げよう。
「あのさ」
「はい」
「九条さんは・・・キープされてるのって、どう思ってるの?」
「キープ?」
「ええと・・・俺が九条さんの気持ちを知っていて、それに応えずに先送りしてること」
「・・・正直、辛いです」
「だよね」
「あ、えっと! 答えをいただけない辛さはあるのです。・・・その、それでも一緒に居られる嬉しさもあって」
「・・・」
「これはわたしが自分で選んだことなのです。武さんが気に病むことではありませんから」
ほう、と白い息が宙に溶ける。
自分に言い聞かせるようなその言葉。
俺は九条さんの顔を見た。
九条さんは微笑んでいた。
優しい表情で俺を見ている。
それは・・・辛い顔なのだろうか。
「俺は、さ」
「はい」
「かなり自己中なんだよ」
「ジコチュウ?」
「ああ、自己中心的ってこと」
「なるほど」
リアルの言い回しが変だという判定をいただきました!
やっぱ砕けた言葉は駄目だね!
「弓道部の件は、親切心じゃなくて・・・悩んでる姿が目に入るのが嫌で、仕方なくやったんだ」
「・・・」
「最初に話しかけたのも、綺麗な銀髪が珍しいって思ったくらいの理由だし」
「・・・」
「まだ理由を言えないけど・・・こう、気持ちに返事をしないのも自分の都合なんだ」
「・・・」
「だから・・・どれも本気で九条さんのためを思った行動じゃない」
「・・・」
幻滅されるだろう、という恐ろしさ。
騙し続けている罪悪感と、生き残るため利用しようとしている打算。
言わなければと思って話を始めたが・・・落とし所は考えていなかった。
この行為でさえ、自己満足のためにやっている。
そう考えれば考えるほど、自分が矮小に感じて情けなくなる。
だから隣りにいる彼女の顔を見ることができなかった。
「わたしは・・・」
その声は少し震えていた。
すっかり嫌われたのだろうか。
「武さんと出会ってから、世界が変わりました」
「・・・」
「親や先生に言われるがままに生きてきた幼少時代から、自分の意思で生きるように変われました」
「・・・」
「自分の意思で生きるというのはとても難しくて。選んだことに後悔もします」
「・・・」
「ですが、選んで掴んだものは、誰のものでもない、わたしのものなのです」
「・・・」
「嬉しいことも楽しいことも悲しいことも嫌なことも。すべてわたしのものです」
「・・・」
「ほかの人からもらうものではありません。わたしのものです」
言葉に強い意志を感じる。
俺は恐る恐る九条さんを見た。
街灯に照らされた彼女の白い頬は少し朱色に染まっている。
それが寒さのせいなのか分からない。
彼女は俺の顔を真剣な眼差しで見つめていた。
「わたしがあなたに想いを伝えたのは、あなたと共に過ごす時間をわたしのものにしたいと思ったからです」
「・・・」
「この気持はわたしの中から出でくるものです」
「・・・」
「もちろん、あなたからのお返事があると嬉しいです。でもこのあなたへの想いは、わたしのものなのです」
「・・・」
「ですから、あなたがどうであっても・・・この想いは変わりません」
瞳と瞳を交わしながら。
九条さんは言葉を紡ぐ。
「あなたは優しい人です」
「いや、俺は・・・」
「ご自身の善意でさえ、押し付けになっていないかご不安なのだと思います」
「・・・」
二の句が出せない。
見透かされたように言葉を重ねられた。
「わたしだけでなく。橘先輩や、諒さん、若菜さんも、きっと同じ気持ちです」
「・・・」
「お応えになれないご事情は存じ上げません。それでもあなたに伝えたい想いがある。そういうことです」
「・・・」
・・・俺は。
こうした自己満足さえも肯定してもらって、どうしようというのか。
「応えねぇことで、残酷なことをしてるって自覚があんだ」
「・・・はい」
「だから、その・・・これ以上、苦しめたくなくて・・・」
「・・・ふふ」
「?」
急に。
ぐいっと顔が引っ張られた。
九条さんが俺の頭を腕で引き寄せたのだ。
「あ、ちょっと・・・」
「これがわたしの答えです」
「・・・」
「あなたが何と言おうと・・・」
「・・・」
「わたしはこうしたい、ということです」
その胸に頭を抱かれて。
以前とは違う柔らかさを感じ。
時間の経過が、彼女を精神的にも肉体的にも成長させたのだと実感した。
だが俺は・・・果たして何か変わったのだろうか。
転移してからずっと姑息に生き延びる方法を考えていた。
四十路まで叩き上げた精神が簡単に変わるわけがない。
必死にもがいていただけ。
この差異が彼女との距離に思えた。
「ん・・・」
「駄目です」
その腕から逃れようと抵抗する。
が、彼女はそれを許さなかった。
「これだけは覚えておいてください。他の誰でもなく、わたしはあなたにこうしたいのです」
「・・・」
「少しでもあなたを後押ししたい。力になりたい。そうして笑顔を見たいのです」
「・・・」
「だから・・・ご自身を傷つけないでください」
・・・。
結局。
俺はそのまましばらく、九条さんに抱かれていた。
なんか男女逆だよ、と思うことがしばしばある。
俺の意思が弱いせいなんだろなぁ。
九条さんのフラグ、これ、俺にはもう折れねぇよ・・・ヒロイン強え。
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