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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第1章 誕生日
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第8話 ビーストの気配


第8話『ビーストの気配』



ザクザクと人の足音が森の中に響く。

そこまで大きな音ではないが、静寂に包まれた森の中では、彼方まで響き渡るのではないかと錯覚を覚えるほどだ。



「…セレナ」

「何よ?」

「もう少し…その、静かに歩こう」

「だから、私に恐れをなしてビーストが避けているんだから、静かにしたら逆効果よ!」


セレナを止めようとしたが、逆に怒られてしまう。

どこからこんな自信が出てくるのだろう…

でも、ダメだ。

早く連れて戻らないと!



「その、これは直感なんだけど、すごく強いビーストが森に潜んでいそうなんだ!!」

「ふーん」

「だから、その…」

「帰らないわよ」


「セレナ!」

「な、何よ?」


強い口調になったレイズ

そんな彼に驚いた素振りで応えるセレナ



「帰ろう!」

「いやよ!せっかく来たのに、何の収穫もなしじゃ、負けたみたいじゃない!」

「えぇ…」



セレナはプイっと顔を背けると、そのまま森を進み始める。

レイズは途方に暮れそうになるが、ペロが何かを感じたのかそんなレイズの袖を口で引っ張る。



「にゃう!」

「ん?どうしたの?」

「…にゃう」


「え、ビーストと人の戦いの跡?」

「にゃー!」


セレナに意識を向け過ぎて気付かなかった。

確かに、周囲には争ったような形跡がある。

具体的には、木の枝が折れたり、木に傷が入っている。


石の斧が落ちていたり、木の矢が木や地面に刺さっていた。



セレナが戻ってくると、地面に落ちている木の斧を地面から取り上げる。

そして、持つ手の部分を指でなぞると呟いた。



「…新しいわね」


「新しい?」

「ええ、ついさっきまでゴブリン種が使っていたようね」


セレナの言葉にペロも頷く。

どうやら匂いがしっかりと残っていることから、セレナの言葉に頷いているようだ。

石の斧を"使っていた"ということは、つまり誰かと戦っていたということだろう。

ビーストが戦う相手など十中八九は人間である。



「ビーストと人がさっきまでいたんだ」

「にゃー!」

「ビースト、森からいなくなったわけじゃないんだ」



ゴブリン種などのアルファビーストの一部は魔力係数が低い。

そのため、生命活動を停止すると死骸が世界に残らず、粒子化して消えてしまうのだ。

だから、ゴブリンが手にしていたであろう石の斧や、木の弓矢が彼らの痕跡となる。



「…」


レイズは周囲をさらに観察し、間違いなくゴブリン種であること確認する。

ゴブリン種はデルタ級が現れれば真っ先に森から逃げ出す存在だ。

誰かと争っている場合ではなかったはずだ。




「にゃー」

「うん、デルタビーストが原因じゃなさそうだね」


「だから言ったでしょ?ビーストは私を避けているだけだって」

「…セレナ、それはもう良いから」

「どういう意味よ!?」




不服そうに頬をリスのように膨らませるセレナ



「ちょっと!レイズ!ペロちゃん!」


そんなセレナ放置して僕は人の気配を探る。

もしかすると、一大事かもしれない。



「…戦っている人はどこに?」

「にゃう…!」

「えっ!?」


ペロの視線が森の奥へ向けられる。

そこに人がいると僕へ視線で告げてきていた。


ペロの視線を追っていたのはセレナも同じだ。

すると、彼女の表情は急に真剣さを増していた。



「…行ってみましょう。もしかすると加勢が必要かもしれないわね」


神妙な顔でそう僕へセレナが告げる。



「ちょ、ちょっとセレナ!?」

「急ぐわ、これ、ちょっとやばいかもね」



セレナはズシズシと気配を消す素振りもなく森の中を進んでいた。

それは過去の話だ。


表情を変えたセレナの気配は急に希薄となる。

物音を響かせず、目の前にいるのに、いないような感覚がした。



「っ!」

「にゃう!」


「ほら、急ぐわよ!」


気配を完全に消しつつ、森の中を風のように駆けていくセレナ

そんな彼女の背中を見失わないようにするだけで精一杯のレイズとペロであった。





ーー時は少し遡る。


レイズ達のいる森の中で額に「β」と刻まれたビーストがいた。

3mぐらいはありそうな巨人だ。

手足の先まで体は真っ赤であり、頭部には鬼のような角が左右に生えていた。

筋肉は太く隆起しており、その鋭い爪がある手には丸太が掴まれている。


ビーストの名は「オーガ」

クラスはベータだ。


オーガに付き従うのは、額に「α」と刻まれた子供ぐらいの大きさのゴブリンだ。

ゴブリンの肌は緑色であり、手には石槍や骨で作った剣のようなものがあった。

さらに奥で待機しているゴブリン達は木の弓矢を持っていた。



知性が低いゴブリンもオーガに率いられれば隊列ぐらいは覚えるようだ。


オーガ達と対峙する2人の冒険者は、そんなゴブリン達の軍団を見て舌を鳴らしたい気持ちに駆られる。



「グガガガガガ!!」

「「キキーーーー!!!」」


前後左右からゴブリン達の鳴き声が響く。

つまり、しっかりと包囲されていることになる。



「くっ!森が静かだと思っていれば、この有様か」

「悪態は後!」


修道女のような白い衣に身を包む女性

悪態をつく剣士のような男性


2人は周囲をオーガが率いるゴブリンに囲まれていた。

男性の右手の甲には「妖精」の紋章

女性の右手の甲には「猫」の紋章がそれぞれ刻まれていた。

戦闘向きの精霊と契約していることが一目で分かる。



「グガガガガ!!ニンゲン、オンナ、イイニオイ!!」


オーガは女性を見つめると、豪快に笑い、涎を溢す。

ゾッとするような表情だが、対峙する女性は身ぶるいすら起こさない。

戦闘を生業にしている彼女がそれぐらいで狼狽えることなどあり得ないのだ。


ジリジリと詰め寄ってくるオーガ達を前に、2人はボソボソと何かを呟く。

戦闘を回避できないと悟ったのだろう。

寝ている精霊を起こし始めた。



「…ワンダーキャット、起動して」

「シルフ、起きろ」


2人がそう呟くと同時、彼らの手の紋章が淡く光り始める。

彼らの声に呼応して、契約した精霊が目を覚ます。



「ホーリー!!包囲網を崩す!!行くぞ!」

「ええ、援護するわ!!」


女性をホーリーと呼ぶのは剣士ベイトだ。

彼らは冒険者であり、森へ別の任務のために来ていた。

目的はオーガやゴブリンではないため、リスクを冒して彼らを倒すよりも回避を選択した。

包囲網から抜け出して撤退する作戦であった。



ベイトは剣を構えながら、背後にいるゴブリンの群れへ突っ込んでいく。

ベイトの背中にホーリーが続く。




「キキ…」


迫るベイトに対して、慌ててゴブリン達は粗雑な剣と槍を向ける。

背は曲がっており、まるで向かってくる2人へ臆しているようだ。



「グガガ!!」


しかし、オーガが咆哮すると、ゴブリン達の背筋がピンっと伸びる。

向かってくるベイトやホーリーよりもオーガの方が怖いようだ。



「グガガガ!」

「「キキ…!!」」



すぐにベイト達はゴブリン達のところへ辿り着く。



「…発動!剣術適正!!」


ベイトは魔法を発動させる。

彼の動きのキレが増し、流れるような動作で剣を振るう。

あっという間に6匹のゴブリンが切り裂かれ、包囲網に穴が生じる。



「行くぞ!!」

「うん!!」


崩れた包囲網から脱出しようとベイトとホーリーは駆け出し続けようとする。

しかし、2人は慌てて止まる。



「…落とし穴だ!」

「っ!?」


2人の前には変哲のない地面が広がっていた。

しかし、2人は、瞬時にそこに落とし穴があると見抜いていた。

慌てて背後を振り返る2人、そんな彼らを笑いながら再び包囲しているオーガ



「利口で器用なやつがいるみたいだな」

「あのオーガかしら?」


「いや、マジシャンタイプか、トラップタイプか」

「どこかに潜んでいるわね」

「ああ、司令官はあいつじゃないな。この罠を仕掛けたのは別のやつだ」


ベイトの言葉にホーリーはゴクリと唾を飲む。

今受けている以来よりも、オーガすらも率いている存在の方が優先順位が高くなったのだ。

まずは戻ってギルドへ報告する必要がある。



「…知恵のあるビーストは高ランクと相場が決まってる。森が静かだったのは…それかもな」



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