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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第1章 誕生日
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第7話 家を建てよう


第7話『家を建てよう』




「すっごいお屋敷を建てるわよ!!」


そう豪語するセレナの顔をレイズが呆然とした表情で見つめていた。

無言で自分を見つめるレイズへ、セレナは目を細めて睨むように言う。



「何?嫌なの?」

「そもそも…家なんて建てるお金ないよ」

「にゃー!」


「お金なんかいらないわ!多分!」


そう言って両手を広げるセレナ

自信満々に告げるが確証はないようだ。

やっぱり、家を建てるにはお金が必要だ。



「えぇ…お金がなくてどうするのさ?」

「自分で建てるのよ!!」


「それこそ無謀だよ!」

「良い!?レイズ!ずぅぅぅっと!テントで暮らすの私は嫌よっ!」


セレナは豪語する。

まるでお嬢様のような彼女の言葉に、レイズは絶句する。


「…」

「ね!聞いているの!?」


「え、そ、そんなこと言われてもな…」

「にゃー」

「ペロも無謀だって言ってるし、そんな無茶言わないでよ」


ペロもセレナを止めるように鳴いていた。

2人の反応が予想外だったセレナは少し驚いているようだ。

笑顔に曇りがあった。


しかし、すぐに考えを切り替えたセレナは、レイズ達の意思を問い始める。



「レイズ達は家がほしくないのかしら?」

「それは…」

「それは?」



「うーん、それは…」

「それは?」



今は夏だから良いけど、冬になると寒さがキツい。

それに、嵐が来ると、テントが崩れそうになることもある。

確かに…家はほしいな。



「ふふふ…レイズも家はほしいでしょ?」


そんな考えを読まれたのか、セレナは僕の顔をニヤニヤと見つめる。

でも、ほしいと願っても手に入るものではないよね…



「そ、それはそうだけど…でも、どうやって?」

「建てるのよ!」


再び豪語するセレナ

少し呆れた様子のレイズは重ねて聞く。



「…だから、それをどうやって?」

「ふふ、興味が湧いてきたようね…」

「聞いてみるだけなら…」



「実際に建てるのは私がやるわ!木材とかも調達してくるもの!だから、レイズは私の希望通りの家を考えれば良いのよ!」


「…そっか、セレナは魔法が使えるんだもんね」

「ええ!力仕事は任せなさい!」


セレナは細い腕で力瘤を見せる。

まったく力仕事では頼りなさそうだ。

いや、魔法が使えるから僕よりも力はあるんだけど。




「…うん」


豪語するセレナに対して、どこか「これでいいのかな?」という感じでレイズは頷いていた。

何か大切なことを忘れているような…



「にゃう?」


そんなレイズへペロが尋ねると、彼はハッとする。


「っ!」

「ん?何よ?」


「セレナはずっとここで暮らすつもりなの?」


「何よ?結婚したんだから当然でしょ!」



「…」





ーーーーーーーーー



森を目指して草原を進むのはレイズ達3人だ。

金髪と銀髪の対比が美しく、照りつける太陽に反射して2人は輝いて見えていた。


彼ら一行が目指しているのは、数日前に、レイズとペロがマンドラゴランを討伐した森であった。

深く生茂る森には、様々な種類の木があるのではないかと期待したわけではない。

彼らの狙いは「木のビースト」であった。


この辺りの地理に乏しいセレナは目的のビーストがいるか不安そうではあったが、行ってみないことには分からないと、こうして行動に移している。



「…木ならその辺りのものじゃダメなの?」


乗り気ではないレイズ

諦める理由を探してセレナへ問いかけていた。



「全然ダメよ!」

「ど、どうして?」


「虫がつきやすかったり、遮音性だったり、色々と考えると木はちゃんと選ばないとダメ!」

「そ、そうなんだ…」

「そもそも、レイズが考えた家だと、その辺の木だとダメね」


セレナは遠目に森を見つめる。

そして、周囲を見渡すと諦めたように息を吐いていた。



「…そうなの?」

「ええ、木によって加工のしやすさも違うのよ。流石の私も、普通の木じゃダメな箇所もあったわ」

「それでビーストを倒すの?」

「トレント型のビーストは高級住宅にも使われるぐらいよ!私が住むのだから、それぐらいは必須条件ね!」


「…トレント型って、弱いのでもベータ級だよ?」


レイズは華奢なセレナをジロジロと見つつ、そう尋ねる。

すると、そんな彼の視線を嫌がったセレナは、レイズの頬へ人差し指を刺すように当てる。



「ベータ程度、私なら魔法がなくても楽勝よ!」

「…」

「何よ?」


「お人形みたいに綺麗なセレナが、素手でベータビーストを倒せるとは思わないんだけど」

「…っ!」

「ん?どうしたの?」


レイズの言葉に顔を真っ赤にさせるセレナ

彼女の反応が予想外であり、戸惑いを覚えるレイズ

しかし、彼からすれば、セレナは戦いに向いているようには見えなかった。

どちらかというとお姫様のような印象がある。



「ね!私のこと馬鹿にしてるの!?」

「違うよ、お姫様みたいな可愛らしいセレナがビーストなんかを倒せるのかなって、そう思って…ちょっと心配なんだよ」



「ば、馬鹿っ!」

「…何で叩くの…」




ーーーーーーー




森の中に入ったレイズ

ビーストを警戒しながら森を進んで行くが、とある異変に気付いていた。




「…ビーストが出てこない?」

「にゃー?」


レイズとペロはそこそこ深くまで森を進んでいた。

普通であれば、ここまで進む内、ゴブリンなどのアルファビーストの襲撃を受けてもおかしくないはずだ。

しかし、まるで森にはビーストなど存在しないと、そう感じるほどに森の中は静寂に包まれていた。



「ペロ…セレナ…油断しないで、何だかおかしいよ」

「にゃー!」



森に異変が訪れている。

そう感じざるを得ないほど森は静かであった。

ビーストは人間に強い敵対心を抱く習性がある。

人間の気配を察すれば、自ずと向かってくるはずだ。


だからこそ、ここまで森の中を進んでいるのにも関わらず、ビーストの姿すら見かけないのは不自然すぎていた。




「…」

「…」


警戒しつつゆっくりと森を進もうとするレイズとペロ

そんなレイズとペロとは対照的に、まったく警戒する素振りを見せないのはセレナだ。

豪快に草木を踏み抜き、足音を鳴らしながら彼女は歩いていた。



「…セレナ」

「にゃー…」


レイズとペロはセレナへ注意喚起しようとする。

しかし、彼女はやれやれと言った様子で肩をすくめながら、背後にいる2人へ振り返る。



「2人とも、大丈夫よ」

「え?」

「にゃー?」


「この森のビーストがいないのは、私に恐れをなしているからよ」


まるで「ふふん」と鼻を鳴らしかねないほどの表情でそう告げるセレナ

そんな彼女へ痛ましそうな視線を向けるのはレイズとペロだ。



「「…」」


胸を張りながら言っているから本気みたいだ。

すごい自慢気だ…

やっぱり、僕が言うのも何だけど、セレナは少しおかしいのかも…



「…」


レイズは怪訝そうな表情でセレナを見つめ続けていた。

流石に、少しイラッとした様子でセレナが尋ねる。



「何よ?」

「…その、森の様子がおかしいし、急にビーストが襲ってくるかもしれないから、ここは引き返そう」



レイズは長年の勘から引き返すことを提案する。

いつもと違う。

そう変化を察するのは、生き残る上で重要な要素だ。

特に、魔法が使えないレイズは、その辺りの勘が研ぎ澄まされていた。



「森の様子がおかしい?」

「うん、この森、元はビーストの巣窟になっているんだよ」

「ええ、それは感じるわ」


「そんな森の中をここまで進んだのに、ビーストの姿も気配もまるでないんだ。森にすごい異変が起きている証拠だよ」


「だから、異変の理由は私よ!ビーストは私に恐れをなして出てこないのよ!!!」

「わー!声が大きいってば!」


叫ぶように声を荒げるセレナへ、レイズは慌てて人差し指を自分の口元に当てる。

声でビーストが寄ってくるかもしれないと思ったのだ。


「レイズが疑うからでしょ!?」


「…」

「何よ、その目?」

「…ビーストが静かになる時、デルタ級のビーストが襲来する兆候なんだよ」


レイズはセレナを不安にさせないため濁した言い回しをしていた。

しかし、ハッキリと言わなければダメだと思ったのか"デルタビースト"のことを口にする。



「それも知ってるわ。強すぎるビーストに恐れをなすのよね。ビーストとビーストは仲良く暮らしているわけじゃないから」

「うん。だからね…」


「つまり、強いビーストが潜んでいるかもしれないから、ここは引き返そうってことかしら?」

「うん」


「安心しなさい。何度も言うけど、この森のビーストが出てこないのは私がいるからよ」

「…」


「それに、デルタ程度なら楽勝よ!」

「…」


「ほら!ボーッとしていたら夜になるわ。さっさと行きましょ」



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