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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第1章 誕生日
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第5話 セレナ


第5話『セレナ』



丘の上にあるテントにはレイズ達がいる。



銀色の綺麗な髪を持つ絶世の美少女は両手を腰に当てながら、レイズを見下ろしていた。

当のレイズは正座させられており、なぜかペロも同じように畏まった座り方をしている。




「…僕はレイズです」


名前を問われて僕は素直に答える。

いきなり結婚と告げられて混乱していた思考がだんだんとハッキリとしてきた。

色々と疑問はあるけど、一つずつ解消していこう。

まずは名前だ。



レイズが名乗ると銀髪の少女は胸を張りながら堂々と名乗り返す。



「私はセレナーデ、セレナって呼びなさい」

「は、はい」

「私はレイズと呼べばいいかしら?」

「え、うん、いいよ」

「そう、それじゃ、これからよろしく」



僕は「結婚する」とは言っていない。

しかし、セレナの中では決定事項のようだ。



「…」

「何よ、不服そうね」

「え、えっと…何で結婚?」

「裸を見たからよ」


「結婚って、その、好きな人同士が…」

「そうね。確かに、貴方とは私は出会ったばかりで、生憎とレイズには好意のカケラもないわ」


まったく好きではないと言われると、ほぼ初対面の相手でも傷付く。

むしろ、嫌いに近い言い回しな気がする…



「カケラも…」

「だけど、裸を見られた以上、こうするしかないでしょ」

「え、裸を見ただけで結婚することになるの!?」

「当たり前でしょ!」



セレナは何を馬鹿なことをと言いたそうな表情で僕に詰め寄る。

正直、初めて聞いた話だ。

だけど、僕には記憶がないから常識に疎いところがある。



「…そうなの?」

「にゃー?」


レイズはペロへ耳打ちする。

しかし、ペロも首を傾げていることから、常識的ではあまりなさそうだ。

ペロに頼るのもどうかと思うけど…



「ねぇ、レイズ、貴方は世間には疎いようね」


セレナはそう言いながらテントを見渡す。

彼女からすれば、僕は人里離れて暮らしているように見えたのだろう。

どこか「世間に疎い」ことに納得しているような素振りを見せていた。



「ね!レイズ!」

「は、はい!」

「裸ってのは好きな人にだけ見せるものよ」


「え、そ、そうなの!?」

「そうよ!」


「ペロ、そうなの?」

「にゃぅ!」

「へぇー、そういうこともあるんだね」


どうやら裸は好きな人にしか見せてはいけないようだ。

なるほど、つまり簡単に他人へ裸を見せてはいけないということになるのかな。



「だから、貴方に裸を見られてしまったからには、私が貴方を好きかどうかよりも、裸を見せたという行為が優先されてしまうのよ」


「え、えっと…難しくてよく分からないよ」

「つまり、私が裸を見せた以上、レイズのことが好きってことになるのよ」


「どーしてさ!?」

「本当は好きじゃないけれど、裸を見せたという行為が意思よりも尊重されてしまうの!」


セレナはまるで悲劇のヒロインのように崩れ落ちる。

演技感ありありの反応を前に、同情はまったく湧いてこない。



「…そ、そうなんだね」



とはいえ、レイズはどこか納得してしまった。

相手に手が当たってしまったとする。

そこに危害を加える意図はなくとも、相手が怪我を負ってしまった場合、その責任を取らなければならない。

つまり、裸を見せてしまったことは事故のようなものであっても、結婚というカタチで責任を負わなければならないわけだ。



「にゃぅ!」


妙に納得している僕へペロが尋ねるように鳴く。



「え、僕の意思?」

「にゃー!」


「え、そもそも本当に見たのかって?」

「にゃうにゃう」


「うん、セレナの裸は見たよ」

「にゃー!?」


僕は堂々と頷く。

事実だし、治療するのに必要だったし、そもそも裸なんて見てどうなるものでもない。



「え、何で怒るの?」

「にゃうにゃー!」


「そう言われても、見ないと手当もできないよ?」


「うーにゃー?」

「そりゃ、胸にも深い傷があったし」


「うにゃー!?」

「うん、太ももにも深い切り傷があったからね」

「うにゃうにゃー!?」

「うん、そこも見たよ」


「う、にゃー…」

「え、どうして項垂れるの?」



レイズに対してペロは叱るように鳴くと、最後には首をガックリと落としていた。

そんなやり取りを聞いていたセレナの顔が真っ赤になっていた。



「あれ?まだ具合が悪いの?」


レイズは顔を真っ赤にさせて小刻みに震えているそんなセレナを僕は心配そうに見つめる。



「…どこまで、見たのよ?」

「え、どこまでって?」


「私の裸をどこまで見たのって聞いているのよ!」


「全身傷だらけだったから…くまなく見たけど?」




ーーーーーーーー



草原を2人の男女が歩く。

レイズとセレナの2人であった。




「まったく、魔法が使えないなんて甲斐性のカケラもないのね」

「…」



真っ赤に頬を腫らしたレイズ

まるで誰かに殴られた後のような彼の前を、ぷんぷんとした様子でセレナが歩く。

空腹を満たすため、2人は食材を探して草原を進んでいた。


病み上がりのセレナは、体力が戻るまで魔法は使えない。

レイズも魔法は…

だから、こうして自分の手足を使って食料を探すことになっていた。


プンプンとしているが自分から離れようとしないセレナ

ゼロの紋章であることは伝えているが「で?」という顔をされたのは記憶に新しい。

僕が神妙な顔で告げるから、もっと驚くべきことかと思ったようだ。


そんな彼女へ、レイズは思い切って尋ねてみる。



「…僕のこと避けないの?」

「え?なんで?」

「僕、ゼロ紋だよ?」


「ええ、そうね。ゼロの紋章なのは見れば分かるわ」


「なら、どうして?」

「ん?自分が魔法を使えない甲斐性なしだから、私のような美人で聡明な女性とは釣り合わないってことを言いたいのかしら?」


「…それもあるけど」



レイズが素直に頷くと、少し顔を真っ赤にさせるセレナ

彼の素直な反応にしっぺ返しを受けたような印象だ。



「僕はゼロ紋だよ?」

「知ってるわよ」

「良いの?」


「だーかーらー!良いのの意味がわからないのよ!」

「僕がゼロ紋なのに、セレナが僕を避けないのは何でなの?」



ゼロの紋章

最初はそんなに大したことはないと思っていた。

しかし、色んな街を行き、色んな人と出会う中で、僕は忌み嫌われる存在であることが分かった。

その理由はゼロの紋章であるからだ。


ほぼすべての人間から僕は嫌悪感を持たれていた。

だから、セレナも、僕がゼロの紋章だと分かれば結婚なんて辞めると考えたけれど…



「レイズのこと、何で私が避けないといけないのかしら?」

「ゼロ紋だからだよ」

「それが何?」



「え、えっと、それは…何だろう?」

「…自分で聞いといて分からないの!?」


「えっと、その、ゼロ紋だから、すごく嫌われてて、その、セレナも僕のこと嫌いになるんじゃないかって、そう思ったんだ」


「うーん、いまいちハッキリしないわね。いい?私はゼロ紋だからって嫌いになんてならないわ!」

「え、そうなの?」


「そうでしょ、それに、ゼロ紋なんてゴロゴロいるでしょ。いちいち嫌ったり、避けてたらキリがないわ」

「え、ゴロゴロ?」



僕以外のゼロの紋章の人に会ったことないけど…




「そもそも!私達は夫婦なのよ?」

「え、あ、そうだね…」


「なら、死が2人を別つまで一緒にいるのが当然でしょ!」


「…うん」

「この話は終わり!あっ!ほら!見て!」



戸惑うレイズを他所に、嬉しそうに彼の肩を何度も叩くセレナ

僕が尋ねる前に、セレナはすぐにしゃがみ込む。


「あ、あの…何してるの?」

「いいから…待ってなさい!」



「…」



「採れた!!」




セレナは草の中から一本の椎茸のようなキノコを取り上げると、ガッツポーズのように空へと掲げる。




「え?」

「これこれ!イルきのこ!焼くと美味しいのよ!」


そう言って嬉しそうに笑うセレナ

先程までの不機嫌が嘘のようだ。


そんな彼女の笑顔を前にして、レイズの胸の中で何かが脈打ち始めていた。



「ほら!ボーッとしない!次は塩草を探すわよ!」


そう言って草原を走り出すセレナ




「あ!ま、待って!」


そんなセレナの後をレイズが追っていった。


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