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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第1章 誕生日
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第21話 ベイト


第21話 『ベイト』



「しつこいわね」


セレナが立ちはだかるガイガスへ苛立った様子で言うと、ガイガスもカチンと来たのか苛立った素振りを見せる。

そもそも、ルージュのせいで蚊帳の外にされていたのだ。

ぞんざいに扱われたと彼の怒りは最高潮だろう。



「てめぇらには躾が必要なようだな」

「躾?」

「おう、どっちが上で、どっちが下か、まずはそこから教えてやる必要がありそうだな」


「ふーん、見ればどっちが上かなんて分かるわ。ほら、これ、お酒の飲み過ぎじゃないかしら?」


セレナはそう言って、ガイガスのお腹を指で突く。

ぷにっと彼の腹部に彼女の指がめり込んでいた。



「あん!?」


ガイガスは慌ててセレナの腕を払い除けようとするが、すでにセレナは腕を引いていた。



「そんなトロい動きじゃ、私を躾るなんて無理ね」

「てめぇ…女だからって手加減しておけば、良い気になりやがって…おい!」



ガイガスは顔を真っ赤にして腕を上げる。

そして、パチンッと指を鳴らすと奥の席から男が2人やってくる。


「おいおい…何をムキになってんだ?」

「おっほー!あれか!?俺らにもお裾分けってか?」

「ああ、しっかりと躾けてやらねぇといけねぇようだぞ」


ガイガスがニヤリと笑うと、呼び出した2人の男性も歪な笑顔をセレナへ向ける。

しかし、当のセレナは3人をつまらなそうに見つめる。



「…仲間がいないと1人じゃ何もできないのかしら?」

「うるせぇ!」



ガイガスはセレナが只者ではないことは見抜いたようだ。

一連の動きから万が一を考えて奥にいた仲間を呼んでいた。



「ちょ、ちょっと!ガイガスさん!やめてください!」

「てめぇはすっこんでろ!ゼロ紋!!」


セレナの前に立とうとするレイズを蹴飛ばすガイガス

しかし、彼の蹴りは別の男性に阻まれる。



「…ベイトさん!?」

「揉め事はご法度のはずだ」


そこには腹部に包帯を巻き、さらに右腕を肩から包帯で吊り下げているベイトがいた。

そんな満身創痍な状態にも関わらず、左手でガイガスの蹴りを見事に受け止めている。


そして、ベイトの睨みによる威圧感は凄く、ガイガスが冷や汗をかくほどだ。



「いや…揉め事だなんて…なぁ?」

「へ、へへへへへ」

「そうですぜ…ちょっと、話込んでただけですぜぇ」


ガイガスは慌てて背後の2人へ振り返る。

2人も同調するようにペコペコとし始める。



「…小物ね」

「…うん」


レイズとセレナはガイガス達3人の豹変ぶりに呆れていた。

ルージュといいベイトといい、長いものには巻かれるようだ。


そして、ガイガスへベイトは告げる。



「…そうか、悪いが、今日はマスターがレイズをここへ呼んだ。借りても構わないか?」

「なっ!?マスターがですかい?」


「ああ、そうだ。悪いが、少し待たせてしまっていてな」

「そ、そりゃいけませんねぇ…どうぞどうぞ!」


終始、ガイガスはベイトへペコペコしていた。

彼の取り巻きもヘラヘラとしており、彼に頭が上がらないようだ。



「…そうか、では、行こうかレイズ…そしてセレナ殿」


「ん?何で私の名前を知っているのかしら?」

「さっき、レイズが君をそう呼んでいたろ?」

「…そう」




ーーベイトに連れられて、レイズとセレナは2階の客室まで上がっていく。

部屋は8畳ぐらいの広さであり、奥には大きな窓

部屋の中央にはテーブルがあり、向かい合うような格好で椅子が並べられていた。

6人ぐらいは座れそうな大きさだ。



「…とりあえず、座りなさい」


ベイトがそう告げると、レイズとセレナは入り口側の椅子へと着席する。

そして、ベイトが向かい側へと着席した。


「…私はランクBの冒険者、ベイトだ」


ベイトはセレナへ自己紹介する。

すると、セレナも自分の名前をあらためて名乗る。



「先日は、森で助けてもらったようだ。感謝する」

「どうってことないわよ」



手のひらをひらひらとさせて答えるセレナ

そんな彼女の様子を確認すると、ベイトはレイズへ視線を移す。


「レイズ、君にも助けられたようだ。ありがとう」

「い、いえ!ベイトさん…当然のことを…したまでです…」


「そんなことはない!この礼はまた」


「い、いえ!いつも、僕の方こそ助けてもらってばかりですから…」


先ほどのガイガスに絡まれていた時もそうだ。

ベイトさんには何度も助けてもらっていた。

餓死していたかもしれない時だってある。

お金があれば、昨日の治療費だって僕が払いたいぐらいだ。




「そんな中、言い難いのだが…レイズ、森は危ない。もう森へ行くのはやめなさい」

「…ベイトさん」


「森にはよく出入りしているのだろ?」

「…はい」

「君はゼロ紋だ。魔法が使えない身で冒険者なんてやめなさい」



ベイトさんの目は真剣だ。

本気で僕を心配してくれているのが分かる。

確かに、ゼロの紋章である僕が森に行くのは、精霊の儀を終えていない子供を森に行かせるのに等しい。

大人であれば止めるのは当然だろう。



「ベイトさん…でも、僕は他に生きる術を知りません!」

「生きる方法なんて、探せばいくらでもある。わざわざビーストと戦う必要はないだろう」

「…」



レイズは就職できない。

彼がゼロ紋であるため、誰も彼を雇おうとはしない。


それどころか、皆、レイズを避けるようにしている。

何か自分で商売を始めようとしても成功することはあり得ない。


そんな彼が生活していくには、ビーストを討伐し、その素材を売却する。

普通の商店なら難しいが、冒険者ギルドならゼロ紋相手でも買取はしてくれる。

そうやって生計を立てるしかなかった。


雑草ばかりでは飢えて死ぬ。

泥水ばかりを啜ってはいられない。



「それに…冒険者ギルドは柄の悪い連中も多い。ビースト以外にも危険性はあるぞ」

「ベイトさん…僕は…その…」


「仕事が必要なら、俺の方で斡旋する」

「ベイトさん…」



レイズは受け入れられないといった表情をしていた。

それでも、そんな彼を心配そうに見つめるベイト



自分で自分のことは分かる。

誰も僕を雇ってくれはしない。

ベイトさんの顔を立てて一時的には雇ってくれるだろうけど、何かと理由をつけて、すぐに解雇されるだろう。




「良いかもしれないわね」


レイズとベイトの話し合いは平行線になりそうだ。

しかし、セレナが口を挟む。



「セレナ?」

「レイズに戦闘は向いていないわ。でも、何か物を作るのは得意でしょ」

「え?」

「その腕輪とか、妙な薬品とか、すごいと思うけど」

「…これで商売をしようとしたけど、結局、上手くいかなかったよ」



「でも、今は私がいるでしょ」

「へ?」


「2人…いえ、3人なら、今までできないことだって、できるようになるでしょ?違う?」

「セレナ…うん、そうだね」



レイズが笑顔を取り戻すと、セレナは満足そうに頷く。

続けて、セレナはベイトへ視線を向ける。



「で、そもそも、ここへ私達を呼んだのはお説教するため?」


「…今、ここのギルドマスターが別の冒険者の応対中だ。それが終わってから、マスターが君たちから話を聞きたいそうだ」



下では「マスターを待たせている」と言っていたベイト

別の冒険者の対応中であれば、待っているとは言えないのでは?とレイズは考えた。



「あの、待たせてしまっているって言ったのは?」

「ん?ああ、さっきのあれは方便だよ」


「そ、そうですか」

「ああでも言わないと、あいつが面倒だからでしょ」

「なるほど」



レイズは安堵の息を漏らす。

マスターを待たせてしまっては忍びない様子だ。

しかし、セレナは対応に不服そうだ。



「でも、呼びつけておいて、約束の時間なのに待たせるなんて、軽くみられたものね」

「そう言わないでくれ」


「話は、昨日の森の様子のことですか?」

「ああ、そうだ」



…どうやら話はマスターが来てからが本番のようだ。



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