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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第3章 救世の零厳王
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第37話 決着




「…へへ、もう力が湧いてこねぇ…くそ!」



 ニールは体力的にも精神的にも力を使い果たしていた。そもそも、魔法の2重発動の反動によって、まともに動ける状態ではない。



 そんなニールの目の前に姿を現したのは上位のデルタビーストの群れである。脅威性で言えば、イプシロンや下手すればゼータぐらいの脅威はあるかもしれない。



 そんな絶望的な光景を前に、ニールの前に立つのは金色と銀色の髪を持つ女性達だ。




「…よもや、貴様だったとはのう!」

「言ってる場合かしら?」



 目の前に迫り来る絶望的な景色を前にしながら、余裕がありそうな様子でいがみ合う2人



「ふむ…ならば決着はこうしようではないか」

「ん?何よ?」


「どちらが多くグロンビーストを討伐するかだ!」

「臨むところよ!!」





ーーーーーーーーーーーーーー






「冒険者様…ありがとうございます…我らのことをお気遣いまでいただき言葉もありません」



 沼地の村には葉っぱを衣服とする民族がいた。彼らは村を救ってくれたレイズ達を招き入れると、沼地の上に造られた木の家の中で座って話をしている。


 彼らは荒野の村の村長が教えてくれた人々であり、彼らと同じように、守り神へ贄を送り、周囲のビーストから村を守ってもらっていた。



 そんな彼らは目の前にいる仮面をした男女ではなく、ニールへと頭を下げている。ランクS冒険者がデルタビーストを退けたからであった。時折、守り神の縄張りとは知らずにビーストの襲撃を受けることがあった。その度に、村には大きな被害が生じていたのだが、ニールのお陰で犠牲者を出さずに済んでいた。



「あ、えっと、あはははは!!」


 お調子者のニールは何処となく申し訳なさそうに頭を掻きながら笑う。実際に、デルタビーストを退けたのはセレナとペンドラであるからだ。

 彼女達の手柄を村人の勘違いで奪ったようで恐縮しているが、当のセレナとペンドラはその方が都合が良いと黙り込んでいる。



 そんな彼へ表情を暗くさせながら葉っぱ一枚の老齢の男性は言う。



「…しかし、その申し出にはお答えできません」


「へ?」


 村長がそう答えると、ニールだけでなくレイズも唖然とする。



「何故でしょうか?」


 レイズ達の申し出は、荒野の村と同様だ。ここを離れて違う場所で暮らすという提案だ。贄を出し続けることなく、結界の中で落ち着いて生活ができるという提案であった。



「…守り神の眷属に見張られております。逃げ出したいのはやまやまなのですがな…」


 そう言って村長らしき老齢の男性は木の家の空いた窓から外の沼地を見渡す。灰色の大地と背の高い草が広がる土地のどこかに、守り神の眷属と呼ばれるビーストが潜んでいる筈だ。


 彼らが逃げ出そうとするのを許すはずがない。逃げ出すなと言われた訳ではないが、許してはもらえないと考えるのは自然であろう。



「安心してくれ!!うちの…ごほんっ!俺がその眷属ってやつを倒して見せるぜ!」


 ニールは親指をグッと立てながらキラキラとした笑顔を沼地の村人へ向ける。しかし、彼らの表情は対照的だ。



「眷属は…ゼータ等級のビーストなのです…それこそ、剣聖や騎士王でも呼ばねば勝てないような相手ですぞ」


「ふん!」



 村長はそう語る。まさか、名前を出した英雄のうちの1人が目の前で腕を組んで偉そうにしているとは思わないだろう。




「ゼータ!?」


 ニールは驚愕の表情を浮かべる。世界において、ゼータビーストは認識上の最高位だ。つまり最強格のビーストを眷属にしているのが守り神と呼ばれているビーストなのだろう。


 それを察したニールがまさかという顔で村民達を眺める。



「守り神って…イータビーストだとか言わねぇよな!?」


 そう尋ねるニールの言葉に対して、村長は顔を左右に振るう。



「守り神様のお姿を見たものはおらんのです」



 村長の言葉にニールは背後で座っているレイズとセレナとペンドラを見つめる。そこには平然とした様子でどっしりと構えている3人の姿があった。



「…流石だぜ!」



 ニールは「ゼータビースト?ふーん」といった態度の3人を見て、お供して来て良かったと再び確信していた。



「俺は…俺に任せてくれ!」



 ニールは村長へ叫ぶ。



「俺がその眷属をぶちのめしてやるぜ!そしたらよ、アンタ達は引っ越してくれるんだな!?」

「そ、それはもう…好き好んでこのような場所で暮らしておるわけではありません!」



 村長はそう答えると、それで十分とニールは笑う。



「なぜ!?そこまで我らを気にかけてくれるのですか!?」



 目を潤わせた沼地の村長

 彼の右手にもまた「0」と刻まれた紋章があった。迫害を受けてここまで逃げて来たのだろう。


 そんな彼らを助けようとするニールの存在が眩しいようだ。



「え、えっと…」



 しかし、当のニールは答えることができないでいた。後ろにいるレイズ達に返答を求めたいが…



「どうして助けてくださるのですか!?」

「…助けるんじゃねぇ…助かるんだ!…自分の意思でな!俺は…救いを求めて差し伸ばした手しか受け取らないぜ!?」



 とりあえず、取り繕うために言い放つニールの言葉に、村人達は涙を流す。




「その通りです…ね…我らは…自分から助かろうとしなければいけませんな」

「お、おう!」



「お願い申し上げます!どうか…どうか!我らを助けてください!!もう!村の人間を生贄にするのは嫌なのです!!」





ーーーーーーーー



 レイズ達は村の中にある空き家を借りることとなった。荷を下ろし終えて、夕飯にしようとしている。沼地の上架けられた木の橋の上に建てられた簡易的な木造の家だ。屋根は葉っぱで覆われており、強い風が吹いた時には飛ばされてしまいそうである。


 そんな家の中心では、葉っぱに腰掛けているレイズがいた。彼は目の前の薪を無心で見つめているのだが、そんなレイズの少し後ろにはいがみ合っているセレナとペンドラの2人がいた。



「ね、何でアンタがそこに座るのよ!?」

「愚問だのう…妾が勝ったのだから、ここに座るのは勝者の権利であろう」

「勝手に勝ったことにしないで!あの勝負は私の勝ちでしょ?」

「どう見ても妾の勝ちだ!!妾の方が倒したグロンビーストが多かったであろう!?」



 セレナとペンドラは誰がレイズの隣に座るのかで揉めている。



「そもそもね!私はレイズの妻なのよ!アンタは黙っていなさい!」

「何を吐かしておる!!妾がレイズ様の妻だ!!出しゃばるでないぞ!」



 すでにペンドラがレイズとセレナの名前を口にしまっているため、ニールの前では仮面を外しているレイズとセレナ

 レイズは焼いた携帯食料を口に運ぶともぐもぐと我関せずといった様子で咀嚼している。



「…師匠、止めなくて良いんですか?」

「いつものことだよ」

「えー…」


 ニールはそんなレイズへ囁くのだが、彼は悟りを開いたような表情をしている。ニールからすれば、このまま再び決闘でも初めそうなほど剣呑な雰囲気が2人から出ているのだ。



「良いわ!なら…こうしましょう!」

「む?」

「決闘よ!」

「ほほう…その言葉!後悔するでないぞ!!」



 そう言って家の外へ出ていくセレナとペンドラを見てレイズはため息を吐く。喧嘩を止めたいと考えているのだが、どう止めて良いかも分からず、止めようと間に入れば入るほど、沼に陥ることを知っているからだ。



「…本当に止めなくて良いんですかい?」

「うん、もう慣れてきたよ」

「そ、そうですか…」



 とはいえ、セレナもペンドラも達人だ。相手が怪我をしない程度で決着をつけるだろう。レイズが互いを傷つけ合うことを望んでいないのは、2人も十分に承知している。


 ニールは少し不安そうだが、レイズがそう言うならばと気にしないことにした。遠くで爆音が響いているのだが、気にしないことにした。



「ところで…師匠!すごいっすね!」

「え、どうしたの?」


「あの騎士王を嫁にするなんて…俺!想像もしてなかったです!」

「奥さんにした覚えはないんだけどね…」



 レイズは遠い目をする。思えば、嫁が3人いることになっていた。セレナとミリアとペンドラだ。順番で言えばセレナ、役職で言えばミリア、強引さで言えばペンドラ、誰が第一夫人となるかで揉めることがあった。

 しかし、レイズの気持ちで言えば…



「でも、どっちかちゃんと選ばないとダメですぜ!」

「ん?」


「優柔不断じゃ、最終的に傷付くのは女の子っすからね」

「…」



 レイズはニールに言われたことを深く胸に刻んでいた。彼の想い人はハッキリとしているのだから、彼女達の争いに答えを出せる。

 だけど、それができないのは…



「僕…卑怯者だね」

「師匠?」



「…」



 レイズはグッと拳を握りしめていた。どこか覚悟を決めたような面持ちをしており、ニールはそれ以上の言葉を紡ぐことはせず、踏み込んではいけない領域だと悟って黙ることにした。





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