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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第3章 救世の零厳王
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第34話 剣魔法



 灰色の沼地の空を無数の剣が支配する。逃げ道がないほど敷き詰められて浮かんでいる剣は、それぞれの剣先をレイズとセレナへ向けていた。



「…ペンドラさん?」



 レイズは自分達よりも遥か上空にいる存在の気配が誰のものかを思い出す。



「ペンドラ?」

「ええ、そうよ!あいつよ!」


 

 まさかと言った様子で首を傾げるニールを他所に、セレナは苛立った様子で肯定する。彼女が不機嫌そうな理由を何となく察したレイズだが、問題は当の本人が何故か敵意を向けてきていることだ。殺気のようなものは感じないが、目の前の光景を前に、相手に敵意がないと感じるものはいないであろう。



「退屈凌ぎとかで決闘を申し込まれたわ!」

「え、決闘!?」

「そうよ!あいつ!馬鹿だから、この仮面のせいで私とレイズだって分からないのよ!」


 セレナの言葉にレイズはギョッとする。



「さて!そろそろ覚悟はいいかのう!?」



 そんなレイズ達へ再びペンドラの声が沼地に響き渡る。彼女は問いかけておきながら、答えを得る前に行動へ移す。空へ浮かばせている無数の剣を、まるで豪雨のように降らせ始めたのだ。



「ど、どうしよう!?」

「ぶっ飛ばすわよ!」

「えええええ!?」


 降り注ぎ始めた剣を前に戸惑うレイズの背中を押すようにセレナが告げる。



「…一刀両断!!」



 セレナは瞬時にひまわりのような形の剣を取り出すと、すぐに空へ向けて横へ振り払う。黄色い剣閃が放たれると、空から降り注ぐ剣の一部が消失していく。その一部を埋めるように、他の箇所の剣が移動していき逃げ道を塞いでいく。



「ああ!もう!鬱陶しいわね!!」



 セレナは次々と剣を左右に振り払う。その度に、黄色い剣閃が放たれ、空を覆う剣の一部と衝突して相殺していくのだが、未だにペンドラの放った無数の剣の勢いは衰えを見せない。



「ニール…少し離れてて!?」

「え!?えええ!?」


 レイズはニールの返事を待たずに、彼をポイっと投げ捨てる。そんな師匠の行動を驚愕の表情で見つめるニールではあるが、すぐに自分の体が浮かんでいることに気付く。どうやら、レイズはニールへ風の補助魔法を放ち、空中へ浮かべているようだ。


 そんなニールを他所に、レイズは空へ向けて両手を向ける。




「…バースト・ストーム!!」


 レイズは光と風の魔法を合成させ、光でできた竜巻を発生させる。ウネウネと空中を行くレイズの魔法は次々と無数の剣を飲み込んでいき、まるで埃を吸い込む掃除機のようだ。


 このままではペンドラの放った無数の剣の全てが飲み込まれるのも時間の問題だ。しかし、その光景を遥か上空から眺めているペンドラは、嬉しそうにニカッと笑う。



「流石はフロンティアラインの向こう側だのう…このようなものがおるとはな!!!ははははは!!楽しいぞ!!ははははは!!!」



 ペンドラはそう笑い声を響かせると、続けてニヤリと笑う。



「次は…ふむ…これならばどうだ!?」



 ペンドラが次なる攻撃を企むと、レイズ達の視界からパッと無数の剣が消失する。先程までの騒ぎが嘘のように周囲は静寂に包まれていた。



「…諦めたのかしら?」

「そんな感じしないよね」


「あ、あの…師匠と姉さん!?」


 空を見上げているレイズとセレナへ、バタバタとぎこちない様子で手足をバタつかせて寄ってくるニール

 彼は自信がなさそうな表情で2人へ言う。



「上にいるお方…もしかして騎士王じゃないっすか?」



 ニールは「ありえない」とお叱りを受けることを覚悟で、空から攻撃を放っている存在の正体を考察し、その人物の名前を述べる。無数の剣による攻撃、空へ飛翔する巨大な黒い剣、そのどちらも、ニールが騎士王の英雄譚を通して聞いた彼女の攻撃手段であったのだ。



「ええ、そうよ」

「うん」



 しかし、レイズとセレナの反応は淡白だ。お叱りを受けると覚悟しながらも伝えようとしたニールは呆気に取られる。



「へ?」


 まさか、あっさりと受け入れられるとは思わなかった。しかし、冷静になってニールは考えてみると、自分が相手を騎士王だと特定できたのだから、お二人が特定できないはずがないと。

 むしろ、自分はでしゃばって当たり前のことを偉そうに言ってしまっていたのだと。



「こりゃ、お恥ずかしいっす」


 そう呟きながら頭を掻くニールを他所に、苛立った様子でセレナは空を見上げる。



「ペンドラのやつ、私達だって分からないから、遊び相手にしようとしているのよ!」



 レイズとセレナは上空に魔力が漲っていくのを感じる。間違いなく、ペンドラが次の一手を放とうとしているのだろう。迂闊に先制攻撃を仕掛けてしまえば、レイズとセレナについて来れないニールの身が危ない。ペンドラならそこまで考慮して遊びそうだが、実力的に信頼できても、人間的に信用できないため、そこまで期待する気にはなれないレイズとセレナ



「とにかく、危ないからやめさせないと!」


 レイズがそう言うと、セレナは首を横に振る。



「ううん、懲らしめてやりましょう!」

「えええ…」



 セレナはぷんぷんしている様子であった。何が導火線に火をつけたのか、ペンドラへ異様なほど敵意を燃やしている。やられたらやり返す気質のあるセレナだが、ここまでこだわりを見せるのもおかしい。




「ま、待ってください!!師匠と姉さん!!」

「ん?」

「どうしたの?」



 そんなレイズとセレナへニールが慌てて問いかける。



「騎士王と知り合い何ですか!?」


「知り合いたくもないけどね」

「一応…」


「どひゃー!!!」



 レイズとセレナの言葉にニールは驚きを露わにする。武芸に通じるものであれば、その頂に存在する人物の名前に憧れを抱くのは当然だ。

 世界最強が二つ名とも言える騎士王『ペンドラキュリーナ・リリ・リアリール』を目標とする1人であるニールは、彼女と知り合いだと答えるレイズとセレナへ驚きを隠せないのは無理もないだろう。



「さ、流石っす!!!」



 普通の人間が「騎士王と知り合い」と答えても鼻で笑うが、相手はレイズとセレナだ。ニールが後楽園でヒーローに握手を求めるような子供の表情でレイズ達を見つめていた。




「もう!うるさいわね!少しあっちへ行っていて!」

「え!?」


「うん、危ないから向こうに行っててくれると助かるよ」

「師匠まで!!そんな!?」


「ほら!!」

「ぐぇ!!」



 セレナに勢いよく押されたニールは、レイズの風魔法も手伝ってか、遥か遠くまで吹き飛ばされていく。相手がビーストであれば、レイズ達からニールを引き離すのは危険だ。しかし、相手がペンドラであれば事情も変わるだろう。



「さぁ、これで足でまといはいなくなったわ!」

「セレナ…」


「それじゃ、ペンドラをギャフンと言わせに行くわよ!」

「…ニール、大丈夫かな?」


 レイズは遥か遠くまで吹き飛ばされたニールを見る。すでに視界の端にすらいない距離にまで彼は飛ばされているのだが、周囲にビーストもいないため、危険はないだろう。




「…来るわよ!真正面から吹き飛ばしてやりましょ!」

「え?」



 セレナの声に反応してレイズが再び空を見上げると…



「…ははははは」



 レイズの視界には、空の一面を覆うほどの無数の剣が再び現れていた。先ほどと異なるのは、その一本一本が黒い巨大な剣であることだ。それぞれが簡単に吹き飛ばせそうにない。

 そんな異様な光景を前に、レイズは渇いた笑いをあげる。



「ユニーク属性の剣魔法ね」

「剣魔法?」



 レイズがセレナから「剣魔法」と単語を聞くと、パッと彼の視界の片隅に青く透明なパネルが浮かび上がる。




====アナライズ====


名前:ペンドラキュリーナ・リリ・リアリール

LV:601


精霊:ブラッド・リリー

オリジン:なし



◆所持スキル

 『剣術適正・剣聖』

 『吸血鬼・始祖』

 『光耐性・極』

 『剣魔法適正・極』

 『にんにく耐性・極』

 『十字架耐性・極』

 『銀耐性・極』

 『不法侵入可』

 『鏡に映る』

 『変身魔法適正・上』

 


◆装備

 『エクスカリバー』

 『巨人の剣』

 『黒鉄』

 『冷徹』

 『真紅の衣』



===========






「…吸血鬼?」


 レイズはパネルに浮かんでいる文字を見つめると、気になるスキルがあった。それを声に出して呟くと、セレナは言う。



「吸血鬼…そうね。確かに、ペンドラはそれっぽいわね」

「え?」


「でも…どうして日光の下で平気なのかしら?」

「吸血鬼って日光に弱いの?」

「ええ、普通は燃えて死んじゃうはずよ」

「…」


 割と物騒な弱点で驚愕するレイズ

 しかし、ペンドラのスキル欄には間違いなく『吸血鬼・始祖』と書かれていた。


 レイズは次に空を見上げると、そこには分厚い灰色の雲が見える。とはいえ、レイズ達のいる沼地は曇ってはいるが、日光が差し込んでおり、周囲が暗いわけではない。



「…光耐性があるからだと思うよ」


 レイズが別のスキルにハッとすると、その勢いで話す。すると、怪訝そうにセレナが尋ねてくる。



「あいつのステータスがわかるの?」

「あ、え、うん…ドクターにもらった装置でね」


「どんな原理よ…」



 いくら発明家のドクターでも、そんな装置を作れるはずがないと怪訝そうなセレナだ。しかし、レイズは本当に相手のステータスが見えているような反応をしているため、事実なのだろうと確信していた。




「…ま、話はあいつをギャフンと言わせてからね」









 

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