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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第3章 救世の零厳王
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第30話 冒険王



「サンプルがあれば可能ダ」



 鋼鉄の部屋で、ドクターは画面越しにレイズと会話をしていた。

 彼がドクターへ申し出た依頼は「翠玉」の量産だ。



「技術的に難しいんじゃ?」



 ドクターの言葉に、レイズはセレナが話していたことを思い出す。

 人間の技術力で再現できない自然現象

 それが翠玉であった。



「オメガビーストの魔力があれバ、強引に精製できル」

「…でも」

「変身時に、耐え難い苦痛を感じていることは知っていル」

「っ!?」

「変身しなくとも魔力だけ抽出できれば構わなイ」

「なるほど…」



「あとはダ。一度、精製される瞬間を確認できれバ、そこからヒントを得られるかもしれン」

「ヒント?」

「うム。レイズから魔力を何度も抽出するのハ、こちらも手間ダ。オメガビーストの魔力がなくても量産できるようにもしたイ」



「ドクターさん!ありがとうございます!」

「話は終わっていないゾ」

「へ?」


「そもそもダ。最終的にハ、翠玉がなくても治癒魔法が放てるようにすル」

「…えっと?」

「新たな魔法を生み出すのダ」


 ドクターはどこかワクワクしたような素振りをレイズへ見せていた。

 どうやら好奇心がのってきたようだ。



「そ、それじゃ、すぐに翠玉を入手してきますね」

「うム」



 やる気を出してくれたなら何よりと、レイズはドクターとの通信を切り上げた。






ーーーーーーーーーーー




「翠玉は…バジリスクよりもコカトリスの方が入手確率は高いです」


 ザッツはレイズへそう語ると地図を彼へ渡す。



「これは?」

「はい、フロンティアラインの外側の地図です。と言っても、スロスが作ったものですが」

「手前味噌ですがね。精度には自信あります」

「この印のある場所、ここがコカトリスの生息地になっていました」



 そう言ってザッツは地図に記載されている山の部分を指で指し示す。



「なっていた?」


 過去形であることに首を傾げるレイズへ、ザッツが小声で囁くように言う。



「…ビーストの騒動の件、レイズ様ならお気付きですよね?」

「…なるほど」



「ま、アテもなく探すよりは早いでしょう」


「ええ、ありがとうございます」


 レイズは頭を下げながら、受け取った地図を懐へと仕舞い込む。




「それじゃ、俺達はこれで」

「色々とありがとございました!」


「いえ、レイズ様、活躍をお祈りしてます」

「はい!どうかお気をつけてください」




 ザッツ達が去っていくのを見送るレイズ

 そんな彼の隣へスッとミリアが立つ。



「…レイズ様」

「どうしました?」


「セレナ様のお姿がないようですが…どちらへ?」



 ミリアは周囲をキョロキョロしながら尋ねる。



「…今は別行動中です」

「そうですか!!」



 ミリアは両手を顔の前で叩きながら嬉しそうに言う。



「…ミリア様?」

「はい、レイズ様」


「ち、近いですよ…」

「はい、レイズ様」



 ミリアがだんだんと顔をレイズへ近づけていく。

 応じて後退りしていくレイズの背中は、いよいよ壁に突き当たる。



「あ、あの…」



 レイズはどうしてミリアが迫ってきているのか理解できないでいた。

 そんな彼へミリアが叫ぶ。



「レイズ様!」

「はい!」


 目をキラキラとさせたミリアが叫ぶ。



「今が好機です!」

「好機!?」



「はい!私に…子種をください!」



 



 …レイズはすぐにテレポートを発動させた。





ーーーーーーーーーーーーーー





「あー!もう!」


 レイズはドカッと腰を岩場に下ろす。



「何だか疲れちゃった」



 ため息を吐きながらも、レイズは山を見上げる。

 瞬間的にテレポートを発動させて到着したのは、ザッツ達の地図によるところのコカトリスの生息地であった。


 翠玉の入手確率は、この周辺で最も高いのがコカトリスらしい。

 とにかく乱獲してみるのが良いかもしれない。




「…そういえば」



 レイズはハッとする。

 彼はテレポートを発動させる際に、場所ではなく、人を思い浮かべて発動させていた。


 その人と言うのは、スドクのことだ。

 いきなり、コカトリスのいる山ではなく、スーツとスドクのいる集落へ戻ろうと考えていた。


 咄嗟にテレポートしようと考えていたからだろうと考えたレイズだが…




「…まさか?」



 レイズは岩肌ばかりの山を見渡す。

 彼がここへ転移してきたということは、スドクが集落ではなく、この山に来ている可能性が高いということだろうか。



「…スーツ!」



 レイズは慌ててスーツへ通信を繋ぐ。

 すると、彼の焦った声とは対照的に、落ち着いた口調のスーツが応答する。




「はい、マスター」


「スドクは無事?」

「はい、すぐ隣におります」


 スーツは淡々とレイズへ告げる。

 その口調が、スドクが無事であり、異変が生じていないことの証拠のようにも思える。



「…そっか」

「マスター、どうかされましたか?」

「スドクをイメージしてテレポートしたんだけど、今は、岩山にいるんだ」

「…岩山でしょうか?」


「うん」

「…妙ですね。マスターが転送場所を間違えるはずがありません。何者かに干渉を受けてはいませんか?」

「干渉?」


「マスター、まずはこちらへ帰還願います」

「あ、うん、そうだね」



 レイズは、スーツの言葉通り、集落へテレポートで戻ろうとする。

 しかし…




「っ!?」



 レイズの姿はパッと消えると、すぐにパッと姿を現す。

 場所は、同じ岩山であった。




「…マスター、干渉波を確認しました。転移防止の結界が張られています」

「結界?」

「はい…通信…ががががが…い…も…ががが」



「スーツ!?」

「がががががが…」


「スーツ!?応答して!!」

「…」



「…ダメだ」



 レイズはスーツとの通信を諦めた。

 そして、彼は周囲を見渡す。



「…」



 敵意を持った存在に招かれてここにいるのは事実だろう。

 転移防止に通信阻害の結界


 ここまでして友好的な相手のはずがない。




「…さーて」

「っ!?」



 レイズへ女性の声が響く。

 彼が声のする方向へ視線を向けると、そこに人の姿はなく、白い鳥が羽ばたいているだけであった。



「誰かいるの!?」

「…ふふーん」


「っ!?」



 レイズは白い鳥から女性の声が響いていることに気付く。



「…」



 警戒するレイズの前で、白い鳥は彼の目の前にある岩の上に降り立つ。



「やー!あっしは冒険王だよー!」

「っ!?」


 レイズは白い鳥から響く女性の声

 その内容に驚きを露わにする。



「冒険王…本物…?」



 冒険者を統括しており、全世界に冒険者ギルドを設置させた聖騎士

 それが冒険王であった。



「そー!いやー!ゴブリンのメスの件ではお世話になったねー!」

「…マインちゃんのことですか?」


「マイン?…ゴブリンのメスのことかなー?」


 白い鳥は首を傾げてみせる。

 マインという彼女の名前にはまったく興味がない様子だ。


 そんな彼女の態度で、レイズはどことなく冒険王の人となりを察した気がした。



「…何の用事ですか?」

「あっしとお話ししようー!」

「話?」


「ねね!どうしてー!ゴブリンのメスを匿ったのかなー?」

「…ただの女の子だったからです」


「んんー?」

「ただの家族に会いたいと願う女の子だったからです!」


「えー!?それだけー!?」

「はい!」



「へー!ふーん!へー!…嘘は言ってないねー!」

「嘘なんて言いません!」



「なーんだ…ふーん」

「何ですか?」


「ううん!勝手に勘違いしちゃってたー!あははー!」

「…」



「でもでも!あっしの邪魔…したのは確かだもんねー!」

「邪魔?」


「そー!」

「貴方も…マインちゃんを狙っていたんですか?」


「当然ー!だってー!あっしがゴブリンのメスを探すようにってー!依頼したんだー!」





「今度は僕の番です!」


「んー?」

「どうして、マインちゃんを狙ったんですか?」


「あははー!」

「何がおかしいんですか!?」


「狙ったんじゃなくてー!今も狙ってるよー!」

「どうしですか!?」



「理由はー!教えない!」

「…っ!」


 レイズは険しい顔で白い鳥を睨む。



「あはは!鳥ちゃんを怖がらせちゃダメだよー!」

「僕を…ここに閉じ込めたのも!貴方ですか!?」


「そーだよー!でもー!もういいや!」

「いい?」


「うん!目的がわかったからー!もういいや!」

「勝手なことを!?」


「あははー!怒ってる!怒ってるー!いいよー!時が来たらー!決着つけようよー!」

「決着!?」


「そだよー!あっしとレイズっちは喧嘩中だもんねー!」

「…マインちゃんを狙うなら、僕は貴方とだって戦いますよ!」




「あははー!そうこなくっちゃー!それじゃ!ばいばいー!」



 白い鳥はそう言って羽ばたいていく。

 岩山をすぐに越えていき、すぐにレイズから見えなくなる。



「…」



 レイズは冒険王と名乗る存在が新たな頭痛のタネとなることを、どこか心の奥底で予感していた。




「今は…コカトリスを探さないと」



 レイズは頭を左右に振り払って、気持ちと考えを切り替える。

 今は、冒険王のことよりも、セレナとスドク達を助けることが先決であった。




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