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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第3章 救世の零厳王
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第25話 悪辣なる待遇



 砂漠の集落にある冒険者ギルド

 その応接室でレイズとセレナは、ギルドマスターと受付嬢と話をしている。



「騎士王…ペンドラさんも来ているんですか?」


「はい、数日ほど前、騎士王も北を目指していきました」



 スライの言葉にレイズとセレナは顔を見合わせる。

 合流できれば力強いが、どこか面倒な女性であることも確かだ。そんな複雑な心境は2人とも顔に出てしまっていた。


「北ってことは、この騒動の元凶を倒しに行ったのかしら?」


「ああ、多分な。なんせ、お前らと同じことを、このスライに聞いて行ったぜ」

「はい、ペンドラ様にも、同じ情報をお伝えしました」


 マスターとスライの話を聞いて、セレナはレイズへ囁く。


「…ペンドラも騒動を解決しにここまで来てるのね」

「どうしようか?」


「…レイズのこと知られると面倒だから、避けていきましょう」

「そうだね」



 レイズとセレナが頷くと、マスターが言う。




「騎士王は戦闘力こそ高いが、どこか、そうだな、アレな感じがある。お前らが動いてくれて助かる」

「…」


 マスターはそう言って笑うが、スライは無言のまま複雑な表情をしていた。


 そんなスライだが、ハッと何かを思い出したように言葉を紡ぐ。



「…それと、レイズ様、セレナ様」

「はい?」



 スライに名前を呼ばれてレイズとセレナは彼女へ視線を向ける。



「元凶のビーストについてですが、どうやらゴブリンではないかと囁かれています」

「ゴブリン?」



「はい、人間の言葉を話す、物凄く強いゴブリンであったと、周辺住民や冒険者からの目撃情報があります」



「ゴブリン…」

「ゴブリンがそんなに強いのかしら?」

「はい、ゼータビーストを一撃で倒していたとの話でした」

「そんなに強いのなら、変異種かしらね…」


「ええ、人の言葉を話す時点で変異種と捉えて間違いないと思います」

「それもそうね…でも、そんなに強いゴブリンを前にして、生きて帰って来れた人がいるのね」



 セレナは怪訝な顔をする。

 しかし、彼女だけではなく、レイズも不思議そうな顔をしていた。


 ビーストは人間に敵意を持っている。

 何か理由がなければ人を生きて帰すはずがない。まして、ゼータビーストを一撃で倒すほどならば、尚更、生還者など存在するはずがない。


 元凶のビーストと思しきゴブリンの情報が存在すること自体が違和感なのだ。



「はい、むしろ、人に直接的な被害があったとの報告がないぐらいです」



 スライはそんな2人へ真正面から答える。



「人に被害がない?」


「ええ、ビーストに敵意を見せますが、人や動物には危害を加えようとしなかったと、目撃者達は口を揃えて話していました」



 スライの言葉を聞いて、レイズとセレナは顔を見合わせる。今までであれば、そんなビーストは存在しないと切り捨てることもできた。

 しかし、古代遺跡で暮らすビースト達を思い出すと、あり得ないと断ずることもできない。



「ビーストを襲うビースト…変な感じね」

「だからこその変異種だろう」



「…そのゴブリンによる生態系への影響が大きくなりつつあります。此度の騒動の原因、少なくとも、その一端はあのゴブリンにあると見て間違いないと思います」



「…そう、貴重な情報、どうもありがとう」


 セレナはスライへお礼を告げるとしてすぐに席を立つ。釣られてレイズも席を立ち上がった。



「お、もう行くのか?」


 マスターは笑顔で尋ねると、セレナは言う。



「ええ、情報は十分よ」

「そうか」


 マスターが頷くと、セレナとレイズは出口まで進んでいく。そんな2人の背中へスライが会釈しながら言う。




「どうか、ご武運を」


「ありがとう」

「あ、ありがとうございます!」



 レイズとセレナは、スライへそう言うと、そのまま応接室を後にする。





ーーーーーーーーーーー





「何だか騒ぎかな?」

「…ええ」



 レイズとセレナが応接室を出て、冒険者ギルドのロビーへと出る。

 受付カウンターの酒場のような施設が併設されているロビーであり、大勢の冒険者で賑わっている場所だ。

 しかし、賑わい方にどこか違和感があった。




「お願いだ!!おっかぁを助けてくんろ!!」

「寄るんじゃねぇ!!不浄者っ!!」

「ぎゃぁつ!!」



 子供の懸命な声が響くと、すぐに野太い男性の罵声が響く。



「ゼロ紋が!!何の用事だ!?」

「おい!このくせぇガキを摘み出せ!!」


「ゼロ紋が!!消えろ!!」



 冒険者の1人が罵声を吐き出しながら黒髪の少年を蹴り上げようとする。




「っ!?」

「そこまでよ」



 少年を蹴り上げようとしていた男性の首元へスッと真っ赤な刀を突き出すセレナ

 彼女の傍で、蹲っている少年の容体を見るのはレイズだ。



「大丈夫!?」

「…っ…うぅ…おっかぁが…おっかぁ…が…助けて…くんろ」



 少年は口から胃液の混じった血を垂らしながら、虚な瞳をレイズへ向け、繰り返し繰り返し母親の助けを求めている。

 そんな少年の手をギュッと握り締めるレイズ



「うん…大丈夫!僕達が助けるから!」

「…」


 レイズがそう言うと、少年は安心したように眠る。




「…子供にここまでするなんて…正気かしら?」



 セレナは周囲を見渡しながら冒険者達へ問いかける。




「…正気だぁ?そりゃ、こっちのセリフだぜ」

「おう、そのガキ、ほれ、その右手だ」



 セレナは冒険者の1人が指差した箇所を見る。

 黒髪の少年の右手には「0」と紋章が刻まれている。



「そいつはゼロ紋だぜ?」


 刀を首元へ突きつけられている男性は、セレナへあたかも当然のような表情で言う。

 まるで、ゼロの紋章を持っている相手ならば、何をしても構わないと思っているような言動だ。



「…だから何?」

「あん?」


「子供相手に、それもお母さんを助けようと必死な子供相手に、よくこんな酷いことができるわね?」



「おいおい…お嬢ちゃん、何を言ってんだ?」

「ああ、ゼロ紋だぜ?」


「見ろよ!その子の彼氏、そいつもゼロ紋だぜ?」

「っ!?」

「マジか!?」



 冒険者達はレイズの右手にも気付く。



「頭がイカれてんのか!?」

「こいつら…異端者か!?」

「お、おい!神殿騎士を呼んでこい!!」



 冒険者ギルドの騒ぎが大きくなっていくと、応接室からギルドマスターがやってくる。



「…何の騒ぎだ?」


 セレナとレイズを一瞥した後、2人を取り囲む冒険者を見渡すギルドマスター

 すると、1人の冒険者が輪から出てきて、マスターへと説明を始める。




「マスター!ゼロ紋がいやがります!このガキが急に、俺の仲間に抱きついてきてよ!それを払い除けて、追い出そうとしたら!!」



 その冒険者は途中まで言い終えると、刀を男性へ突きつけているセレナへ指をさす。



「この女が俺の仲間へ刀を向けてやがるんです!」




「ゼロ紋?…なるほど」



 マスターはレイズと子供を細目で見つめる。




「マスター、俺の仲間が神殿騎士を呼んでます!!」

「…呼ぶな」


「へ!?」

「呼ぶな。良い、俺の方で対処する」



 マスターはそう言ってレイズとセレナのところまで近づいていく。

 すると、冒険者達は、同じ歩幅で後ろへ下がっていく。




「…悪いが、この街から出て行ってくれ」


 マスターはセレナの瞳を真っ直ぐに見つめながら告げる。



「…ええ、言われなくてもよ」


 セレナはそう言って刀を虚空へ納めると、すぐに踵を返して冒険者ギルドを出ていこうとする。

 そんな彼女の後ろを、レイズは子供を抱えながらついていく。


 去ろうとするレイズとセレナを追いかけようとする冒険者達だが、マスターがそれを制止する。



「追うな」



 説明が明らかに足りていないマスターの言動に、痺れを切らした冒険者達が抗議するように騒ぎ始める。



「マスター!?」

「どうしてですか!?相手は不浄者ですよ!?」

「見逃すんですか!?」


「俺の仲間が脅迫されたんですよ!?」



「ゼロ紋が聖騎士になった話、お前らは聞いたことあるか?」


 マスターの一言で冒険者達は静まる。

 その静寂さは、聖騎士になったゼロ紋の話を知っていると肯定しているようであった。




「…っ!?」

「まさか…」


 顔がだんだんと青くなっていく冒険者を前に、マスターは告げる。



「そうだ。余計なことはするな。関わるな…いいな?」




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