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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第3章 救世の零厳王
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第24話 目撃情報



「んだぁ!?俺が、この任務を受けられねぇて!いったいぜんたいよぉ!どういう了見だぁ!?ああん!?」



 レイズとセレナの前で、スライと呼ばれる受付嬢が対応していた冒険者が大声を出し始めた。それでも、スライは満面の笑みを保ったままで応対を続ける。



「はい、この辺りは地平龍エイブレストの目撃情報もあり、ランクS以上でなければ立ち入り禁止の地区となりました」

「おう!俺が誰だか知っていてよぉ!んな舐めた口を聞いてんのか!?ああん!?」

「はい、ケルゲレン様、お名前は各地で聞き及んでおります。しかしながら、ケルゲレン様の今のランクはAです。生憎ですが、この依頼を受けることはできません」


「ランクのことを言ってんじゃねぇぞ!俺はな!!古龍の討伐隊に参加したこともあんだよ!」


「はい、ご活躍はかねがね」

「おう!ならよ!俺様ならよ!問題ねぇってこと!わかんだろ!?おん!?」


「申し訳ございません。ケルゲレン様の実力、十分に理解しております。しかしながら「ゴタゴタうるせぇんだよ!!おらぁ!!」



 ケルゲレンと言う名の冒険者はスライの目の前で机を叩く。



「…」

「とっととよ!!この紙になぁ!!ハンコを押せばいいんだよ!!」


 ケルゲレンはスライへ向かって受付用紙を突きつける。

 そんな紙の隙間から、スライはケルゲレンではなく、その後ろにいるレイズとセレナを一瞥する。



「手出しは無用です」

「あん!?」



 スライは、ケルゲレンの背後で今にも動き出そうとしているレイズとセレナを制止する。

 そして



「ケルゲレン様」

「おう!?」


「どうか、お引き取りを」

「あんだと!?てめぇ!こらぁ!!」



 ケルゲレンはスライの胸ぐらをギュッと掴む。

 女性の細い首を、男性の太く逞しい腕が掴むのは、見ていてとても安心できる光景ではないだろう。しかし、周囲の冒険者や受付嬢は平然と受付を続けており、誰もスライを心配するような素振りすら見せない。

 


 それは、彼女の仲間が薄情なのではない。



「っ!?」


 スライの細い腕がケルゲレンの太い腕をギュッと掴むと同時に、ケルゲレンの顔が悲痛に染まり始める。



「がぁぁぁぁああ!!」



 ケルゲレンは、自分の腕を掴むスライの腕を、もう片方の腕で握りつぶそうと掴む。

 しかし、それでも、スライは表情ひとつ変えず、彼の腕を掴む力を徐々に強めていく。



「がぁぁぁああ!!!わ、わ、わかったぁ!!俺の…負け…だぁぁああ!!!」


「…この程度で根をあげてしまうような実力で、この地区に足を踏み入れれば、逃げることすら敵わず、貴方は死ぬ」

「がぁぁぁ…あぁぁぁ!!っ!!がぁぁあ!!」


「依頼を受けられないとするのは、冒険者ギルドの優しさと思いやりだ。別に私は、貴方がビーストに殺されようと構わない」


「がぁぁぁぁああああ!!…はぁ…はぁ…」



 ここでスライはケルゲレンの腕から手を離す。

 彼女が掴んでいた部分は真っ赤になっており、かなりの力で掴んでいたことが窺える。



「…さて、どうぞお引き取りください」



 スライがニコッと笑顔になると、ケルゲレンへ頭を下げながらそう告げる。

 すると、ケルゲレンは何も言わずに、そそくさと踵を返して、冒険者ギルドを後にした。



「…お待たせいたしました」



 続けて、後ろに並んでいたレイズとセレナへ笑顔を向けるスライ

 先ほどの光景を目の当たりにした今、スライがただの受付嬢には見えず、どこか緊張した面持ちのレイズ

 彼とは対照的に、セレナはいつも通りの調子でスライへ問いかける。



「ね!依頼を受けに来たわけじゃないわ」

「はい、それでは、何の御用件でしょうか?」


「ね!この辺りを騒がせているビーストについて聞きたいの!」



 セレナがそう告げると、一瞬だけ、ギルド内の空気が凍りついたように感じる。


「…こちらではお話できません。どうぞ、奥の部屋までご移動を願います」



 スライが頭を下げながらそう言うと、手の平で奥の部屋とやらを指し示す。

 どうやら、公衆の面前で話せる内容ではない様子であった。





ーーーーーーーーーーーーーーー





「…レイズとセレナ…か」



 恰幅の良い男性とスライの2人が、レイズとセレナの前に座っている。

 2組の間にはガラスのテーブルがあり、そこにはレイズの冒険者カードが置かれていた。



「マスター…まさか」



 スライはレイズの冒険者カードと、彼の右手の甲にある「0」という紋章を見て、どこかハッとした素振りを見せる。


「おう…そのまさか…だな」



 マスターとスライはどこか警戒した面持ちでレイズを見つめる。

 居心地の悪さを感じたレイズは何か口にしようとするが



「あの…」


 レイズが何かを言う前に、マスターが言葉を発する。




「…聖騎士様のご依頼とあれば、可能な限りの協力はする」

「え、本当ですか!?」


「当然だ。うちのボスも聖騎士だしな…で、こいつに何の用事だ?」


 マスターはスライへ親指を向けながら言う。

 彼の所作がどこか気に入らないのか、スライの表情に影が見えたような気がした。



「あの!スライさんなら、このビースト騒動の元凶について詳しいんじゃないかって…そう…思ったんです」



「…酒場のマスターから聞いたのですね」

「っ!?」


「隠さなくてもいいですよ」

「あ…えっと…」



 金でスライの情報を得たことに後ろめたい気持ちのレイズ

 しかし、スライは言葉通り、そのことを全く気にしていない様子だ。


 彼女は、レイズの問いかけに対して説明を始める。




「数ヶ月前、この付近にまで古龍エイブレストが下ってきました」


「古龍!?」

「エーリアやアラドラメラクの仲間ね」


「はい。砂漠ではなく荒野や沼地を縄張りとする古龍です。それがこの辺りまで下ってきたことで、何か異変が生じたのではないかと調査へ向かいました」



 スライはそう言いながら、ガラスのテーブルの上に地図を広げる。

 フロンティアラインの外側の地図であり、これを売れば一生遊んで暮らせるぐらいの価値はあるだろう。ギルド秘蔵の宝物である。


 そんな地図へ指を乗せながらスライは説明を始めた。



「細かい説明は割愛します。元凶となるビーストはこの辺りを根城としているはずです」




 スライが地図に乗せた指で円を描き始める。

 奈落の階段を含む、荒野や沼地があるエリアだ。



「ここから北の方角ね」

「はい、この辺りのビーストの動きが特に活発なため、この騒動の元凶がここにいる可能性が高いです」



 単刀直入が過ぎるほど、最短距離で、元凶のビーストの場所をスライから教わったレイズとセレナ

 その情報は、もはやヒントではなく、正解に近いだろう。



「ありがとう」

「いえ」



 セレナはどこか怪訝な顔でスライへお礼を伝える。

 しかし、彼女はスライの話を全て信じている訳ではなさそうだ。


 そんな彼女の表情から心情を察したマスターはニコリと笑うと語り始める。



「…俺らも困ってんだ。この騒動の対処にギルドから依頼を出そうと思いきや、教会から戒厳令が放たれるしよ」


「戒厳令?」

「ああ、騒動が大きくなるってんで、許可があるまで極秘としろとな」



 マスターの話でレイズとセレナは顔を見合わせる。

 そういえばと、2人はミリア達との馬車での会話を思い出した。


 戒厳令が出ているのにも関わらず、素直に情報をくれるスライやマスター

 2人の態度にセレナはさらに不信感を増していた。



「…しかし、相手が新米とは言え、聖騎士だ。となれば…だ」



 マスターは姿勢を正すと続ける。



「戒厳令が出ている情報を伝えても、ま、俺達が罰せられることはない」



 マスターはそう言ってスライを見ると、彼女はその視線に対して頷く。



「だから、色々と教えてくれるのね?」

「ああ、解決してくれるなら、情報は惜しまない」


「でも、そもそものメリットは何かしら?」

「言ったろ、この騒動、俺らも困っているとな」


「困る?仕事が増えて助からないのかしら?」


「疑り深いな。その歳で人間不信だと、後の人生が大変だぞ?」

「余計なお世話よ」


「仕事が多いのは、ま、建前では喜べないさ。俺らは因果な商売だ。仕事が多いってことは、それだけ、困っている連中が多いってことだからな」


「そうね」

「だが、ま、本音はな。仕事が多けりゃ、稼げるからな。ありがたい話ってのは確かだ。だが、物事には限度ってもんがある。この騒動は、俺らの限度を超えちまうかもしれん。そうなる前にだ。手を打ちたい」



「分かったわ。メリットは貴方達にもあるのね」

「そう言うことだ。物事ってのはバランスが一番だ。コントロールできなきゃ、量なんざ多くても意味がない」



 セレナとマスターの話に区切りがつくと、レイズはマスターへ頭を下げる。



「…情報ありがとうございました。僕らが必ず解決してきます!」


「ああ、頼むぜ」


「はい、騎士王だけでなく、レイズ様にも動いていただけるのであれば、我らも安心して冒険者業務を進められます」



 スライの何気ない言葉にレイズとセレナは彼女の顔を凝視する。



「「騎士王?」」





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