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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第3章 救世の零厳王
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第23話 砂漠のギルド



「…そう、ありがとう」



 セレナに似た大人の女性はベットの上で上半身を起こしながら窓の外を見つめていた。

 時折、彼女はボソボソと誰かと喋っているような独り言を呟いていた。



「ええ…大丈夫…アレフ因子はレフトへ送るわ」



 女性は手のひらを開くと、そこには白い卵のようなものが握られていた。

 彼女は再び手を握りしめると、その卵を掴んだ腕を愛おしそうに胸に当てる。



「ごめんね…ごめんね…」



 女性は潤った声で、誰かへ謝罪の言葉を呟いていた。




「ママ!!」

「っ!?」



 そんな彼女がいる部屋へ1人の銀髪の美幼女が飛び込んでくる。

 扉が勢いよく音を鳴らし、ドタドタと床が響き、女性が上半身を起こしているベッドの傍へと幼女はたどり着く。




「しー!」

「わ!」


 女性は幼女へ向かって優しそうに微笑みながら人差し指を口元で立てる。

 すると、銀髪の幼女は慌てて両手で口を塞ぐ。



「セレナ、病院では静かにしないとダメよ」

「はーい」



 幼いセレナは笑顔で右手をあげると、その姿を満足そうに女性は見つめていた。



「ね!ママ!セレナね!ランクSになったよ!」



 両手を腰に当てながら自慢気に語る幼いセレナを前に、女性は両手を顔の前で小さく叩く。



「わ!すごいじゃない!」



「こーら!セレナ様!ダメっすよ!」

「げっ!ランス!!」


 女性とセレナがハッとすると、そこには黒いスーツに身を包んだ筋肉質の男性がいた。

 2人に気付かれないように近づいた彼は、即座にセレナの両脇へと手を伸ばすと、そのまま彼女を顔の高さまで持ち上げる。



「ぶー!」

「ぶー!してもダメっすよ!ほら!プレジデントが探し回ってますから!」



 ランスは窓の外を指さすと、そこには、庭で看護師と慌てながら話をしている金髪の男性の姿があった。むしろ、彼と話をしている看護師も慌ててしまっているのだが…




「ぶー!」

「があぁぁあ!!」



 幼いセレナはランスと呼ばれた男性の顔を爪で引っ掻くと、慌ててランスは両手を顔で覆う。

 その拍子に、彼の腕から抜け出したセレナだったが…




「はい、捕まえました」

「ぎゃ!」



 今度は、黒いスーツの女性によって捕らえられてしまうセレナ

 両脇にしっかりと抱えられてしまっているため、幼いセレナがどれだけ暴れても、彼女からは抜け出せない様子だ。




「ランス、油断は禁物です」

「う、うるせぇ…」

「セレナ様はすでにランクSと認められています。侮ると怪我をしますよ」


「エイス!俺の顔を見てみろ!すでに怪我してんぞ!!」



 ランスがエイスと呼んだ女性へ大きな声をあげると、ベッドの女性が再び人差し指を口元に当てて「静かに」とサインを送る。



 エイスは女性へペコリと頭を下げると、そのままセレナを抱えて部屋から去っていく。

 彼女に続いてランスも女性へ頭を下げようとするのだが…




「ランス」

「へい?」



 女性が彼の名前を呼ぶと、ランスは畏まったように姿勢をビシッと正す。



「…あの子をよろしくね」



 女性がどこか神妙な表情でランスへと告げる。




「…姉さん」

「あら、その呼び方、久しぶりね」

「俺、姉さんがセレナ様と一緒に暮らせる日が来るって信じてやす」


「…」


「だから、そのよろしくは、その、姉さんが死んだらってことなら無理っす」

「…」


「諦めるなんて姉さんらしくないっす!病気なんかぶっ飛ばしてくださいっすよ!」

「…」


「姉さん!」




「ランス」

「へい?」


「…私は…」

「姉さん?」


「ううん…何でもないわ」

「…?」


「そうね…うん…頑張るわ!」

「姉さん…そうでなきゃっす!」



 笑顔の女性とランス


 そんな2人の様子を病院の廊下でコッソリっと覗いていたのは幼いセレナであった。




「ママ…病気…」




ーーーーーーーーーーーーーーーー





「…セレナ?」

「ん…」


「セレナ!」

「っ!」



「どうしたの?」

「…夢?」



 セレナが目を覚ますと、そこには心配そうに自分の顔を覗き込むレイズがいた。



「うなされていたけど…悪い夢でも見たの?」

「…ううん、どっちかと言えば…良い夢かな」

「え!?」



 セレナは幸せそうに笑うと、レイズの唇へ人差し指をあてる。



「ん?」


「ふふ…さーて、と!」



 セレナはベッドから起き上がると、窓から外を見つめる。

 早朝にも関わらず、村は冒険者達で賑わっていた。



「朝から賑わっているわね」

「夜もこんな感じだったよ」


「夜も?」

「うん、眠らない村ってのは本当だったよ」

「そうなの?」

「うん、夜も冒険者の人達が多くいたから」


「へー」



 セレナは頷きながら身支度を始める。

 そんなセレナへレイズは窓から村の景色に指を向ける。



「今日は北の地区にあるギルドへ行ってみようよ」

「そうね。酒場のマスターの話じゃ、フロンティアラインのビーストに詳しい人がいるのよね」

「うん、確か…受付嬢をやっているんだっけ?」


「でも、歴60年だと、受付"嬢"と呼んで良いのか分からないけれど」

「…ははは」



「さて、行きましょ!」

「うん」




ーーーーーーーーーーー



 砂漠の村を進んでいくと、やがて洞窟のような建物が見えてくる。どうやら、天然の洞窟をくり抜いて建物としているようだ。


 入り口には布が垂らされており、その布を捲るようにしてレイズとセレナは中へと進む。


 どの冒険者ギルドにも言えることだが、中は酒場のようなつくりになっており、奥には受付カウンターがズラリと並んでいる。どのカウンターにも若い女性が受付として立っていた。



「えーっと」


 レイズとセレナは冒険者ギルドの中まで進むと、人の邪魔にならない場所で立ち止まる。そこから受付カウンターにいる受付嬢を見渡すのだが



「ん?」

「若い人しかいないわね」

「うん…」



 受付嬢は、やはり皆が若々しく、歴60年の女性はいないようだ。



「誰かに聞いてみましょう」



 セレナはそう言って、近くにいるギルド職員を捕まえる。彼は黒い制服を着ており、ビシッと着こなしている。



「あの!」

「ん?なんだい?」



 セレナを前に、どこかキザったらしい笑顔を見せる職員だ。セレナの背後にレイズがいることに気付くと、彼にはジト目で険しい顔を見せていた。どうやら人によって態度を明確に変えるタイプのようである。



 そんな職員の態度など意に介さず、レイズとセレナは本題を切り出す。



「ね!スライさんって人はどこ?」

「スライさんなら、あそこで受付をしているよ」



 そう言って、ギルド職員はズラリと並んでいる受付カウンターの一部を指差した。

 そこで冒険者と話をしているのは、いかにも20代であろう女性だ。



「へ?」

「スライさん?」


「ああ、スライさんは不死族だから、あの歳でも若々しく見えるのさ」



 ギルド職員の話の通り、受付カウンターにいる女性は金色の髪を真っ直ぐに伸ばしたスレンダーな美女であった。瞳は赤く、肌には張りがある。

 不死族と説明がなければ、人違いだと思うほど若々しい女性であった。



「不死族…」

「ペンドラと同じね」


「ああ、かの騎士王も不死族だったね。確か…あのスライさんは騎士王の遠い親戚だって話だぜ」



「へぇ」

「ふーん」


 レイズとセレナの反応が思ったよりも小さいため、ギルド職員は怪訝な顔を見せた。

 騎士王の遠い親戚だとスライを紹介すると、だいたいの人間は驚きを露わにするのだが




「お、落ち着きのあることは良いことだな」

「え?」

「何よ、藪から棒に」


「普通は、騎士王って聞けば驚くもんだぜ」



 ギルド職員はそう話すが、相変わらず反応の薄い2人




「そう、じゃ、ありがとう」



 レイズとセレナはギルド職員へお礼を告げると、スライのカウンターに並んでいる列へと加わっていく。まるで、騎士王のことなど興味がない様子だ。




「ありゃ、大物になるぜ」



 そうギルド職員は列に並んでいるレイズとセレナへ呟くと、彼は仕事へと戻っていく。






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