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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第3章 救世の零厳王
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第15話 ドロー装置



「これは…?」

「はい、マスター、ドロー装置です」


 ふかふかのベッドに腰をかけているレイズの前には、翠髪のゴスロリメイド服の美女がいた。まるで神が造形したのではないかと思うほどの美貌に、ゴクリと息を飲み込む色香の漂うナイスバディだ。そんなスーツがレイズの前で膝をつき、顔を伏せ、両腕をスっとあげる。彼女の両手の平には丸型のポータルスピーカーのような、凹みがある球体があった。



「ドロー装置?」

「はい。こちらは半径50m以内にあるビーストの素材を自動的に回収、ドクターの元へ転送する装置でございます」

「…す、すごいね」

「先のビースト襲来の際、貴重な素材の数々が海の底へ沈みました」

「あ、うん…それどころじゃなかったけど、勿体無いと言えばもったいないね」


 レイズはスーツの話の意図を察するとそう口にする。



「はい…ドクターよりデルタ以上のビーストの素材は、里の繁栄に欠かせないものだと仰っておりました。そこで、レイズ様、私の口から申し上げるには命を賭するほどの覚悟のいる申し出ではございますが、こちらのドロー装置を常に携帯していただきたいと思います」

「え、あ…えっと…別に…邪魔になるほど…わっ!!!」


 レイズがスーツの手のひらにあるドロー装置なる球体の物体を掴むと、スっとレイズの体内へと入り込んで消えていく。



「ありがとうございます」

「ま、待って…えっと…これ!一つだけ、すごく心配なことがあるんだよ!」

「心配ごとでしょうか?」


「うん、自動的に回収してドクターのところへ転送するってことは、僕が他の人と一緒にいる時に、他の人が倒したビーストの素材まで回収しちゃうよね?」


「マスター、ご安心ください。こちらは所有権自動判定機能が搭載されております。AIが素材の所有権を自動的に判定し、ドクターの元へ転送します。また、マスターが仰られたように、他の方々と行動を共にしている際は、共闘されているケースがほとんどでしょう。所有権の判定が困難な場合は機能が発動されないようになっております」


「あーうん…それなら…うん、よく分からないけど、うん、トラブルにならないなら…うん」

「はい、マスター。また、ファミリー設定を用意しております。ドロー装置に登録した方が倒した素材も自動的にドクターの元へ転送される機能が設けられております。具体的には、セレナ様やカナン様…ペンドラ様も加えていいかもしれません。御三方が倒したビーストの素材も、自動的にドクターの元へ転送される仕組みを設けております」


「…何だかすごい機能なのは分かったよ」

「ありがとございます。ドクターもお喜びになるでしょう」


「…素材は何に使うの?」

「結界の範囲を広げつつ、大樹以外にも住宅地を設けたいと仰られておりました」

「そうなんだ」

「そのため、建物の素材以外にも、古代遺跡に巣食うビーストを討伐するための装備を用意する必要があります」


「わかった。えっと、集めた素材は自由に使っていいよ」

「ありがとうございます」


 レイズはスーツが最も言い難いと考えていたことを口にしつつ承諾する。スーツはそんなレイズの態度に深く頭を下げつつお礼を述べた。



「最後に、ドクターから言伝を預かっております」

「言伝?」

「はい。今後、必要な装備があれば仰ってください。素材さえあれば、ドクターが作成できないものはないそうです」



「…例えば、四界龍の装備でも?」


 レイズは手元にあるであろう素材の中で、最も強そうな装備を口にしてみる。すると、スーツは即座に頷く。



「はい、天空龍の剣、地脈龍の冠、海底龍の鎧は作成可能です。地平龍の盾は素材が不足しています」



「…黒き禍に出てくる神剣レヴァンタでも?」


「白龍と黒龍の素材があれば容易でしょう。設計を変えれば私の素材からでも作成可能ですが…パワードスーツを着ているレイズ様が必要とする装備ではないと愚考いたします。素手で殴った方が威力が高いと思われます」


「あ、えっと、そうだね。装備が必要になったら、その必要な効果を伝えるから、見繕ってもらえると助かるよ」

「承知いたしました。しかし、レイズ様」

「え?何?」


「例に四界龍の装備をあげられるとは…流石にございます」

「え?…あ…うん?」

「装着者の練度が低くとも十分な効果が発揮される装備ばかりです。里の方々を想っておられるのですね」

「…」




 この時のレイズは知らなかった。

 ドロー装置を発端として、神話級の武具をもれなく装備した私兵集団が出来上がることを。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「セレナ様ー!!」

「…」

「ぎゃっ!!」



 セレナは抱きつこうと飛び込んでくるルージュをヒラリと避けると、そのままの勢いでルージュは壁に激突する。その衝撃で顔を赤くさせたルージュは、そんなセレナを泣きそうな表情で見つめる。



「照れなくてもよろしいかと」

「照れてないわよ!もう!」



「…大お嬢!すげぇな!」

「ハザードも元気そうね。よかったわ」


「おう!助かったぜ!!いやー!!かっかっか!!今回こそ死ぬかと思ったぜ!!かっかっか!!」


 ルージュが来た方向からはアリーシャとハザードの姿があった。ハザードは相変わらず脳筋そうに笑っている。



「セレナ様、この度も助けていただき、感謝の念が絶えません」


 アリーシャはセレナの前で深々と頭を下げる。今度こそ、照れて顔を逸らすセレナ



「お、お礼ならレイズに言って!」

「はい、次に会う機会があれば伝えさせていただきます」

「次に?すぐそこにいるわよ?」


 セレナはそう言って指を指し示す。そこには5階建ての大きな建物があった。デロスの最高級の宿である。



「いえ、我らダイヤモンド家に名を連ねるものが、ミリア様と同行しているレイズに会うのはなかなか…」

「政治的な何ちゃらってやつね…めんどくさいわ」

「本当にそうですね」



 セレナの言葉に、アリーシャはしみじみと頷く。



「しかしよー!レイズの兄貴は出世しちまったなー!」

「…そうだな」



 ハザードは頭を掻きながら少し寂しそうに上を見上げる。彼ら見つめているのは宿の最上階だ。そこにレイズが宿泊していた。




「…それではセレナ様、お供できないのは非常に寂しいのですが…我らは王都へ向かわなければなりません」

「そう…また帰ってくるわよね?」



 セレナが少し寂しそうに問いかけると、ルージュは目を潤わせる。



「…はい!勿論です!!」

「おう!待ってろ!」


「ええ、熱りが冷めれば、ルージュは解放されます。そうすれば、ヨクラルバへ帰ることも許されるでしょう」


 アリーシャの言葉に証拠のようなものはない。実際に、ルージュとハザードが王都へ行った際に、いざこざがあるのは間違い無いだろう。それでも、アリーシャが断定口調で語るのは、彼女に覚悟と責任があるからだろう。



「…アリーシャ、あなたに任せるわ」

「はっ!このアリーシャ、身命を賭してご期待に応えましょう」


 セレナはアリーシャへ2人のことを託すことにした。そう思えるほどの覚悟を胸に抱いているとアリーシャから感じたからだ。


 アリーシャはレイズとセレナに大恩がある。奇巌城とデロスの2つの場所で、命を助けてもらったからだ。だからこそ、アリーシャは口にした通り、ルージュとハザードを命懸けでヨクラルバへ帰す覚悟だろう。




「では、レイズにもよろしく頼みます」

「兄貴に無理すんなって伝えておいてくれ!」



「ええ…2人とも…いってらっしゃい」


「はい!行ってきます!」

「おう!





ーーーーーーーーー




「カナン様、こちらが資料です」

「ああ、ご苦労」



 カナンは書斎のような部屋に置かれた面積の大きな机に両手をついて、その机に広げられた資料を見つめている。そんなカナンが両手をついている机の端へ巻かれた用紙が詰まった箱をドカッと置くのは、彼女の同僚である神殿騎士だ。


「東方地方の資料は1時間後に転送されてきます」

「そうか、ありがとう」

「では!」



 そう言って神殿騎士は部屋から退出すると、そこにはカナンが1人だけになる。彼女は難しそうな顔をしながら机に広げられた資料を見つめていた。




「これは…世界規模の緊急事態かもしれん」



 そう険しい顔で彼女は呟く。




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