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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第3章 救世の零厳王
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第12話 救世主参上?



「…よっと…がぁぁああ!!今日も疲れたぜぇ!!」


 ハザードが豪快に椅子へ座ると、すぐに同じテーブルについている冒険者達が泡立つ黄色い飲み物を彼の前へドカッと置くと、それを豪快に飲み干す。



「ぷはぁああ!!!」



 豪快に飲み干すと、ドンっと机を叩くようにグラスをテーブルへ置くハザード

 彼は一杯を終えてようやく大剣を壁に立てかけ、胸当てなどを外し始める。その大剣などの装備には色とりどりの液体が付着しており、それらがビーストとの戦闘で浴びたものだと冒険者達は知っている。



「ハザードさん!今日もお疲れっした!」

「おうよ!!かっかっか!!」

「ハザードさんがいなけりゃ、俺達は参ってましたぜ!」

「かっかっか!!持ち上げすぎだぜ!!おい!俺よりも強いやつ、いんだろ!?」

「いえ!!それでもですぜ!!」


「おう!そうか?かっかっか!!!」



 一仕事を終えたハザードは豪快に笑う。連日、大群のビーストが押し寄せるデロスの街は絶望が溢れていた。そんな中でも、豪快に笑い声を轟かせるハザードの存在は、戦闘員である彼らにとって心の支えになりつつあった。


 しかし、そんなハザードへ浮かない顔で尋ねるのは1人の少年だ。軽装ではあるが短剣を装備しており、彼も冒険者の端くれであることがわかる。



「…どうして、ハザードさんはそんなに元気なんですか?」

「おん?」

「デルタビーストまで確認され始めたんですよ?ランクSの冒険者に死人まで出ました…逃げ道もないです…それなのに!!」


「かっかっか!!おうよ!!お嬢がよ!!兄貴と大お嬢を連れて来てくれっから!!そうなりゃ、あんなビースト共!すぐにぶっ飛ばしてくれるぜ!!」


 そう言ってハザードはおかわりの泡立つ飲み物をグイッと飲み干す。



「…兄貴と大お嬢…そんなにすごい人なんですか?」

「おう!…そうだな…あれだ!あれ!!英雄だぜ!!!2人はよぉ!!」





ーーーーーーーーーー




「…アリーシャ様!」

「どうした?」

「お手紙が来ております!」

「手紙だと?」

「はっ!伝書龍からです!」

「そうか」



 見晴らし台から夜のデロスの街を見渡すアリーシャへ駆け寄るのは1人の騎士だ。彼はその手に手紙を持っており、アリーシャの前で跪くと、両手で掲げながら手紙を彼女へ渡す。



「ありがとう…持ち場へ戻りなさい」

「はっ!!」


 騎士が踵を返して去っていくと、見晴らし台にはアリーシャが1人となる。手紙の差出人を確認すると、彼女は呟く。



「ルージュからね」


 アリーシャは手紙の封を破くと、すぐに中身を取り出す。



「…ヨクラルバからはすでに去っているのね…入れ違いになったようね」



 アリーシャがそのまま手紙を読み進めると、彼女はハッとする。




「すぐにデロスの外へ向かうわ!!」


 彼女が大声で見晴らし台の下にある控室へ叫ぶ。すると、中から複数の騎士が顔を覗かせる。



「…アリーシャ様!?」

「今日、剣聖が来ていたと報告があったわね!」

「はい!!」


「その馬車はまだ近くにいるのかしら?」

「はい!デロスから少し進んだ位置で停まっているのを確認しました!!」

「すぐに迎えにいくわ!!」


「っ!?」

「しかし!剣聖に頼るのは政治的に問題があると思われます!」


「いえ!頼るのは教会じゃないわ!」

「では…?」

「他に、このデロスを救い出せる人がいるのよ!!」





ーーーーーーー



「…レイズ様」

「はい?」


 馬車の中で作戦を練っているレイズ達だが、不意にペンドラがレイズへ呼びかける。



「客人が来たようですぞ」

「へ?」

「この気配…隠すつもりがないということは敵意はなさそうですね」

「ええ…どこかで感じた気配だけど」


 セレナもカナンも、ペンドラと同じように気配を察しているようだ。しかし、レイズには何も感じないでいた。

 


「…頼もう!!!」



 そうこうしていると、馬車の外から女性の声が中へ響く。



「この声…アリーシャ様?」

「ええ、そうよ、あの子よ!」


「勇者アリーシャか」

「ふむ」


「デロスはダイヤモンド家の直轄領、アリーシャが指揮をとっていても不思議はありませんね」

「…でも、そのアリーシャ様が何の用事だろ?」

「レイズ様、今は会いに行きましょう」

「そうですね」



 ミリアの声に頷いてレイズが立ち上がると、彼の前をカナンとペンドラが進む。まるでレイズを護衛するような布陣のままレイズ達は馬車の外へ出ようとするが…



「レイズ様はこちらで」

「はい、相手の出方を念のため確認してからの方が良いと思いますぞ」


 カナンとペンドラはそうレイズへ告げると、彼は馬車の入り口で待機することとなり、先にカナンとペンドラが馬車から降りていく。



 馬車から少し離れた場所には、馬に乗った騎士達が陣を成していた。そして、その陣の先頭にはアリーシャの姿があった。




「私はアリーシャ!!!デロスの指揮官である!!聖騎士レイズ様の馬車とお見受けする!!レイズ様はどちらに!?」


「私は剣聖カナン!!」

「妾は騎士王ペンドラだ!!」



「「っ!!!!」」



 カナンとペンドラも名乗りをあげると、アリーシャを筆頭に騎士達は動揺を見せる。まさか、カナンの他に騎士王まで同乗していたとは思わなかったようだ。世界最強と名高い2人が同時に乗っている馬車を大量破壊兵器を見つめるような視線で見つめる騎士達



「お、おい…」

「あの馬車…誰が乗っているんだ?」

「まさか…聖女か?」

「聖女がこんな場所へ来るか?」

「だが、それほどの人物でもなければ、剣聖と騎士王を護衛になんてつけないだろ?」

「それはそうだが」


「…静粛に!!!」


「「っ!!」」



 動揺を見せる騎士達を一喝するアリーシャ

 すると、すぐに騎士達はピタリと動揺を止めると、ビシッと姿勢を整える。彼らの練度が低いわけではない。しかし、それほど、剣聖と騎士王が同じ馬車に乗り、やんごとなきお方を護衛しているのが衝撃的であったのだ。



「失礼した!!」


 アリーシャがカナンとペンドラへ叫ぶ。



「構わん!!!」

「して!!勇者アリーシャよ!!!妾達へどんな用事であるか!?」


「騎士王レイズ様へ取り次いで欲しいのだ!!!」


「用件は我らが聞こう!!」

「レイズ様へ取り次ぐかどうかは妾が判断するぞ!!」



「…騎士王までも傘下に置いているのか」



 アリーシャはカナンやペンドラ、背後の騎士達に聞こえない声で呟く。

 彼女の言葉は背後に控える騎士達も感じていることであり、その衝撃も大きい。しかし、騎士達は動揺を見せることはしない。2度目の失態はないと肝に銘しているのだろう。

 



「…このデロスへデルタビーストやイプシロンビーストまでをも引き連れ!!!ゼータビーストが向かってきていると調査報告があったのだ!!!」



 アリーシャは賭けに出る。馬車にレイズとセレナが乗っているのであれば、必ず助けてくれると確信があった。


 カナンとペンドラは「取り次ぐ」と言っているが、「すぐに」とは言っていない。馬車にレイズが乗っているとその言葉だけで確信するのは危険だ。だからこそ、彼女はルージュの報告通り、目の前の馬車にレイズが乗っていることに賭けたのだ。とはいえ、勝率の低い賭けではないはずだと、アリーシャは言い終えると喉を鳴らす。



 そして、アリーシャの言葉を聞き、カナンとペンドラは顔を見合わせる。すると、2人は同時にその場で跪いた。



「っ!?」



 2人が跪いて頭を下げる先には、聖女ミリアの姿があった。彼女が馬車を降りると、先に降りたカナンとペンドラと同じように、ミリアまでもが跪く。そして、3人はさらに馬車から続く人物へと平伏していた。




「何だ…」

「お、おい…聖女が膝をついているぞ」

「誰が乗ってんだよ…」


 

 アリーシャが引き連れている騎士達に動揺が再び走る。

 2度目はないと肝に銘じてはいても、彼らは動揺を隠し切れなかった。聖女までもが膝をつくのはそれほどの衝撃である。

 

 そして、そんな彼らへ喝を飛ばす余裕はアリーシャにもない。まさか、聖女ですら跪く存在が馬車の乗っているのかと彼女は考えていた。それはつまり、あの馬車にレイズとセレナが乗っていないのではないかという予想につながる。


 カナンは前情報としてレイズに仕えていることは聞いていた。ペンドラは何の因果かわからないが、レイズへ支えているのならばそうなのだろうと、衝撃はあるが頷けないわけではない。

 しかし、聖女であるミリアですら膝をつく相手がレイズだとは、アリーシャが思いもよらないのは当然だろう。




「…あ、えっと」



 しかし、アリーシャは賭けに勝った。

 馬車から降りてきたのは金髪の青年であった。

 頭を掻きながら、どこか情けない様子で彼は馬車を降りてくる。



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