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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第3章 救世の零厳王
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第8話 ビーストの異変


 小波の音だけが響き渡る浜辺で、セレナとカナンは目を瞑りながら、周囲の気配を探る。



「…」

「…」


 精神を研ぎ澄まし、鋭いオーラを放ち続ける彼女達を前にオクトパス種のビーストの群れはその場から離れ始める。人里の方向ではなく、海の方へ去っていくオクトパス種へ、もはやセレナとカナンの関心はない。探ろうとしている気配は、カナンがポッカリと空いたようにと表現する存在だ。



「…っ!?」

「来たっ!」


 その気配の輪郭を掴んだのは同時だ。セレナとカナンは目をカッと開くと、その視線を海へと向ける。


 そして…



「来ます!!」

「ええ!!」


 2人の目の前で海が山のように盛り上がる。ザバッと大きな音と共に、高波が彼女達へ押し寄せるが、セレナとカナンが同時に剣を振り払うと、波は切り裂かれて、周囲に小雨となって降り注ぐ。



「…ホエール種!?」

「っ!?」


 セレナとカナンの前には、巨大な黒い壁が出現していた。艶のある黒い壁を上の方へ視線を向けていくと、やがて「ε」と刻まれた紋章が目に映る。


 しかし、そんな巨大なビーストからは生気をまるで感じない。そのことにセレナとカナンは驚愕していた。



「死んでいる…」

「殺されているのよ」


 セレナの言葉にカナンはハッとする。その黒い艶のある大きな壁のように見えるビーストの頭部には、巨大な剣が突き刺さっていた。



「巨人の剣!?…まさか!?」


 カナンはそのビーストの頭部を貫いている巨大な剣

 その持ち主に心当たりがあるようだ。



「む!?カナンではないか!」


「っ!?」



 いつの間にか、セレナとカナンの背後には1人の女性が立っていた。金色の髪、赤い瞳、妖艶な美貌を持つ女性



「ペンドラか…」


 カナンはどこかホッとしたように彼女の名前を口にするが、その隣にいるセレナは警戒心を露わにする。



「誰っ!?」


 セレナの目の前に立つ妖艶な女性は、カナンと顔見知りのようだ。しかし、人間に似ているナニカであるペンドラを前に、セレナは顔を強ばらせる。彼女にそうさせるほどの何かがペンドラにはあるようだ。



「ほう…この娘は…」


 ペンドラは、カナンの隣にいるセレナを見つめるが、一瞥しただけで関心をなくしたようだ。



「ペンドラ、お前はここで何をしている?」

「それはこちらのセリフだ」


「私たちはデロスから王都へ向かう予定だ」

「ふーん」


 尋ねておいて関心なさそうに返事するペンドラへセレナが突っかかる。



「こいつは何なの!?」


 セレナはペンドラへ指を向け手にカナンへ説明を求める。すると…



「ほう…妾に指を向けるとは良い度胸ではないか」


 ペンドラはギロリとセレナを見つめる。それだけで周囲の気温が下がっていくような錯覚があった。しかし、セレナはまるで怯む素振りを見せない。



「いきなり来て、偉そうな態度を振り撒くのはどうなのかしら?」


 セレナがそう答えると、ペンドラは妖艶に笑う。その笑みは嗜虐心から来ているものだとカナンは感じた。


 即座に、2人の間に割って入るカナン



「おやめください!セレナ様!ペンドラ!貴様もだ!」


 しかし、そんなカナンの言葉に耳を貸す素振りをみせないセレナとペンドラ



「…妾は暇潰しに来ておる。最近、ちまたを騒がせている問題なんかを解決するのは、暇潰しにうってつけだと思ったのだがな」

「それが何?」


「…ふむ…ちょいとイキっておる子を教育するのも暇つぶしにうってつけではなかろうか。そう興が向いたのだ」


「へぇ、奇遇ね。私もちょっと調子に乗っているおばさんを痛めつけるのも、暇潰しにちょうど良いと思っていたわ」




「…」

「…」


 無言で睨み合うセレナとペンドラだが、互いのこめかみがピクピクと痙攣しているようだ。



「っ!」

「へぇ」


 ペンドラは腕を振るうと、彼女の目の前からパッとセレナが姿を消す。その素早い動きを前に、ペンドラは感心したように上を見つめる。



「妾に手加減は無用ぞ」


 ペンドラはそう言って腕を上げると、その指と指のでピシッとセレナの真っ赤な刀を摘む。セレナの真っ赤な刀は逆を向いており、峰でペンドラを打とうとしていたようだ。


 ペンドラはゆったりとした動きで、セレナの目にも止まらぬ速さの刀を止める。まるでセレナの動きを予想しているような流れる動きだ。



「…そう?なら、少し本気になってあげるわ」



 セレナはそう言って笑うと、手にした刀をパッと消す。そして、セレナはクルクルと回転しながらペンドラと距離を取ると、再び刀を生み出した。



「…一刀両断!!」


 着地から、間髪入れずにセレナはそう叫ぶと、彼女の姿はパッと消える。



「これが本気か?」

「っ!?」


 セレナが全身を電光石火で動かしながら振るった刀は、再びペンドラの細い指に挟まれて止められていた。



「…嘘でしょ!?」


 あっさりと必殺技を止められたセレナは、驚愕に顔を染め上げる。そんな目の前の出来事を信じられない様子で呆然としているセレナへ、ペンドラは笑みを深めて言う。



「ふむ…それでは、妾のターンというやつだな。痛い目をみてもらうぞ」


 ペンドラはそう言ってセレナを睨む。すると、カナンが再び間に割って入る。



「やめろペンドラ!!」

「…邪魔であるぞ!カナン!聖騎士命令だ!そこで黙って見ておれ!」

「っ!貴様!!」



 そう言ってカナンを押し退けたペンドラは、再びセレナを見つめる。キッと睨み返してくるセレナを前に、ペンドラはさらに笑みを深める。



「ふむ…これだこれだ!妾が求めておるのはこれぞ!退屈を、妾は…今…感じていないぞ!」


「へぇ、余裕ね…まだまだ、これからよ!」

「苦しゅうないぞ!」


 セレナはそう言って、今度は2本の刀を取り出すと、すぐに刀を合体させて、ひまわりのような一本の剣を生み出す。



「八重桜!!」


 セレナは奥義と呼べる剣術をペンドラへ放つ。無数の剣閃の花びらはペンドラを切り裂こうと舞う。



「…確かに胸を張る強さはあるようだな。しかしな、この世には、上には上がいるってことを忘れておるようだな」


 ペンドラはそう言うと、スッと腕を振り上げる。その手にあるものはなく、ただの手刀だ。



「…うそ」


 ペンドラのそれだけの動きで、セレナの奥義はパッとかき消されていた。



「なかなかやるのは認めよう。しかしな、この騎士王に歯向かうのは100年早いぞ!」


 そう言ってペンドラが振り上げた手刀を振り下ろす。その先には呆然としているセレナがいた。しかし、その手刀がセレナの寸前にまで迫ると彼女は笑う。



「…っ!?」

「…ふふ」


 ペンドラの手刀を指と指で挟んで止めるのはセレナだ。彼女はペンドラが驚きの表情をしているのを見てセレナはさらにニヤリと笑う。



「どうしたの?ねぇ?」

「…ふむ。どうやら手加減し過ぎたようだ。次は遠慮せんぞ」


 ペンドラはそう言って手を掲げると、パッと刺々しい黒い剣がどこからともなく現れる。その剣をまるで野球バットを持つようなフォームで構えると、勢いよくセレナへ向かって振り被る。



「かきーん!!」


 そう口で言って振るったペンドラの刺々しい剣は、中間でポッキリと折れていた。



「へ?」

「ふふん」


 ペンドラは呆然と、折れた剣と、ニンマリと笑うセレナを交互に見つめる。



「あら?この程度かしら?」


 セレナはペンドラの口調を真似て告げると、ピクピクと肩を揺らした後でペンドラは叫ぶ。



「ほう!!よかろう!それでこそだ!」



 嬉々とした笑みを浮かべるペンドラ

 彼女は退屈を完全に忘れて、目の前のセレナに夢中のようだ。



「互いに本当に本気でやった方が良さそうね!」


 そんなセレナの言葉にペンドラは笑みを深める。



「侮っておったぞ!こんな拮抗した相手!カナン以外にいるとはな!!」



 セレナとペンドラはいよいよ本気でぶつかる様子だ。負けん気の強いセレナと退屈を紛らわすためには手段を選ばないペンドラ、2人の衝突は避けられないように思えたカナンは、ここ戦いを止められる存在を馬車から呼ぼうと動きを見せるが…




「やめてください!」




 そんなセレナとペンドラの間に割って入るのはレイズだ。

 ペンドラが放った手刀をレイズが手で掴んで止めていた。見方によっては、レイズがペンドラの手をギュッと握りしめているようにも見える姿勢だ。



「レイズ!?」

「…貴様っ!?」


 慌ててレイズの手を振り解くペンドラ



「…今のは何だ!?」



 そう言ってペンドラはレイズへ指を突きつける。彼女の攻撃からセレナを守るため、レイズは一瞬だけオメガビーストへ変身していた。オメガビーストの動きは時間を飛ばすような現象を起こすため、周囲の観測者からすれば、レイズがオメガビーストへ変身していたことを5感で捉えるのは無理だ。しかし、第六感が発達しているものであれば…




「答えよ!!」


 ペンドラはカクカクと足を震わせており、指を突きつけている腕も同じように震えている。堂々としていた声にも震えがあり、彼女がレイズへ怯えているのは明らかであった。




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