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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第3章 救世の零厳王
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第7話 海


「わぁー!!」

「にゃー!!」


 レイズ達がデミーナを離れてから3日が経過しようとしていた。彼らを乗せた馬車は海岸線を行き、目の前には広大な海が広がっている。岩山から見下ろす海の景色はまさしく絶景であり、遠目に映る半島にデロスと呼ばれる城塞都市がある。



「あれがデロスだね!」

「にゃー!」

「何だか変な感じね」


 レイズとペロが窓から景色を見ていると、セレナがどこか残念そうに告げる。


「どうしたの?」

「あれだけの場所ならリゾート地にすれば良いのに、厳つい感じの街が建ってるの微妙じゃない?」


 セレナの言葉にレイズは頷く。確かに、透き通るような綺麗な海と緑豊かな半島、絶好のリゾート地にも関わらず、そこにある街は城壁に囲まれた要塞のような街だ。違和感があると言われるとめちゃくちゃ気になってくる。


 そんなセレナの言葉に対してカナンがフォローを入れる。



「仕方ありません。地政学的にグレイグッドの要所なのです」

「要所?」

「はい、この地方は、デロス半島以外は切り立った崖のようになっており、大軍が上陸するにはこの半島しかありません。帝国と戦争していた時代の名残もあるのでしょう」

「この地方って何かあるの?」

「デロスから北へ進むと商業連邦と通じる街道があります。また、王国内の様々な街道が合流する地点もあり、物流上の王国の弱点とも言える場所です」

「だから、あんなに巨大な城塞都市を築いているのね…でも、今は戦争していないんでしょ?」


「ええ、しかし、今の帝国と王国は互いに仮想敵国として認識しています。デロスを維持しているのも、そういった背景があるのでしょう」


「ふーん…」


 セレナはどこか残念そうな視線を遠目に聳える城塞都市デロスへ向けていた。そんな彼女へ提案するのはミリアだ。


「よろしければ、セレナ様」

「ん?何よ?」


 ミリアに話しかけられて不機嫌そうに返事をするセレナ

 しかし、いつものことと微笑みながらミリアは続ける。



「この先を少し進むと小さな浜辺があります。そこで休息をとりませんか?」

「ん?でも、もうデロスは目と鼻の先よ?」

「予定よりも少し早く到着できそうです。無骨な街で休むよりも、浜辺で一息つく方が効率的に体を休められると思います」



「僕は賛成です!」

「にゃー!」


 レイズとペロは満面の笑みでミリアとセレナへ言う。



「…レイズとペロちゃん、すごい楽しそうね」

「うん!海って初めてなんだ!」

「にゃう!」


 レイズとペロが満面の笑みを浮かべているのを見て、セレナはミリアへ言う。



「たまには良いこと言うわね。賛成よ」

「では、浜辺で休息にしましょう。よろしいですね。カナン」

「はっ!」




ーーーーーーーーー



 レイズ達を乗せた馬車は浜辺へと到着する。その馬車の外には海パンのレイズ、何故か浮き輪をしたペロがいた。



「あつつ!!あつ!」

「にゃう!」


 レイズは日差しで熱を持った砂浜の上をピョンピョンと裸足で跳ねる。そんな彼にペロも続く。



「…わぁ!だんだんと慣れてきた!」

「にゃー!」


 何度か砂浜の上で跳ねていると、その砂の熱さに足が馴染んだのか、しっかりと地面に足をつけてレイズは立つ。彼は景色の奥まで続いている海を見つめてキラキラとした目をする。



「すごい…本当に海だ!!」

「にゃー!」

「ずっと、ずっと、この海が続いているなんて、この目で見ないと信じられなかったよ!」

「にゃうにゃう!」


「ペロ!泳いでみよう!」

「にゃー!」



 レイズとペロは勢いよく海まで駆けていくと、寸前でジャンプして、思い切り水の中に飛び込む。大きく水飛沫が舞うと海面からレイズとペロが浮かび上がってくる。



「わー!!しょっぱい!!本当にしょっぱいね!」

「にゃうにゃう!!」



「…ちょっと、2人ともはしゃぎすぎよ」


 そんなレイズとペロを浜辺から声をかけるのはセレナだ。彼女は白いビキニの水着にサングラスをしており、くびれた腰に手を当てながら呆れた表情で言う。



「あまり奥まで行ってはダメよ!」

「え?」


「ほら!レイズもペロも流されてるから気をつけて!!」


「わー!本当だ!!」

「にゃー!」


 レイズとペロはセレナに言われて自分達が流されていることに気付く、慌てて泳いで、浜辺へと戻る。



「もう!」

「あはははは!ちょっと波が強いね!」

「にゃー!」


 浜辺に戻ってきたレイズの前で、セレナは華麗にクルリと回転するとキラリとポーズを決める。



「…」

「ん?セレナ、どうしたの?」


 そして、別のポーズを決めるセレナ



「…?」



 何度かクネクネとレイズの前でポーズを変えるセレナだが、そんな彼女を怪訝な瞳で見つめ続けるレイズ


「…セレナ?どうしたの?」

「…」



「ぐぇ!!!…どうして殴るのさ!?」



 セレナに頬を殴られたレイズはバタリと地面に倒れる。殴られた頬を押さえながらセレナへ抗議するのだが、彼女はプンプンとした様子で馬車の方まで歩いて戻っていた。



「…にゃう」


 レイズとセレナを見つめながら、どこか呆れたようにペロが鳴く。




「…!?」



 そんな時だ。




「え!?」

「にゃう!?」



 レイズとペロが立っていた砂が急に爆ぜる。気付けば、レイズとペロは宙へと舞い上がっていた。



「何だ!?」

「にゃー!!」



 レイズとペロは手足をバタバタとさせながら地面へ視線を向ける。すると、そこには真っ赤な球体があった。



「…ビースト!?」



 真っ赤な球体の側面には「Δ」と刻まれている。そして、よく見ると、その球体には8本の触手があるようだ。そして、その触手の1本がレイズへと向かっていく。



「っ!?」


「レイズ様!!!」



 レイズの眼前に迫る触手だが、紫の閃光が放たれると、遅れてバチバチと雷鳴が轟き、その触手はパッと切り裂かれる。


 そして、宙へ浮かび上がったレイズとペロを腕で抱えるようにキャッチするカナンは、ビーストから離れた場所で着地すると、すぐにレイズとペロを地面へと降ろす。



「ご無事ですか!?」

「ありがとうございます!助かりました!」

「にゃー!」



 レイズの目の前にはナイスバディの女性がいた。グラマラスな体を少ない面積の布が覆っており、刺激の強い格好をしているカナンだ。

 


「あれは…オクトパス種ですね…なぜ、こんな場所に?」


 カナンは赤い球体と8本の触手を持つビーストを怪訝な表情で見つめていた。そして、カナンは自分の足元を見つめると、すぐにレイズとペロを腕で抱きかかえると、地面を蹴り上げて宙へと舞う。



「っ!?」

「にゃー!!」



 カナンに抱えられて宙を舞うレイズの視界には、別のオクトパス種のビーストが地面から現れる瞬間が映っていた。



「…怯えている」


 砂浜が爆ぜる音に紛れて、カナンがそう呟くのをレイズは聞き逃さなかった。



 かなり高くカナンが飛び上がったことで、レイズの視界には浜辺の全体が映っていた。そして、彼が視線を止めるのは、彼らが乗っていた馬車である。



「…カナンさん!」

「っ!?」



 レイズの声に反応してカナンが馬車へ視線を向ける。そこには3体のオクトパス種が馬車の周囲の地面から飛び出してきた瞬間であった。



「…まずい!!」


 空中でレイズとペロを放り投げるカナンは、すぐに全身を紫の稲妻で包み込む。馬車へと瞬時に移動してオクトパス種を倒し、空へ舞い上げたレイズとペロを地上でキャッチする考えなのだろう。


 しかし、彼女がそこまでする必要はなかった。




「…っ」



 カナンがいざ馬車の元へ向かおうとした瞬間、その馬車を包囲していたオクトパス種が細切れに切り裂かれる。その剣閃を放ったのは白い水着のセレナであり、彼女の右手には真っ赤な刀身の刀があった。



「セレナ様!?」


 カナンがセレナの目の前で着地すると、少し遅れてレイズとペロが空から降ってくる。



「わ!」

「にゃ!」


 レイズとペロはカナンにキャッチされて、そのまま地面へ降ろされる。2人が無事に地上へ降りたことを確認したセレナはカナンへ言う。



「囲まれているわね」

「はい…」

「ミリアは馬車の中に居てもらっているわ…レイズとペロちゃんも中へ」

「ええ、馬車の中の方が安全でしょう」



 セレナとカナンに言われてレイズは馬車の中へ入ることにする。馬車の中に置いてある荷物の中にベルトがあるからだ。



「う、うん!」

「にゃー!」



 レイズとペロが馬車へ入るのを見送ると、セレナはカナンへ問いかける。



「このビースト達のこと、わかる?」

「はっ!オクトパス種と呼ばれる上位のビーストです。しかし、古龍アトランティカの眷属であり、地上で見かけることがないビーストでもあります」

「…そうね。どうみても海底種よね」



 セレナはカナンの言葉に頷く。しかし、そうなると海底種のビーストがどうして地上に姿を見せているのかだ。



「はい…気になったのが怯えていることです」


「ええ、それは私も感じたわ」

「はい、まるで、驚異的な何かから逃げて地上へ姿を現したような、そんな印象が拭えません」



 カナンがそう言うと、2人は周囲を見つめる。オクトパス種はセレナとカナンを脅威と見たのか、様子を見たまま動こうとしない。否、うまく逃げ出そうと考えているようだ。いくらセレナとカナンが脅威的とはいえ、こんな早々に凶暴なビーストが逃走を選択するのは異常だ。



「…もっと、ヤバいのが潜んでいるのね」

「ええ、そう考えるのが良いと思います。



 オクトパス種はもっと別の脅威から逃げ出している途中であると過程する。元々、逃走中であったのならば、セレナとカナンからもすぐに逃げ出そうとするのは不思議でなくなる。



「気配…変にしないわね」

「はい…どこかポッカリと穴が空いたような気配です」


「つまり…その脅威が近くにいて、私達に悟られないようにしているってことよね」

「ええ…つまり…」


「私達に明確な敵意があるようね」




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