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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第3章 救世の零厳王
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第4話 デミーナ再び


「とはいえ、聖騎士の叙勲式には出席していただきます」


 カナンはレイズ達へそう告げる。しかし、それぐらいならばとセレナはコクリと頷いた。気付けば、自分が聖騎士を叙勲することになっていることに苦言を呈したい気持ちはレイズにある。とはいえ、断ってしまえば、ルージュ達がマインを匿っていた罪で裁かれることになる。

 元はと言えば、自分達が無茶なお願いをしてしまったことが原因である以上、その責任を取らなければならない。聖騎士になるのはその責任と言えるのだろう。



「…分かりました。


 カナンの言葉にレイズも少し遅れて頷いた。



「その叙勲式はいつどこでやるの?」

「はっ!聖公国の首都ミリアステレスで開催されます。およそ2ヶ月後です」


「まだ時間はあるわね」

「ええ、しかしながら、準備などを考えると猶予があるとは言えません」


 そう言ってカナンはボードに文字を書き始める。


 ヨクラルバからデミーナへテレポートで向かい、そこから3日かけて城塞都市デロスへ馬車で移動、デロスのポータルからテレポートで王都へ向かう。

 王都では貴族や王族へ挨拶回りを行わなければならないため、王都を出発するまでに移動を含めて1週間ばかりの時間を要する。



「挨拶回りをしつつ衣装を揃えます。王国の風土に合わせたスーツの他、各国へ挨拶に回る際にも、それぞれの風土に合わせた格好が必要なため、王都で買い揃えてしまいましょう。


「ふむふむ」

「挨拶回り…」


 カナンの説明にセレナは頷きながら答えるが、レイズには気の重い出来事が重なりそうだ。そんなレイズの心境を察したのか、カナンは補足する。



「グレイグッドでの挨拶回りは、身分的にレイズ様が下である故、レイズ様から相手元へ伺うようになります。しかし、無礼を働かないようにと気を使うのは相手側の方でしょう」


 

そんなカナンの言葉をミリアが申し訳なさそうに補足する。


「本来であれば、レイズ様には宿やこの馬車で構えていただき、貴族や王族の方から挨拶へ向かうべきなのですが…風習ゆえ、どうかご容赦ください」


「はぁ…」


 もはや、なるようにしかならないと諦観しているレイズ

 そんな彼に代わって応対するのはセレナだ。



「そういえば、王都にルージュ達がいるはずなのよね?」

「ええ」

「会いに行くことはできるかしら?」


 セレナの質問にミリアは首を縦にも横にも振らない。


「それは向こう側の都合次第です」


 ミリアの柔和な笑みの裏に怒りのようなものを感じたレイズとセレナ

 何だか根深い問題がある予感がしたため、2人はあまり踏み込んで尋ねるのはやめようと考えた。



「…聖騎士とはいえ面会を強要するわけにはいかないものね」

「普通は断らないでしょうが…相手はローズ家やダイヤモンド家であれば特殊な事情がありますので」

「そういえば…仲があまり良くないのよね」


「…セレナ様、そういったことはあまり外では…」

「ええ、分かっているわよ」


「…では、スケジュールの続きを説明します」

「待って、もう一つ質問があるわ」

「はい、セレナ様」


「服なんてすぐにできるのかしら?」


 セレナの質問にミリアが答える。



「はい、採寸はすでに済ませてあります。王都では衣装を受け取るだけになっております」

「…いつの間に」

「…」


 ミリアは相変わらずの柔和な笑みを浮かべているのだが、返ってそれが恐怖を煽っていた。



「可能な限りレイズ様にお気に召していただけるようにと、100種を越える衣装を発注してあります。万が一、どれも至らない場合は、このカナンがテレポートで戻ってでも受け取りに行きますので、どうかご安心を」


「…」



「他にここまででご質問はありますか?」

「…ないわ」


「では、スケジュールの続きを説明します」



 カナンがそう言って切り出すと、会話は再び叙勲式までのスケジュールの話となる。全員の視線がカナンの持つボードへと注がれる。




ーーーーーーーーーーーーー




 「デミーナへようこそ」

 そう書かれているアーチ状の看板が見える外壁の外に、レイズ達が乗せる馬車は停車していた。そして、馬車の外でレイズはデミーナの街並みを見つめている。


 デミーナからデロスへの道のりは3日間ほどある。その間の食料を含めて日用品の買い出しを行うため、カナンは部下の神殿騎士を連れて買い出しに向かっていた。買い出しとはいえ、すでにデミーナで買い揃えているため、まとまった荷物を受け取りに行ったというのが正しいであろうか。



「…レイズ、大丈夫?」

「にゃー?」



 デミーナの街並みを見つめているレイズの表情が気になったセレナとペロはそう尋ねると、レイズは首を縦に振る。


「うん、大丈夫だよ」



「レイズ様、何か必要なものがあれば買い物の時間を設けてあります」



 そんなレイズへミリアはそう尋ねるが、レイズは首を横に振る。


「…僕が街に入ればまた騒ぎになります」

「騒ぎ?」


 レイズの言葉にミリアは首を傾げる。

 レイズはゼロの紋章を持つため、またデミーナに入れば、石を投げられ罵声を浴びせられるだろう。そんな場所へ好き好んで向かうものなどいない。



「…レイズ、私はミリアと街へ向かうわ」

「え?」


「私は武器の手入れに必要なものを、ミリアはミリアで私物の買い出しがあるのよ」

「うん」


「申し訳ありません。レイズ様」

「いえ、行ってきてください」


 申し訳なさそうな表情を浮かべるミリアへレイズはニコッと笑いながら答える。外の空気を吸いたいため、馬車の外へ出ているが、すぐに馬車へ戻れば騒ぎになることはないとレイズは考えていた。



「じゃ、レイズ、すぐに戻るわ」

「うん」


「行って参ります」

「お気をつけて!」



 セレナとミリアはデミーナの街へ向かうと、レイズとペロは馬車の中へと戻る。

 彼はすぐにソファーに腰掛けると、窓から外の景色を覗く。



「…っ!?」



 レイズの目に映ったのは額に「Δ」と刻まれたビーストの姿である。細長い体躯をニュルニュルとさせながら、巨大な翼で空を舞う、真っ赤な蛇のような龍であった。



「赤蛇龍!?」



 龍の一種である赤蛇龍が前触れもなく出現していた。

 その出現に気付いたのはレイズだけではないようだ。街の外壁には警備をしている冒険者や兵士の姿があり、ざわざわと慌ただしさが彼らを支配していた。


 そんなデミーナの街の外壁へ向けて、赤蛇龍は大きく口を開くと、その喉の奥から赤い光が漏れ出した。



「まずい!!」



 レイズはすぐに腰へベルトを巻く。そして、ベルトに備わったスイッチを押す。





ーーーーーーーーーーー




「お、おい!!見ろ!!」

「っ!?」


 最初に気づいたのは、来月結婚する予定のデミーナの兵士であった。



 彼の言葉を皮切りに、長閑だった景色が慌ただしく変貌していく。



「…何でだよ」


 そして、最初に気づいた男性には、思わず膝を下りそうなほどのネガティブな感情が押し寄せてくる。

 彼が結婚する予定の女の子は子供の頃からの知り合いであった。その幼馴染みである女の子と長年の恋愛の末に、ようやく結婚まで漕ぎ着けたのだ。

 彼は平民、その子は貴族と言えば、彼がどれだけの想いと苦労で結婚まで推し進めたのかは想像に難くないだろう。



「…嫌だ」



 空を見上げる兵士はそう呟く。彼の瞼の裏には妻となる予定の女の子の笑顔が浮かぶ。失いたくない、泣かせたくない、ずっと一緒にいたい。そんな気持ちが膨れ上がっていく。

 しかし、彼女と入籍できる身分となるため、騎士の位となり、こうしてデミーナを護る兵士として勤務している彼は、デミーナの危機を前に逃げることなど許されないのだ。



「…っ!」


 一瞬の弱気を胸に仕舞い込み、大切な人を、街を守るために彼は槍をギュッと握りしめる。



「来るぞー!!!反射魔法陣!!!」


 指揮官のちょび髭の兵士がそう叫ぶと、すぐに魔術師連隊が呪文を唱え始める。その号令にハッとした彼は、赤蛇龍が大きな口を開けてブレスを放とうとしていることに気付く。



「っ!?」



 彼は浮遊感を味わうと、すぐに背中に衝撃が走る。



「がぁ…っ!?」



 赤蛇龍が放ったブレスの衝撃によって、自分の体が舞い上がり、城壁の端へ背中をぶつけている。そのことが理解できるということは自分の意識はハッキリしていると彼は考える。そして、彼は自分の手足が動くかどうかを確認する。背中に鈍い痛みはあるが、5体は満足であり、立ち上がることはできるようだ。




「次が来るぞー!!」

「ダメです!!今ので魔法連隊の魔力が底をつきました!!」

「矢でも何でも放て!!!奴を叩き落とすぞ!!」

「勝てるわけがありません!!」

「相手はデルタビーストです!!」


「諦めんな!!!街を!!家族を守るぞ!!!」




 彼は立ち上がると、目の前には深く抉れた城壁

 城壁の下には地面で踠いている兵士の姿があった。



「…っ」



 そして、空には、再び大きな口を開いて、その口の奥から赤い光を漏らしている赤蛇龍の姿があった。



「…ごめん」



 彼はそう言って全てを諦めた。

 魔術連隊は壊滅状態だ。

 兵士達が放つ矢は、赤蛇龍の分厚い鱗に遮られて有効打をまったく与えられない。


 魔力が込められた槍が飛翔するが、それも分厚い鱗を貫くには到底及ばない。



 デルタビーストは英雄が相手するような怪物だ。

 一般の有象無象がどれだけ寄せ集めになっても、一方的に蹂躙されるだけであろう。



 そんなデルタビーストであるが、急に水風船のようにパンっと瑞々しい音を響かせて破裂する。周囲にはその緑の血が雨のように降り注ぎ始めた。



「へ?」


 目の前の出来事に呆然とするのは彼だけでないようだ。城壁を担当していた兵士や冒険者達は、目の前の急なできごとに呆然としながら虚空を見つめていた。



「誰か…いるぞ?」



 そんな虚空を見つめ続ける彼らの中の誰かが気付く。その声に、皆は虚空ではなく、その地上を見つめる。



「…ゼロの紋章?」



 赤蛇龍が滞空していたちょうど真下には、金色の髪のゼロの紋章を持つ青年が立っていた。





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