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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第74話 圧倒




「私を…守るため?」


 

 ドクターの言葉にセレナが彼へ突きつけている刀が微かに揺れる。



「そうです。アバターと呼ばれる強大な存在がセレナーデ様のお命を狙っていることを話してあります」

「…」


「ご安心を…セレナーデ様が敵国の姫であることまではお話していません。最も、こちらの世界の人々は、我らが敵だと認知すらできていない様子です」



「ねぇ!アイルタイン!答えなさい!!」


 セレナはキッとドクターを睨むと、その首筋に刀の先を当てる。



「はい、何でしょうか?」



 セレナへ刀を突きつけられてもなお、ドクターは表情ひとつ変えずに平然としていた。



「どうして…貴方は私を強制送還させようとしないのかしら!?」

「…」

「答えなさい!!」

「…」


「パパに言われて来たんでしょ!?」

「…お答えできません」

「答えなさい!!!アイルタイン!!!」



 大声を轟かせるセレナ

 そんな彼女の言葉の次に響いたのは、アイルタインの声ではなかった。




「それは僕も聞きたいー!」



「っ!?」

「…ビッシュ!?」



 セレナとアイルタインを見下ろすように木の枝に腰掛けているのは道化師のような白い影であった。




「…ね、ドクター、プレジデントの命令…」


 ピエロは暗い声でそう言いながら木の枝から飛び降りると、セレナとドクターの前で着地する。



「逆らうの?」




 ピエロの目は黒く澱んでおり、殺気が充満しているのがわかる。

 返答を間違えれば、その殺気は間違いなく解き放たれるであろう。



「…ええ」



 しかし、そんなピエロの言葉に、ドクターは首を縦に振る。

 それはすなわち、自分が命令に背くと告げているのだ。




「…っ!!」



 すぐにピエロは腕を突き出すと、その腕がまっすぐに伸びる。

 まるで伸縮する槍のように尖ったピエロの腕は、ドクターの目の前で止まる。



「バリア!?」

「…」



 ピエロの攻撃は六角形の真っ赤なガラスのようなものに阻まれていた。




「セレナーデ様…お下がりください」



 ドクターはそう言いながらセレナの前へと出る。



「きーーー!!めんどくさい!!めんどくさい!!」



 ピエロはすぐに右と左を交互に突き出し、凄まじい速度で手刀による突きを放つ。

 しかし、ドクターの目の前に六角形の真っ赤な膜が現れると、その全てを弾き飛ばしていく。



「でも…アイルタインではビッシュに敵わないわ!?」

「…時間ぐらいは稼げましたぞ」



 ドクターがそう言った瞬間…



「ん?」



 ピエロの体が閃光に包まれる。

 同時に、彼が立っていたところには噴き出すように燃え盛る炎が生じていた。



「ドクター!マイン様とレジーナ様を!」

「ふむ」



 空から響く無機質な女性の声

 同時に、2人の少女が空から降ってくる。


 セレナがマイン、ドクターがレジーナをキャッチすると同時に、2人の前にメイド服姿の翠髪の女性が立つ。




「…奥様、私はマスターのメイド…スーツと申します」



 スーツは振り返らず燃え盛る炎を凝視しながら、手短に背後のセレナへ挨拶をする。



「え?」


 急なスーツの発言にセレナは怪訝な顔をする。

 奥様という単語から連想されるマスターはレイズだ。

 彼女はレイズのメイドであるということである。



「何…その格好?」



 セレナの目の前にはゴスゴスロリロリした黒を基調としたメイド服を纏う女性がいるのだ。

 まるでレイズの趣味がその格好ですと言わんばかりである。



「今はそれどころではありませんな」



 ドクターの声にセレナがハッとすると、彼女の目の前にパッと何かが現れる。

 それは六角形の透明な膜によって防がれている白い手先だ。

 爪が鋭く光る手先の根元を目で追っていくと、噴き出すように燃え盛る業火の中を悠々と歩いて出てくるピエロの姿があった。



「っ!?」



「対象は未だ健在」


 スーツがそう叫ぶと、彼女はピエロへ両手を突き出す。突き出した腕は、カシャカシャと音を鳴らして変形していき、どうやって細腕の中に納めていたのか聞きたいぐらいの重火器の数々へと変貌する。


 ガトリングガン、レールガン、ビームライフル、ミサイルランチャー、バズーカ砲などなどがピエロへ向けて一斉に掃射される。



「きゃは!!」


 しかし、そんな猛攻の中を真っ直ぐに突き進んでくるピエロ

 彼が目の前に迫り来ると、スーツの姿がパッと変貌する。



 巨大な龍の姿へ変身したスーツに押し出されて、ピエロの体は里の外へと放り出されていた。



「おろろ!?…このやり方は考えたね」


 ピエロは感心したように呟く。

 変身によって瞬時に膨れ上がる体積を利用して彼を里の外へと押し出すことは想定していなかったようだ。


 降下していくピエロを見下ろしながら、スーツは大きな口を開いて叫ぶ。



「今です」




 スーツの声に反応して里には結界が放たれる。

 簡単に視認できるほど強力なものであり、薄らと赤みを帯びている。



「これは!?」

「…私の魔力を使っていますが、もって1分でしょう」


 ドクターはセレナへ説明しながら、懐から黒い四角の箱を取り出す。



「これを」


 ドクターが箱を乗せた手を突き出すと、その前にパッとスーツが現れる。

 彼女が箱を手に取ると、目の前の結界へ魔力を注ぎ始める。



「この結界は?」



 スーツはすぐに里を覆う結界を完成させる。

 ピエロは里の外に放り出されているため、これで脅威は一時的かもしれないが退けることができたようだ。




「はい、これほどの強度であればビッシュも中へ入っては来れないでしょう」



 セレナの目の前に、ドクターがピエロの攻撃を防いでいたバリアに印象が似ている結界があった。確かに強力なものだろう。



「…」


 セレナは不安そうな表情で周囲を見つめる。

 確かに、ピエロの気配は感じないが…



「レイズは!?」


 セレナはハッとする。

 ドクターの話ではレイズが里の外にいるはずだ。戻ってきているのはマインとレジーナだけである。



「マスターは…」


 セレナの言葉にスーツは空を見上げる。

 そして…



「位置情報が取得できません」



 無機質に淡々と告げるスーツの言葉を、セレナは理解するのに数秒を要する。



「…」

「探知できません」

「どういうこと!?」


 スーツへ掴みかかろうとするセレナをドクターが肩へ手を置いて止める。



「生きてはいるのだろう」

「はい、私との繋がりは維持されています」


 スーツの無機質な言葉は返って説得力があった。機械的に話す彼女の口調は事務的な分、忖度がないからだろうか。



「何があったの?」


 落ち着いて問いかけるセレナの言葉に、スーツは淡々と告げる。



「禁則事項です」

「っ!?」


「奥様、これはマスターからのご命令です」

「レイズが私に話すなって言ったの!?」

「いえ、私がマスターの意図を汲みました」



 スーツの言葉にセレナは深く息を吐く。



「おやめください。奥様」


 パッとスーツの背後へ回ったセレナは、スーツの首へ刀をあてる。



「話しなさい!」


 そうスーツを脅迫するセレナを嗜めようとするのはドクターだ。



「セレナーデ様、聞いてどうしますか?」

「レイズを探しにいくわ!」

「外にはビッシュがいます」


「関係ないわよ!」


「…彼のこととなると途端に頭が悪くなりますね」


 ドクターはどこか呆れた様子でセレナへ語る。



「馬鹿にしているの!?」

「ええ、まさしく馬鹿な真似は…」


 ドクターは最後まで言い切ることをせず、咄嗟に目の前へ飛び出す。

 まるでセレナへ飛びかかろうとする勢いだ。


「っ!?」



 セレナの目の前には、白衣を真っ赤に染めるドクターの姿が次の瞬間にはあった。



「え?」


 急に目の前に飛び出てきたドクター

 そして、彼の格好が鮮血に染まる。



「奥様!?お下がりください!!」



 セレナの目の前で、ドクターは腹部を白い腕に貫かれている。

 ススっと彼の腹部から白い腕が抜け出ると、ドクターはドサリと膝から崩れ落ちるように倒れる。


 ドクターが倒れると、その背後に道化師の姿があることに、ここでセレナはようやく気付く。



「あひゃひゃひゃ!!!裏切り者から処分ー!!」


 そう言って腹を抱えて笑ったピエロは、ギロリと視線をセレナへ向ける。



「次は…お姫様ー!!」



 そんなピエロの視線を遮るようにしてスーツが躍り出る。



「させません」



「雑魚は邪魔じゃー!」


 ピエロは腕を内輪のように振るうと、スーツの体は大きく吹き飛ばされる。


 打ち上がったスーツを見上げながら、遠くからさらに腕を内輪のようにして振ると、強風が巻き起こり、さらにスーツが遠くへと飛ばされていく。



「あははははははは!!!これ!!楽しいー!」



 そうやって笑う道化師の背後から、セレナがひまわりのような形をした刀で彼の背中を突き刺す。



「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 断末魔を轟かせるピエロ

 セレナも彼へ突き刺す刀の感触から確かな手応えを感じていた。



「なーんちって!」

「っ!!」


 ピエロは首を180度回転させて、そのまま背後を振り向く。

 胴体は前、頭は後ろと、人体の可動領域を遥かに越えた動きを見せていた。



「お姫様!!バイバイー!」

 




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