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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第72話 オメガビースト対策




 飛行機以上の速度で高層ビルが立ち並ぶ街並みを飛翔するスーツ

 

 今の彼女は緑の龍の姿をしており、その長大な背にはマインとレジーナの姿があった。

 魔法の力を駆使しているのか、凄まじい速度で飛翔するスーツの背中から2人が振り落とされることはなかった。




「…っ!!」



 スーツを追う古龍は背後から迫るだけではない。

 彼女の目の前、高層ビルの間から待ち構えていたように古龍の大軍が湧き出てくると、スーツの行く手を阻むための壁として君臨する。


 スーツは口を開き、その喉の奥がパッと光を帯び始める。

 ブレスを吐いて目の前の古龍の群れを焼き払おうと考えたのだが、彼女は行動に移すことをやめる。


 迂闊に戦闘行為へと及べば、背中にいる2人がその余波や反動に耐えられるはずもないからだ。



「…」



 スーツの姿はパッとメイド服の女性へと変貌する。

 その右腕にはマイン、左腕にはレジーナを抱えていた。


 そして、迫り来る古龍の大軍、その隙間を縫うようにしてスーツはぐんぐんと進んでいく。

 スーツへ数多の古龍が前後左右から波のように押し寄せており、それらの古龍を避けるためにスーツは全身を1回転させたり、捻ったりと、かなりアクロバティックな動きで避けている。

 それでも、スーツが腕で抱える2人は振り落とされることはなかった。




「…マスターより託された2人…かならず送り届けます」



 スーツはそんな決意を言葉に乗せる。


 スーツの方が黒い衣を纏った古龍よりも戦闘力は高いのだが、こうまで数の差があると簡単に飲み込まれてしまう。

 また、マスターであるレイズよりレジーナとマインを預かっている以上は、こうして逃げに徹する他なかった。

 


 しかし、そんな風に逃げ続けているスーツをいよいよ古龍達が追い詰める。



「っ!?」



 刹那の時

 スーツは全周囲を見渡すが、周囲を壁のように包囲して迫る古龍の群に隙間は微塵もなかった。

 その隙間ですら逃げ道になると悟った古龍達は陣形を即座に整えていた。


 そして、スーツを完全に包囲した古龍達は、一斉にその手に持つ鎌の刃先を彼女へ向け始める。



「…マスター!?」




 完全に包囲されているスーツの表情に浮かぶのは、希望でも絶望でもなく、戸惑いであった。


 スーツの視線の先には、古龍の群れの壁に空いた大穴だ。

 そして、その視線のさらに奥、千里眼でもなければ見えない位置には、こちらへ人差し指を向けているレイズの姿があった。



 レイズ自身にも津波のように見えるほどの数で黒い衣を纏った古龍が迫っているのだが、彼は自分の身よりもスーツを優先する。

 



「えっと!とりあえず、必中!必殺!100万発!」


 レイズが詠唱ですらない願望のようなものを口にする。

 それだけで、彼の指先からは無数の糸のように細い閃光が放たれる。


 その細い糸の閃光はウネウネと曲がりながらも、スーツを包囲している古龍達の急所を的確に貫いていき、一瞬で「100万体」もの黒い衣を纏った古龍を倒していた。

 実際に、スーツを完全に包囲していた古龍の姿はパッとまるで瞬間移動の手品のように消え去っていた。




「スーツ!!!行ってぇ!!!」



 大気が爆ぜるほどの声でレイズが叫ぶと、スーツはすぐに龍の姿へと変わり、その巨体を飛翔させる。

 そんな彼女を見送ったレイズは、目と鼻の先にまで迫る古龍達へ視線を向ける。



『おいおい!これでもまだ全然だぞ!!』

「っ!?」



 100万発の細い糸の閃光で100万体の古龍を倒した筈だ。

 しかし、スーツを追う古龍を全滅させることはできたが、自分に迫る古龍の勢いを止めることすら出来なかった。



「必中!必殺!全滅!」


 レイズがそう言い放ちながら手のひらを上へと向ける。すると、彼の手のひらから無数の光の玉がポンポンと生み出されていき、それが四方八方へと飛んでいく。


 飛んでいった玉は、黒い衣を纏った古龍の近くまで接近すると、パンっと破裂して細い光の針を周囲へと振りまいていく。



 一瞬にして、100万でもほんの一握りであったはずの量はいたであろう古龍

 その古龍の群れがパッと消え去る。





「きゃははははは!!流石はオメガビーストだね!!テキトーなのに瞬殺かー!」


 地平線の彼方まで覆うほどの数はいたであろう古龍がパッと全滅させられたのにも関わらず、ピエロは余裕そうに笑っていた。


 地面に座り込み、両手を叩いて拍手を鳴らし、自分に歩み寄るレイズへ笑顔を向け続けている。




「…ごめんね」



 レイズはそんなピエロの前に立つと、彼の額へ指を向ける。



「必中!必殺!」



 レイズは古龍達を全滅させたのと同じように、ピエロを倒そうとする。

 彼の魔法は、もはやデスノートへ名前を刻むぐらいの殺傷力はあろうか。




『ダメだ』

「え?」


 

 しかし、そんなレイズの魔法も、その指先からは何も放たれなかった。



「…ふふふーん!」



 そうなることを予想していたのかピエロは馬鹿にしているような笑みを浮かべる。



「どうして?」



 レイズは再び指先へ力を込める。

 しかし、古龍とは異なり、ピエロへの必中かつ必殺の攻撃が放たれない。



『やつのアドレスが分からないからだ』

「アドレス?」

『ああ、必ずって意味で魔法を使うには、あいつのアドレスがいる…何故かは知らんが、あいつのアドレスが消えてやがる』


「…ごめん、分からないよ」

『要するに、ぶん殴らないとダメだぜ』

「分かった」



 レイズの姿はパッとピエロの目の前から姿を消す。




「わぁ!消えちゃったよー!」


 驚いているピエロの背後では、すでにレイズが拳を突き出している途中であった。

 そう途中であった。



「攻撃が…」

『んだっ!こ…れ…!?』



 レイズの拳はピエロの後頭部の寸前で止まっていた。

 まるで寸止めしているような格好だ。



「きゃははははははは!!やっぱーり!制御装置は有効だね!!」


「制御…装置?」

『こいつ…まさか…」



 レイズはツカサの意識が影響したのか、空を見上げる。



「視力…超強化!」



 レイズは自分の視力を遥かに上昇させる。

 微生物でも見えるぐらいに強化していた。



「これ…あの衣!?」



 彼の目には、黒い粉が降り注いる姿が映っているだろう。

 その粉の一つ一つは、普通の視力では見えないぐらいの大きさに縮小されている「制御装置」と呼ばれていた黒い衣だ。



「ナノサイズでも、これだけ吸い込めば効果的面だよねー!」


 ピエロは頭の後ろで両腕を組みながらレイズの周囲をグルグルと歩き回る。



「…ぐ…ぐぐ…」

『何だこりゃ…どう…なって…やがる…』

「体が…言うことを…聞かない…」

『レイズ…待て…これは…新しい状態異常みてぇだ』

「え?」


『お前を人間の姿にしてたみてぇに…状態異常レイズと同じ理屈で…今、お前は…動けない…』

「っ…」



「きゃは!自分が無敵だと思って油断してたでしょー!」


 ピエロはレイズの額を人差し指で何度も突きながら言う。

 彼の指がレイズの額を突く度、爆発のような音と衝撃波が周囲へ放たれているため、圧倒的な力で突かれていることはわかる。




「さーて!動けなくなっても、残念ながらキミの防御力を僕が突破することはできないからねー!」


 ピエロはそう言ってニヤリと顔を歪める。



「っ…」

『何か…仕掛け…て…くるぞ…』



「亜空間へ封印じゃー!!」


 ピエロはそう言い放つと、レイズの目の前には黒い渦が生まれる。

 視覚的には黒いビニール袋のようにも見えることだろう。



「…袋?」


 レイズは目の前でわしゃわしゃと音を立てながら浮かんでいる黒い袋を凝視する。



『いや…こいつは…ブラックホールみ…てぇ…だな』

「ブラック…ホール?」



 たしかに、まるで吸い込まれそうなほどの黒さを感じる袋であった。



「さらばじゃー!」



 レイズの脳裏にピエロの声が響くと同時、黒い渦はレイズを飲み込む。

 まるでビニール袋へ仕舞い込むようにしてレイズの姿はパッと消えてしまった。



 彼の姿も気配も完全になくなった虚空をニマニマと見つめるピエロ


 そして、彼は何度も飛び跳ね回りながら、建物がすでに吹き飛んでいる管理センターの空き地をグルグルとスキップしながら回り始める。





「さーて!かなーり!段取りは大変だったけれどー!!これでお姫様を殺しに行けるよー!」





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