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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第1章 誕生日
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第14話 侵食屋敷



第14話『侵食屋敷』



メイに連れられてやってきたのは街の貴族街だ。

大きな庭のある屋敷がズラリと並んでおり、景色の奥には一段と大きな屋敷があった。



「あれがローズ家のお屋敷!」


そう言ってメイが景色の奥にある大きな屋敷を指さした。

グレイグッド王国の大貴族ダイヤモンド家

その直系派閥の貴族がローズ家であり、どちらも王国では名を知らぬ者がいないほどの大家だ。


しかし、この街を治めているのはローズ家の筆頭当主ではなく、その家系の者らしい。

派閥の貴族ですら、子会社ならぬ子領地を持つのだとセレナはため息を吐いた。



「…」

「どうしたの?」


メイが急に立ち止まったため、セレナは彼女へ尋ねる。

すると…



「メイ!メイ!!」


奥から男性の声が響いた。

よく見ると、身なりの良い中年の男性がこちらへ駆け寄って来ていた。



「パパ!」

「メイ!無事で良かった!!」


中年の男性はどうやらメイの父のようだ。

確かに髪の色は同じ青である。



「メイ!ママから離れていないとダメじゃないか!?」

「パパ!でもね!でもね!お姉ちゃんが!」


「お姉ちゃん…?」



彼はすぐにメイの隣にいるセレナを睨む。



「…貴様は…雇った冒険者ではないな!?」


声を荒げる男性

しかし、そんな彼の頬をペチンと叩くのはメイだ。


「何を?」

「パパ!!お姉ちゃんはメイを助けてくれたんだよ!」

「なんだと?」

「パパが雇った人達もママみたいになっちゃったんだけど、お姉ちゃんがパパって解決したの!」


どこか誇らしげにセレナのことを話すメイ

段々と中年男性の肩が下がっていく。



「これは申し訳ない!恩人に失礼を働いてしまったようだ…」


そう言ってメイの父は頭を下げる。

大したことではないとセレナは手をひらひらと振るう。



「お姉ちゃんは凄いんだよ!ママみたいになっていた冒険者の人達!治しちゃったの!」

「っ!?」

「それでね!それでね!ママを治す方法があるんだって!」



メイの言葉を受けて男性は焦った様子で問いかける。



「不躾ですまない!貴方なら妻を救えるか!?」


男性の言葉にセレナは首を縦にも横にも振らない。



「…私は冒険者、依頼を受けるかどうかは見て判断するわ」


冒険者にとって依頼を受けるかどうかは非常に慎重となることであった。

なぜなら、依頼の放棄はご法度であり、身に合わない依頼を受けて達成できませんでしたとなれば、自分の冒険者としての名声は地に落ちる。


そもそも、依頼が達成できなかったというのは、ほとんどの場合は死を意味するのだから、名声がどうとかどころではない状況がほとんどではある。


本来は冒険者ギルドを通して依頼を受ける。

その過程でギルドが依頼書に内容を詳しく記載するため、冒険者が依頼を受ける前に調査で現地へ赴くというのは稀だ。


しかし、今のような状況であれば、依頼書なしで依頼を受けるようになるため、セレナ自身で状況を把握しなければならない。


そういった常識もあり、中年男性はセレナの言葉の意図を理解する。



「わかった。報酬ははずむ!まずは屋敷へ案内しよう…しかし…」


メイの父は自分の娘を見つめる。

どうやら屋敷から遠ざけていたのはメイがいると不都合があるからのようだ。


その不都合の理由はすぐに明らかになる。




「もう遅いようね」


セレナはパッと手を振るう。

彼女の腕にはいつの間にか真っ赤な刀が握られていた。


メイとその父がハッとした時には、地中から伸びてきた触手がセレナによって切り裂かれている。


触手の先はメイの寸前でボトリと地面に落ちており、セレナがいなければメイがどうなっていたか分からない。



「…侵食がかなり進んでいるようね」


セレナの言葉にメイの父はコクリと頷く。


「ああ、今朝、雇った冒険者が焼き払おうとしたら、急にここまで成長したのだ」

「成長?」

「そうだ。それで、メイを咄嗟に避難させた」



触手は間違いなくメイを狙っており、彼女の魔力を糧にしようと考えているようだ。


彼がメイを屋敷から遠ざけたい理由は、メイをビーストから守るためのようだ。

咄嗟に家からメイを逃したため、何の準備も考えもなく、護衛をつけて路地裏で待たせていたのだろう。


そして、セレナではなくメイを狙うということは、確かに潜在的な魔力はメイの方がセレナよりも高いのだろう。

魔力を捕食するタイプのビーストからすれば砂漠の水のような存在である。




「そう…下手にメイちゃんを置いておくよりも、一緒に連れて行った方が安全ね」

「連れて行く?」

「ええ、奥さんが侵食されているのでしょう。早く助けないと手遅れになるわ」

「な、なんだと!?」


「植物系のビーストの中には天邪鬼なやつがいるのよ、火が大好物なやつがね」

「そ、そんなやつ、聞いたことがないぞ!?」


「とにかく、行きましょう!」

「お、おい!…メイ!」


急に走り出すセレナを前に、メイの父は我が子を抱きかかえると、彼女の後を追う。




「…このまま真っ直ぐ!3軒進んだ先の屋敷だ!」

「分かったわ!」




ーー道中、ビーストの攻撃は止まない。

道路の下から触手を伸ばしてメイを捕らえようとしてくるが、すぐにセレナによって斬り裂かれていく。


目的の屋敷に近づけば近づくほど、触手の量も勢いも増していくのだが、セレナは漏らすことなく触手を切り裂いていた。



「すごい…」

「うん!お姉ちゃんすごい!!」


メイの父も思わず息を飲むほど、セレナの動きは洗練されていた。

進行速度を緩めることなく、触手を切り裂きながら前へ進んでいる。

ランクSに匹敵するのではないかとメイの父はセレナを評価していた。



そのまま道路を進み、屋敷の門をくぐり抜け、ウネウネと蠢く触手が地中から顔を覗かせている庭へと出る。



「うっ…」

「きゃぁ…」


思わず声を漏らすメイとその父

庭は目を覆いたくなるような惨状であり、触手が生い茂っていた。

そして、触手がまるでツタのようになって屋敷を覆っている。



「間違いないわ…ゴブリンイーターの眷属ね」


セレナはその屋敷の姿を見て確信していた。

ゴブリンイーターと呼ばれるビーストの眷属が魔力の強い苗床を見つけて繁殖しようとしているようだ。

ゴブリンイーターは荒野などに住むビーストであるため、その眷属が風に乗ってここまでやってきたのだろうと推測している。




「ゴブリンイーター!?」


メイの父は首を傾げる。

セレナが告げたビーストの名前に聞き覚えがないようだ。

しかし、そんなことを説明している暇はない。



「突っ込むわ!ついてきて!!」

「なっ!ま、待ってくれ!!」


セレナは返答を待たずに触手が蠢く庭へと飛び込んでいく。

そんな彼女を手厚く歓迎するため、触手が一気に彼女へ襲いかかっていく。



「…太刀適正・刀神!」


セレナは魔法を放つ。


彼女を纏う空気が一気に冷えていくのを感じる。

それはメイですら感じ取れるほどの変化である。

セレナの存在自体の鋭さが増したと。


そして、自分に狙いを変えた無数に蠢く触手は、ターゲットをメイからセレナへ変更する。

そんな触手を前に、物凄く素早い動作でセレナは刀を鞘へと納める。

寸前にまで無数の触手が迫っているのにも関わらずだ。




「…静流抜刀」


セレナはそう呟くと、鞘から刀を解き放つ。

それは静かな一撃であった。


彼女が刀を鞘から解き放っただけで、一閃が走り、庭の触手は漏れなく真っ二つに斬り裂かれていた。


ボトボトと斬り裂かれた触手が地面で音を鳴らす。

そんな光景を呆然と見つめるメイとその父



「ボーッとしない!行くわよ!」

「あ、ああ!!」



セレナの声にハッとする2人

すぐに走り出したセレナの背中を追う。


そんな彼女の背中を見てメイの父は思い出したように叫ぶ。



「依頼の件は!?」


「もう受けているに等しいでしょ!そんな話してる時間がないわ!」


ウネウネとしている屋敷を前に、依頼をすり合わせる時間などない。

緊急事態だと棚上げして事態の解決を優先する。

これは、依頼を受ける冒険者の方が不利になる行いなのだが、セレナは構う様子を見せない。



「ありがとう!!」



メイの父は自然と感謝の言葉が出ていた。

セレナはお礼の言葉に反応することなく、屋敷の扉を蹴破る。


すると、すぐに侵入者を撃退するためか、屋内から触手が無数に迫ってくる。



「おかえりなさいが激しいわね」


セレナが見えない速度で剣を振るうと、触手は漏れなく斬り裂かれていた。



「奥さんは!?」


玄関で屋敷の中を見渡すセレナ

そんな彼女の声にメイの父が大声で叫ぶ。



「2階だ!!」

「どこから!?」


「奥に階段がある!!」


メイの父が玄関を入ってろうかを進んだ突き当たりの扉を指し示す。

すぐにセレナが廊下を渡っていくと、その後を逸れないようにメイの父がメイを抱えて駆けていく。


途中、開いた扉の奥に見える部屋の数々には、気を失ったように倒れているメイドや執事の姿がある。

セレナは一瞥すると、まるで後回しと言いた気に先へ進んでいく。


廊下の扉を蹴破ると大広間へと出る。

触手の姿はないようだと確認すると、すぐにセレナは2階へ上がるための階段を駆け上がっていく。



「遅れないで!」

「ああ!」

「うん!」



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