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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第58話 発進



 レイズ達は飛行機と呼ばれる乗り物の中を散策していた。

 どうやら人はいない様子であり、乗り物の中にいるのはレイズ達3人だけのようだ。


 警戒レベルは依然として最大とアナウンスが微かに聞こえてくるが、レイズ達を捕らえようと誰かがやってくることはなく、ただのBGMと化していた。

 すでにレイズ達に警戒レベルが最大とするアナウンスに対する緊張感などはなく、落ち着いて飛行機の中を散策している。




「…ここかな?」

「はい、多分…」



 レイズ達の前には分厚い扉があった。飛行機の中をしっかりと探索して異常や危険がないかを確認した後、最後尾から縦にまっすぐ進んでいき、見えてきた扉が目の前のものだ。

 構造的に想像すると、この扉の先が操縦席である可能性が高い。



「操縦…はどうしましょう?」

「まずは見てみよー!」

「…」


 レジーナは元気よく答えると、そのまま分厚い扉を開けようとする。

 確かに、考えても分からないことは、話し合っても仕方がないのかもしれない。




「…あれ?」

「開かないんですか?」


「うん、鍵がかけられてる!」


「…僕が開けますね」


 レイズは位置をレジーナに代わってもらうと、扉へ手を当てて魔法を放つ。



「アンロック」


 レイズがそう呟くと、扉からはガチャという音が響いた。



「すごい!レイズっち!何でも魔法が使えるんだね!」

「あははは…」


 レイズは苦笑いで返事をすると分厚い扉を開く。そこには確かに操縦席と思われる部屋が見えた。

 狭い部屋には椅子が4つ並んでおり、何の装置か分からないものが所狭しと備わっている。


 前の席には操縦桿と思われるハンドルが椅子の前に設けられていた。



「操縦席ですね」

「うーん…とにかく色々と押してみよー!」

「えええええ!?」


 レジーナがそう叫ぶと、右前の席に着座、そのまま計器類をポチポチと押し始める。



「ちょっと!危ないですよ!」


 レイズは慌ててレジーナの肩を掴んで彼女の行動を止める。

 振り返ったレジーナの表情は残念そうだ。



「うーん、動かないね!」

「…」



 レイズはそう残念そうにするレジーナへ言葉を紡ぐことができないでいた。

 どこか遊んでいるようにも見えるレジーナだが、彼女の表情の奥には好奇心だけではなく、焦燥感のようなものも感じる。

 すでに里を離れてから二日は経過していた。餓死者が出るほどの時間ではないが、管理センターまでの距離を考えると悠長にしていられる時間が残されているわけではない。

 ここで飛行機がうまく動かせなければ、別のアイデアを考えなければならない。

 そうなれば、どれぐらいの時間を要するかは検討がつかないでいた。


 風魔法で管理センターまで飛ぶことはできるだろう。しかし、数ヶ月単位で時間を要しそうな距離はある。その頃には、とっくにセレナ達は餓死してしまっていることだろう。

 いや、それよりも早く、古龍の襲撃を受けて殺されているかもしれない。

 そう考えると、レイズ達が考えている以上に、時間は残されていないのかもしれない。



「レイズっち?」

「いえ…僕も手伝います!」


「うん」



 レジーナの顔から計器類へ視線を移すレイズは、すぐにハッとした。



「…鍵穴?」

「え?」


 レイズはレジーナの目の前にある操縦桿の横に、鍵穴と思しき穴があることに気づく。



「これ…鍵…」

「レイズっち?」


「アンロック」


 レイズは試しに操縦席全体へ魔法を放つ。

 すると…




「わっわわ!!!」

「動いた…」



 計器類がパッと光だし、飛行機全体は一瞬だけ揺れ、全体的に微かな駆動音が響く。



「わー!!レイズ兄!レジーナっち!!!」


「マインちゃん?」

「見てみて!!!動いてるよ!」

「え?」


 操縦室の外にいるマインの声に、レイズとレジーナは操縦席から外を眺める。

 景色がゆっくりと動いており、飛行機が動いている証拠だろうか。



「嘘でしょ!!」


「あははははは!!すごい!レイズっち!!飛行機を動かしてるよ!!」

「でも!これ!コントロールできてませんよ!!」


 レイズの慌てる様子とは対照的に、レジーナとマインは嬉しそうにはしゃいでいた。自分も状況を楽しめればどんなに良いのかと思うが、そうもいかない。



「えっと、どうしよー!」

「わー!!!」


 レジーナが操縦桿を握る。どうやら操縦桿を回した方向に沿って飛行機は進むようだ。



 こんな時、ツカサがいればと脳裏に過るレイズだが、頼ってばかりではダメだと首を左右に振るうと、彼はすぐにレジーナへ言う。



「飛ばせそうですか!?」

「わかんないー!色々と操作してるけど、走るのがやっとだよー!」


「飛ばせないかどうか…」

「レイズっち、変に触ると危ないよー!?」


「ん…」


 レジーナさんが言うのかと思ったレイズは、すぐに思考を切り替えて、計器類を眺めてみる。どのスイッチにも意味はあるはずだ。しかし、丁寧にスイッチに用途に応じた名前は付けられておらず、マークや英数字が割り振られているだけであった。




「うーん…」


 レイズが計器類を眺めていると、彼の体から無機質な女性の声が響く。



『飛行機の操縦をサポートしますか?』



「っ!?」

「え!?誰の声ー!?」


 レイズの体から放たれた声に2人は驚いていた。そんな2人へ構うことなく、スーツは続ける。



『目的地を音声認識させてください。スーツが代わりに目的地までの操縦を代行します』


 スーツの声に反応したのはレジーナだ。



「ディオネの管理センター!!」



 そうレジーナが言うが、スーツから返事のようなものはない。試しに、レイズが繰り返してみる。



「…ディオネの管理センター」

『承知しました。操縦席につき、操縦桿を握ってください』


「え?」

「うん?」


 レイズとレジーナの視線は自ずと合うと、レジーナは席から離れて、代わりにレイズが座る。



『操縦桿を握ってください』

「あ、はい」


 レイズはスーツに言われた通り、操縦桿を手で握る。すると…



「わわわわ?!」


 レイズの体は勝手に動き始めた。計器類をぽちぽちよ押し始め、最後に操縦桿を再び握りしめる。



『60秒後に発進します。繰り返します。60秒後に発進します』



「レジーナさん!マインちゃんを!!一緒に席に着いて!!」

「分かった!」


 

 レジーナは慌てて操縦席の外にいるマインを連れに戻ると、すぐに抱きかかえて戻ってくる。

 ぱぱっと左右に分かれて、2人はレイズの後ろの席に座る。




『シートベルトをしてください』




「シートベルト!?」

「席にあるこれかな!?」


『シートベルトの装着方法を表示させます』


「んんんん?」


 レイズには後ろの座席の光景が分からない。スーツに操縦を任せているため、後ろを振り向こうにも体が言うことを聞かない。


 そんなレイズの葛藤を感じたのか、レジーナがマインへシートベルトを装着しながら言う。



「レイズっち!大丈夫!分かるよー!」

「レジーナさん!お願いします!」


「任せて!マインちゃんもこう…そうそう!えらいえらい!!」

「うーん!苦しいよー!」


「我慢してね!!」

「はーい!」



「うん!後は…私も大丈夫!!」



 レジーナとマインが大丈夫そうな雰囲気を醸し出すと同時に、スーツからは無機質な女性の声が響く。




『飛行機を発進させます…歯を食いしばってください』



「え!?」



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