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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第56話 移動手段



 レイズ達は街へ降りると「案内板」と呼ばれるものを眺めていた。

 板を指でタッチすると画面が切り替わることをレジーナが発見すると、何度か操作する内に、地図の縮度を変えられることに気付く。

 3人は興味本位で「案内板」を操作していた。


 「神の家」と呼ばれる地区を中心にして街は広がっているようだ。ディオネやエウロパ、イオなどと名付けられている街が地平線の彼方よりも向こうまで広がっている。

 規模からすると、ディオネよりも大きい街がいくつもあるようだ。


 これだけの景色がずっと続いていると考えると、レイズはゴクリと固唾を飲んだ。

 もはや、ここが地下なのかどうかすら怪しいとも思う。



「私達がいた場所が神の家って呼ばれる場所だったんだねー」

「そうですね…方向的に、ここがディオネであれば、こっちから来たので…そうですね」



 レイズはゼータビーストの言葉を思い出す。確かに「神の家を侵すな」と言っていたはずだ。

 つまり、自分達が居た場所が「神の家」であり、そこから出てきて、今はディオネにいるということだろう。



「…古代遺跡の中枢に向かっていたはずですよね」

「うん、だけど、大丈夫そうだよー」

「え?」

「ほら、ここ」


 レジーナは案内板の一部を指で叩く。すると、彼女が叩いた箇所が拡大されていき、建物の名称が浮かんできた。



「…管理センター?」

「そう、師匠は管理センターを目指せって言ってたのー」


 そう言ってニカッと笑うレジーナを前に、レイズは眉間に皺を寄せた。



「ここから結構な距離がありそうだけど…」

「うーん…待ってね!」



 レジーナはもう慣れた手付きで案内板を指でリズムカルに推していく。

 すると…


 案内板に「現在地」と「管理センター」の二つが赤く点滅されて表示される。

 続けて、二つの地点の間に赤い線がいくつも浮かび上がると「推奨ルート」と表示された1本の赤い線だけが最後に浮かび上がって、「現在地」と「管理センター」の間を結んでいた。

 どうやら、この赤い線に沿って歩けばたどり着くと教えてくれているようだ。


 そして、二つの地点の距離も教えてくれている。



「…7万kmだって!」


 レジーナは距離を読み上げる。

 しかし、レイズには馴染みのない距離の単位であった。



「キロ…メートル?」

「うーん、私もわかんない!」



 2人は遠いのか近いのか分からないでいた。





ーーーーーーーーー



 白く染まった高層ビルが立ち並ぶ街をレイズ達3人は歩き続ける。

 ほぼ1日は歩き続けたであろうが、一向に街の外へ出ることはなく、古代遺跡に広がる街の広大さにため息が出るほどだ。

 

 彼らの記憶では、各国の首都と呼ばれるほどの大都市でも、半日もまっすぐと歩けば街の外に出られるはずだ。1日も歩けば、山や草原、森や海、それなりの自然が広がる景色が見られるはずだ。

 しかし、古代遺跡の中では、常に街並みが広がっており、代わり映えのしない景色が続いていた。

 そして、その街並みは、奥を覗いても一向に終わる気配がない。



「…また案内板があるよー!」


 レジーナは巨大な交差点の端に、ここへ来た直後にあったものと同型の案内板を見つける。レイズはコクリとだけ頷くと、レジーナと共に案内板を確認する。

 頭の中で「管理センター」までの道筋は覚えていた。曲がり道はなく、ほとんどまっすぐなのだから迷うほどでもない。しかし、いくら歩いても「管理センター」と思われる建物は一向に見えて来なかった。すでに通り過ぎてしまったのではないかと考えているのはレイズだけではなくレジーナも同じようだ。だからこそ、案内板を見つけた時、すぐにレジーナはレイズへと知らせている。


 2人は案内板を見つめながら目を丸くした。



「…さっきとほとんど同じだ」

「うん」


 レイズとレジーナの目の前に浮かんでいる案内板の地図

 そこに描かれている「現在地」は、1日歩いたのにも関わらず、同じ位置を示していた。



「…もっと拡大してみるね」

 


 嫌な予感がしたのだろうか。震える声でレジーナがそうレイズへ告げると、彼女はすぐに案内板を指で操作し始める。



「…もっと拡大できる」

「…」


「…これで最大?…この建物が…この目の前のもの…」



 レジーナはぶつぶつと言いながら、途中で口を閉ざして、ギョッとした表情を見せていた。


「レジーナさん?」



 レイズはレジーナの表情が急激に変わったことに驚く。

 彼女は何かを察した様子であり、それが悪いことであるのは明白なようだ。



「…レイズくん、この街、驚くほど大っきいよ」

「え?」


「私達、ちゃんと進んでいたんだ」

「でも、案内板での位置はさっきと変わっていませんでしたよ?」



「そうだね…だって、世界地図で…ううん、もっと大きな地図で見てたもん」

「え?」


「ここから管理センターまでの距離!飛んでも1ヶ月以上はかかるよ!」





ーーーーーーーー



 レイズ達は駐車場と思われる場所で座り込んでいた。

 彼らの隣にはテントが張られており、ここで野営をすることに決めていた。

 3人の真ん中には魔法による光の玉が浮かんでいるだけで、焚き火のようなものはない。


 空を見上げると、そこは紅に染まっており、古代遺跡の中にも関わらず、ここにも空があるようだ。




「わー!すっごく甘い!!!」


 マインはクルクルに巻かれているパンをパクリと口に入れると満面の笑みで叫ぶ。口元に白いクリームが付着しているのに気付くと、レイズは白い布で彼女の頬を拭う。


「えへへ!」

「いっぱいあるから、ゆっくり食べようね」

「うん!」



 レイズはレジーナからの案内板の説明を受けて、管理センターまでの距離を理解した。

 案内板に表示されている建物の形が目の前の「24」と書かれている建物の形と同じであった。

 その形を元に、縮度から計算し、ここから管理センターまでの距離をレジーナが計算する。その過程を彼女がレイズへ丁寧に説明したため、7万kmという古代の距離単位の長さをレイズは理解することができた。


 それでもと、レイズは風魔法で自分達を浮かび上がらせて、空中をまっすぐに進んでいた。

 歩くよりもかなり速いのだが、それでも7万kmをすぐに埋められるほどの速度ではなかった。



「神の家かー…そうだね。まるで神様がいるんじゃないかって思うような街だよね」

「うん」


 レジーナもふわふわのパンをビニールから取り出すと、パクりと口に入れていた。

 奇巌城にあったお店と同じように、中の食べ物は腐る様子を見せておらず、こうして封を切れば美味しく食べることができていた。


 無策に歩いても仕方がないと、レイズ達一行は一先ず休憩することとした。奇巌城にもあった古代遺跡の街の中にあるお店の中の食べ物や飲み物が腐っていなかったことを思い出したレイズは、試しにとディオネのお店でも試したみた。

 結果は、美味しそうにパンを頬張るレジーナとマインの笑顔だろうか。



「1ヶ月じゃ時間がかかりすぎちゃうね」

「はい…」


「でもでも!どうやって昔の人は、この街の中を移動していたんだろう?」

「確かに…」


 レジーナの疑問にレイズは頷く。

 広大な街の中、管理センターまでの距離ですらほんの一部だ。

 そして、街の至る所に「管理センター」が設けられてはおらず、案内板で確認できる範囲では一箇所だけであった。

 つまり、街の機能を分散させてはおらず、一箇所に集中させている可能性がある。

 ならば、とレイズは考える。



「そうですね。そう考えるのが妥当ですよね」

「レイズっち、私も思った!」

「古代人は何かしらの移動手段を持っていたはずですよね」


「うん!それを探してみよう!」



 レイズには当然の不安があった。

 何年経過しているか分からない古代人達の街の施設が今でも動く保証はない。



「…レイズっち、可能性はあるよ!」



 そう言ってレジーナはパンの入っていた袋を掴む。

 何年経過していても美味しく食べられたパンの袋だ。



「その移動手段だって、今の有効かもしれませんね」

「うん!!」





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