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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第52話 ゾーム



 青空が広がる森の中、深く生茂る木々の枝や葉によって、森の中は薄暗くひんやりとしていた。

 相変わらず、ここが地下であり、古代遺跡の中であることを忘れそうなほどの自然の中にレイズ達一向はいた。



 澄んだ水が流れる川の前で立ち止まるレイズ達

 レジーナは懐から水筒を取り出すと、川の水を汲み始めていた。


 そんなレジーナの後ろ姿を見つめながらレイズは言う。



「少し休憩にしましょうか」

「はーい!」



 レイズの言葉にマインは右手を上げて元気よく返事した。

 レジーナはコクリと頷いて答えている。


 レイズとマインは一緒に少し大きな石の上に腰を据える。

 ニコニコと楽しそうなマインの髪には、葉っぱや泥が付着していることに気づくレイズは、カバンからクシを取り出した。そして、マインの髪をやさしくクシでとかし始めた。



「…レイズっちは…」

「どうしました?」

「ううん、何でもない」


 レジーナはマインの髪についた汚れを落としているレイズを見ながら、何か気になったことがある様子だ。

 しかし、レジーナは俯いて口を閉ざしてしまう。



「何か気になること、ありますか?」

「…私を恨んでないの?」

「え、どうして?」


 レイズにレジーナを恨む気持ちはまったくない。



「…レイズっちを巻き込んだ」

「レジーナさんは、エリンデさんを助けたかったんですよね。僕も…マインちゃんを助けたかった。同じことをしようとしていました」


「レイズっちが?」

「はい…古龍に唆されて、結界石、あのクリスタルを破壊する寸前までいきました」


「そうだったんだ…」



 レジーナはレイズの言葉をグッと唇を噛み締めながら受け止めていた。



「だから、僕がレジーナさんを恨むのは、ちょっと違う気がしました」

「…でも」


「僕に謝る必要はありません。気も使わないでください。里のみんなを助けることだけ集中しましょう」

「…うん」


 レイズの言葉にレジーナはコクリと頷いていた。



『レイズ、良いところで悪いが』

「ツカサ?」


『ビーストの気配だ…囲まれてやがる』

「っ!?」



 ツカサの言葉にレイズはすかさず立ち上がる。

 彼が勢いよく立ち上がり、険しい顔を見せたことで、それがレジーナとマインにも伝染した。



「レイズっち?」

「レイズ兄?」


 2人は怪訝な顔をしつつも、周囲をキョロキョロと見渡しながら荷物をまとめている。




「…2人は僕の側を離れないでください!」

「どうしたの!?」

「ビーストです!囲まれているようです…」


「…っ!」


 レイズの言葉に、レジーナはマインを右手だけで抱きしめながら、荷物を背負い、いつでも動けるように体勢を整えていた。




「…ツカサ、種類は分かる?」

『いや、無理だ。気配だけだ』


「そっか…」


『なぁ、探知系の魔法のイメージは浮かぶか?』

「ごめん、ちょっと分からない」


『そうか…』




「…レイズ兄!!下っ!」


「っ!?」



 マインが急に叫ぶと、レイズは地面を見つめる。

 地面がボコリと盛り上がるのを視認したレイズは、すぐに風魔法で3人を宙へと舞い上がらせる。




「っ!?」

「ぎゃぁ!!」


「わーーー!!」



 風魔法で宙へ浮かぶ3人の眼下で、地面が紫に変色しながら沸騰したようにボコボコと蠢いている。

 あのまま地面にいたら3人がどうなっていたかは想像したくない光景であった。



『ゾームだな!!』

「ゾーム!?」



『おう!!ミミズのデケェやつだ!!!レイズを警戒して毒で弱らせようとしてやがったみたいだ!』


「レイズ兄!!来るよっ!!」



 マインの声がレイズの耳に届くと同時に、地面が爆ぜる。

 紫に染まった土がショットガンで放たれた弾丸のようにレイズ達へ迫り来る。



「ウォール!!!」



 レイズは咄嗟に透明な分厚い魔法の障壁を足元へ放つ。

 銃弾が跳ね返るような音が次々と響き渡ると同時に、レイズの足元で土が跳ね返り始めていた。



「…っ!」


 そんな土に混じって、巨大な口を開いたミミズが地面から飛び出てくる。

 レイズの放った透明な魔法の障壁にミミズが衝突すると同時に、轟音が周囲へ響く。




「こいつは!!森の主だよ!?」

「ひぃ!」


 レジーナはそう叫ぶ。

 森の主と呼ばれるのも分かる。


 何度も、何度も、透明な魔法の障壁に体当たりを繰り返している巨大なミミズの額には「Δ」と紋章が刻まれていた。

 そんなミミズを見下ろしているレイズの脳裏に、パッと無機質な女性の声が響く。




『対象のアナライズ結果を表示します』


「え?」



====アナライズ====


名前:ゾーム

LV:78


精霊:なし

位階:Δ

オリジン:なし



◆所持スキル

 『ビースト』

 『地中潜航』

 『毒魔法適正・上』

 『毒耐性・上』

 『無呼吸』

 『無排泄』



◆装備

 なし



===========







「これは…!?」

『エーリアグロリアスの時とと同じで、スーツが勝手にアナライズしてくれるみてぇだな』


「そっか…相手のレベルは…78!」

『ああ、エーリア相手に楽勝なら、こいつにもビビる必要はねぇな!!』



『対象のスキルを自動取得します…アナライズ中…アナライズ完了しました』







====アナライズ結果====



◆入手スキル

 『ビースト・タイプ6』・・・レベルが足りていません。

 『地中潜航』     ・・・入手完了

 『毒魔法適正・上』  ・・・入手完了

 『毒耐性・上』    ・・・入手完了

 『無呼吸』     ・・・種族不一致のため入手不可

 『無排泄』     ・・・種族不一致のため入手不可



===============






「マインちゃん!レジーナさん!!少し上にあげますね!!」


「え!?」

「レイズ兄!?」



 レイズは2人へ風魔法を放つと、2人は高く高く舞い上がる。

 レイズとゾームの戦闘に巻き込まないようにするためだ。



「きゃあぁぁっぁぁ!!」

「わーーーー!!」



 物凄く小さく見えるまで2人が風魔法で飛ばされていくと、レイズはすぐに眼下で体当たりを続けているゾームを見つめる。

 物凄く巨大なミミズであり、ゾームから見ればレイズなどハエぐらいの大きさに感じるだろう。




「…」



 レイズはゴクリと息を飲むと、右手をゾームへと突き出した。



「…発動!!ビーム・ライフル!!」



 レイズがそう叫ぶと同時に、彼が突き出している手のひらの先から閃光が走る。



「ぎゃぅらぁぁるべぇぇたぁぁぁぁっ!!!」



 遅れてビーストの絶叫が轟いていた。

 一見、何の変哲もなさそうなゾームはただ真っ直ぐに地面の上で体を伸ばしていた。

 しかし、次第にパクりと二つへ割れていく。

 右と左に分かれたゾームの体は、ドンっと大きな音を立てながら、木々を巻き込みつつ倒れていく。



「…倒せた?」

『ああ、楽勝だろ』


「…そうだね」



 レイズはデルタビーストを倒せた実感などない。

 レイズは右手を開いては握りを繰り返して強くなったかどうか感触を確かめるようにしていた。



「…僕が…デルタビーストを」

『どうした?』


「…ううん」

『レイズ!残念だが、相手は1匹じゃねぇぞ!』



「っ!?」


 ツカサの言葉にレイズはハッとする。

 そういえば「囲まれている」とツカサは言っていた。


 レイズは人差し指と親指だけを立てて銃のような形をさせた手を地面へ向ける。


 彼の指先がパッパと何度も光ると、地面が爆ぜて盛り上がり、大量の紫の液体が地面から噴き出していた。


 一瞬にして、数体のゾームを倒していた。

 そんなレイズを前に、残ったビーストの行動はひとつだ。


『他の奴らは逃げたな』


「もう襲ってこないのかな?」

『いや、奴らは群れで行動するタイプだ。単体でデルタ、群れになると脅威はわからねぇ。仲間を連れて来られると厄介だ』


「2人を回収してすぐに離れよう」

『おう…そうだな』



 レイズはレジーナとマインをゆっくりと落下させる。風魔法で生んだ竜巻に2人は包まれていた。



「レイズっち!すごいね!!」

「レイズ兄ぃ!!」



 レイズはレジーナとマインに高度を合わせる。

 空を飛びながらマインは嬉しそうにはしゃいでいた。


「これ!レイズっちの魔法で飛ばしているのー?」


 レジーナは好奇心旺盛な様子で尋ねる。


「うん、いきなりでごめん」


 レイズは2人が驚いたであろうと思い頭を下げるが、レジーナもマインも笑顔を見せる。



「ううーん!!ありがとう〜!」


「レイズ兄!マインも驚いたけど!大丈夫だよ〜!」


 そんな2人にホッと胸を撫で下ろすレイズは、脳内でツカサへ尋ねる。


「…このまま空を飛んでいった方がいいかな」


 レイズはゾームの再襲撃を警戒していた。森を行くよりも、空の方が安全そうだと考えた。



『そうとも言えねぇな…』



 しかし、ツカサはあまりお勧めしない様子だ。



「え?」

『上は上で厄介なのがいるぜ』




 ツカサの言葉にレイズは空を見上げる。

 そこには黒い衣が鎌を2つ持っているような、そんな気味の悪いビーストがユラユラと降りてくる。

 まるでカーテンに身を包んだ子供が鎌を持って死神の格好をしているような姿だ。

 しかし、そこにあるのは無邪気さではなく、邪悪さがある。人を刈り取ろうとする殺意だ。



『新たなビーストのおでましだな』



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