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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第1章 誕生日
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第12話 セレナのアルバイト探し


第12話『セレナのアルバイト探し』



丘の上にあるテント

その外には洗濯物を干しているレイズの姿があった。

雲ひとつない青空に、照りつけるような日差し、絶好のお洗濯日和である。




「…あれ?」


レイズはハッとする。

テントの中から出てきたセレナが身支度を整えていたからだ。

そして、そろりそろりと忍ぶようにどこかへ向かって進んでいる。

まるで「これから出かけます」と言わんばかりのセレナの格好を見て、レイズは自然と尋ねる。



「セレナ!どこか出かけるの!?」


レイズが呼びかけるとセレナはビクリと肩を震わせる。

どうやらレイズに見つからないように出かけようとしていたようだ。

諦めたのかピタリと立ち止まるセレナ



「…?」

「そ、そうよ!」


セレナはレイズの方を向き、胸を張り、腰に手を当てながら、どこか偉そうに頷いた。

直前のコソコソとしていた態度は何処へやら…



「まさか…森じゃないよね!?」


レイズはセレナがコソコソしていることから、隠れて森へ向かおうとしているのだと考えた。

ベイトとホーリーの一件があり、森は冒険者でないと立ち入り禁止になっている。

そのことをレイズはセレナへ伝えていたはずだが…



「違うわ!街よ!」

「街?」


「ちょっと野暮用があるの!」


セレナが強い口調でレイズへ告げる。

用件を聞こうと思ったが、その言葉が喉の奥でつっかえてしまうレイズ



「そ、そう」

「じゃぁ!昼までには戻って来れると思うわ!」

「あ、うん!気をつけてね!」



レイズに見送られながらセレナは丘を降りていく。

そんなレイズの隣へ黄色い影が寄ってきた。



「にゃう?」

「うん、何だか怪しいね」

「にゃー!」

「追いかけていったら…怒られるよ」

「にゅう」



ーーーーーーーー



宝石がビッシリと並んでいる棚がある。

棚の一定間隔には屈強な男性が直立不動

盗み出そうなどと思わないような光景だ。


そんな店内で、セレナは店主の何かを話していた。



「…前金がねぇなら取置きはできねぇな」


メガネで厳つい男性はギロリとセレナを睨みながら告げる。

彼の言葉にセレナは険しい顔をする。



「ちょっとぐらい良いでしょ!!これ!大切なモノなの!」


セレナが指差しているのはブルーライト鉱石のペンダントだ。

稚拙な作りのものであるが、鉱石自体は純度が高く、非常に高価なものになっていた。

レイズがセレナの治療のために治療士に渡していたものである。



「先客がいるんだよ…そいつから前金を受け取っていていてな…今日の夕暮れに取りにくる予定だ」

「そこを何とか!」

「何とかならねぇよ、そいつより高い前金を払って取り置きするか、この価格より高い金額で買い取るか…どっちかだな」

「ぐぬぬぬぬ!」



セレナは迷う。

提示されている金額はセレナにとっては大金というわけではない。

上位のビーストを討伐すれば容易に支払える金額だ。

しかし、今の環境で、その日に用意できるほどの安い金額でもなかった。


とはいえ、ここで押し問答を続けていても、悪戯に時間を消費するだけだ。



「分かったわ!今日の夕暮れまでに用意できれば良いのね!」

「おう」



セレナは言質を取ると、そのまま店を去っていく。



ーーーーーーーー





「…ないわね」


セレナはため息を吐く。

街の中で冒険者ギルドを探していたのだが、なかなか見つけられないようだ。

街行く人々へ尋ねてみても、皆、同じ場所を教えてくれるのだが…



「酒場しかないわ!」


セレナは少し憤慨していた。

冒険者ギルドと教えてもらった場所にあるのは、どこからどう見ても酒場だ。

ここが冒険者ギルドであるはずがないという先入観により、セレナは冒険者ギルドへ到達することができないでいた。



「…仕方ないわね。アルバイトを探しましょう!」



セレナは街を歩き回る。

飲食店や屋台が並んでおり、どこかでお金は稼げそうだ。

しかし、求人が出ている店舗を確認するが、どこの給料も丸一日ではペンダントの額には満たなそうだ。



「…もう、ここもダメね」


何十軒目かでセレナはガックリと肩を落とす。

求人広告に書かれている給料ではペンダントを買い戻すのに数ヶ月はかかりそうだ。

仕事を探すだけで時間を費やしてしまいそうである。



「あー!もう!冒険者ギルドで依頼を受けて達成すれば一発なのに…」



そうつぶやいて空を見上げるセレナ

そんな彼女に忍び寄る影が…




「おんやぁ…これはこれは!麗しのお嬢さん!」

「…何?」


ネットリとした声が彼女の背後から聞こえる。

嫌な予感がしつつ背後へ振り返ると、そこには白いタキシードに身を包んだ男性がいた。

唇は厚く、眉毛は太く濃い、青髭が顔の下半分を覆っている。

タキシードの胸元は開けており、胸毛がこれでもかと自己主張している。



「濃い…」


セレナが思わず呟かなければならないほどのインパクトである。


「見たところ…お困りぃのぉようですねぇ〜」

「大丈夫!大丈夫!困ってないわ!ありがとう!」

「ううーん!これはきじょぉおぅ!」」


「うん!大丈夫!大丈夫!」

「その気丈さ…気品とも呼べるぅですぅねぇ〜」


「あ、うん、そういうのいいわ…ありがとう…さようなら」



セレナは相手との共通言語がないと悟る。

言葉は同じでも会話が通じないやつだと。

時間がないことを考えると、まともに応対してはダメだと素早く立ち去ろうとする。




「お待ちを!お嬢さん…!」


そんなセレナの前にパッと姿を現す男性

セレナは少しギョッとしていた。



「…いつの間に?」


自分の前に自然と回り込む男性

その動きの速さ自体は普通なのだが、セレナに気配を感じさせなかった。

どうやら、侮ってはいけない相手のようだとセレナは感じていた。



「私は…よげぇんおぅぅううう!」

「え?」


「…予言王!!バルバロッス・バルバロ・ヴァルバローニャ!!と申しますぅ!」

「そ、そう…えっと…そうね…私はセレナよ…じゃ、さようなら!」


セレナは再び立ち去ろうとする。

今度は最大限に警戒していてだ。


しかし…



「っ!?」

「お待ちを!このバルバロッスがお助けぇいたぁしまぁすぞぉ!!」


セレナの前にパッと姿を見せるバルバロッス

彼は胸元の緑の三角形のシンボルを見せつけるように胸を張る。

何のシンボルかわからないセレナには、彼が堂々としている理由が理解できない。

そのためか、ため息が出そうになるのを抑えるため唇を噛み締めるセレナ


そんなセレナの様子を見て「あれ?あれ?」といった印象のバルバロッス

セレナが驚かないことに少し面を食らっていた。



「このバルバロッス!聖騎士に名をつぅらねぇるぅうものですぞぉぅう!」


「へぇ」


「…はい」

「そう、ま、只者じゃないのは分かったけど」


セレナがそう言うと、その言葉に納得したのかバルバロッスはうんうんと頷く。



「ふふ…セレナ女史!安心してぇくだぁさぁい!!このバルバロッスがいれぇばぁ!!万事解決ぅですぅぞぉ!!!」


そう優雅に一礼するバルバロッス

対応が面倒くさいのかセレナは単刀直入に用件を告げる。

ダメ元だ。



「…私が悩んでいるのはお金のことよ」


「ふむ…何か大切なぁものぉおにぃいいぃ…必要なようですなぁ」

「ええ、ちょっとあってね…ブルーライト鉱石のペンダントを買い戻したいのよ」


「お金を稼げぇる方法をぉ求めてぇいるとぉ言うことですねぇ〜」

「ええ、そうね」


バルバロッスは頷く。

何度も、何度も…



「…」

「…」


何度も何度も黙ったまま、目を瞑りながら頷くバルバロッス




「…」


「何よ?」

「…」


「…」

「ねぇ…ちょっと!?」




ずっと頷いたまま黙り込んでいるバルバロッス

すると、彼はカッと目を見開いた。



「わ!ごめん!気持ち悪い!」


「…この道を真っ直ぐぅとぉ!進んでぇ!くだぁさぁいぃ!!」


バルバロッスはそう言って大通りの先を指差す。

そして…



「あそこぉのぉ!レンジャルの屋台の脇を真っ直ぐにぃ進んでぇくだぁさい!」

「あの屋台?」

「いえぇぇえすぅ!そうすればぁ!自ずとぉ道はぁ切り開けぇますぅうう!」

「…そう」


「セレナ女史ぃ!」

「何?」


「うううぅうん…グッドラァルぅクぅ!!!」


「…ありがとう」




ーーーーーー




「…はぁ、何で言われた通りに進んでいるのよ…私」



セレナはボヤきながらもバルバロッスに言われた脇道を進んでいく。

人の気配はなく、ゴミが袋に詰められて置かれており、まさしく路地裏といった印象だ。



「お金とは程遠い場所に向かっているようだけど…大丈夫かしら?いえ、何でアテにしているのよ、あいつを…はぁ…」



バルバロッスは只者ではないことを理解しているセレナ

だからと言って、彼の言葉を鵜呑みにできるかと言えばそうはならない。

しかし、それを理解しながらも、彼の言葉を頼りに行動している自分にため息を吐いていた。

そもそも、お金を稼ぐアテがないのだから、言われた通りにしてみるのもナシではないのだが…


そんなことを考えながら進むセレナはハッとする。



「うぇーーーん!!ママー!!ママー!!」



彼女の耳には女の子の泣く声が響いていた。






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