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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第42話 謎の部屋




 レイズがなかなか戻って来ないことに痺れを切らしたセレナは、村長を連れて彼女の家の前まで来ていた。

 里の中は、外にいる人間達の襲撃に備えて慌ただしいものとなっており、家々のテントの前にはバリケードのようなものが作られていた。

 魔法が存在する世界で、机や椅子を積み上げただけのバリケードがどれだけの効果があるのかは怪しいが…



 そんな里の中を駆けて行き、セレナはレジーナの家の玄関前に立つ。

 そこには、心配そうにレジーナのいる家を眺めているペロの姿があった。



「ペロちゃん?」


 セレナの声に反応して振り返るペロ

 レイズが心配で途中で追いかけてきたは良いが、異様な気配をレジーナの家から感じ取り、こうしてなす術もなく待っていた。

 その異様な気配は、すぐにセレナも察することになる。



「…転移結界ね」


 セレナはすぐに見抜く。

 レジーナの家には、扉を開けると転移されてしまう魔術結界が施されている。



「これは…」


 遅れてやってきた村長達

 そして、いち早くブルドも気付いた様子だ。



「セレナ、気付いているな?」

「ええ、当然でしょう」


「中のレジーナが気掛かりだ。俺も同行するぞ」

「…」


 ブルドの申し出にセレナはコクリと頷いた。

 転移結界が施されているためか、中の様子は魔力を探っても分からない。


「何で、こんな結界が敷かれているのだ」

「村長!危ないですから下がってください」


 メロジロに腕を引かれて後ろへ下がる村長を見て、セレナとブルドは目線を合わせる。



「発動!破魔・閃光斬!!」

「発動!!マジック・マグネット・ドレイン!!」


 セレナとブルドが結界の魔法を斬り裂いたり吸収したりと、結界そのものではなく、結界を維持している魔力へ力を加える。


 動力源となる魔力が途切れて転移結界は、その効力を失っていく。



「行くわよ!!」


 セレナがレジーナの家の中へ飛び込もうとするが…



「っ!?」


 不意に爆音が響くと、瓦礫がパラパラと降り注いでくる。何かがレジーナの家の屋根を突き破り、黒い人影が飛び出してくる。



「あれは!?」

「何だ!?」


「…っ!?」


 レジーナの家から飛び出した黒い人影はそのまま屋根の上で着地する。



「まさか…!?」


 その人影に何かを察した村長がゾッとした表情を浮かべていた。

 レジーナの家から飛び出した影が向かう先に心当たりがあるのは、村長だけではないようだ。



「レジーナか!?」


 ブルドが叫ぶと、黒い影は、視線をブルドへと見つめる。



「サラちゃんが捕まったんでしょ!?」



 黒い人影からは確かにレジーナの声が聞こえてくる。

 あのような姿で、どうして中身がレジーナだと分かったのだろうとセレナは疑問に思うが、今は重要な疑問ではない。



「あれ、何!?」


 セレナは異様な姿になっているレジーナの様子を尋ねると、村長とブルドが答える。



「パワードスーツだ」

「完成させやがったようだな」


「パワードスーツ?」

「ああ、魔法がなくても、めちゃくちゃ強くなる装備だ」

「原理は知らないが、ドクターからも研究を止められていたはずだ」


「悠長に話している場合!?サラちゃんが魔物に攫われたんでしょ!?」



 レジーナは怒号を轟かせる。

 落ち着いて話しているように見える村長達の姿が許せない様子だ。



「落ち着け!!レジーナ!今、サラを助けるために隊を組織している!!」

「待ってられない!!私!!こうして!!!戦える力を得られたの!!!」


 ブルドの言葉にさらに怒りを露わにするレジーナ

 どうやら、スーツの影響からか高揚状態になっているようだ。



「馬鹿を言うな!!その装備は危険だ!!」


 村長が危険性を指摘する。スーツを動かしている永久機関の危険性は村長だけではなくレジーナ自身も知っているはずだ。



「危険は承知のうえよ!!里を助けるために、私がサラちゃんを助けて、古龍を倒すわ!!」


 レジーナがそう言うと、彼女は視線を里の住人達ではなく、大樹の下に広がる森を見つめる。



「待ってて…」



 レジーナはそう呟くと、住人達の制止も聞かず、屋根から飛び降りる。



「待て!!」

「…!」


「くそ!!」



 すでに森の中へ落下を始めているレジーナ、その位置はすでに里の外であり、退精霊石の効果範囲内だ。

 ビーストである彼らは退精霊石に耐性があるとはいえ、まったく影響がないわけではない。

 あの高さから飛び降りれば死んでしまうぐらいには効果を受ける。


 とても追える位置ではない。



「大丈夫なの?」

「…」


 顔面蒼白な村長へセレナが尋ねるが何も答えられない様子だ。


「外は退精霊石の効果が強いわ。貴方達でも平気ではないんでしょ!?」

「…ぐぅ」


「いや、あのスーツを着ていれば、その戦闘力はかなり高いだろう」

「え?」


 村長がセレナへ説明を始める。



「問題は…レジーナが人間に殺されることでも、古龍に殺されることでもない」

「なら、何よ!?」


「あのスーツが暴走すれば世界が滅ぶかもしれん」




ーーーーーーーーーー




 レイズはパイプが張り巡らされている通路を進んでいく。足音がしないようにゆっくりと息を潜めながら進んでいる。

 いくつもの扉を抜けていき、今の場所へ至るのだが、そんな彼の目の前には次の扉が現れる。



「…」


 うんざりするほどの数の扉だ。

 しかし、今、目の前にある扉は今までと様子が異なる。

 扉の奥から冷気が流れ込んでいるのか、レイズは異様な寒気を感じていた。

 同時に、間違いなくここには何かあると直感していた。



「…」



 レイズはレジーナを探すために、先へ進むことを決意していた。

 ここが彼女の家ではないことにとっくに気付いているが、それでも、他に道はないのだから、進んでみる他ないと考えていた。



「…」



 セレナとブルドの争いを止めるためには、レジーナの協力が必要だ。



「…っ」


 レイズは目の前の扉に手を触れる。すると、肌を焼くような痛みが走る。


「冷たい…」



 扉は異様に冷たいようだ。

 一瞬だけ触れたのにも関わらず、彼の指は凍傷にかかっており、放っておけば腐ってしまうほどだろう。

 しかし、ここは魔法の世界、すぐにレイズは自分の指を魔法で治癒する。

 退精霊石の効果が強くなければ、指を失う結果になっていたかもしれない。



「…アンロック」


 レイズがそう呟くと、扉から錠の外れる音が何度も響く。

 そして、シューっと蒸気をあげて、扉が勝手に開き始める。


 レイズは再び扉を手で掴むと、今度は常温のようであり、まったく冷たさを感じない。

 どうやら、扉の冷たさもロックとして機能していたようだ。


 レイズは扉を全開にすると奥に部屋が一望できた。




「…何だ…ここ?」


 レイズの目の前には、ガラスの筒が並ぶ部屋があった。巨大な試験管のようなものが何かの装置に乗せられて並んでいる。

 そして、ガラスの筒の中には、怪しげな緑の液体で満たされていた。



 レイズはそんな部屋の中を進んでいくと、急にハッとした表情を浮かべる。



「何だ…これ!?」


 レイズは勢いよく並んでいるガラスの筒の一部へと駆け出した。

 そこには…




「マインちゃん!?」


 レイズの目の前には、ガラスの筒の中で、緑の液体に浸かったマインの姿があった。



「今すぐ助けるからね!!」


 レイズは右手に魔力を込めてガラスを割ろうと拳を構える。

 しかし、彼が拳を放つことはなかった。



「…落ち着け…僕…」


 レイズは冷静に考える。

 この部屋や装置、ガラスの筒の液体はマインを治療するためのものかもしれない。

 マインの体力は著しく低下していたため、通常の回復魔法では治すに至らないことはレイズも理解していた。

 怪我とは異なるのだ。



「…」


 レイズはマインの置かれている異様な光景に激昂してしまったが、この部屋の目的が分からないのに迂闊な行動をしてはならないと自分を諌めた。



「きっと、マインちゃんを、里のみんなが治療しているんだよね…」


 レイズはそう呟きながら、筒の中にいるマインを見つめる。

 すると、緑の液体の中で浮かぶマインの表情が悲しそうに見えた。



「…」


 レイズは部屋を少し調べてみることにした。



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