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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第1章 誕生日
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第11話 笑顔


第11話 『笑顔』



森の中を進むレイズ

森を素早く駆けるセレナに置いていかれ、こうして彷徨うように森を走っていた。



セレナ…どこ!?

はやく合流しないと危ないかもしれない!



1人で森にいる彼はセレナを心配していた。

本当は、自分の方が危ない状況なのだが今の本人に危機感はないようだ。




「…っ!?」


そんなレイズは自分が危険だと自覚する。

目の前の木々が揺れ始めたからだ。

ガサガサと揺れる葉の動きはこちらへ近づいてくる。

謎の気配にはすでに位置を特定されているようだ。



…やるしかないか。



レイズは相手がビーストなら戦うしかないと判断していた。

少なくとも、今、背後を見せてしまえばいきなり襲ってくる恐れがあった。



そんな彼の横合いからセレナが姿を表す。

すると、謎の気配はパッと姿を消えてしまった。



「っ!?」

「ちょっと!危ないでしょ!」

「あ、ご、ごめん!」



レイズは咄嗟に短剣をセレナへ向けていた。

慌てて鞘へと戻すレイズを見ながら、セレナはため息を吐く。



「もう…」

「セレナ…良かった無事で…って」


レイズはセレナが誰かを背負っていることに気付く。

修道女のような格好の女性だ。



「ホーリーさん?」

「どうやら正解だったみたいね」


レイズが背中の女性を"ホーリー"と呼ぶと、セレナは少しホッとする。

彼女と面識のないセレナは人違いである可能性も考慮していた。

冒険者は1人や2人ではないから、この森には複数の人間がいるはずだからである。



「無事なの?」

「ええ…ほら」


「え…えええ!?」

「何よ、また驚いて?」

「え、あ…なんだか冷静に見ると、不思議な光景だなぁって」

「何よそれ」



セレナの肩には、彼女よりも背の高いホーリーが担がれていた。

華奢な少女が、細身とはいえ大人の女性を軽々と担いでいる。

魔法がある世界だからとはいえ、レイズにも奇妙な光景に映っていた。


そして、ホーリーがセレナの背中にいるということは、無事に救出を終えているということだ。



「えっと、どうやって助けたの?」

「普通にこの人を攫っていたビーストを倒したのよ」

「どうやって!?」


「斬り刻んだわ」

「…」


「何よ?」

「セレナが?」


「当たり前でしょ!」

「ビーストを?」

「ええ、そうよ!彼女を拐っていたオーガを倒したのよ!」

「オーガ!?オーガってベータかガンマビーストだよ!?」


セレナは段々と不機嫌になる。

ここまでレイズに自分の戦闘力を疑われると気分は良くないのだろう。

それは自分が可愛くて可憐で上品だから仕方ないと思っていたが、弱いと思われるのも癪なようだ。



「もう!くどいわね!!だから!オーガを私が倒して!この人を助けてきたの!良い!?」


「…オーガはどうしたの?」

「だから、倒したってば!人の話聞いてた?本当の馬鹿になっちゃったの!?」



信じられない…

けど、確かにホーリーさんを助けてきてる。

え、うそ、セレナ、本当に強いのかも…



レイズはセレナを見つめる。

綺麗で華奢な少女である彼女が、オーガを倒せるとはとても思えなかった。

しかし、彼女がホーリーを助けた事実は変わらない。



「私は割と最強よ!」

「…そう、なの?」


「ええ!ガンマ程度、私なら楽勝よ!」

「…」


「何よ!?その目!」



レイズは思考を放棄した。

セレナのことを考えると、彼女の言葉通り、本当の馬鹿になっていく自覚があった。



「…兎に角、ホーリーさんが無事なら良かったよ!」


そう言って森の外へ向かおうとするレイズの肩をセレナが掴む。



「ねぇ!ちょっと!私の実力を疑っているでしょ!?」


振り返ったレイズの目は泳いでいた。

そんな彼の反応にセレナは頬をリスのように膨らませる。



「そ、そ、そんなことはないよ!」

「嘘が下手ね!!」

「い、良いから、戻ろうよ」



レイズは踵を返すと、森の出口へ向かって歩き始める。

そんな彼を再び呼び止めるのはセレナだ。



「ちょっと!待ちなさい!!」


「何?」

「どうやらね…気配を消していて気付かなかったんだけど…この森には上位のビーストが潜んでいるわ!見てなさい!そいつを見事に倒してあげるわ!」


セレナはそう堂々と宣言する。

背中にはホーリー、ペロが現在進行形で瀕死のベイトを街へ運んでいる。

そんなことをしている余裕はどこにもない。



「…ホーリーさんとベイトさんが心配だから、まずは戻ろうよ」



ド正論

レイズの言葉に、セレナは返す言葉を失う。



「ぐぬぬぬぬ!!」


頬をさらに膨らませて真っ赤になるセレナ

レイズに強さを信じてもらえないことがよほど悔しいようだ。

それを察したレイズはため息混じりに諭すように言う。



「セレナ、次の機会にね?」

「あーもう!分かったわよ!!ほら!急ぐわよ!!」




ーーーーーーーーーーーー



木造りの家の中、待合室のような場所でセレナは椅子に座って本を眺めていた。

つまらなそうに本を眺めている彼女の視線が、物音に反応して部屋の入り口へ移る。


すると、部屋の奥の扉が開かれた。

姿を見せたのはレイズだ。


セレナは読んでいた本をパタリと閉じると、本棚へ戻しつつ、レイズへ問いかける。



「…2人はどう?」

「うん、治療は終わったよ。命に別状はないって」

「そう…それなら早速!森に向かうわよ!」


「そ、それは明日にしようよ!ほら!」


レイズが窓の外へ指を向ける。

日が落ち始めており、世界が紅に染まりつつあった。



「え?…もう夕方なの…時間が経つのは早いわね」


ガックリと肩を落とすセレナ

そこまで意固地になる理由が僕には分からなかった。

というか、危ないから、ビースト相手に力試しみたいなことはやめさせないと。



「おーい!レイズ!」


そんな風に考えているレイズを呼ぶ声がした。

すると、レイズが出てきた扉から、今度は恰幅の良い男性が姿を見せる。

セレナを治療してもらった男性だ。



「はい?」

「治療代は連中から貰うから支払いはいいぜ」



そう告げる男性へレイズはぺこりと頭を下げる。


「わ、分かりました。ありがとうございます!」


お金のないレイズは、男性へ治療費を渡し、後でベイト達から回収するという対応ができない。

そんなレイズの事情を察してくれた男性の言葉に、レイズは素直に甘えるしかなかった。

頭を深く下げて、お礼をしっかりと伝えるレイズ


笑顔でお礼の言葉を受け取ったレイズに対して、男性の態度は柔らかい。

どうやら、先日のペンダントが高額で売れたようだ。

そのため、レイズに対して愛想が良くなったようである。


そんな男性はレイズと話している少女へ目をやる。

すると、少しハッとしてから声をかけた。



「お、そっちの嬢ちゃん、もう具合は良さそうだな」

「ん?私?」


「ああ、レイズが血相変えて助けてくれって来たもんだからよ、俺も驚いたぜ」

「へぇ…」

「あ、あの時は、かなり危険な容体だったんだよ?」


「覚えてないわね…」

「そりゃ、すげぇ発熱だったからな。しっかし、よく、こんな短時間で動けるようになるな」

「私はスペシャルだからね!」


そう言って胸を張るセレナ

そんな彼女を見て、愉快そうに男性は笑う。



「ははははは!愉快な嬢ちゃんだ!とはいえ、レイズにはお礼を言っとけよ」

「え、どうして?」


「こいつ、ブルーライト鉱石のペンダントを俺に売って、それで治療費にしたんだからな」




ーーーーーーーーーーーー



「ねぇ…レイズ」

「ん?どうしたの?」


「私を助けるために…その」

「その?」

「えっと、ペンダントって…その…」


セレナにしては物珍しく、ハッキリとしない口調で僕へ尋ねてくる。

そんな彼女の姿を見ると、なぜか自分の中で焦燥感が募ってきた。

何でかは分からないけど、彼女が落ち込んでいると、心が落ち着かないようだ。



「大丈夫!森で拾ったものだから」


僕は自然とそんな嘘が出てきてしまった。

しかし、セレナには見抜かれてしまう。



「…嘘、下手ね」

「え?」

「大切なものだったんじゃないの?」

「…」


「どうして、私のために?」

「分からない」


「分からない?」

「理由もそうだけど…あのペンダントが本当に大切なものだったのか、それが分からないんだ」


レイズの言葉に何か引っかかったセレナ

少し迷った後で言葉を紡ぐ。



「…大切なものかどうか、分からないってこと?」

「うん、そう、かもしれない」

「ハッキリしないのはどうして?」


「…記憶がないんだ。僕」

「えっ!?」


「もしかしたら…大切なものだった…」


レイズはペンダントを売ろうと考える時、確かに迷いを感じていた。

それは、彼がペンダントを大切だと思っている証拠である。


そして、今、セレナの目の前で胸を押さえているレイズ

彼の反応から、やはりレイズにとってそのペンダントは大切なものだったのではないかと、セレナも感じていた。



「なら、どうして?」

「どうして?」


「何で、知りもしない私を助けるために、そのペンダントを売ったの?」


「それは…分からない。そうしたいって思ったからとしか言えない」


レイズの答えにセレナはため息を吐いた。



「…レイズって本当に馬鹿ね」


「え?馬鹿なのかな?」

「うん、本当に馬鹿」



セレナは微かに目を潤わせながら僕へ馬鹿と言った。

言葉や表情の割に、どこかセレナが嬉しそうに感じた。

どうしてだろうか。



「セレナ?」


僕が問いかけようとすると、彼女は不意に走り出す。



「レイズ、早く帰ろう!ペロちゃんが待ってるわよ」


そう言ってセレナは笑いながら振り返ると、僕へ手を振る。

その笑顔がとても素敵に見えたのはどうしてだろうか。



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