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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第39話 アンロック



「…あれ?」


 

 レイズは背後を振り返る。

 入る場所をきっと間違えたのだろうと。

 玄関に似た場所だったからだろうと。



 しかし、彼の目の前には、鋼鉄の壁が一面に広がっており、入ってきたはずの扉は姿が消えていた。そして、再び前を向くも、そこには鉄格子だけが存在しており、レジーナも彼女の散らかった部屋の姿はない。





「あれ?」


 レイズは再び背後を振り返り、一面の鋼鉄の壁をペタペタと触ってみる。

 しかし、肌触りは確かだ。硬くて冷たい感触が手から脳に虚しく伝わる。



「閉じ込められてる?」



 レイズは無言で自分のほっぺを引っ張ってみる。



「うん、痛い」


「うん、夢じゃないね」




レイズは赤みのある頬のまま、その赤みが引くまで無言のまま呆然とする。





「…え?」





ーーーーーーーーーー




「…おーい!!」



「誰かいませんかー!?」





 レイズは叫んでみる。

 鉄格子の向こう側に見える小部屋には誰の姿もなく。少なくとも見える範囲内には誰もいないようだ。

 どうして、レジーナの家に入ったはずなのに、こんな牢獄にいるのか。

 これもレジーナの仕業なのか。

 様々な疑問がレイズの脳裏を過るのだが、とにかく、セレナとブルドを止めるために、レジーナを探そうと焦るレイズ



「閉じ込められてまーす!!」



 彼の声には焦燥感があった。

 玄関を抜けた先が監獄とは冗談にもならない。

 

 何かの事故で監獄に送られることはなかなか考え難いため、何か誤解があるのではないかとレイズは考えている。

 


「何とか逃げ出さないと…」


 レイズはそう呟きながら牢獄の中を見渡す。

 何か抜け道がないかと淡い期待を抱いている。

 しかし、そんな不手際などあるはずもなく、牢獄は完璧だ。


 魔法を使って抜け出せないように退精霊石の気配まで感じるのだ。



「でも、どこから?」


 退精霊石の気配を感じると、レイズは牢獄を再び見渡す。すると、気配の正体がわかった。



「これ、退精霊石が混ぜ込まれているのか」


 レイズは再び壁を手で触る。

 感触から成分が分かるのではなく、直感的なものだ。壁に触れると、自分の中に魔力が漲ってくるのが分かる。


 本来の用途は逆だろう。

 閉じ込めている人間に魔法を使わせないようにするためだ。

 しかし、相手がレイズならば逆効果である。



「…アンロック」



 レイズがそう呟くと、鉄格子からカチャっと音がする。


「…開けられた」



 レイズは手をにぎにぎと開いたり閉じたりする。



「やっぱり…すごい…力が漲ってくる」



 奇巌城の時よりも遥かに魔力が漲っていた。

 つまり、奇巌城よりも、退聖霊石の効果が強いということである。


 技術力が優れているとされている獣人達よりも、さらに高度な技術が用いられて建築されているようだ。


 レイズの中で好奇心が湧いてくる。奇巌城ではなんとなく構造が理解できた。

 しかし、この牢獄の構造は完全に未知だ。


 わからない。

 だからこそ、レイズの中で好奇心が湧いてきていた。



「この壁…どんな方法で退精霊石を混ぜ込んでいるんだろう…それに邪方陣が敷かれていない…うーん…」



 開けた鉄格子から牢獄を出ることはせず、レイズはペタペタと壁を触りながら呟いている。

 しかし、途中で彼はハッとして、頭を掻いた。



「…今はそれどころじゃないよね」



 レイズは思考を切り替える。

 今、優先すべきはセレナとブルドの戦いを止めることだ。


 レイズは鉄格子を押すと、鈍く金属が擦れる音が微かに響く。



「っ!?」



 レイズは慌てて音がが出ないように鉄格子をゆっくりと開く。



 そのまま牢屋の外へと出ると、彼は牢獄の廊下を左右に見渡す。

 どちらも奥は真っ暗になっているため、先が見えない。出られたは良いが出口がわからない。

 下手に彷徨って、看守に見つかることは避けたい。

 

 見つかって説明したところで誤解が深まるような気がする。



「…えっと、うーん?」


 牢獄の構造はわからない。

 左右のどちらも先が見えないほど暗いということは、この牢獄はそれなりに広いのではないかと思っていた。



 レイズはとりあえず忍足でそろりそろりと鉄格子の間を進んでいく。どの牢屋にも人の姿はなく、捕らえられているのは自分だけのようだ。

 一周したところで、自分以外の姿が牢獄にないことに気付く。



 囚われている人は自分だけ、看守すらいない不思議な牢獄にレイズは首を傾げながらも、そろりそろりととある場所を目指して進んでいた。



「…」


 レイズはピタリと止まる。

 円形で建てられている牢獄には、1箇所だけ鉄格子ではない鈍い銀色の鋼鉄の扉があった。

 別の場所へ向かうには、レイズの目の前にある鈍い銀色の鋼鉄の扉を通る他に手段はなさそうだ。


 スッとレイズがドアノブへ手をかけてみるが、回そうとしてもピクリとも動かない。

 牢獄なのだから当たり前だが、どうやら鍵が掛けられているようだ。


 

「ステルスオン…」


 牢獄の壁に手を当てながらレイズは魔法を放つ。彼の姿が透明になり、動いても音が立たず、息を吸っても吐いても空気が揺れない。


 その上で、レイズは別の魔法を続けて放つ。


「アンロック」


 レイズがそう呟くと同時に、鋼鉄の扉からカチャカチャと何度も音が鳴るが、これはレイズの魔法の範囲内にいるため、彼以外の誰も聞き取れない音になっている。


 カチャという音が鳴り止むと、レイズは再びドアノブへ手をかける。ゆっくりと手前に扉を引いてみると、微かに隙間ができた。

 その隙間からレイズは外の様子を覗き込む。



「穴?」


 扉の先には大きな穴が空いていた。

 鉄の大穴であり、穴の側面を沿うようにして階段が敷かれている。


 扉の先に人の気配がないことを確認すると、レイズは先へ進む。階段の手すりの下から底を眺めてみると、穴の底へ続く階段の先に、別の扉が見えた。



「…」


 レイズは天井を見上げる。

 この古代遺跡に来る道中で見たような無数の色のパイプやコードが天井には張り巡らされていた。

 その奥には黒い鋼鉄の天井が見えるため、上に出口は当然ながらなさそうだ。

 

 再び穴の底を見つめるレイズは、素直に階段を降りて行くことにした。



 カンカンとレイズが階段を降りる音は彼にしか聞こえない。底の見えない大穴に吸い込まれそうな気持ちになりながらもレイズは階段を降りた先の扉の前に立つ。

 しかし、扉にドアノブはなく、まるでただの板に見えた。

 手で押しても開かず、横に引いても動かない。



「アンロック」


 レイズは再び解錠の魔法を扉へと放つ。

 しかし、手応えを感じない。


「あれ?」


 間違いなく、目の前の扉には鍵が施されている筈だ。開かないのはそういう理由だと考えていた。


「うん?」


 扉の前で首を傾げているレイズはハッとする。扉の脇、壁のところにボタンが並んだ装置がある。数値が0〜9まで並べられていた。


「これは?」



 レイズは壁のボタンを眺める。開かない扉と関係しているのは確かなようだ。


「アンロック」



 レイズは試しに壁のボタンへ解錠の魔法を放つ。



『不正な信号を遮断しました。警備へ報告…報告…処理が失敗しました』



 壁からは謎の音声が響く。

レイズは慌ててオロオロとしているが、すぐに誰かが駆けつけてくる様子はなさそうだ。

 とはいえ、ここに居ては捕まるかもしれないと、レイズが階段を上がろうとすると…



『不正な信号は管理者から発信されたものであることを確認しました。警備への報告は不要と判断します。ロックを解除します』


「え?」


 レイズの前で扉が横にズレると、入り口が露わになる。扉の先にはパイプが張り巡らされた短い廊下があり、その先には再び鈍い銀色の鋼鉄の扉があった。



「…行ってみよう」



 レイズは先に進むことにする。まるで誰かに招かれているような、そんな錯覚すら覚えていた。



「…とにかく、レジーナさんを見つけないと」



 

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