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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第36話 レジーナ



 薄暗い洞窟の中、広い空間の中には岩を掘って造られたような家々があった。日の光が届かない洞窟の中にほんのりと明るさがあるのは、穴のような家々から漏れ出す灯りが照らしているからだろう。


 そんな集落の広場では、3頭身ぐらいの子供達がボールを蹴って遊んでいる。そこに駆け寄ってくるのは1人の少女だ。



「レジーナも混ぜて!!!」



 まるで人間と同じような姿の少女、クセのあるオレンジ色の髪を短く切り揃えており、肌は少し汚れている。衣服もしばらくは洗っていない様子であった。


 服装がボロボロなこと以外でも、彼女が向かう先にいるドワーフの子供達とは明らかに容姿が異なっていた。



「げぇ!?レジーナだ!!」

「逃げろ!!!呪われるぞ!!」

「わー!!」



 少女が駆け寄ると、遊んでいた子供達は一心不乱に逃げてしまう。少女が広場にたどり着いた時には、そこに子供達が遊んでいたボールしか残されていなかった。



「…」



 少女は笑顔のまま立ち尽くす。しかし、そんな彼女の頬には一雫の涙が滴っていた。

 目元を拭うことをせず、薄暗い洞窟の天井を見上げる少女

 

 そんな彼女の心境は複雑だ。

 目元を拭ってしまえば悲しみを、孤独を認めてしまうことになる。そうなれば、声を高らかにさせて泣き叫んでしまいそうであった。



「どうして…私…みんなと違うの…?」


 堪えきれずに言葉を漏らす少女、段々と目元が潤っていき始めていた。

 そんな彼女の足元へコロコロとボールが転がってくる。



「?」

「ね!遊ぼー!」



 少女がボールの転がった先を見つめると、そこには自分と同じ容姿をした少女が笑ってこちらを見ていた。頭には真っ赤なバンダナを巻いており、どこか活発そうな印象だ。



「巫女様!?」


 レジーナはハッとして頭を下げる。姿は軽装だが、彼女の容姿には見覚えがあった。ドワーフ族ながら高い魔力を持って産まれた存在だ。



「わー!やめてー!」


 自分が深く頭を上げて敬意を示すと、彼女は慌てて駆け寄ってくる。



「わ、私は巫女じゃないよー!」


 どこか棒読みで活発そうな少女は告げる。しかし、どこからどう見ても、巫女の1人であった。

 そんな活発そうな少女の顔を見つ続けているレジーナ

 

「巫女様がなぜ下層に?」


 そう尋ねると、活発そうな少女は観念したように息を吐く。


「完璧な変装だと思ったのになー!」

「…変装?」


「そうー!ほらほら!どう見ても普通の女の子でしょ!?」

「…そこまでして、どうして下層に?」



「故郷に戻りたくなったの!私も下層で産まれたの!」

「え!?」


 レジーナはそう告げる巫女の姿を見つめる。どう見ても下層で暮らすドワーフには見えない。

 ドワーフは地下で暮らすことを好む種族だ。追いやられて大樹の下で暮らしているわけではない。中には、大樹の上で過ごしている物好きもいる。

 しかし、他の種族の中で、下層で暮らそうとする物好きはいない。


 つまり、巫女は自分がドワーフであると言っているように、レジーナには聞こえていた。



「巫女様が?」

「そうだよー!多分ね!君と同じー!先祖返りなんだ!!」


「先祖返り?」

「そうだよー!ドワーフでも、高い魔力を持って産まれる人がいるんだって!私も!君も!同じ!」


「同じ…?」

「わわわ!!どうしたのー!?」


 レジーナは泣き始めてしまう。

 この見た目のせいで親からは捨てられて、里では孤立して暮らしていた。そんな自分を認めてくれたようなそんな気がしていた。



「…ごめんなさい!ごめんなさい!」


 レジーナは泣きながら謝る。こんな自分と巫女が同じであることが悪いと思っているようだ。



「謝らない!悪いことしてないでしょ!?」

「…だって!だって!呪われた子だって!!」


 レジーナは目を拭いながら叫ぶ。

 そんな彼女へ微笑みながら少女は問いかける。



「ね!私はエリンデ!貴方は!?」

「…レジーナ」

「レジーナちゃん!一緒に上層に来ない?」

「え?上に?」


「うん!上に行ったことある!?」

「…ない」


「なら一緒に行こう!エリンデが案内するよー!」

「わ!待って!」


 エリンデはレジーナの手を掴むと彼女をどこかへ連れて行こうと走り始めた。

 不思議とレジーナはエリンデの手を振り払おうとは思わなかった。



「げぇ!」

「?」


 エリンデは上層へと繋がる扉の前、洞窟の影に隠れる。なんとなく、レジーナも同じように隠れることにした。

 洞窟の影からこっそりと覗き込むと、その先にはゴブリンとオーガの少年がいた。



「あれは?」


 2人はどう見ても兵士のようだ。もしかすると、巫女の警護の人かもしれない。


「ブルドとメロジロだよー!私を連れ戻しに来たんだ!」

「…すごく心配そうだよ?」

「え?」

「あのオーガの子、すごく心配しているみたいだよ?」



 レジーナは特に青い肌のオーガの方が慌てた様子で周囲を見渡しているように見えた。

 そんなレジーナの言葉を聞いて、エリンデはどこか頬が赤くなっていた。



「どうしたの?」

「あ、う、ううん!何でもないー!」


 レジーナの言葉にエリンデは誤魔化すように笑う。幼いながらにレジーナは察した。


「エリンデ様はあのオーガの子が好きなんだね」


「っ!?」

「わにゅ!!」


 レジーナの言葉で真っ赤になるエリンデは、レジーナの頬を両手で摘みあげる。


「そ、そ、そんなわけないでしょ!!!」

「わにゅにゅにゅ!!!」


「もう!もう!何てことを言うのー!!」

「わにゅ!!!」


 レジーナは頬をエリンデに摘み上げられながらも、彼女の背後へ必死に指を向ける。

 しかし、当のエリンデは全く気付かない様子だ。



「…エリンデ!何をしているんだ!?」


「っ!?」


 エリンデは男の子の声にびくりと肩を震わせると、レジーナの頬を摘んだまま、ゆっくりと振り返る。

 そこには仁王立ちしているオーガとゴブリンの少年達の姿があった。



「こ、こんにちはー!ブルド!メロジロ!」


「こんにちはではないぞ!!心配かけさせるな!!」

「わわわ!!」



 ブルドはエリンデへ大声で叫ぶ。そんな彼の肩を掴んで止めるのはメロジロだ。



「落ち着いてください!ブルド殿!」

「メロジロ!エリンデにはしっかりと言わないとダメだぞ!!」


「ね!そんなことよりも!」


「「そんなこと!?」」


 ブルドとメロジロはギロリとエリンデを睨む。

 しかし、あっけらかんとエリンデはレジーナを手のひらで示す。



「この子を上層へ連れて行くわ!!」

「っ!?」


 レジーナへブルドとメロジロの視線が集中する。思わず心臓が飛び跳ねるレジーナを他所に、エリンデは続ける。



「私の友達なのー!!」


 友達という言葉に、レジーナの心臓は更なる高まりを見せて、胸が熱くなるのをレジーナは感じていた。




ーーーーーーーー



「…できたー!」



 レジーナは四角い箱を両手で掲げる。そして、腕を下ろし、四角い箱を大事そうに抱き抱えた。



「これで…必ず助けます…エリンデ様…」


 そう潤った声で呟いたレジーナの目元からは涙がスッと流れていた。彼女目元を拭うと、決意の篭った視線で部屋の奥を見つめる。

 そこには様々な色のコードが繋がれている椅子があり、その椅子の上には黒いスーツが乗せられていた。


 レジーナは頭に巻いている赤いバンダナをギュッと縛り直すと、そのバンダナを愛おしそうに撫でる。


「よし…次はこいつを動かすぞー!!待っててね!エリンデ様!!!」




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