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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第34話 名ばかりの交渉



 なぎ倒された木々が広がる森の中には、グレンとゲンブの抗うような絶叫が轟いていた。



「がぁぁぁぁぁぁ!!!」

「…ぐぅ!!」


「無駄」



 自分の重力魔法から筋力だけで抜け出そうとしているグレンとゲンブを見下ろすのはサラだ。

 彼女はいつも通りの無表情なのだが、どこか呆れている印象を感じる。



「…サラ、そいつらか?」


 そんなサラのところには大柄な3体のゴブリン達がやってきた。

 先頭を歩くのはメロジロであり、他の2体のゴブリンも彼と同じように大柄である。

 1体はモジャモジャのアフロヘヤーであり、もう1体はサラサラのロングヘヤーだ。ゴブリンも髪型には拘りのある様子だ。



「メロジロ、ザロズン、ガラゴロ、ただいま」

「ああ、おかえり」


「おう、さて、ちゃっちゃとドクターのところまで運ぶとするか」とアフロのザロズン

「ああ、ブルドにどやされたら面倒だしな」とロングヘヤーのガラゴロ



 ザロズンと呼ばれたゴブリンがグレン、ガラゴロと呼ばれたゴブリンがゲンブを肩で抱えるように持ち上げる。サラの重力魔法で拘束されているグレンとゲンブだが、その魔法を受けていない2体のゴブリンは簡単に持ち上げることができるようだ。

 器用に魔法をサラが扱っている証拠であろう。



「どこへ連れて行くつもりだ!?」

「…知らない方が幸せだぞ、人間」



 グレンの言葉にメロジロが眉を顰めて告げると、2体のゴブリンは2人を抱えて遺跡の中へと飛び込んでいく。



「さて、俺はここの修理だ。サラ、お前も手伝え」

「うん」




ーーメロジロとサラが森の中にある古代遺跡へ通じる通路の入り口の修理を行っていると、メロジロが彼女へ問いかける。




「…廃坑に里へつながる通路はあったのか?」



「ううん、なかった」

「そうか…客人の話は偽りか」

「客人?」


「ああ、マインを連れてきた人間がいる」

「…人間」


 メロジロが里に人間が招かれていると話すと、サラは無表情なまま声が強張っていた。



「今のところ害はない。むしろ、里を救ってもらってすらいる」

「え?」

「海賊…多分、この森で暴れたやつだ。そいつが古龍の手招きで里の中に入り込んだんだが、そいつを客人が倒してくれた」


「古龍?」

「ああ、おそらく、里の結界を壊させたかったのだろう。住人を攫うように命じられていたようだ」

「…そう」


「何人か死傷者は出たが、影響はないだろうと村長が話していた」

「そう。でも、客人、嘘をついたのよね?」


「俺達が警戒されていたようだ。村長が話をして、今は協力的な姿勢を見せてくれている」

「大丈夫?」


「今のところはな。その客人も、里の状況に理解は示してくれた。渋々だけどな」

「そう」



 会話を区切ろうとすると同時に、通路の入り口修理を終えたメロジロが立ち上がる。

 釣られてサラも立ち上がると、メロジロはサラへ向けて言う。



「さて、ジルが心配している。もう帰るぞ」

「うん」




「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁ!!!」」



 サラとメロジロが話をしていると、古代遺跡の中から絶叫が轟く。

 声の主は、グレンとゲンブを連れて行った2体のゴブリンのものであろう。



「っ!?」



 突如の絶叫に、メロジロとサラは通路の入り口から距離をとる。

 そして、メロジロは剣を構えた。

 その剣先を向けた古代遺跡の入り口からは、パッと、炎の渦が噴き出してくる。




「っ!?」

「…人間」


 サラとメロジロは炎の渦の先、空を見上げる。

 炎の渦と一緒に、2人の人の影が飛び出してきたからだ。




ーーーーーーーーーーー



 グレンとゲンブは古代遺跡を2体のゴブリンに担がれながら進んでいた。

 2人は目と目を合わせて何やら相談しているようだ。

 

 まだ古代遺跡の退精霊石の効果が強くないせいか、2人は退精霊石の手錠をされており、魔法が使えないようにさせられていた。

 これでは、いかにランクSの冒険者とはいえ、2体のゴブリンに抗うのは難しいだろう。


 目と目で2人が相談しているのは「もう少し様子を見よう」ということだろうか。



 しばらく、古代遺跡の中を2体のゴブリンに担がれて進む内、今度は開けた場所へと出る。



「…何だこりゃ」

「森だと!?…地下に!?ここはよぉ!地下だよな!?」



 思わず声に漏らしてしまう2人

 そんな彼らへ2体のゴブリンは笑う。



「へぇ、すげぇ驚くな」

「ああ、おもしれぐらいだ」



 2体のゴブリンはそう言い放つと、階段状になっている通路を降りて行き、広大な森が広がる地面へ向けて降りていくようだ。



「ここは一体何なのだ!?」


 グレンがそう叫ぶと、ゴブリンが笑う。


「さぁな、お前らのパパとママに聞いた方が知ってんじゃねぇか?」

「おう、お前らのかなーり前のパパとママになるだろうけどな」


「古代人が作り出した場所だと言うのか…」

「がはははははは!!!こりゃすげぇぜぇ!!地下に森だぞ!森!!」


 子供のようにはしゃいでいるゲンブを他所に、グレンは2体のゴブリンへ問いかける。



「俺達を何処へ連れて行くつもりだ?」

「俺達の里だよ」


「何をするつもりだ?」

「知らない方がいいぜ?」

「おう、分かった時だけで良いだろ?苦しいのも怖いのもな」


 そう言ってゴブリン達はニヤニヤと笑う。



「…」


 黙り込むグレンへゴブリン達は続けて話す。



「ま、怖くて痛い思いをしたくなければ、大人しく聞かれたことに答えろ。そうすれば、すぐに解放してやるさ」

「俺達の里や古代遺跡の記憶は消させてもらうがな」



 ゴブリン達がそう話すと、グレンはゲンブへ視線を送る。

 すると、ゲンブはコクリと頷いた。


 ゴブリン達の言う里まで案内してもらった後、行動を起こすという意思疎通であろう。




ーー地上へ降り立ち、森の中を進んでいくゴブリン達

 森には確かに様々なビーストの気配があるのだが、グレンとゲンブを含めたゴブリン達を襲うつもりがないようだ。


 ゴブリンもビーストだからという理由ではないだろう。ビーストはビーストを捕食することもあるし、縄張りを争うこともある。


 ゴブリン達をまるで見逃しているような森のビースト達に違和感を抱きながらも、グレンとゲンブは行動を起こすタイミングを計っていた。


 そんな時だ。



『…あら、人間がまた』


「っ!?」

「おん!?」



 グレンとゲンブの脳裏に女性の声が響いた。柔和だが、どこか危うさを秘めた声だ。



『こんにちは』

「…」


 グレンとゲンブは驚愕を顔に出さないように黙り込む。その成果もあってか、ゴブリンは異変に気付く様子はないようだ。



『一方的に話すわね…事情があって、私、そっちに行けないの』


『だから、あなた達を助けてあげる代わりに、そのゴブリン達を始末してほしいのよ』



 正直、悪い提案ではないとグレンは考えた。

 目的と相手の条件が一致しているのだからメリットしかない話だ。

 しかし、問題は相手のことを何も知らないということだろう。



「…」


 グレンとゲンブは首を縦にも横にも振らないでいると、念話の女性は不安そうに告げる。



『あら、条件が気に入らないのかしら…困ったわ。人間のする交渉って苦手だわ』


「…」


 グレンとゲンブは彼女へ念話です答えようとするが、すでに退精霊石の効果は強い。返答しようにも何も言えない状況であった。


 すると…



「っ!?」



 急にグレンとゲンブは自分に力が戻ってきていることを感じる。魔法の力が戻ってきていた。

 

 2人は魔法の力が戻るはずがないと怪訝な顔で自分の手を見つめる。

 そこには、確かに効力が発揮されているはずの退精霊石の手錠があるからだ。

 

 それにだ。

 ここは古代遺跡であり、退精霊石の効果が発揮されている場所でもあった。



『勝手に、力が封じられないようにさせてもらったわ』



 退精霊石の効果範囲内において、グレンとゲンブは自分に魔力が戻ってきていることを実感していた。体の気怠さがないことも証拠して言えるだろう。


 

 グレンとゲンブは魔法の力が戻ったとはいえ、すぐに暴れ出すつもりはないようだ。ここでゴブリンを始末してしまえば、2体が口にしていた里とやらの位置がわからなくなってしまうからだろう。

 そのため、暴れる前に、情報収集しようという考えのようだ。

 まずは、謎の声の主の正体を突き止めようとしていた。



『…貴様は何者だ?』

『あら、申し遅れていたわね。私は…天空龍エーリア・グロリアスよ』

『おい、古龍の野郎がよぉ、何で俺達を助ける?』



 グレンとゲンブは謎の声の正体が古龍と名乗ったことに半信半疑のようだ。

 本来であれば「自分は古龍です」と名乗る存在に耳など貸さないが、事態が事態である。

 退精霊石の効果を部分的に無効化するような彼女の言動に、相手が古龍ではないかと半分信じる気持ちになるのは自然なのかもしれない。




『それは内緒…でも、助かったでしょ?』

『せっかく助けてもらったのだが、古龍、お前の望む通りに俺達が動くと思うか?』

『ええ、目的はゴブリンのメス、というか鍵でしょ?』


『っ!?』

『私の目的は、その里の連中を皆殺しにしてほしいのと…その鍵を外へ持ち出してほしいのよ』


『はん!言われてやるとなるとな、俺はよぉ、一気にやる気がなくなるぜ…』

『…それじゃ、後はお好きにどうぞ』



『…強引に切られたな』

『おう、ま、気に入らねぇが助かったのは事実だな』

『奴らの手のひらの上で踊ることになるぞ?』

『それでもよ、目的が果たせるなら構わねぇさ』

『お前がそう言うならば、構わんか』


『おう、それによ、すぐに手のひらの上から暴れ出てやればいい!』




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