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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第29話 暴虐



 セレナは玄関で頭を下げている村長達を眺めている。

 レイズを攫った共犯者達が、こうして頭を下げて、自分に力を貸してほしいと頼み込みにくる理由がわからないからだ。



「…何があったのか聞いてもいいかしら?」

「里に侵入者が現れた」


 村長がそう告げると、彼はメロジロへ視線を向ける。



「人間の少女が1人、男性が1人だ。格好から海賊だと思われるが」


 メロジロは侵入者の姿をセレナへと説明すると、彼女は心当たりがありそうであった。



「…」


「知っているやつですか?」

「…いえ、知らないわ」



 メロジロはセレナの様子を前に、侵入者に心当たりがあるのかと問いかけるが、セレナは隠すことにした。自分達を追いかけてきたせいで、里へ海賊を招いたと知られれば面倒なことになりそうだからだ。



「ブルドが対処しているが、相手はかなりの使い手で苦戦しているようだ」

「…ブルドが苦戦?」


 ブルドは額に「ε」と刻まれているビーストだ。

 いくら何でもサリスンやカモル相手に苦戦するとは思えない。



「我らは、この額が示す通りの戦闘力があるわけではないのだ」


 そんなセレナの疑問を察したのか、村長は自分の額にある「ε」の紋章を指で指し示しながら説明を始めた。



「我らの等級こそ高く、内包している魔力も大きいが、それを発現させることができない」

「つまり弱いってことね」


「…そうなるな」


 セレナの身も蓋もない言葉に村長達は言葉を詰まらせた。



「で、私が協力を拒めばどうなるのかしら?」



 セレナは本題へ入ろうとする。

 彼女にとっての本題は、なぜレジーナにレイズを攫わせたのかだ。



「…里の住人は奴らに殺されるか攫われるだろう」

「女も子供も連れていかれます…マインもそうです」


 村長やメロジロは里に生じる被害を話して同情を誘いセレナへ協力を求めるつもりだ。



「へぇ、レイズを殺すとは言わないのね」

「な、何ですと!?」


 セレナは面倒臭いと感じたのか、自分から要点を切り出すことにした。


 しかし、彼女の言葉に対して、村長達は驚愕を顕にしていた。白々しいと感じられないほどに…



「な、なぜ!?我らがレイズ殿を殺すなんてことを!?」

「そうですよ!恩人ですよ!?」


 村長とメロジロは、まるで抗議でもするようにしてセレナへ問いかける。



「昨晩、レイズがレジーナに攫われたわ」

「にゃー!!」



 セレナがそう話すと、村長とメロジロはハッとした顔を見せる。

 それは2人だけでなく終始無言のアスラもどこかハッとしたような表情を見せた。



「レジーナが…あいつ」

「例の実験に?」

「ああ、レイズ殿を巻き込んでいるかもしれん」


 村長とメロジロは囁き合うように何かを話している。

 当然、そんな2人の様子を黙ってみているセレナではない。



「ちょっと!コソコソと何の話かしら!?」


 周囲にセレナの怒号が響く。



「すまん…レジーナの件は私から彼女へ叱りつけておこう!」

「申し訳ない!セレナ殿!レイズ殿の件は、私達もそうですが、レジーナも害意があってのことではありません!」


「どういうことよ?」

「あいつは自分の実験にレイズ殿を付き合わせているのだと思う」

「はい、研究熱心な奴でして、研究に夢中になると手段を選ばないところがあるのです…」


 村長とメロジロの話にセレナは半信半疑の素振りを見せる。

 てっきり、レイズを人質に、何かを要求してくるのではないかと考えていた。



「…良いわ。侵入者を追い払う手伝いをしてあげる」

「本当ですか!?」

「ああ…セレナ殿がお力を貸していただけるのなら安心です!」


「でも、一つだけ条件があるわ」

「は、はい!?」

「条件でしょうか?」



「ええ、この里のこと、正直に私に話してほしいのよ」


 セレナが真っ直ぐな瞳で村長とメロジロを見つめる。


「…」



 村長とメロジロは即答できない様子だ。

 これは、つまり、この里に何か秘密がある証拠であろう。

 その秘密が何かわからなければ、マインを置いては行けないとセレナは考えていた。



「…どうかしら?」

「分かりました…いずれは話さねばならないと思っていたところです」





ーーーーーーー




「うひょおぉおおおおおお!!!宝の山ダァぜぇえ!!!」


 サリスンは鎖のついたイカリをブンブンと回しながら嬉々とした声で叫んでいる。

 太い木の枝の上にあるテントのような家々を吹き飛ばし、隠れていた住人達を暴き出す。



「こいつは…エルフってやつだなぁ!!」


 サリスンは隠れていた銀髪の女性の長い髪を掴んで瓦礫から引き摺り出す。



「きゃぁぁぁぁっ!!」

「人間!?」

「お願いします!お願いします!子供と妻だけは!!」


 そんなサリスンへドワーフ必死に頭を下げて命乞いする。

 しかし、獰猛に笑うサリスンに慈悲などあるはずもなく…



「おい!カモル!てめぇは転送陣の用意!!他の野郎共は!!!掻っ攫え!!!」

「「アイアイ!!マァァムゥ!!!」」


 サリスンの言葉通り、彼女が手にしたエルフと、命乞いするドワーフ、そして2人の背後で怯えている子供を海賊達はモノを運ぶようにして攫っていく。




「オラァ!!次だ次!!じゃんじゃん攫うぞ!!!」

「「アイアイ!!!マァァムゥ!!!」」



「きゃぁぁぁぁあ!!」

「やめてくれぇぇぇぇ!!」

「がぁぁっ!!」


 サリスンがイカリを振り下ろすと、轟音が響き、テントのような家が弾き飛ぶ。

 中からは、老夫婦と、2人に匿われている子供の姿があった。

 

 老夫婦の種族は不明だが、子供はゴブリン族のようだ。




「男も女も子供も連れて帰るぞぉ!!ゴブリンやオーガ、老人は殺せ!!!」

「「アイアイ!!マァァムゥ!!!」」


 老夫婦が匿っている子供を見つけた海賊は、その老夫婦を躊躇うことなく刃にかける。



「がぁぁぁぁぁっ!!」

「おじいちゃっぁぶっ」


 子供の腹を思い切り殴りつける。

 口から緑の血を吐き出しながら蹲るゴブリンの子供を、複数の海賊達が踏みつけ始める。





「助けて!!助けてください!!」

「ひぃいいいいい!!」

「いやぁぁぁぁぁ」




 里には阿鼻叫喚が渦巻いていた。



「おい!!!必ずゴブリンのメスを探し出すぞぉ!!!野郎共!!!」

「「アイアイ!!マァァムゥ!!!!」」



 効率よく里の中を蹂躙していく海賊達を満足気に眺めているサリスン

 そんな彼女の背後からはカモルがやってくる。



「よぉ!船長なぁ!おい!こいつはよぉ、なぁ、ゴブリンのメスなんてよぉ、どうでもよくねぇかよぉ?」

「カモル!てめぇ!馬鹿かコラ!!ボスの命令は絶対だァ!ぼけぇ!!!」

「でもよぉ、これだけよぉ、獲物がいればよぉ、ボスだってたんまり金が入るしなぁ、良いって言うと思うなぁ、俺はよぉ」


「ボスは、そのゴブリンのメスにご執心だぁ!ありゃ、何か裏がある!つまりだぁ!代替はねぇぇ!!」

「だけどよぉ、ここにはよぉ、あの女がいるんだよなぁ、おい、俺はよぉ、引き際はよぉ、大事だとおもうなぁ」




 嫌な予感がしたカモルは、サリスンへ撤退を提案していた。そんな彼の申し出を鼻で笑って跳ね除けるのはサリスンだ。



「はん!臆病者めが!」



「一方的に弱者を痛ぶる貴様は臆病者ではないと言うのか?」

「ああん!?」


 カモルへ放った言葉を返すのは、カモルではなく、何処からともなく現れたブルーオーガのブルドだ。



「てめぇも希少種だな」


 ブルーオーガは通常見られない種族だ。オーガは赤いと相場が決まっているぐらいである。

 



「捕らえてぇところだけどなぁ…」

「何だ?」

「お前はムカつくから、少し痛めつけたる」



 サリスンがそう言いながら遠心力と自分の怪力を込めてイカリをブルドへ振り放つ。



「おん!?」

「これ以上、好きにはさせんぞ!!!」



 しかし、サリスンの放ったイカリをブルドが拳で叩き落とす。

 そして、イカリの先端を蹴り上げると、イカリを宙へと浮かび上がらせて、それを拳で叩いてサリスンへと送り返す。



「てめぇ…」


 同じように拳でイカリを叩いて止めるサリスン

 


「その程度か!?」


 ブルドは人差し指を彼女へと向けて叫ぶ。



「臆病者と思った俺の印象、それでは拭えんぞ!!」

「舐めてんじゃねぇぞ!!ぼけがぁぁああ!!」


「ああ、徹底的に舐め腐らせてもらうぞ!!仲間を解放させてもらう!」

「おう、おもしれぇ!やってみろ!!」



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