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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第28話 永久機関



 朝日がコテージの中に差し込み肌を照らす。光に含まれる温かさは、まさしく太陽と同じ光だ。

 そんな日差しを浴びていると、ここが地下の古代遺跡であることをついつい忘れてしまう。



 セレナはテラスで身体全身に太陽光を浴びながら、大きく身体を伸ばしていた。寝起きの身体を一気に覚醒させるには、これが1番だと彼女は思っている。



「ふぅ〜!」


 彼女は息を深く吐くと、セレナは背後へ振り返る。コテージの造りから、レイズとセレナの泊まっている部屋はテラスで繋がっているため、セレナが見ているのはレイズの部屋だ。


 いつも早起きなレイズがまだ起きてきていない。たまに寝坊ぐらいはするかという気持ちでセレナはレイズを起こすことにした。



「レイズ〜?」



 セレナはそのままスタスタとテラスを進み、レイズの泊まっている部屋の前まで進む。一応、ノックぐらいはするかと呼びかけつつ扉を指で叩いてみる。

 しかし、部屋に中から返事はない。



「ん?」


少し不安そうな顔を見せるセレナは、そのままレイズの泊まっている部屋へと入る。



「…いない」


 部屋を見渡してみても、どこにもレイズの姿はない。そのまま部屋の中を進んでいき、死角となっているベットの側面を覗いてみると、そこには丸まって寝ているペロの姿があった。


「ペロちゃん!!」

「…にゃう?」


 セレナがペロを起こすように呼ぶと、ペロはハッとなって顔を起こす。


「レイズは?」

「にゃー…?」


 セレナはペロへレイズの行方を尋ねるが、ペロは知らないようだ。首を傾げて鼻を鳴らして、また首を傾げている。



「…外を探してみましょう」

「にゃう」


 セレナが神妙な顔で告げると、ペロは起き上がり、短く鳴いた。レイズが1人で勝手に何処かへ行くはずがない。そもそも、ペロも同じ部屋で寝ていたのだ。そんなペロがレイズの外出に気付かないはずがない。



「…にゃ!」

「どうしたの?」

「にゃうにゃうにゃにゃにゃう!」

「え?昨日の夜、レジーナ、来た?」

「にゃう!にゃにゃにゃう!!」


「実験の話をしている途中で…ペロちゃんは眠くなっちゃったのね」


 セレナはペロの言葉が断片的に理解できていた。そして、ペロの言葉が真実だとすれば、レジーナの行動は褒められるものではないどころの話ではない。



「十分に警戒していたけれど…私の探知をかい潜って侵入して来たのだから、敵対行為は明白ね…」


 セレナは顎に手を当てながら考えていると、コテージの玄関でベルが鳴る。



「…レイズ殿!!セレナ殿!!」


 玄関から遅れて聞こえてくるのは村長の声だ。どこか慌てているような声色である。

 村長の声にセレナとペロはコクリと無言で頷き合うと、2人は玄関へゆっくりと進んでいく。



「…おはよう」


 玄関を開けた先には村長とメロジロとアスラの3人がいた。村長以外の2人は武闘派の印象が強く、セレナの中で警戒心がさらに強まっている。



「おはよう」

「…」

「おはようございます」


 3人が慌てた様子ながら挨拶を返すと、村長が首を傾げる。


「おや?レイズ殿は?」

「…ちょっと出掛けているみたいよ」


 セレナは白々しいと思いながらも、相手の出方を見ようと思う。



「セレナ殿!!」


 そんなセレナの名前を大きな声で叫ぶ村長


 急に村長が大声を出すので少し驚いているセレナだが、村長は構わず続ける。



「お願いがある!!」

「…何よ?」



「我々を助けていただきたい!!」





ーーーーーーーーー




 木の板と鉄の板を何重にも重ねて建てられているほったて小屋がある。

 中は広く、何十人かでパーティができるぐらいのスペースはあった。

 しかし、所狭しと様々な器具や道具が置かれており、足の踏み場もないほど散らかっているため、その建物の広さを悪い意味で活かしてしまっているようだ。

 建物の主人からすれば、これは散らかっているのではなく、効率的に整理されていると主張するだろう。取りたいものを取りたい時に、すぐに手に取れる。それを目標として、経験と計算によって器具や道具は配置されているのだ。



「…レジーナさん、もう朝ですよ」

「まだまだ!!」

「はぁ…」



 散らかった部屋の中、唯一、足の踏み場と言える場所にはレイズとレジーナの姿があった。

 レイズは座りながら呆然とレジーナの様子を眺めている。

 当のレジーナは様々な道具で四角い箱をカチャカチャといじっている。

 そして、レジーナの両脇には宴でも見たゴーレムが手に道具を持ちながら待機していた。



「…」

「うーん…これか?うーん…違うな…でも、さっきの反応…っ!こうか…ダメー!!」


 レジーナはぶつぶつと言いながら四角い箱を操作していた。

 彼女は事情を話してはくれないが、誰かを助けたいという意思は本物のようだと感じたレイズ、渋々ながらもレジーナのパワードスーツの研究に協力していた。


 レイズは窓の外を見つめる。とっくに夜は開けており、そろそろセレナやペロが起きてしまう頃だと考えた。



「…一旦、セレナとペロに事情だけ説明してきても良いですか?」



 レジーナとゴーレムに半ば誘拐されるような流れでここへ連れて来られているレイズは、事情をセレナ達へ説明しないと、2人が自分のことを心配してしまうこともそうだが、それ以上にセレナが集落で暴れないかが心配であった。



「あー!こうか!!…ダメだ…えぇぇ…どうしてだろ?…うーん」

「…聞いてないや」


 レジーナは四角い箱に夢中であった。まるでレイズの話を聞いていない様子である。



「わぁあ…レイズ君だと起動するのに…そのメカニズムがわかんないよー!!」


 レジーナは頭を抱えながら叫び始める。レイズが四角い箱に触れると光を放ちながら魔力を周囲に放ち始めるのだが、レイズが離れるとスンっと光が消えて落ち着いてしまう。レイズが近くにいないと光を放ち続けないので、このままでは実用性に乏しいとレジーナは落胆していた。レイズが近くにいると起動する理由を模索し続けているようだ。



『…あれは永久機関か』

「あ、ツカサ、おはよう」

『ああ、おはようさん』

「ツカサはレジーナが造ろうとしているのが何か分かるの?」


『ああ、永久機関ってやつだ』

「永久機関って?」


『言葉の通り、永久的にエネルギーを生み出す装置だ』

「へぇ…え?」



 レイズは軽く頷くが、段々と、ツカサの口にしたことの重大さに気付き始める。


「え?何もしなくてもエネルギーを生み出すってこと?」

『ああ』

「…馬車が動き続けたり、火を出し続けたり、ずっと止まらないってこと?」

『そうだ。もっとすげぇことに使える代物だ。戦闘用の兵器とかな』


「兵器…パワードスーツとか?」


『お、まさかこの世界の住人からそんな兵器の単語が出てくるとは思わなかったぜ』

「ね、ツカサの世界にはパワードスーツがあるの?」

『おう』

「どんな道具なの?」

『着るとめちゃくちゃ強くなる服だ』

「…そのまんまだね」


『あの子は、永久機関を何に使うつもりなんだ?』

「え?えっと、みんなを助けるために、パワードスーツを起動させたいんだって」

『それで、パワードスーツを例えで持ち出したのか…だが、あの永久機関はパワードスーツどころか恒星間宇宙船に使われるほどの代物だぞ。明らかにエネルギー過多だ』

「そうなの?」


『止めないと不味いな』

「…死人が出るの?」

『ああ、死者の数は全人類って寸法の規模でな』


「え?」


『生命エネルギーの輪廻転生を使って成立している永久機関だ。調整をミスれば、惑星規模で全員の魂が反転しちまうな』

「輪廻転生?」


『ああ、人の魂はプラスの世界とマイナスの世界を行き来してんだ』

「えっと、世界が二つあって、生まれ変わりながら行き来しているってこと?」


『簡単に言えばそうだ。お前から見て死後の世界が、まぁ、マイナスの世界って思え』

「ということは、ここはプラスの世界なの?」


『そうだ。で、プラスの世界で、マイナスの生命はプラスへ向かう。やがて、生命エネルギーがマイナスからプラスに転じる瞬間が訪れる。それが死だ』

「逆に、プラスの生命はマイナスの世界でマイナスに向かうってこと?」


『ああ、プラスがマイナス、マイナスがプラスに、そうやって魂の状態が変わるタイミングが死だ』

「つまり、魂が反転しちゃうと、その瞬間にみんな死んじゃうってこと…?」

『そうだ。あの永久機関は強引に魂の状態を反転させながらエネルギーを得ているから、暴走すると危ないんだ』


「危険なのは分かったけど、今の話と永久機関にどんな関係があるのさ?」


『死後の世界の住人が死ぬことはない。これはわかるか?』

「えっと、そうだよね。すでに死んでいるから、さらに死ぬって変だよね」


『感覚的にはそういうことだ。ま、どっちの世界の住人も普通に死ぬんだけど、ややこしくなるから置いておいて、で、マイナスの世界でマイナスの生命が存在するとしたらどうなると思う?』

「え?」

『さっき言っただろ。死後の世界でさらに死ぬことはない。マイナスの世界にマイナスの生命が存在する場合、そいつは不老不死だ』


「あの永久機関は、不老不死みたいな感じだから無限のエネルギーを生み出しているの?」


『そうだ』



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