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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第27話 パワードスーツなるもの




「お酒…もうないってー!!」



 レイズとブルドは次に来る酒を待っていた。

 そんな2人へレジーナが残念そうに告げる。



「何だと…」

「もう少しで僕の勝ちだったのに、残念だ」

「それは俺のセリフだぜ」


 レイズとブルドは互いに睨み合うと、彼らの表情が一転、笑顔になる。

 そして、2人は腕と腕を突き出し、その先にある手が熱く結ばれる。



「勝負はお預けだな」

「うん、次こそは…決着をつけよう」

「おう!」



 好敵手同士がかたく握手を交わすと、ブルドは踵を返して去っていく。

 そんなブルドの背中を仁王立ちで見送るレイズ




「…レイズ、少し酔ってないかしら?」


 明らかに言動がおかしいレイズへセレナが心配そうに問いかける。



「ふん、この僕が酔う?セレナも冗談が上手くなったね」


 振り返ったレイズは不敵に笑いながら答えた。



「…にゃー」

「うん、ちょっとキモい」





ーーーーーーー



 里での夜会を終えて、レイズ達は借りているコテージへと戻る。

 レイズとセレナは寝室を分けることにし、レイズはペロと同じ部屋で休むことにしていた。



「さて、体を拭いて、もう寝ようか」

「にゃうにゃう」


 レイズの言葉に頷くように、ペロは大きな欠伸をすると、ペロペロと毛繕いを始める。

 それを見たレイズも、部屋の隅にある洗面台でタオルを濡らして体を拭き始めた。



「ん?」



 体を拭いていると、窓から何か音が響くような気がした。

 レイズはハッとして窓へ視線を向けると…




「…おーい」


 確かに誰かの声が聞こえる。女性のもののようだ。



「こっちから聞こえる…?」



 レイズは声のする方向へ移動していく、向かった場所はテラスだ。

 どうやら、テラスに誰かがいるようだ。


 窓ガラス越しに、テラスにいる人影の正体が分かると、レイズはスタスタと歩いていき、部屋のテラスへと通じる扉を開ける。



「遅くにごめんねー!」

「レジーナさん!?」


 テラスにいたのは赤いバンダナの少女レジーナだ。


「ちょっと、レイズくんにお話しがあるのー!」

「話ですか?」

「うん!」


「えっと…どうぞ」


 レイズはスッとテラスへ通じる扉を全開にすると、部屋の中へレジーナを招いた。


「にゃうー!」

「わー!ペロちゃん!!」

「にゃうにゃう!!」


 レジーナは部屋へ入るなり、いきなりペロへ抱き、そのもふもふの毛並みを堪能し始めた。



「…ペロに会いに来たんですか?」


 そんなレジーナの背後からレイズが尋ねると、レジーナはハッとしてから彼へ振り返る。

 舌をちょっと出して、片目を瞑り、まるで"テヘペロ"と言わんばかりの表情を見せた。



「それもあるんだけど!本題は別ー!」

「本題?」

「そうそう!ねね!!レイズくん!」


 レジーナは勢いよくペロから離れると、パッとレイズの前まで移動する。

 彼女にほんの1歩ぐらいの距離にまで迫られたため、ちょっと慌てるレイズ

 しかし、レジーナはそんなレイズに構わず続ける。



「レイズくんに手伝ってほしいことがあるの!」

「て、手伝いですか?」

「そう!発明を助けてほしいの!」


 満面の笑みで目をキラキラとさせながらレジーナはレイズへ頼む。

 内容が分からなければ、軽々と頷くことはできないと、レイズは少し間を置いてから彼女へ尋ねる。



「何の発明ですか?」

「うん!パワードスーツなるものを発掘したの!それを真似てね!1から作ってみたんだー!」

「パワードスーツ?」


「そう!魔法がなくてもすごーく!ムッキムキのビュンビュンのバリバリになる服なんだよ!」

「あ、あははは…えっと、それを着ると強くなるってことですよね」

「うん!でもね…」


 ここでレジーナは暗い表情を見せると、チラチラとレイズを見てくる。

 まるで尋ねてこいと言わんばかりの反応を前に、これは…と、レイズは尋ねることにした。



「どうしたんですか?」


 そう棒読みで尋ねるレイズの言葉にレジーナは満面の笑みで答える。



「原動力の影響なのか、精霊と契約している人や私達だと着られないんだよ!そ・こ・で!レイズ君の出番!」

「え、僕の?」

「うん!ゼロの紋章のレイズくんなら着られるんじゃないかって思ったの!」


 さらに満面の笑みを浮かべ、目がキラキラキラキラとするレジーナ

 要するに魔力がある存在だとパワードスーツなるものは着れないそうだ。

 期待と希望と夢と情熱に溢れている彼女の申し出を断ることができるはずもないレイズ



「えっと、着るぐらいなら…お手伝いできますよ」

「やったぁ!!!」


 飛び跳ねそうな勢いでバンザイするレジーナ

 そんな彼女を怪訝な顔で見つめるのはレイズだ。レイズのその表情に気付いたレジーナはキョトンと彼を見つめる。



「おや?レイズくん、どうしたのかな?」



「…こんな夜更けにお願いしに来たのは何でですか?」



 レイズの質問にレジーナはハッとする。何かを思い出したような表情を見せていた。



 発明の手伝いの申し出なら、わざわざ夜更けに部屋へ忍び込むような真似をする必要はない。



「怒られるからだよー!」

「え?」


「パワードスーツの研究ね!村長にダメって言われてるの!」

「…じゃぁ、ダメじゃないですか」

「うん!だからね!こっそりやる!」



 レジーナに罪悪感はまるでない様子だ。

 良く言えば天真爛漫、悪く言えば傍若無人

 そんな印象だろうか。


 レジーナへ善性を説いても仕方ないとレイズは論点を変えることにする。



「えっと、どうしてダメだって言われているんですか?」

「死人が出るから!」




「…ダメじゃないですか!!!!????」


「でもでも!レイズくんなら死なない!」

「どうして、そう言い切れるんですか?」

「私の計算は…完璧なのだ!!」


 両手を腰に当てて胸を張るレジーナ

 それをジト目で見つめるのは、遠くから見守っているペロも同じだ。

 このひと時で、レイズとペロのレジーナに対する印象は大きく変わる。元気な美少女から、一言で言えば「マッドサイエンティスト」であろうか。



「えっと…ちなみに…死人は出ているんですか?」


 レイズは1番気になったことを尋ねる。

 これで「うん」と言われれば、レジーナをここで取り押さえる他ないと、ひっそりと覚悟を決めながら…



「ううん!やめろって止められているから実験できてないんだ!」


 何故か残念そうに語るレジーナを他所にホッとするレイズ



「レジーナさん。やっぱりお断りしますね」


レイズはペコリと頭を下げながら告げると、レジーナから残念そうな声が響く。



「えええええ!!さっきは良いって言ったじゃん!!」

「ごめんなさい!でも、死人が出るかもしれないような危険な発明には付き合えません!」


「死人が出ない発明なんてあるのかな?」

「え?」

「そもそも、家を建てる。剣を作る。料理もそう!物を作るのは常に死と隣合わせだよ!」


「強引な言い方をすればそうですけど…」


「剣を作る時、間違って腕を怪我すれば職人人生は終わりだよね!!」

「まぁ、そうなるかもしれないですけど!今回、犠牲になるのは僕ですよ!!」


「料理だって、黎明期には食べちゃいけない食材や組み合わせで、作った人じゃなくて食べた人が何人も死んでるよね!」

「同じにしないでください!!」


 レイズが断固として拒絶する意志を叫んで示すと、レジーナが頬を膨らませた。



「同じだよ!文明の発展の裏には命懸けの研究者達がいるんだよ!」


 レジーナからは狂気とも取れるほどの強い意志を感じる。遊び半分ではなく、死人が出るかもしれない覚悟の上で彼女はパワードスーツを研究しようとしているようだ。



「レジーナさんはどうしてそこまでパワードスーツの研究に拘るんですか!?」



「…みんなを助けるためだよ」

「え?」


「レイズ君、ごめんね!」



レジーナの言葉を皮切りに、レイズとペロの視界が真っ暗になる。




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