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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第25話 集落の夜



 レイズ達は集落の広場に集められている。

 集落の頂上であり、レイズ達が泊まる家の次の層だ。


 大樹は全体的にボンヤリと明るい。まるで地上からライトアップされているかのようだ。そして、木の枝の上であることを忘れるぐらい広い場所には様々な種族の人々が集まっていた。


 いくつかのグループに分かれて集落の人々は集合している。レイズは村長達と同じグループである。レイズの目の前には村長、隣にはセレナとペロがいる。



「こいつがレジーナ」


 村長はそう言って手のひらを差し向けた相手はオレンジ色の髪の毛をおさげにしつつ、赤いバンダナを巻いた女の子だ。目は大きく、スタイルも良い。何だか活発そうな女性である。


「うっす!私がレジーナだよ!よろしくね!レイズ君とセレっち!ペロ子!」


 レジーナはニカっと笑う。

 そんな彼女にムッとするのはセレナとペロだ。


「セレっちってまさか私のことかしら?」

「にゃうにゃー!」

「うん!そうだよ〜!」


「いきなり馴れ馴れしいわね!」

「にゃうにゃう!」

「そーかなー!?」


 両手を頭の後ろで組みながらキョトンとするレジーナ

 彼女の自分の馴れ馴れしさに無自覚な様子であった。このままでは紹介が進まないどころか喧嘩でもされては困ると、村長は強引に続ける。



「レジーナは集落の道具作成を担当している」

「おっすおっす!私はこれでもドワーフなので!手先が器用なのです!」

「へぇ!すごいね!」


「ふーん…」


 ピースを向けるレジーナへ、レイズは関心がありそうだが、セレナはどうでも良さそうだ。

 続けて村長は別の人物へ手のひらを向ける。



「…こちらがメロジロだ」

「ああ、我が一族の者を助けていただき痛み入る」



 緑の肌で大柄な男性が胡座のまま頭を豪快に下げる。

 彼はどうやらゴブリン族の代表らしい。彼の隣にはマインの父と母がいた。2人もペコリとお辞儀する。



「あれ?マインちゃんは?」


 レイズはマインの姿が見えないことに気付くと、そのままマインの両親へ尋ねる。



「マインはまだ休んでいます」

「そうですか…早く良くなると良いですね」


「はい…」とマインの父

「ええ、一刻も早く良くなることを祈っています」とマインの母が答えた。


「…」



 レイズはどこか2人が他人事のような気がしていた。しかし、マインの母であるエルフの女性は、表情こそ無表情だが、声は潤っていた。

 本当に心配だったのだろうと、レイズは変な考えを振り払う。



「こちらがセパクロールだ」


 続けて村長は手に羽が生えている女性を指し示す。



「あーわーあーあーわー!」



 セパクロールと呼ばれた女性は歌詞はわからないが謎の歌を短く披露する。



「…ハーピィなりのよろしくだ」


 村長が通訳すると、レイズはペコリと一礼する。すると、ハーピィの女性もコクリと頷いた。



「最後に、集落の守護者アスラだ」


 村長がそう言って手のひらを差し向けた先には、腕が6本もある男性がいた。右に2本、左に4本だ。

 髪は黒く、肌は赤く、目は金色、筋骨隆々としている。そして、額には「ε」の紋章が刻まれている。



「…」


 紹介を受けたアスラは目を瞑ったまま黙り込んでいた。口がモゴモゴと微かに動いているように見える。


「あ、あの…」

「ずっと黙ったままね」

「にゃう!」

「え、よろしくって言ってるって?」

「にゃう!にゃう!」



 ペロにしか聞こえない何かがあるのだろうか。

 レイズがそんなことを考えていると、彼の代わりに説明に入る者がいた。



「…客人よ。すまない。彼は無口を信条としている」

「…」


 大柄なゴブリンであるメロジロがそう告げると、アスラの眉が微かに動いた気がした。そして、彼は微かに顔を左右へ振るう。




「アスっちは、こーんな見た目してるけど!ものすごーく優しくて穏やかだから、怖がらないであげてね!」


 レジーナがそういうと、アスラは微かに頷いた。どこか照れているようにも見え、見た目の怖い印象が吹き飛ぶ。



「…よろしくお願いします」

「…」


「さー!挨拶はこのぐらいにして!ご飯にしよー!ごーはーん!!」


 レジーナがそう言って立ち上がると、広場の奥へ向けて叫ぶ。



「おーい!持ってきて〜!」



 レジーナの声に呼ばれて広場の奥から料理を運んでくるのは…



「ゴーレム!?」


 レイズは驚きのあまりに声を大にして叫ぶ。



「お!レイズ君は分かる口だね〜!」


 レジーナの目がキラリと光る。



「あ、あれ!すごい!完全に自律していますね!」


 レイズは料理を運ぶゴーレムを見つめる。

 細かいブロックを積み上げて人のような姿のシルエットになっている。レゴブロックで人間を作ったようなイメージだ。


 キビキビと命令を与えられなくても、自分で判断して、里の住人に合わせて料理を配膳するゴーレム達を前に、レイズの目は輝いていた。


どんな原理なのだろう。

素材は?

装置は?

動力源は?


 浮かんでくる疑問のどれもこれもに好奇心が湧いてくる。これが楽しいということだとレイズは実感していた。



「それが完全じゃないんだよ〜」


「え、違うんですか?」


「音声を認識して、あらかじめ組み込んである動作はできるけど、自分で考えての動作は無理なんだ」


「…嫌いなものや、量とかを、みんなに聞きながら調整して配膳してますよ?まるでレストランの店員さんみたいです!」



 ゴーレム達は住人達とコミュニケーションを取りながら料理を配膳している。会話はできないが、相手の話を聞いて、それに応じて動いてはいた。


 レイズから見れば、自分で言葉を解釈して行動しているように見えるが、レジーナは少し悔しそうな顔で説明する。



「うーん…大雑把なところでは同じなんだけどね〜!きめ細かいところでは粗が出ちゃうの〜!プロには遥かに及ばないかな…」


「そ、それでも…自然に動いていると思いますよ」

「組み込んだ動作がすごく細かくて多いから、そう見せられているだけだよ〜!」



 レジーナはバンダナをギュッと縛り直す。


「さ!ゴーレムの話は終わり〜!ほらほら!セレっちがやきもち焼いてるから〜!」


 そう言ってレイズはレジーナへ背中を押される。ハッとセレナへ視線を向けると、まるでリスみたいに頬を膨らませていた。


 そんなセレナを前にして、レイズは怪訝な顔を見せた。



「…セレナ?」

「何よ?」


「やきもちは全部食べちゃったの?」



 レイズはセレナの目の前にある空っぽの皿を見つめる。まだ料理を取っていないためセレナの皿の上は空っぽなのだが、レイズは彼女が焼きもちを食べてしまったと思い込んでいた。



「…」

「ぶぇっ!!…なんでいつも急に殴るのさ!?」



「にゃーにゃ…」

「え?今のは僕が悪いの?」


 レイズはセレナに叩かれた頬を押さえながらペロを見つめる。どこかペロも呆れているようだ。




「…お熱いところ失礼するぞ」



 そんなレイズ達のところへ大柄なゴブリンがやってくる。



「メロジロさん」


 レイズが彼の名前を呼ぶと、メロジロは少し嬉しそうに頷いた。


「そうだ。俺の名前をすぐに覚えてくれて光栄だ」



 そんなメロジロに対して塩対応なセレナ



「で、何か用事かしら?」

「ちょっと、セレナ!」

「マインを連れてきてくれたこと、重ねて感謝を」


 メロジロは腰を90度に折りたたんでお礼を告げる。



「…本題は何かしら?」


 しかし、セレナは感謝を伝えるのが前置きであると思っていた。

 そして、それは正しい。



「マインを見つけた時のこと、詳しく教えてほしい」

「何のためによ?」

「マインを探すために、ジルの妹であるサラが外へ出ている。彼女だけが戻っていないのだ」

「それと何か関係が?」


「マインがレイズと出会った時のことが分かれば、サラを探す参考になると思ってな」


「参考?…果たしてそんな情報が参考になるかしらね?」

「…僕は教えることに抵抗ありませんけど」

「レイズ!」


 セレナによってレイズは止められる。

 何となく話してはいけない雰囲気を察していたが、やっぱりとレイズは確信していた。

 セレナが何を警戒しているのか…



「…ああ、説明を続けよう。サラはマインの痕跡を見つけたから戻らないと推測される。それで足取りを追って、もしかすると、レイズとマインが出会った場所の周辺を探しているかもしれない」



 メロジロの説明自体は理解できる。

 効率が良いかどうかは微妙だが、確かに可能性は否定できない。


「…セレナ、教えるぐらいは良いと思うけど?」


 レイズはそうセレナへ尋ねる。

 しかし、セレナは首を横に振る。


 そんなセレナへメロジロは頭を再び下げた。


「頼む。外で人間に見つかる可能性がある。行動は最小限にしたい。だから、少しでもあたりをつけておきたいのだ」


 メロジロの言葉にセレナはため息を吐いてから答える。


「…廃坑で見つけたわ。マインが倒れているのをね」

「え?」

「レイズには言ってなかったわね。廃坑に探索へ出た時に、マインが倒れているのを見つけたのよ」


「廃坑…」

「ええ、上の森の中に廃坑があるわ…もしかすると、ここと繋がっているのかしらね」


「…なるほど、感謝する」


 メロジロはお礼を述べるとささっとどこかへ立ち去っていく。



「…どうして嘘をついたのさ?」


 メロジロが去ってからレイズはセレナへ問いただす。


「多分、外へ繋がる通路が何処かにあるのよ」

「え?どういうこと?」


「その通路を残したままにできないから、隠し通路の情報を得ようとマインちゃんを見つけた時の情報が知りたいようね」

「か、考えすぎだよ!」


「…いずれにしても、レイズ」

「あらたまってどうしたのさ?」

「下手に情報を与えれば、私達が戻れなくなるかもしれないわよ。気をつけて!」




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