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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第24話 記憶の底



 大樹の集落にはテントのような簡易的な住居が多い。

 木の枝の上ということもあり、しっかりとした建物の建築は難しい様子だ。

 大樹の枝に生い茂る葉っぱが壁や天井の役目をしてくれるため、簡易的な建物でも問題はなさそうだ。


 ところが、レイズ達がいる階層にはしっかりとした造りの家が並んでいた。村長の家や重役の家が密集した場所であり、レイズ達が泊まる予定の家も同じ階層にあるようだ。



「…」


 レイズは思わず地面を見つめる。

 明らかに木の枝の上であることがわかる地面があった。




「ここだけしっかりとした家が建っているのが不思議か?」

「っ!?」


 そんなレイズの目線を察したのか村長が尋ねてくる。

 レイズは何も悪いことをしていないが、どこか気まずくまり、思わず肩をびくりと震わせてしまう。


 勝手に観察していたことが後ろめたいのだろうか。自分は気にしたことを、他人はなんとも思っていないのは良くあることだ。当の村長は何も思ってはいないだろう。



「あ、そ、そうですね。木の枝の上にも関わらず、基礎工事がしっかりとしていて、ドッシリとしているので何でだろうと思いました」

「…たしかにそうね」


 レイズの疑問にセレナもハッとする。

 木の上に家を建てるというのは難しいからこそ、下の階層では簡易的なテントのような造りになっていたのだ。



「ここだけ特殊だ…」


 村長はそう言って1番奥の家を見つめる。

 鈍い銀色の鋼鉄に覆われている屋敷だ。ドーム状に建てられており、入口はまるでシャッターのようになっている。



「特殊?」

「どんな風に特殊なの?」

「俺は詳しくない」


 村長はそう言って奥のドーム状の屋敷を指さす。



「…あの屋敷にいる人が関係しているんですか?」

「ああ、その通りだ。奴の機嫌が良ければ話は聞けるかもしれないな」



 村長はそう言ってからピタリと足を止める。

 屋敷の人の話をしたくないのかと思ったけれど…

 どうやら僕達が泊まる空き家へ辿り着いたようだ。




「ここは空き家になっている。掃除などはしているから不便はないと思うが、何かあれば気軽に言ってほしい」


 レイズとセレナの前には、木造りのコテージがあった。

 木の枝から出た位置にテラスがあり、森が一望できるようになっている。



「わー」

「なかなかおしゃれね」

「にゃー!」


 レイズ達の反応は上々だ。それを見て村長は無表情に頷く。



「では…夕食まで時間はある。少しゆっくりしてもらえると我らも嬉しい」


 村長は相変わらずの無表情だ。

 しかし、その声からは確かな感謝の気持ちが伝わってくる。



「何から何まで、ありがとうございます」


 レイズはペコリと頭を下げる。

 セレナは軽く、ペロは「にゃー」と鳴いてレイズに続く。



「それはこちらのセリフだ。仲間の家族を救っていただき感謝する」



 そう言って村長は一礼した後で去っていく。




ーーーーーー



 コテージの中はサッパリとしていた。最低限の家具が置かれており、寝るには困らないが、暮らすには家具がもう少しほしい。

 そんな塩梅である。


 レイズ達はすぐに寝室へ向かうと、即座に荷下ろしをする。上着を脱いで、装備も外し、軽い格好へと着替えていた。



「ね、セレナ!」

「何?」

「テラスに出てみない?」

「いいわね。行きましょ!」


「ペロも行くよ!」

「にゃー!」


 レイズ達は荷下ろしを終えると、すぐに寝室を出て、テラスへ向かう。

 テラスへの入り口を開けると心地良い風が入り込んでくる。



「わー!気持ち良い!!」

「にゃうにゃう!!」

「本当ね!」


 3人は笑顔のままテラスへと出る。そこは8畳ぐらいはありそうな広さであり、3人で寛ぐには十分な広さだ。



「ここが地下だとは信じられないよ」


 レイズは空を見上げる。そこには確かに青空が広がっていた。下を見下ろすと、そこには広大な森がある。


「そうね…」

「にゃー」



 とはいえ、左右を見ると世界の端は湾曲しており、ここが筒状の建物の中であることを自覚させられる。



「古代の技術ってすごいね」

「…」

「セレナ?」


 レイズはハッとする。

 気付けばセレナがうとうとしながらテラスの椅子にもたれ掛かっていた。


 そんなセレナを見て、レイズとペロは向き合う。



「…寝かせてあげようか」

「にゃう」



 2人は小声で言うと頷き合った。



ーーーーーーーーーー



 部屋に広がるガラスの床の上にはいくつもの円形のテーブルがある。そして、ガラスの床の下に映る景色は星空であった。



 ここはレストランだ。

 まるで貸切にしているかのように、店内には2人の男女しかいない。


 1人は金髪で黒いスーツの男性

 もう1人は銀髪の白いドレスの女性だ。


 2人の元へウエイターがトレイにワインを乗せてやってくると、2人のテーブルにあるグラスへと注いでいく。


 ウエイターへ男性が一礼すると、ウエイターも返礼して去っていく。



「…久々ね」


 女性は少し不機嫌そうに呟く。

 すると、男性は少し困ったようにワインを飲む。

 ゆっくりとワインを飲みながら、彼はどう答えようか道筋を考えていた。今の彼の心境では高級なワインの味などわからないだろう。



「すまない。仕事が立て込んでこんでいてな」

「仕事の方が私よりも大事なの?」


 女性はギロリと男性を睨みながら問いかけると、さらに困った顔を見せる男性

 しかし、この質問は予測していたのか、すぐに言葉を紡ぐ。



「…寂しい思いをさせたな。すまない」

「寂しいを通り越して怒よ!怒!」

「はははは…穴埋めは必須だな…」


 男性は苦笑いを浮かべるとグラスの中のワインをさらに一口



「ね、仕事は順調?」

「いや、トラブル続きだよ」

「へえ、昔から変わらないわね」


「はははは…出会った頃からトラブルばかりだったね」

「そうね…」


 女性のワインを一口

 そして、ゆっくりと飲み込むと問いかける。



「何がそんなに忙しかったの?」


「上と揉めてね。結局、方針を変えることになった」

「何で揉めたの?」


「金だよ」

「金ね」


「予算が足りないそうだ」

「予算って…このまま人口が低下していけば人類は滅亡よ?」

「そうだな…とはいえ、ない袖は振れないのさ」

「ふーん…で、諦めるの?」


「いや、言ったろ。方針を変えるって」

「どんな方針にするの?」



「死者蘇生ではなく不老不死だ」

「え?」


「死者蘇生で人口を増やせないなら、最低限、不老不死で人類が減らないようにする」

「まるっきり変わるのね」

「ああ、だから忙しいのさ」


「ふーん、だから、私のことそっちのけなのね」


「はははは…とりあえず、ドクターが成果を出せた。これでまとまった休みが取れそうだ。その時は旅行でもどうだ?」

「へぇ、旅行ね…」


 女性は満更でもない様子を見せる。

 ここが好機と男性は攻めに入る。



「木星に天然のイルきのこの串焼きを出す居酒屋があるんだ」

「え、天然ものなんて残っているの?」

「ああ、廃棄コロニーに冷凍保存していたものが大量に見つかったそうだ」


 女性は彼の言葉に迷いを見せる。

 行きたくてしょうがないが、問題があるようだ。



「ふーん…忘れているようだけど、私、宇宙空間に出るのは苦手なのよね」


「それがな、先月ぐらいにフロンティアは木星まで進んでいるから、宇宙に出なくて済むぞ」


「そうなの?」

「ああ、それと木星周辺は緑地フィールドだ。形だけだが自然も楽しめるぞ」


「緑地フィールド…ね!そこに新居を構えるのはどう!?」

「いつも急だな…」


「でっかい!木の家なんてどうかしら!?」

「…また難しいことを言う」


「バースの管理者権限なら余裕でしょ!?」


 銀髪の女性はバースと呼ぶ男性の右手を掴む。

 彼の右手の甲には「0」が二つ並んでおり、どこか「∞」と見えるような紋章が刻まれている。



「職権濫用って怒られるよ…もう」


 バースはそう言って銀髪の女性が掴む手に、自分の左手を添える。

 そして、見つめ合う2人は…





ーーーーーーーー




「…変な夢」



 セレナは薄らと目を開ける。

 少し肌寒さを感じると、気付けば足元に毛布が落ちていた。


「ふふ…」



 きっとレイズがかけてくれたものだろうと気付くと、セレナは自然と笑みが溢れていた。

 スッと地面に落ちている毛布を拾い上げると、彼女は空を見上げる。



「私、寝ちゃってた」


 彼女の視界の奥には深い紺色に染まった空が広がっていた。



「もう、起こしてくれても良いのに…」


 セレナはそう呟きながら椅子から立ち上がると、そんな彼女の背後からレイズの声が響く。



「セレナ!」

「レイズ?」


「あ、えっと、おはよう?」


 すっかり暗いのにおはようは違和感があると思い戸惑うレイズ



「うん、おはようって何か変ね」

「あははは…」


「ペロちゃんは?」


「外で待ってるよ、そろそろ夕飯だってさ」

「ええ、わかったわ」






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