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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第2章 記憶の底
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第22話 ロイヤルズ3



 まるで地獄の番犬ケルベロスを思わせるような姿へと変貌したジャック

 3つの頭部、6本の手足、白く変色した肌



「人体のビースト化か…」


 そう呟くグレンへ向けてビーストのような姿へ変貌したジャックが叫ぶ。



「ぎゃぅらぅるうべぇたぁぁあっ!!!!」



 ジャックが手を伸ばすと、その腕からさらに無数の白い腕が生えていき、まるで木の枝のような姿となっていた。腕からさらに生えた腕はグレンとゲンブの2人へ壁のようになって迫っていく。



「おらぁ!!」


 ゲンブは拳を震わせると、その拳圧だけで迫り来る白い腕の波を弾き返していた。



「ふん…」


 グレンは鼻で笑うように息を吐くと、そのまま斧槍を振り回し、炎の渦を生じさせる。

 巻き起こる炎の竜巻が無数の白い腕を燃やし尽くしていく。



「デルタぐらいの強さはあるようだぜ」


 一連の攻撃でジャックの戦闘力をビーストに換算するとデルタ級ぐらいはあろうとゲンブは推測していた。

 デルタビーストクラスの相手を前にしているのにも関わらず、少しつまらなそうにしているゲンブだが、そんな彼の言葉に対してグレンが首を横に振る。



「いや…もう少し強いな」

「おん?」



 ゲンブの言葉を否定するグレン

 彼は言葉ではなく、行動でゲンブへ説明するつもりのようだ。


 グレンは地面を蹴り上げると、宙へ舞い上がった彼を迎撃するためジャックは無数の腕を再び伸ばし始めていく。



「…火龍槌閃!!」


 グレンがそう叫ぶと、彼の体が真っ赤な炎の塊となり、まるでハンマーのようになってジャックへと急降下していく。

 真っ赤な炎の塊に打たれたジャックは、彼が立つ地面ごと大きく爆ぜる。


 爆音と爆炎が舞い上がり、周囲の草原が蒸発するように燃えていく。

 その爆心地では轟々と炎が燃え続けており、その炎の中からはグレンがパッと飛び出してくる。



「一気に仕留めにいきやがったなあ」

「いや、見てろ」

「ああん?」



 隣へ着地したグレンへ悪態をつくゲンブだが、そんな彼の視線に対して、グレンは顎でジャックの方向を示す。

 ゲンブがジャックの方向へ視線を向けると、彼の顔はだんだんと嬉々としたものへと変わっていく。



「おう…まったく効いてねぇのか!?」

「ああ、クイーンの失敗作と言えば分かりやすいか。本体と分体が一緒くたになっているが、コアを破壊しなければ再生し続けるな」


 2人が見つめる先には、轟々と燃える炎に溶かされながらも再生を続けているジャックの姿があった。

 ドロドロになりながらも炎の中から進み出てきている。


 ジャックが炎から出てきた直後は原型を留めていないドロドロの姿であった。

 しかし、数秒もしない内に、溶かされた肉体が再生を始め、すぐに元の姿へと戻っている。



「ダメージはなしか」

「与えたが回復したのが正しいだろう」

「で、どうするよ?」


「木っ端微塵にしてやりたいが、妹を巻き込むのは面倒だ」

「あん?」


 ルージュとハザードは少し離れた位置へ避難していた。

 グレンとゲンブの戦闘の邪魔をしないようにしているわけではなく、隙を見て逃げようとしている印象の方が強い。

 

 グレンとゲンブの攻撃は大規模なものが多い。

 ジャックを倒すとなると、2人は邪魔な位置にいた。



「構わねぇだろ?俺は早くゴブリンのメスを捕らえてよ、冒険王を引き摺り出してやりてぇ」

「…構え、あれでもローズ家に名を連ねるやつだぞ」

「しらねぇな、雑魚は雑魚だ」


「やれやれ…」


 

 グレンはジャックへと視線を向ける。

 かのビーストと成り果てたジャックは、彼の視線にビクリと肩を震わせている。

 自分の再生力ならば簡単に殺されることはないが、グレンは自分よりも遥かに強い存在であると悟り、臆してしまっているようだ。



「地道に殺すか」

「そんな面倒なこと、俺はパスだ!」

「余計に時間を要することになるぞ?」

「がぁぁぁぁぁ!!!くそぉがぁ!!!」



 ゲンブは地面を踏むように蹴る。怒りに任せて蹴り抜いたゲンブによって周辺の地面が大きく揺れる。


 

「…私に任せて」

「あん?」


「サラ、お前は待機していろとお願いしたはずだが?」



 苛立つゲンブと冷静なグレンの背後からは、サラが無表情なままゆっくりと歩いてくる。

 そんな彼女の背後にはベイト達の姿もあった。



「…ベイト、お前は言われたこともしっかりとこなすことができないのか?」


 ベイトとホーリーの姿を目にするとグレンは沸々とした怒りを言葉へ乗せる。



「申し訳ございません!」

「…サラさんが急にいなくなって」


 ベイトとホーリーはグレンへ経緯を説明しようとするが、当のグレンは一蹴する。



「言い訳はいい」

「っ!」

「…お前らはルージュとハザードを確保しろ」


「え?」


 グレンは奥へ避難しているルージュとハザードへ指で指し示す。


「我が妹が、ゴブリンのメスのことを何か知っているかもしれない。逃げないように確保しろと言っている」

「は、え、えっと?」


「同じことを3度も言わせるつもりか?」

「はっ!!」



 グレンのところからベイトとホーリーが去っていくと、グレンの隣にいたゲンブがサラへと尋ねる。



「で、サラさんよぉ、あいつをどうすんだ?」


「コアだけ、魔力係数、違う」

「あん?」

「見てて」


 サラは警戒しながら様子を見ているジャックへ両手を向ける。



「おう?何してんだ?」

「…」



 サラは無言でジャックへ両手を向け続けていた。

 そんな彼女の行動に怪訝な顔を示すゲンブだが、グレンは察したような表情を浮かべる。


「…空気中の魔力濃度を操作できるのか」

「そう」



「ぎゃう…ぎゃぅらぁるぅべぇたぁぁぁ!!!」



 ジャックが急に叫び始めると、6本の腕をバタバタと暴れさせ始めた。



「ぎゃっっぁぁっぅうぁらぁるべぇぇぁたぁぁぁ!!!」



 ジャックはジタバタと暴れながら、その3つの頭部と、6つの瞳でギロリとサラを睨みつける。



「ぎゃぁうらぁぅるぅべぇたぁぁ!!!」



 ジャックはそう叫ぶと、勢いよく飛び上がり、押しつぶすようにしてサラへと向かっていく。



「…リバース・グラビティ」



 サラがそう呟くと、ジャックの体は急停止する。

 そして…



「グラビデ」


 サラが続けて魔法を発動させると、今度はジャックが真っ直ぐに降下する。

 地面にまるで縫い付けられたようにジャックはペッタリと張り付いて動かない。



「…そろそろ」



 サラが続けてそう呟くと、ジャックの背中からはコアと呼ばれる透明な宝珠が浮かんできた。宝珠がジャックの体から完全に抜けると、ジャックはまるで糸の切れた人形のように動かなくなる。

 そして、宝珠はゴロゴロと地面を転がっていく。



「…魔力係数がコアと本体では異なるのか」

「そう、空間の魔力係数を乱すと、分裂する」

「ああん?ちんぷんかんぷんだぜ?」


「…」



 グレンは地面を転がっていく宝珠を見つめるとポツリと呟いた。



「あれが奴らの発明品か」

「人をビースト化させる魔具」

「あれで、あいつがビーストみてぇになったってのか?」

「ああ、商業連邦の連中が帝国や獣人に売り捌いているものだ」



 グレンがゲンブへ説明すると、その宝珠を回収するために歩み寄ろうとする。

 しかし、そんな彼を制止するのはサラだ。



「ダメ」

「ん?」


「…見て」



 サラは手のひらを上向きにして腕を伸ばす。そこから魔力の塊が生まれ、ゴネゴネと蠢くと、人間のような形へと変貌する。


 サラの手からぴょんっと降りた魔力の人形は、そのまま地面に転がっている宝珠へと向かって歩いていく。

 トテトテと意外に素早い速度で向かっていく魔力人形に反応して、透明な宝珠が急に真っ黒へ変色する。



「なるほどな」

「そう」



 目の前で魔力人形に反応して宝珠が爆発した。黒い魔力が巻き上がり、サラが生み出した魔力人形はまるで汚染されていくように真っ黒な色へと変色し、黒い粒子となって消えていく。



「あれは…呪詛の類か?」

「うん」


「俺やゲンブでもタダでは済まなかったな」

「おう、何だか気味がわりぃ」


「技術や出所を隠すための装置だろうな。こんなものまで設けているとはな」



「で、これからどうするよ?」

「ああ…」



 グレンとゲンブは視線をサラへと向ける。



「…マインの匂い、確かにする」



 サラは自然とその視線をルージュ達へと向ける。



「あの子は?」

「ああ、俺の妹だ」

「グレンの妹…家族」

「ああ」


「マインの匂いする、何か知ってる?」

「ああ、聞いてみろ、お前が家族だと話せば、何か話してくれるかもしれないぞ」


「うん、ありがとう」





ーーーーーーー




「あらん、あっさりやられちゃったわねん」

「んんっ!まさかぁ、空間中の魔力係数がぁ乱されるとあんなに脆いとはぁねぇ」

「せっかくのジャックちゃんだったのに…」


「また躾ければいいさぁ」

「でもん、勿体無いわん」


「ん、欠陥がわかったのはぁ功績だぁよ、これで商品価値をさらに高められるからさぁ」

「でもん、宣伝にはならなかったわねん」


「んんっ!この映像は…削除!だぁよ!」

「でもん、エースん、こんな悠長にしていていいのん?ゴブリンのメスのことん、グレンとゲンブに先を越されちゃうかもしれないわん」

「んんっ!それでいいのさぁ」


「どーしてん?」

「あの銀髪の少女だぁけど、迂闊に手を出しちゃぁいけぇない相手だぁよ、2人を差し向けて様子を見ようってのが良いかなぁって思うのさ」


「うふふ、策士なのねん」

「んんっ!うまくいっけば、グレンとゲンブが殺されて!ゴブリンのメスが舞い込んでくる!そんなぁ作戦さぁ!」



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