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ゼロの紋章  作者: 魚介類
第1章 誕生日
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第9話 β


第9話 『β』



「グガガガガガ!!!!」


オーガは木々が騒めくほどの咆哮をあげる。

同時に、ゴブリン達が弓矢を構え始め、包囲網を形成しているゴブリン達は剣や槍を突き出した。

そして、オーガは手で掴んでいる丸太を振りかぶる。


オーガの狙いの先には剣先を向けているベイトがいた。



「発動!剣術適正!!」


勢いよく振われる丸太

そこに技術や鍛錬などと言った研鑽はなく、ただただ暴力によって丸太は振るわれている。

しかし、自分よりも遥かに強力な肉体を持っている相手であれば、ただ振るっただけの丸太でも脅威となる。



「…大振りすぎるぞ」



ベイトは自分に振り下ろされた丸太を、チャンスとばかりに剣と魔法を使って流れるような動作で力を逃し、何とか初撃を避ける。

最小限の動作でオーガの攻撃をいなす予定だったが、想像以上に力が強く、ベイトは後退りしてしまう。



「っ!しかし…隙だらけだぞ!」


オーガから少し距離をとることになったベイト

しかし、すぐに剣を突き出して、丸太を強引に振って隙だらけのオーガへ一撃を加えようとする。

狙いは首筋だ。



「っ!」


反撃に転じようとしたベイトだが、彼に向かって無数の矢が横合いから放たれる。

オーガとゴブリンの連携による二段構えの攻撃であったようだ。

隙を生んでしまったのは、どうやらベイトの方だったようだ。




「発動!プロテクト・ウォール!!」


そんな彼を魔法で援護するのはホーリーだ。

彼女は見えない壁を魔法で作り出し、ベイトや自分を狙うゴブリンの矢を阻んでいた。

目には目を、連携には連携を。

そんな攻防が繰り広げられていた。




「グガ!?」


自分の狙いが防がれたことに驚愕するオーガ

どうやら、自分が囮になればベイトを仕留められると思っていたようだ。


「子供でも通じんぞ!」


ベイトは驚愕したオーガの一瞬の隙を突き、剣を握る腕に力を込め、横に大きく剣を振るう。

しかし、運動神経に優れるオーガは、反射的に地面を蹴って後ろへ下がることで避ける。


大振りの攻撃を避けられたベイト

すぐに、ベイトへ向かって『プロテクトウォール』に阻まれない角度から矢が放たれる。



「発動!ミサイル・パリィ!!」


ホーリーが別の援護魔法を発動する。

すると、ベイトへ向かっていた矢が空中で弾かれ、あらぬ方向へ飛んでいき、次々とゴブリン達へ突き刺さっていく。



「ギギギギーーー!!」


カウンターを決めたカタチとなり、跳ね返された矢により5体のゴブリンが戦闘不能となっていた。

これにはオーガ達も予想外だったようであり、ビースト達の動きが硬直する。



「ナイスだ!ホーリー!」

「援護は任せて!!」


そう頷き合う2人はオーガから距離が離れていた。

本来であれば、矢の雨が2人へ降り注ぐはずだった。


しかし…



「キキ…」


ゴブリン達は怯えた様子で2人を見つめている。

そんなゴブリン達へ苛立った様子で、オーガはベイトとホーリーへ指をさして叫ぶ。


「グガガガガ!!!」



「手を動かせ!」、「弾幕が薄いぞ!」そういう叫びであろうか。



すると、呼応するようにゴブリン達は矢を一斉に放ち始める。

先ほど、すぐに放った矢が打ち返され、同胞が亡き者になったばかりだ。

硬直するのは理解できる。

矢を放てば自分が死ぬかもしれないからだ。


だからこそ、臆病な彼らが矢を放つには理由が必要だ。

それでも、ゴブリン達は怯むことなく矢を放つ。

オーガの方が死ぬよりも怖い様子だ。




「…発動!ウインド!」

「ミサイル・パリィ発動!!」


2人は魔法で矢を跳ね返す。

跳ね返された矢は周囲のゴブリン達へと向かっていき、次々とゴブリンは倒されて粒子となって消えていく。


しかし、それでも、矢の雨は止まらないようだ。



「っ!」

「…ベイト、このままじゃ」



ベイトとホーリーは消耗戦になると考えて、大きく動いて矢の雨の範囲から避け続ける。

うまく森の外を目指しながら、彼らは矢の雨の範囲から逃げつつ、森の中を移動していた。



…しかし、ピタリと彼らは足を止めた。

目の前には別の落とし穴が用意されていた。

隠すつもりはないのだろう、雑に皮が敷かれており、上には雑に草木がばら撒かれている。

遠目にはわからないが、近くで見ればすぐに罠だと分かるものだ。




「くっ!やられた!」

「…来るわっ!」


オーガに押し込まれる流れで収縮した包囲網に2人はいた。

知能が低いはずのオーガの指示で、自分達は包囲網のさらに奥へと誘い込まれていたようだ。


すでに周囲は狭く囲われており、背後には飛び越えられない巨大な落とし穴

左右は木々に潜んだゴブリンの軍団

そして、正面には歪んだ笑みを浮かべるオーガ



「グガガ!!」


オーガが指示すると、矢の雨が再び2人へと降り注ぐ。

本来であれば矢を防ぐのに魔法を使うよりも体を動かした方が効率が良い。

体力と魔力では、前者の方が回復が容易く、持久力もある。


しかし、すでに包囲されているため、その場から大きく動くことができず、雨のように降り注ぐ矢に対して「回避」ではなく「防御」しか選択肢がなかった。



見えない壁に阻まれて矢は2人へと届かない。

しかし、こちらから反撃もできないため、このままでは消耗するだけになる。




「…ミサイルパリィで撃ち返せないか!?」


ベイトは剣や魔法で降り注ぐ矢の雨を捌きつつ、周囲へ目を配る。

矢を放つゴブリンとは別に、剣や斧を持ったゴブリンが今かと待ち構えていた。



「ダメよ!カバーできる範囲が狭すぎるわ!」

「くっ!このままだとジリ貧だぞ!?」

「分かっているわよ!!」


「くっ!あいつ…俺達をこのまま消耗させるつもりだな」



ベイトは悔しそうな顔で、奥にまで下がったオーガを見る。

ニヤニヤとしながら手下のゴブリンへ次々と矢を撃たせていた。

その嫌味な笑顔は、まるで消耗していく2人を楽しそうに嘲笑しているようであった。


こちらが弱った素振りを見せれば、周りを囲うゴブリンが四方八方から襲いかかってくる。

そうなれば死は確実なものとなるだろう。



「…ダブル発動!!ミサイルパリィ!!」

「ホーリー!?」


魔法を二重で発動させるホーリー

このままではジリ貧だと感じたのか、放たれた矢を打ち返し、状況の打開を考えたようだ。



彼女の考えは正しい。

ゴブリンを減らすことには成功していた。


打ち返された矢は、次々とゴブリン達へ命中していく。

絶命したゴブリンは淡い緑の粒子となり、その場に石斧や木の槍を残して消えていく。

矢を放っていたゴブリンにも命中したのか、矢の雨がピタリと止まる。


形勢が一気に変わるのを肌で感じる。

ホーリーの渾身の魔法であった。




「はぁ…はぁ…」

「ホーリー!大丈夫か!?」


「はぁ…ええ…」

「魔法の二重発動は危険だぞ!」

「そんな余裕なかったでしょ…」


ホーリーはガクッと体勢を崩す。

手にした杖を、文字通り杖代わりにし、立っているのがやっとの様子だ。



「っ!」


そんなホーリーを庇うようにして前に立つベイト

ゴブリンの数は少ない。

しかし、オーガはいまだに健在だ。




「グガガガガガ!!!」


2人の魔力が尽きてきたと見たオーガ

顔を嗜虐心で歪めながら、間合いを再び詰めてくる。


もはや手下など不要

そんな様子で迫るオーガにベイトは手を振り払う。



「ウインドカッター発動!!」

「グガッ!!」


反撃できないだろうとタカを括っていたオーガ

そんなビーストへ遠慮なく魔法を放つベイト


彼の攻撃魔法を、咄嗟に丸太で魔法を受け止めたオーガ

しかし、手にした丸太は真っ二つに切り裂かれ、自分の胸も大きく抉られていた。



「ガ…イデ…イデェエエエエエ!!!!」

「発動!剣術適正!!」


ゴブリンの数が減り、ほぼ一騎討ちの状態になったベイトとオーガ

オーガさえ倒せればこの状況を突破できると考えたベイトは、最後の魔力を振り絞り、剣を構える。




「…ガァアアアア!!!」


オーガの咆哮と共に、その体皮はさらに赤く染まっていく。

額にある紋章が「β」から「γ」へと変わっていた。



「っ!?」


その変化にベイトが気付いた時、すでに時は遅かった。

彼の目には見えないほどの速度で振われた腕によって、脇腹を穿たれるベイト

口から血を吐きながら、彼の体は森を滑空していく。



…どこかで着地したのだろうか。

「ドサリ」と彼が地面に背をつける音は響かなかった。




「…グガガガ」

「ベイト!?」


ホーリーはベイトが飛ばされた方向へ向かおうとする。

しかし、彼女はドサリと前のめりに倒れ、杖がカランカランと地面に転がる。

魔力切れで動けない様子だ。



「ベイト…助けなきゃ…」


地面を這いつくばろうとする彼女の首根っこを掴んで持ち上げるのはオーガだ。



「グヘヘヘヘヘ!!」

「や、やめて!はなしっげぇ!!」


持ち上げたホーリーは手足をバタバタとさせて抵抗する。

そんな彼女の腹部を軽く小突くオーガ


ホーリーは口から血を吐き、力なく項垂れる。

無抵抗となった彼女へ引導を渡さず、オーガはどこかへ持ち帰ろうと肩に担ぐ。


そして、犠牲になったゴブリンへ哀悼の意思などまるでない様子で、オーガはその場から立ち去っていく。


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