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約束の地シリーズ(該当神格:カルデル)

約束の地の乙女

作者: リィズ・ブランディシュカ
掲載日:2021/04/18








――思えば、私の人生はいつも奪われるばかりだった。


――時間も、青春も、友達の幸福も。








 私の目の前にいる貴族の男性が、喋った。


 その口から吐き出されたのはどうしようもないセリフだ。


「俺は、お前と婚約するのは元から嫌だったんだ。他の女といた方が気楽に遊んでいられて良い」


 吐き捨てるように私の婚約者が、そう言った。

 

 貴族とはそうやって過ごすものではないはずなのに。

 怠惰に過ごす事を当たり前に考えているのだろう。


 彼は、何度愚かな行為を繰り返すつもりなのだろうか。

 一体いつになれば、学ぶというのだろう。


 伝わらないと知って、私は口を開いた。


「貴方のしていることは間違っている。貴方の考えも。そう言ってきたのに」


 しかし彼は聞き流す。


 この人はもうずっと、成長しないままなのではないかと、そう思った。


 貴方の隣に立っていた事がどれだけ苦痛か、分からないでしょう。


 きっとすぐに、あの女も分かるようになる。

 取り繕われた事実の裏を。彼の本当の姿を。

 それとも、その真実を受け入れるほど、彼女も同類なのだろうか?

 この人がつくった次の女性は、何を思うのだろうか。


「お前をこの国から追放することに決めた。新しい女ができたから、お前はもう用済みだ!」










 神は約束の地から黄金の天使を追放した。


 天使は憤り、なぜと訴える。


 神は、黄金の天使に言葉を尽くした。


 取り繕う事ばかりにかまけていて、中身がまったく伴っていないからです、と。


 天使の作った箱庭がある。


 それは、はすばらしい出来だった。


 輝く森林に、草原。透き通る海と川。蒼穹の大空はどこまでもどこまでも続いている。


 しかし、それは見た目だけ。


 箱庭としては、まったく不出来なものだった。


 森と草はすぐに崩れ落ちる。

 海と川は、猛毒のかたまり。

 蒼穹の青空は無限に続き、迷いこんだら出られない。


 世界をつくる時に、バランスを崩すような箱庭を作ってはならない。

 神は、事前にそう言い伝えていたにもかかわらず。


 黄金の天使は最後まで不満の言葉をのべ続けた。追放されるまで。


 その後、彼が作った箱庭は放置され続ける。


 そのままではあまりにもしのびなかったため、神は崩れ落ちる森と草をととのえ、猛毒の海と川を浄化し、無限に続く大空に終わりを作り、完成させた。


 しかし、他の箱庭とあわせて、一緒に繕うわけにはいかない。


 あまりにも、個を主張しすぎているそれが加われば、バランスを崩してしまうからだ。


 そのため、その世界は切り離される事になった。


 やがて切り離されたその世界に、生命が誕生する。その生命は、知恵を身に着け、技術を培い、文明を築いた。


 それの名は、人間という。









 追放された私は、砂漠を歩いていた。


 手持ちの筒を振るうような愚かな事はしない。


 体力を無駄に使うだけだからだ。


 もう、とうに水はつきていると分かっていた。


 私はこの先、赤茶けた大地で、このまま干物になるのを待つしかない定めだ。


 きっとすでに結末は見えている。


 私は、何も知らない赤子でも、夢見る少女でもないのだから。


 けれど私は、今にも枯れはててしまいそうな、足を動かす。


 高尚な信念も考えもないまま、ただ意地を張り続けて進んでいた。


 私を追放した彼らが、まだ私を見ているかもしれない。


 私が倒れるのを、今か今かと待ち続けているかもしれない。


 そして、指をさして笑うかもしれない。


 あえてそう思い込み、己を叱咤し続けながら。


 けれど実際に、ありもしない視線を感じていた。


 それは、人間の体力が限界に近付いたがゆえの錯覚だったのだろう。


 とにかく私は、そのような強迫観念に突き動かされていた。


 もうあれから三日も経つ。


 私の運命を決めた、追放の日から。







 おそらく、そのまま歩き続けていても、どこかへたどり着く事はなかったのだろう。……一人きりならば。


 しかし、結末はそうはならなかった。


 状況が変わる時は、とうとうその時がやってくる。


 私は、まったく湿り気のない、乾いた土の上に倒れこんだ。


 思考はもう、平常時のそれにはならなかった。


 夢があった。


 約束したのに。


 友人に。


 その場所へたどりつくと。


 必ず。


 抱いていた夢は夢のまま色あせて、枯れていく。


 婚約者に搾取され、夢を追う余裕もなく利用され、ひどく哀れな形へと小さくなっていった。


『夢など馬鹿げている、忘れてしまえ』

『そんな事より、やるべき事があるだろう』

『友人との約束? 利用し利用されるのが人間だ』


 この体に水を与える事はできない。栄養を与える事もない。


 私は、最後に夢を見たのはいつだったかと思いおこしながら、瞼を閉じた。







 約束の地。


 それは、誰もが安心して眠りにつく事ができる理想の場所だ。


 神様が作った素晴らしい世界。


 そこにたどり着く事ができれば、全ての生命は穏やかで幸せで、温かい生活を送る事ができる。

 そう言われていた。


 子供でも老人でも、切り捨てられることのない。

 満ち足りた人生を、送る事ができるだろう、と。


 この世界で弱い人間は、辺りをうろついている死の神に生気を奪われ、やがて死んでしまう。

 それは遠い昔、身勝手な黄金の天使が、世界の作り方に失敗したためだ。

 神様に手をいれてもらったものの、調和の取れない世界の在り方が、死の神に魅入られてしまったらしい。


『世界の在りよう? そんな事を気にしているのか? 俺達、富める者には関係ないだろう』

『くだらない事を考えるな。貧しい者が死ぬなんて、普通の事だろう。お前の行動は、すべて無意味な事だ』


 食べる事も出来ない、家の中で疲れを癒す事も出来ない者達は、生きながら死に近づいていくのが、この世界の常識だ。


 この世界では、強靭な肉体と精神をかねそなえた人間だけが、生き残る事を許される。

 そしてその次に、生活に余裕のある者も、死の神から逃げる事ができる。


 弱く貧しい人々はいつでも、死におびえながら生活し続けなければならなかった。


 そうでなくても……。


 死の神はあの手この手で、人間から生気。生きる気力を奪い取ろうとする。


 夢に出て、耳元でささやいて、ある時は人を操って。


 この世界にいる人達は死に魅入られ続けてきた。


 しかし、希望はあった。


 約束の地には、死の神が来ない。


 そこにたどり着きさえすれば、死に怯えることなく、人間らしい暮らしを送る事ができるのだ。


 多くの者達がその約束の地を探し求めた。


 だが、今に至るまで誰も到達できていない。


 手がかりが微塵もなく、見当さえつかないまま。


 そのため、存在しないものとして考えている人が多かった。







 婚約破棄とともに犯した覚えのない罪をなじられ、国を追放された。

 罪人となった私にあるのは、哀れみによって持たされた水筒と、最初から身に着けていた服だけ。


『どこへなりと行ってしまえ。良かったな。子供の頃からの夢を叶える事ができるぞ』


『十中八九。あるかどうかも分からない場所にたどり着く前に死ぬだろうがな』


 頭の中に憎らしい声が反響する。


 そんな元婚約者のセリフと共に私は、人間の足では到底踏破できない砂漠へ放り出された。


 実質死刑だった。


 しかし、憤る事も出来ない。


 気力だけで、枯れた土の上を歩き続けて三日。


 私はとうとう倒れてしまっていた。


 きっと、この機会を死の神が見逃すはずがない。


 そう思っていたのだが。


 命が奪われる様子がなかった。


 それどころか、どんどん回復している。








 誰かが私を、日陰に移動させたらしい。


 目を開けると、見知らぬ青年が私の顔を覗き込んでいた。


 彼は、「大丈夫か?」とこちらの体調を慮っていた。


 喋ろうとしたけれど、潤いを失った喉がうまく動かない。言葉を紡ぎだせない。


 水の入ったコップを手渡されたので、一瞬で飲み干した。


 体に染み渡る。


 生き返るような心地だった。


「あり、がとうございます」


 お礼を言って、相手の様子を見る。


 彼がこちらに好意的な人間だという事は、見ていて分かった。


 砂漠に倒れていた女を助け、わずか一杯でも、水を恵んでくれたのだから。


 それだけでも十分に幸運だと思ったが、それ以上もあるとは。


 このタイミングで、善人に出会う事がどれだけ大切な事か。


 何としてでも、元婚約者とあの女性より先に約束の地へたどり着かなければならないから。


 私は、言葉を選ぶ余裕もなく、目的だけを述べた。


「約束の地へ、行きたいの。私をつれてって」

「それって、おとぎ話の? 本気か?」


 私は頷いた。


 世界中の人々はその情報を知らない。

 でも私は知っている。

 婚約者を支えるための教育の合間に、見つけ出したから。


 二十四時間監視されながら勉強内容を詰め込まれていた時は気が狂うかと思ったが、約束の地を見つけるという支えがあったから何とかやってこれた。


 信頼のできる使用人に資料を持ってきてもらい、あらゆる手をつくして一人になれる時間を作り出し、調べた情報。


 行き方はもう知っている。

 後はそれを実行するだけ。







 私には知識がある。


 この世界に生きる私には、知るはずのない知識が。


 それは英知の書のようでもあり、未来予知の書のようだった。


 幼い頃からその知識を知っていた私は、その知識に助けられてきた。


 その知識は、他愛のない恋愛物語だ。

 とある一人の少女の。


 仮としてこの少女を主人公と呼ぶ。


 私が知っているのは、この主人公が多くの男性と思い出を作り、その中の誰かと結ばれるという話。


 その知識が頭に浮かんできた時は、意味が分からなかった。


 頭がおかしくなったのかと思った。


 しかしどこからもたらされた情報であっも、有益である事には間違いなかった。


 私にそれを、有効活用しないという選択はなかった。


 一見して考えてみると、馬鹿馬鹿しい話。他人の一生を見せられているだけに思えただが、たった二つだけ重要な情報があった。だから、私はその内容を急いでメモした。絶対に、忘れ去るわけにはいかなかった。


 それは私がその物語の中の悪役(仮として悪役令嬢と呼ぼう)になるという予知と。

 そして、主人公(私を捨てた婚約者が言っていた次の女)は物語の最後に、何かから情報を得て約束の地へたどり着く、という予知だ。


 私はその予知で、主人公が得るはずだった知識を、事前に持つ事になった。


 だから、少ない時間の調べものでも、約束の地を導き出せたのだ。


 物語の流れを考えると、主人公とされる女性はまだ、旅立っていないはずだ。

 どこで情報を得るのかは知らないが、まだ時間的な余裕はある。

 なら、このまま進めば理屈の上では主人公より早くたどりつけるはずだ。








 体力を回復させた後、私は再び旅に出た。


 すべては約束の地へたどり着くために。


 私を拾ってくれた男性、ウォルトも同行してくれた。


 彼はけっこうお節介な人だった。


 ただついていくだけ、と言いながらも私の事をあれこれ気にかけてくれるのだから。


 食べ物もわけてくれるし、護身用の武器もくれた。


「こんな場所に放り出されて運よく生き延びたような人間に興味が湧いたから」と言っていたけれど、それはおそらく照れ隠しだろう。


 私が何かに躓けば手を差し伸べてくれるし、悪夢にうなされれば起こしてくれるのだから。


 ある日、そんなウォルトが聞いてきた。


「あんたはなんで、そうまでして約束の地へ行きたいんだ?」

「約束したからよ。友達と」


 それは大切な話だ。軽はずみに人に話すような内容でもない。けれど、手助けしてくれる彼になら、話してもいいと思った。

 だから私は、友人の少女フィルトについて話した。







 数年前まで、私には仲の良い友達がいた。


 フィルトという年下の少女だ。


 私の方が年上だから、友達でありながらも姉妹のような仲だったのかもしれない。


 フィルトは無邪気な笑顔が良く似合う少女で、甘え上手だったから。


 私はそんな彼女の事が大好きだったけれど、私の元婚約者が、フィルトの幸福を奪い去った。


 私に近づかないようにと、彼女を追い詰めて、家を困窮させて、行方不明にさせた。


 彼女達の家は商売を行っていたのに、ありもしない噂を流されて、誹謗中傷を受けるようになってしまった。それで生活が成り立たなくなった。


 きっとそれが理由で、彼女や彼女の家族は姿をくらましてしまったのだろう。


「ウォルト、とある男はフィルトの幸せを奪ったの。だから私は、その子と交わした約束を果たしたい。約束の地へ行くという願いを叶えたい」


 だから、前へ進む事をやめるわけにはいかないのだ。


 私の話を聞いた彼は目を細めた。


「あんたは優しいんだな」


 優しくなんてない。


 本当に優しかったら、元婚約者の言いなりにはならなかった。


 破滅するまで結局私は、彼の言う通り大人しく言われたことをやっていただけなのだから。


 いつか私の言葉を聞き入れてくれるなど、甘い幻想を抱いていたりしなければ、あんな事にならなかったのに。








 山を越え。

 谷を越える。


 道のりは長く、険しかった。


 途中で何度も迷ったし、倒れそうになった。


 けれど、そんな時は頼もしい同行者ウォルトが手を差し伸べてくれた。


 どうしてそこまでしてくれるのか。


 そう尋ねたら彼は、「なんでか俺も分からない」、「でも、あんたの行く末が気になるから」と言った。


 旅の終わりになっても理由は判明しなかったけれど、恋愛事で痛手を負った私には、友人のようなその距離感が心地よかった。







 滝の裏側にある洞窟を通り、さらにその洞窟の落とし穴に飛び込む。

 その後は、せまりくる幻の亡霊の中を臆せず進む、という侵入者泣かせのトラップを、いくつもくぐりぬけていった。


 約束の地へ向かうにあたって、こちらの頭を悩ませてきた試練は、そのように意地の悪いものばかりだった。


 だがとうとう、そしてそんな努力の果てに見つけた。


 その先にあったのは、約束の地だ。


 そこは、金銀財宝が眠るような場所ではなかった。


 けれど、ありとあらゆる可能性が眠る場所だった。


 死に絶えたはずの動物達が血をつなぎ、跳ねまわり、駆けまわる。


 この地の情報は、様々な分野で、人々に恩恵を与えるだろう。


 弱さのせいで絶滅したとされる動物達が生きているのだ。


 ここには、死の神の手が及ばないからなのかもしれない。


 故郷の国の、西にあったとある国を思い出す。

 常日頃から故郷の国と支え合っている国だ。


 ここの土地は肥沃だから、その国のやせた土地で苦しむ者達を移住させることもできるだろう。


 川を国境にして、向かいあう国の事も思い出した。


 国土がせまく、難所だらけの小国。そこで不便な思いをしている人達も救える。


 それに、動物の生態を研究して、病への特効薬などを作り出す事もできるかもしれない。


「ウォルト、ここまで来れたのはあなたのおかげよ。ありがとう」

「大した事してねーよ。俺は興味本位でついてきただけだぜ」







 労いあう私達の前に、約束の地の主が姿を現した。


 それは、神と呼ばれる存在なのだろう。


 光をまとった何か。人の姿を形どった存在。

 その輪郭は定まらない。女性のようにも男性のようにも、子供のようにも老人のようにも、見えた。


 おだやかな笑みを浮かべたその存在は、こちらを見て問いかけた。


「外からの旅人よ。この楽園に何を求める?」

「それは」


 しかし、その問いかけに応える前、全てを言い終える前に、言葉を遮る者達がいた。


 元婚約者と彼の女だ。


 まさか、こちらをつけていたのだろうか。


 追放された私を笑いものにするために?


 ここに来るまで、私はまったく気が付かなかったのに。


「まあ、ここが約束の地なのね! 素晴らしいわ!」

「あいつから目を離さなくて正解だった! これで俺達の名前は歴史に残るぞ!」 


 ――私の人生はいつも奪われるばかりだった。


 ――時間も、青春も、友達の幸福も。


 けれど……。


「今度こそは奪われるわけにはいかないわ。ウォルト!」

「おう、こいつらがお前を追放した奴等か」


 私達は、護身用の剣をつきつける。


 追放された時に剣を持っていなかったから、ウォルトから「身を守るためには必要だろ?」ともらった分であるが。


 すると、元婚約者が「誰に向けている」と言ってすごんだ。


「追放された女に、素性も知れない人間が、この俺に歯向かっていいと思っているのか」


 その言葉に苦い記憶がよみがえった。


「傲慢ね。貴方のその考え、前々から大嫌いだったわ」


 彼らは二人、私達も二人。

 けれど、逞しく生き抜いてきた分、私達の方が強いはず。


 周りを見回す。

 彼ら以外には人影がない。


「誰かに横取りされないように、貴方達は二人だけで来た。貴方達がここにいる事は、私達以外知らない。そうよね?」


 図星を突かれたのだろう。


 元婚約者がさっと顔色を変える。


 周囲に護衛の気配はない。


 ここでは権力も地位も、彼らを守ってはくれないのだ。


 富める者の権力にあぐらをかいていた彼らが、どうしてここまでこれたのか。それは、知識が教えてくれた。


 絶滅危惧種である飛竜。

 金持ちの鑑賞用に取引されている生物を使ったのだろう。

 恋愛物語の中でも、その存在が描写されていた。


 さすがに彼等も暇ではないので、二十四時間見張っていたはずはないだろうが、飛竜を使えば国から国まで行くのに数分もかからない。

 私達は、できるだけ人里の近くを歩くようにしていたから、進む方向に見当をつければ、見つけやすかったのだろう。


 今まで上空から笑われていたのだと思うと虫唾が走るが、これはやり返すチャンスだ。


 剣を強く握りこむ。


 すると、彼等も護身用の剣をもっていたのだろう、装飾過多な長剣をこちらに向けた。


 けれど、負ける気がしない。


「そんな見た目だけの剣に負けるとでも?」


 私もウォルトもためらわなかった。


 襲い掛かってきた彼らを迎え討つ。


 私は女性を。

 ウォルトは元婚約者を。


 結果は、こちらの完全勝利だ。


 女性は剣を扱いなれていなかったし、元婚約者の剣もお行儀のよい見た目だけの物だった。


 すぐに地面に膝をつく事になった。


 すると敗北した彼らは、この約束の地の主を利用しようとした。


「なら、そこの神に決めてもらおうじゃないか。約束の地を見つけた者として、どちらがふさわしいのかを!」


 自信満々に唾を飛ばしながら叫ぶ男の姿は醜かったけれど、なぜだかとても哀れにも見えた。


 すると、約束の主は王子たちの元へ歩み寄った。


「ははっ、やっぱり。俺達が選ばれないわけがない!」

「やったわ。これで名誉も富も私達の物よ!」


 勝ち誇った笑みを浮かべる彼等だが、しかし彼らは不思議な力によって、石になっていった。


 足元から固まっていく彼らは絶望の表情を浮かべる。


「そんな、なぜだっ!!」

「いやっ、助けて!」


 どうしてそうなるのか分からない、と心の底から思っているような表情で、彼等は石像と化していく。

 本当に理由が分からなかったのだろう。


 彼らはその時が来るまで、全ての物に罵声を浴びせていた。


 私は彼らが完全に石像になるのを見届けてから、主に頭を下げた。


 この地の主は、私達を選んでくれたようだ。


 こちらには何もしてこない。


「改めて、願いを聞こう」

「この箱庭にある全ての知識と自然を、皆を助けるために使わせてください」

「その願い、聞き届けた」


 言い終わった後、力が抜けて崩れ落ちたところをウォルトに支えられた。


「よく、ここまでがんばったな」

「ありがとう」






 その後、約束の地の恩恵で多くの人が救われた。

 状況の悪かった国も、様々な面が改善され、人々の顔に笑顔が戻った。


 私達は、多くの人々を救った者として、有名になった。


 一方、私達を襲った元婚約者達は、欲深い悪人として語り継がれる事になった。


 数年後。


 ウォルトと共にフィルトの家があった場所を訪れた私は、過去の出来事に思いをはせていた。


 彼とは、あれ以来も交友を続けている。


 すぐにどうこうなるような関係ではないが、誰よりも親しい間柄になった。

 傍にいても苦にならないため、穏やかな時間を共有できている。


「本当にあの時、貴方に会えてよかった。大切な友達との約束を果たす事ができたのだから」

「俺は何もしてないだろ。あんたについてっただけだ」

「それでも、心強かった」


 肩を並べ語り合う私達。

 そんなこちらに近づいてくる者がいた。


「あれっ、久しぶりだね。大きくなったから一瞬誰だか分からなかったよ」


 年月が経っても変わらない声だ。

 懐かしさを覚えたその口調には聞き覚えがあった。


 私は振り返る。


 そこにいた人、商売道具を山ほどかかえたその少女は、こちらの姿を見て私の名前を呼んだ。


「あちこちの国の皆が噂してるよ。有名になったね、リグレットちゃん。約束覚えていてくれたんだ」




ここまで読んでくださってありがとうございます。

感想は返信ができないかもしれません。

最近ごちゃついててすみません。


雨音

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