ユキミノ
ほっこりストーリーです。
すこしでもほっこりしてもらえれば幸いです。
雪の童話 「ユキミノの大冒険」
ある寒い寒い冬の日、雪の中に埋もれていた小っちゃい卵にぷちんとヒビが入って中からそれはそれはかわいらしい女の子が生まれました。
「う、うーん、もう朝なの~」
彼女の名前はユキミノ、雪のように白い体をしたかわいらしい虫の女の子です。
「って、ここどこ」
ユキミノが目覚めるとそこは一面真っ白の銀世界でした。
「うう、寒い」
あまりの寒さにユキミノは細長い体を丸くしてしまいました。
「このままじゃ凍死しちゃうよ~どこか温まれる場所はないのかな」
まわりは雪が積もってるだけで、他に何もありませんでした。
仕方なく、ユキミノはどこか温まれる場所はないか探しに行くことにしました。
「えっほ、えっほ、くねくね」
しばらく雪の上をくねくね歩いていると、ユキミノは歩く落ち葉に出会いました。
「わ、落ち葉が歩いてる、なんでなんで」
興味津々にユキミノは落ち葉をちょんちょんしました。すると。
「やめてよ~」
落ち葉から声が聞こえました。
「わ、しゃべる落ち葉だ。」
「ちがうよ~ぼくだよ」
よく見るとちょこんと小っちゃいありさんが落ち葉を運んでいました。
「ありさん、何で落ち葉なんてはこんでいるの」
「冬は寒いからね、落ち葉を集めて巣を温めるんだよ」
「なんで落ち葉を集めると巣をあたためられるの」
「落ち葉をいっぱい集めて巣の入り口をふさぐんだよ。そうすれば寒い風が巣の中に入らないから、あったかいんだよ」
「へぇ~、そうなんだ。わたしも落ち葉を集めたらあったかくなれるかな」
「うーん、ここら辺の落ち葉は全部ぼくが集めちゃったんだ」
「え~、そうなんだ、がっかり」
残念がるユキミノを見たアリさんは運んでいる落ち葉を少しだけ切ってユキミノに渡しました。
「よかったらこの落ち葉あげるよ、君一人ならくるまれるんじゃないかな。」
「え、ほんと。やったー、ありがとうありさん。」
ユキミノはありさんから落ち葉を少しもらいました。
ユキミノはさっそくアリさんからもらった落ち葉を体に巻いてみました。
「わあ、すっごくあったかいよ、ありがとうアリさん」
「えっほ、えっほ、くねくね、なんだかお腹が減ってきたなあ」
アリさんと別れた後、ユキミノはもらった落ち葉を体に巻いてしばらく歩いていました。すると、突然ユキミノのお腹がグーグーなり始めました。
「うーん、なんか食べれるものはないかなあ。」
ユキミノは辺りをきょろきょろしましたが、おいしそうな草も果物も見つかりませんでした。
「ゆきばっかり、このままじゃ体は温かくてもお腹がつめたくなっちゃうよ」
しばらく、ユキミノは体に巻き付けた落ち葉をずるずる引きずりながら歩いていました。
すると目の前に突然茶色い山がどしんと空から降ってきました。
「おわ、なにこの山」
よく見ると目の前の茶色い山には柔らかそうな茶色い草がそこかしこにいっぱい生えていました。
「わあ、ご飯がいっぱい、バク」
ユキミノが柔らかそうな草を口いっぱいに頬張ると
「いて」
茶色い山がずしんと突然動き始めました。
「わわわ、お山が動いた」
「ああん、山じゃねえよ、俺はクマだよ」
そう言うと寝ていたクマさんは起き上がって辺りをきょろきょろしはじめました。
ユキミノがお山さんと思っていたのはクマさんのおっきなお尻でした。
「おーい、こっちだよ、こっち」
「うん、ああ、おちびさんか、さっき俺のお尻を噛んだのは」
「ごめんなさい、クマさんのお尻だってわからなかったの・・・どうしてクマさんはお空から降ってきたの」
「降ってきたんじゃないよ、落ちてきたんだよ」
「どうして落ちてきたの」
「気になった果物をとっていたんだよ」
そう言うとクマさんは手に持った赤い果物をユキミノに見せてくれました・
「わあ、おいしそう」
するとユキミノのお腹からかわいい音がキューと鳴っちゃいました。
「なんだ、腹が減ってんのか」
「うん、でも雪ばっかりで全然食べ物が見つからないの」
「しょうがねえな、じゃあこの果物少し分けてやるよ」
そう言ってクマさんは手に持った果物を少し割って、ユキミノにくれました。
「わあ、ありがとうクマさん」
「いいってことよ、じゃあ俺はこれから冬眠の準備があるから、またなおちびちゃん」
「うん、ばいばいクマさん」
クマさんと別れた後、ユキミノはクマさんからもらった果物をパクパク食べて、お腹いっぱいになりました。
「んしょ、んしょ、くねくね」
クマさんと別れてしばらく歩いていると、突然
パク
「え、きゃあああああああ」
突然ユキミノの体が空を飛んでしまいました。
「え、え、どうなっているの」
慌てるユキミノ。しかし、空を飛んでいる間ユキミノの体は全く動きませんでした。
そして、小枝や葉っぱでできたベッドにユキミノはポイっと投げ入れられました。
「あたた、どうなってるの」
困惑するユキミノ。そんなユキミノをギョロッとおっきな目玉が覗いていました。
「ひっ、化け物」
「ちがうよ、僕は化け物じゃないよ。」
「え、じゃああなたは誰なの」
「この子は私の息子、私たちはツバメの親子なんだよ」
「ツバメさん?」
「そうよ、そしてあなたは私の赤ちゃんのご飯よ」
「え、私、ご飯じゃないよ」
ユキミノとツバメのお母さんが話していると突然、きゅるるとかわいい音がツバメの赤ちゃんのお腹から聞こえました。
「ママ~、僕虫さんなんか食べたくないよ、果物が食べたいよ~」
「わがまま言わないでちょうだい、今は冬だから木の実もほとんどなってないの、この虫さんで我慢してね」
「ええ~、そんな~」
ツバメさん親子の話を聞いていたユキミノはあることを思い出しました。
「くだもの?果物がたべたいの」
「うん、僕果物大好き」
「私果物がなってるところ知ってるよ、クマさんに教えてもらったの」
「本当、それじゃ、その場所を教えてくれるかしら、そしたらあなたを食べないでおいてあげるわ」
「うん、わかった」
ユキミノに果物がなっている場所を教えてもらったツバメのお母さんは、さっそくその場所まで果物を取りに行ってしまいました。
お母さんは背中にいっぱいの果物を背負って戻ってきました。
「わあ、果物いっぱい」
「こんなに果物がなっている木があるなんて知らなかったわ、お礼に好きな場所まで運んであげるけどどこがいいかしら」
「え、そうだな、うーん」
ツバメのお母さんにどこまで運んでもらおうか悩んでいると、ツバメの赤ちゃんが口にユキミノと同じくらいの黒い虫さんを咥えてユキミノの所まで持ってきました。
「虫さん、虫さん、この子、お母さんが持ってきてくれたんだけど、おいしそうじゃないからずっと隠してたんだ。この子、君のお友達」
「え、うーん違うと思うけど、君、私とお友達?」
ユキミノの前にぽとっと落とされた黒い虫さんは何もしゃべらずただぶるぶる震えていました。
「うーん、困ったなあ、あ、そうだ、ツバメさんこの虫さんがいたところまで私とこの虫さんを運んでくれる」
「ええ、そのくらいお安い御用よ」
ユキミノは虫さんと一緒にツバメのお母さんの背中に乗って、大空を飛びあがりました。
「うわあ、すごーい」
ツバメさんの背中から見る景色は、歩いている時と同じ一面真っ白。
歩いているときに見える景色と同じ真っ白なのに真上から見る真っ白にユキミノはとても感動しました。
「ねえ、すごいよ、見て見て」
ユキミノは黒い虫さんにもこの景色を見せてあげようとしましたが、虫さんはまだぷるぷる震えてました。
「・・・・・・」
それを見たユキミノさんは静かに景色を眺めることにしました。
しばらく、ツバメさんの上で景色を眺めてると、突然ツバメさんは急停止しました。
「わわ、どうしたの」
「到着したよ」
「え、ここ」
ツバメさんが降ろしてくれたのは雪以外何もない真っさらな場所でした。
「じゃあ、あなたたち、またね」
「うん・・・じゃあね」
ユキミノ達を降ろすとすぐにツバメさんは赤ちゃんの所へ戻っていきました。
「ねえ、あなたがいた場所ってここ」
ユキミノがそう聞くと、ずっとプルプル震えていた虫さんはコクっと小さくうなずきました。
「でも、ここ雪だけで何もないよ、お母さんは、お友達は」
「いないよ」
「え」
「僕が起きた時、誰もいなかったんだ、お父さんもお母さんも、誰も・・・僕はずっと、ひとりだったんだ・・・」
「そっか・・・」
虫さんはまたぷるぷる震えはじめた。今度は目から涙をこぼして。
ユキミノはそんな虫さんの手を取ってギュっと握りました。
「じゃあ、私と一緒だね」
「え・・・」
「私も起きたときは雪だけで誰もいなかったんだ。でも、その後くねくね歩いてたらアリさんに会ったんだ。その後はクマさん。その後はツバメさん。そして・・・君に会った」
「ぼ、ぼくと・・・」
「うん、君と会った。君は、私と会ったね。」
「・・・・・・そう、だね」
初めてユキミノは虫さんが笑っている姿を見ました。
「うう、寒い、虫さんも一緒に落ち葉にくるまろう」
「う、うん」
するとユキミノは虫さんと一緒に落ち葉の中にくるまってしまいました。
「あ、そういえば、虫さんって何て名前なの」
「僕の名前はハルミノっていうんだよ」
「ふうん、そうなんだ、よろしくねハル」
「う、うん」
ユキミノは落ち葉の中がさっきよりもぽっかぽっかになっていることに気づきました。
心も体もぽっかぽっかになったユキミノは雪が解けるまで落ち葉の中でぬくぬく暮らしていきました。
めでたし、めでたし