例えシスコンと呼ばれようとも、ロリコン王子に可愛い妹は渡さない
突然だが、俺の妹は可愛い。めちゃくちゃ可愛い。年が離れているせいか、余計にそう思う。
金色に輝くふわふわの髪に、宝石みたいに大きな瞳。頬は桃みたいなピンクで、唇はふっくらしてる。声なんて小鳥みたいだし、「お兄様」と呼びながら向けられる笑顔なんてもうほんと言葉にできないくらいに愛らしい。
ああ、自己紹介を忘れていた。俺の名前はアレックス。アレックス・ノーランド。
ノーランド公爵家の長男で、我がターランス王国の第一王子・シリル様の側近と不本意ながらも呼ばれている。
俺と殿下の出会いは、正直覚えていない。子供のころに一度顔を合わせたことは覚えているが、その時の印象や交わした会話などは一切覚えていない。だから大人になって再会した時が、俺にとっての初めましてだと思ってる。
その時の印象はもちろん覚えている。「整った顔してんなー」だ。特別な会話をしたわけじゃなく、ただ挨拶を交わしただけだった。お互いに父親の付き添い。そんな状況で世間話ができるほど、俺は心臓が強くない。
が。あれ以来、殿下に呼び出されることが徐々に増えていった。呼び出し自体は別に構わない。相手は王子。俺、公爵家の跡取り。父上の仕事の手伝いで城に上がることは度々あったし、王子の呼び出しもそういった類のものだったから断る理由もない。仕事ができる王子とする仕事は、各段に楽だ。それはいいんだが。
可愛い妹と! 遊ぶ時間が減ったのだけが気に入らない!!
「お兄様、今日は一段とお疲れですね」
今日も今日とて城に呼び出され、一仕事を終えて。屋敷に帰ってくると、心配そうな妹が出迎えてくれた。
「アナの可愛い顔を見たら全部吹っ飛んだから大丈夫!」
ぎゅうと挨拶代わりに抱きしめれば、アナもきゅっと抱きしめ返してくれる。どうだ、これが俺の妹のアナベル、通称アナだ!
俺はもう18歳になったが、アナはまだ8歳だ。あと1ヶ月もすれば9歳になる。まだまだ小さくて可愛いこの子だけが、俺の癒しだった。
「アナは今日は何をしてたんだい?」
「お勉強を頑張りました」
「そうか! ちゃんと勉強して偉いな!」
褒める時は全力で、が俺のモットーだ。ぎゅうと抱きしめながら頭を撫で回せば、きゃあと楽しそうな笑顔が返される。ああ、可愛い。ほんと可愛い。可愛すぎて俺の情緒は常に不安定だ。
とはいえ、ここはまだ玄関ホールだ。いつまでもここにいるわけにはいかないのは、流石の俺もわかってる。
ひょいと小さな体を抱き上げれば、慣れているアナは躊躇うことなく首に手を回してくる。腹が減っていた俺は、そのままダイニングへと歩き出した。
そんな日常を過ごす俺の悩みは、将来のアナの婚約者である。悩みすぎて父上に、
「アナは一生俺が養う」
って宣言したら爆笑された。くそう、あんただって歳いってからできた娘を溺愛してるの、知ってるんだからな!
まぁ・・・いい。うん。何せアナはまだ8歳。大人扱いされる15歳まではまだまだある。というか、あと10年くらいは無縁でいて欲しい。
そう思ってたんだけど。
「お兄様、アナ、好きな人ができたの」
ある日、アナが頬を赤く染めながら教えてくれたことに。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
何を言われたのか、すぐには理解できなかった。
いや、今も理解できていない。なんだって? なんていった? すき? 鍬? いや、落ち着け、何か聞き間違えただけだろう。俺の可愛い妹に限ってそんなまさかまさかははは。
そもそも、この子はほとんど家から出ない。出していない。外の人間に出会う機会なんて・・・
「シリル殿下っていうんだって、お父様が教えてくれたの」
しりる? でんか? 今、そう言った? そう言った???
「アナをお嫁さんにしてください、ってお願いしたらね。いいよ、って! きゃーー!」
目の前でアナがきゃあきゃあと嬉しそうにいろいろと教えてくれる。だけどその半分も頭に入ってこなかった。
翌日。俺は城にくるなり、まっすぐに通い慣れた部屋へと向かった。
「殿下!!」
「ああ、おはよう、アレックス。朝から元気だな」
「元気じゃなくて怒ってんだよ!!」
いつも通りの殿下に俺は怒り心頭だ。だというのに、この、俺の敵は、憎たらしいほど整った顔で、「なんで?」という顔をする。
ああ、もう! 苛々する!!
「俺の妹に会っただろう!?」
「ああ、その話か。うん、会った。お前が自慢するだけあって可愛い令嬢だったな」
「こんんんんんのロリコン!!!!!!!」
可愛っていった! いや、可愛いけど! 俺のアナは可愛いけど!! 何歳年が離れてると思ってんだ、お前!!!!
全力で叫んでやったというのに、なぜか殿下は楽しそうだ。
「シスコンに言われたくない」
「俺はいいんだ!!」
「理不尽だなぁ」
全然そう思ってないだろ! 顔がずっと笑ってるぞ!!
くっそ、これはもうだめだ。こいつに何を言ってもだめだ。アナは可愛いからな。目の付け所は褒めてやるが、絶対こいつには渡さない。渡してなるものか!!
「大体なんでお前があの子に会ってんだよ、くっそ」
「言葉が汚いよ。僕の妹の話し相手を探す茶会があったんだよ」
あーーー・・・なるほど、ソミア姫様の。それは父上も外出させるか。・・・いや、待て。
「姫様、もう12だろ? アナとは歳が離れすぎてるだろうが」
「君がソミアに妹の話ばっかりするからだろ。まぁ、お陰であっさり決まったからよかったけど」
「・・・・・・」
元凶俺かよ!! いや、でも、話すなっていうのは無理だ! くっ・・・どうすればよかったんだ!?
って、待て待て待て!?
「まさか、姫様の相手・・・」
「うん。アナベル嬢がいい、ってさ」
「だろうな!!」
この流れだったらそうなるよな、くっそ!!
いや、別にいいんだよ。姫様の話し相手くらいなら全然いい。姫様は多少破天荒なところはあるものの明るい方だし、アナも家にいるよりは他に話し相手がいたほうがいいだろう。それが王族ってのはいきなりハードルが高い気がするが、まぁ、あの姫様なら仲良くやってくれるだろう。
ただ、この城にはこいつがいるわけで、城に来るようになれば顔を合わせることもあるわけで。
それだけが心から無理だ!!
「シスコンを治すいい機会だと思えばいいだろう」
「うるせぇ、ロリコン!!」
治すつもりなんて欠片もないわ!! お前がロリコン治せ!!
心から叫んだ言葉だったのに、殿下にはちっとも堪えてないようだ。くっそくっそ。見てろよ! なんとしても阻止してやるからな!!
季節は廻り。
アナは姫様の話し相手として、姫様にとてもよくしていただいた。アナが姫様と仲良くするのはいい。問題ない。そこは全然いい。むしろありがたいと思ってる。
問題は殿下だ。そもそもの問題として、なんで殿下に婚約相手がいないんだ。そこがまずおかしいだろう。うちは公爵家。アナは公爵家の娘だ。殿下に相手さえできてしまえば、側室なんかにはさせられない。そう、俺がアナに嫌われず、かつ、穏便に事を済ませるには、殿下にとっとと相手を見つけるのが一番早いのだ。
そう思って、俺は年頃の令嬢の情報を集めるようになった。見どころのありそうな侯爵家や伯爵家の令嬢を事あるごとに殿下に紹介してるのだが・・・こいつ・・・まじでロリコンなんじゃね・・・? なんで年頃の同じ、色気だの美貌だのに溢れた令嬢たちを見て何とも思わないんだ・・・俺には全く理解できない・・・俺だって、こう・・・な? 多少なりと心動かされる相手もいたってのに・・・まさかここまでとは思わなかった・・・
「あらあら。まだ諦めておりませんでしたの?」
「・・・姫様が殿下でもアナでも、どっちかを止めてくれたらそれだけで済むんですが」
「無理ですわね。恋するアナは可愛いですもの」
くっそ、いい笑顔で憎々しい言葉を言いやがる・・・思わず睨み付けてしまったが、姫様は動じることもなくにこにこと笑ってた。
アナが姫様の話し相手に選ばれたことで、二人は手紙を交わすようになった。それもほぼ毎日のように。流石に多くないかと思うんだが、まぁ、配達人である俺が毎日のように城に来てるからな・・・頻度はまぁ、いい。仕事のついでだし、女性同士だし。お陰で俺も姫様と話す機会が増えたが、うん、まぁ、二人とも楽しそうだから、全然問題はない。今もまた、アナからの手紙を渡しに来たところだ。
おかげでこういう言葉を簡単に言われるようになってしまったけども。
「姫様もロリコンの兄とか嫌でしょう?」
「あら。アナの愛らしさに年齢なんて関係ありまして?」
「~~っ・・・ないけどっ! けど~~~っ!!!!」
それでも思うところはあるだろう!? 少なくても俺は、アナと同年代の子は子供にしか見えない。子供過ぎて、自分の嫁にとか絶対無理なんだけど!
なんでこの兄妹は何とも思ってないんだ!?
頭を抱える俺を、姫様は楽しそうに見てる。完全に玩具か見世物だと思われてるな・・・そういうところ、兄貴に似なくていいのにな。
「アレックスは・・・」
「?」
「アレックスは、何歳差ならOKなんです?」
何歳差・・・? 何歳・・・いや、具体的に考えたことなかったな、そういえば。だけど。
「アナと会った時、あの子まだ8歳だったんですけど」
「まぁ。では年齢差じゃなくて、実年齢だけが問題ですのね? そんなもの、すぐに大人になりますわよ」
「・・・ぅ・・・そうだけど~~~~~!!」
そうなんだけどっ! 姫様は何も間違ってないんだけど! それでも、そうじゃないんだよ!! 上手く言葉にもできないけど、でも、そうじゃないんだ!!
ああ、もうほんとなんで俺がこんな気持ちになんなきゃいけないんだ! これも全部殿下のせいだ!!
「・・・仕事に戻ります」
とりあえず殿下に仕事めちゃくちゃ押し付けてやろ。腹いせでも何でもいい。アナに会う暇もないくらい働いてろ。
俺の思考は、おそらく完全にバレてるんだろう。退室を告げた俺に、姫様は楽しそうな笑顔を崩さない。
「はい。またお帰りの前には寄ってくださいませね。お返事を書きますから」
「わかりました。ではまた夕刻に」
朝にアナからの手紙を届けて、帰る前に姫様からアナ宛ての手紙をもらう。もう1年以上も繰り返している言葉を繰り返して、俺はとぼとぼと部屋を出て、職場へと向かったのだった。
そんなことを繰り返しながら、また日々は過ぎ。気づけば俺は、24になっていた。アナも今日、15歳の誕生日を迎える。
そう。15歳に、なってしまった。
この国では15歳の娘は大人扱いだ。いつ婚約者ができてもおかしくないし、もっといえば結婚だっておかしくない。そんな年齢になってしまった・・・
いや、可愛く育ったよ。めちゃくちゃ可愛い。兄の色眼鏡とかじゃなく、絶対可愛い。恋した相手が殿下だったせいで、勉強ごとやマナーなども完璧だ。
「相手が王族だから、ちゃんと勉強しないと相手にしてもらえないぞ?」
って脅しがだめだったのか? 誰がどうみても立派な淑女に育ってしまった・・・お陰でちょこちょこ婚約話が上がっているんだが、全部断ってる。まぁ、本人がね・・・未だにね・・・殿下一筋なんでね・・・くっそ忌々しい。
ちなみに、俺の「殿下に婚約者を見つけよう」作戦も今のところ全敗している。ほんとなんであいつあんなに欠片も興味示さないわけ? もしかして本当にロリコンなんじゃないかと、アナよりさらに年下の令嬢を会わせた時は、流石に優しくしてたけど。・・・やっぱりロリコンなんだろうか、あいつ。そんな奴に可愛い妹を任せるとか冗談じゃないんだけど。
冗談ではないが、だからといって、この国の王子を無下にもできない。今日のアナの誕生日パーティーも、アナ本人の希望で殿下も姫様も招待済みだ。姫様はともかく、うきうきしてた殿下を何度刺してやろうかと思ったかわからない。耐えた俺を誰か褒めてくれ。
「お兄様、怖い顔になってますわ」
「・・・・・・ごめん」
おっと、いけない。まさか殿下の抹殺計画を練ってたなんて知られたら、俺がアナに嫌われてしまう。やるなら証拠が残らないようにしないとな。
それ以前に、今はアナのエスコート役を務めているところだ。可愛いアナの隣に立つのだから、ちゃんとしなくては。
隣に立つアナを見下ろせば、本当に綺麗に育ったと思う。もう可愛いなんて言ったら怒られそうだ。子供扱いだった今までとは違い、今日はドレスだけじゃなく化粧まで施している。本当に・・・大人に、なった。
「今度は泣きそうですね」
「アナがこんなにも綺麗に育ったからつい」
「お兄様のお陰です」
そう言って笑うアナは、もう、ほんと、言葉にできないくらい綺麗だ。思わず抱きしめたくなったけど、今はアナの誕生パーティーに向かうところだ。TPOをわきまえるくらいの理性はちゃんと持っている。もちろん、泣いたりなんてしない。しないぞ。
俺たち二人が階段上に現れたことで、会場の空気が一気に変わった。招待客たちの視線を一身に浴びながらも、アナはしゃんと背筋を伸ばして、穏やかに微笑んでる。うう・・・本当に・・・立派に育った・・・お兄様は誇らしい。
涙をこらえながら、階段を下りる。一歩一歩アナが転ぶことのないようにエスコートし、会場まで降りきった時だった。
「アナ、お誕生日おめでとう」
俺たちが向かうまでもなく、声をかけてきたのは姫様だった。当然のように隣には殿下もいて・・・
「おめでとう、アナベル」
今まで見たことのない、とんでもない笑顔を浮かべていた。
「あり」
「アナに近づくなあああ!!」
思わずアナの言葉を遮り、隠すように抱き込んでしまったけど、これは俺は悪くない。絶対悪くない。
だって、いや、え!? なに!? 俺何見せられた!? お前、アナの前だとそんな表情するのか!? 怖いんだけど!!
反射的に叫んでしまったせいで、俺たちに一層の注目が集まった。が、俺がアナ命なのは結構知れ渡ってるので、たぶんみんな「またか」と思ってるだろう。誰かの視線なんて気にすることじゃない。
俺の目下の敵は、今、目の前にいる王子! こいつだけなんだから!!
「近づくなって・・・相変わらずアナベルのことになると目の色が変わりすぎじゃないか?」
「うるさい! お前だけは認めないからな!!」
「認めないも何も、誕生日を祝っただけだろう」
「その顔で言われても説得力がない!!」
「顔?」
無自覚!? 無自覚なのか!? 嘘だろ!?
ぺたぺたと自分の顔に触れて確認している殿下に、姫様がくすくすと笑いながら、
「アナが好きで好きで仕方ない、って顔してましてよ」
だなんてとんでもないことを言い。
「ああ。それは仕方ないね。アナのことは好きだから」
こっちもこっちでとんでもないことを言ってきやがった!
「おわ!?」
俺が口を開く前に、パチンと殿下が指を鳴らした。途端、どこからともなく現れた騎士団の連中に腕を掴まれる。不意をつかれた俺はなすが儘になってしまい、腕の中にいたアナを離さざるを得なかった。
それだけじゃない。
「アナベル」
殿下に呼ばれたアナは、まっすぐ殿下を見つめてる。うっすらと頬を染めながら。
そんなアナの前で、この国の王子は、あろうことか膝をつくと、
「今日をずっと待ってたんだ。どうか僕の妃になってくれないか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんて?
「! はい・・・はい、喜んで!!」
「う、嘘だああああああああああああああ!!」
待って! ほんと待って! 誰か嘘だと言ってくれ!! なんて笑顔で了承しちゃってるんだよ、アナアアアア!!!!
今すぐ駆け寄って撤回させたいのに、騎士たちのせいでそれもできない。くっそ、こんなことに騎士使うなよ! 職権乱用だ!!
動けない俺の前で、アナが殿下の手を取って嬉しそうに笑ってる。それだけじゃない。
「では、エスコートを交代しよう。アレックス、妹のエスコートを頼むよ」
「はぁ!?」
「楽しんできてくださいませね、お兄様、アナ」
「はい!」
到底納得できない俺を置き去りに、3人の中で話はまとまってしまったらしい。恥ずかしそうにしながらも殿下と腕を組んで、アナは他の参列者たちに挨拶に向かってしまった。
俺には到底見せない笑顔を浮かべながら。
「アナぁ・・・・・・」
全身から力が抜けた俺を見て、騎士たちも手を放してくれた。支えを失った体は床に崩れ落ちたけど、気にしている余裕なんてない。
「嫌だ・・・俺のアナが・・・よりによって殿下に・・・」
見たくないのに、目の前で笑いあう二人から目が離せない。うう・・・なんでよりによってあいつなんだ・・・あんなロリコンのどこがいいんだ・・・俺にはまったくわからない。
ただ、アナのあの笑顔は。あいつじゃないと引き出せないんだろう。それがまた心を抉る。
「そんなにショックなのでしたら、アナの代わりを見つけては?」
・・・そういえば、姫様も置いて行かれたんだった。
俺が座り込んでいるせいで頭上から降ってきた声に、ゆっくりと顔を上げていた。
「代わり?」
アナの代わり? 新しい妹ってことか?
そんな俺の疑問は続く言葉で玉砕した。
「そう。例えば私とか如何です?」
「・・・・・・・・・・・・へ?」
「アナには及びませんけど、私も十分に可愛らしいと思いません?」
胸を反らし、ふふん、とどこか自慢そうに告げられた言葉の意味がまったくわからない。
「いや、姫様は十分に可愛いと思うけど、アナとは別でしょう」
出会ったころよりも成長した姫様は、もはや可愛いというよりも美しいという部類に入ると思うけど。それでも、仕草が子供の頃のままで、どうしても「可愛い」と思ってしまう。
だけど、それとこれとは別問題。アナの代わりになんてなれるはずがないと、本気でそう思ってるのに。
なんで姫様の顔が赤いわけ?
訳がわからないでいたら、遠くから殿下の声が聞こえてきた。
「アレックスー。フォローしておくけど、その子君に惚れてるからね」
「・・・は?」
惚れてる? 誰が。誰に。え、いつもにも増して、今日の殿下は言ってる意味が分からない。分からないけど。
姫様が俺の服をがしっと掴んだ。かと思えば、無理矢理引き寄せらせ、頬に触れた柔らかな感触。リップ音が聞こえたと思った瞬間に離れたそれに、何が起きたのかわからず呆然としていたら、
「お兄様のおっしゃる通りです。大好きなアレックス・・・行き遅れる前に、もらってくださいませね?」
だなんて。触れそうなほどの距離で、満面の笑顔で言われるものだから。
・・・・・・俺の思考回路は、完全に働くことを辞めてしまった。
王族怖いよおおおおおおおお!!