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モンブランとココアの入手先

 この前アッシュさんに頼んでおいたモンブラン用の口金を昨日受け取り、早速今日は朝からモンブラン作りに取り掛かる。

 栗から作るのは手間暇かかるそうなので前日の晩から準備をしていた。


 材料は栗、レスペクトのミルク、卵、ラム酒、軟質小麦粉、バター、砂糖。


 バターを常温に置き、よく洗ってからたっぷりの水に一晩つけた栗を用意する。

 水を切った栗を鍋に入れて、栗が浸かるまでの水と塩を投入し、沸騰させたあと弱火で茹でていく。

 その間に生地を作る。ボウルに卵黄と砂糖を混ぜて、別のボウルには卵白と砂糖を混ぜてメレンゲを作る。もちろん、腕にハイスピードの魔法をかけてミキサーの如く速さで。

 メレンゲに先ほど混ぜた砂糖と卵黄を加えて泡を潰さないように混ぜて、さらにふるいにかけておいた軟質小麦粉を投入し、再び混ぜる。

 絞り袋に生地を詰めて、耐熱ペーパーシートを乗せた天板の上にぐるぐる円を描くように絞り出す。

 生地の上に粉糖をかけて、予熱で温めた石窯オーブンで焼けば生地は出来上がり。


 茹でた生栗は殻と皮を剥く。全て剥き終えるまで水に浸けて、再び鍋に水と砂糖を入れ、皮を剥いた栗を柔らかくなるまで煮る。

 栗の粗熱を取ったらいくつかはモンブランの中身に入れる用として取って置き、残りはペースト状にするためボウルに入れてレスペクトのミルクと砂糖を投入。ここで近くに待機していたプニーへと目を向ける。


「プニー。例の魔法お願いしてもいい?」

『! うんっ! するー! るー!』


 ぴょいんぴょいんと跳ねながら肩の上に乗って来たプニーは凄くやる気に満ちていた。

 

 この間、レイヤと戦闘訓練に行った際にステータスを調べてくれたらしく、プニー自身も知らなかった魔法を知ることが出来た。

 そのうちのひとつである。ブレンダーという魔法は実用性のある魔法のようで、その名の通りミキサーのように細かく砕いたり、スムージーなど作れるのだとか。


 ウィンドカッターで代用していた私としては断然そちらの方がいいと思い、早速プニーに協力してもらうことにした。

 だって、ウィンドカッターで攪拌するの結構難しくてなかなかの荒業だったからなぁ。……いや、魔法で無理やり使用してるのがいけないんだけどね。

 威力や範囲を抑えなきゃボウルがダメになるし、神経を凄く使う。最小限に抑えないとキッチンが争ったあとみたいになっちゃうからね……。


『いくよー。よー。ブレンダー! ダー!』


 身体を伸ばしてプニーは唱える。本当は無詠唱のスキルがあるので呪文がなくても発動出来るはずなんだけど、口に出して実感したいのだろう。

 そして魔法がかかった材料達がボウルから離れるように浮き上がり、くるくる回り始めたと思ったら高速回転し、一瞬にして私の望んでいたペースト状に仕上がり、ボウルの中へと戻った。

 凄い……飛び散ったりしていない。素晴らしい!


『これくらいー? いー?』

「うんうんっ! 凄いよ、プニー。完璧っ!」

『イル嬉しい? い?』

「もちろん。嬉しいよ!」

『ほんと? と? わーい! わーい!』


 喜んで飛び跳ねるプニーが微笑ましい。可愛い。このまま調理を中断してプニーに構い倒したくなるんだけど、それは今はお預けしておかないと。

 プニーには「ありがとう。それじゃあもう少しだけ待っててね」と伝えて肩からテーブルへと移すと、彼は機嫌良さげに『うん!』と言うこと聞いてくれた。


 さて、料理の続きだ。マロンペーストを裏ごしし、常温に戻したバターとラム酒をかけて、混ぜればマロンクリームは完成。

 レスペクトのミルクを泡立てて生クリームを仕上げたら、焼いた生地の上に生クリームを乗せて、ペーストにしなかった栗も乗せたらさらに生クリームで隠すように覆う。

 そして仕上げにアッシュさんお手製のモンブラン口金を絞り袋に取りつけて、マロンクリームを絞ればモンブランの出来上がりである。


「プニーのおかげで完成したよ。ありがとう」

『ほんとー? とー? 良かったー。たー』


 頭を撫でてやれば大層喜んでくれた。あとは冷蔵庫で少し冷やしながら後片付けをする。プニーも洗い物を持ってきて手伝ってくれた。


「それじゃあ、おやつには少し早いけどモンブランを食べようかな。プニーもすぐ食べる?」

『食べるー! るー!』


 片付けも終えて少し休憩するお供に早速モンブランの準備を始める。

 ココアパウダーもあるのでせっかくだからリッチにホットココアにしようと砂糖とホットミルクを用意してココアドリンクも作った。


 ようやく一息がつき、ブレイクタイム。

 まずはホットココアを一口。甘くて美味しい。贅沢すぎてちびちびっとしか飲めない。

 一旦、ココアの入ったマグカップを置いて、代わりにフォークを持つと、そのままモンブランへと手をつける。

 マロンクリームの甘くねっとりとした味にほっぺたが落ちてしまいそうになる。中に栗が入ってるのも最高だ。


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レベルアップしました。ストームを覚えました。


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 いつものピロンというお知らせの音とステータスアップ画面が表示された。ストーム……ということは嵐を発生させる魔法なのか。


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・ストーム

嵐を起こすことが出来る。


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 まさにその通りだった。風魔法なんだろうけど、私もプニーが使えるブレンダーみたいな料理に便利な魔法がいいな。……んー。さすがに贅沢なお願いか。

 イストワール様から授かった恩恵なので文句を言うのは良くないんだけどね。

 しかし、魔法やスキルを覚えるのって作ったスイーツによって決まるのか、それともランダムなのか、どっちだろう?


「おはよう」


 ちょうどそこへ、寝起きのレイヤが部屋から出てきた。時刻は昼過ぎ。今日は一日休みの日らしく、おそらく今まで寝ていたのだろう。

 最近は訓練所に通ってから給仕の仕事をしたりと色々と忙しそうである。

 重たげな目が出来上がったばかりのモンブランへと向けられた。


「おはよう、レイヤ」

『レイヤ、おはよー。よー』

「朝からモンブランを作ったのか、凄いな……」

「もうお昼だよ」

「あ……そうか。もう昼……そんなに寝てたのか」


 まだ寝惚けているのか、レイヤは時計を見て少し固まったあとにその事実を受け入れた。


「最近お疲れみたいだもんね。起きたばっかだからモンブランはあとでの方がいいかな?」

「あぁ、すまない。そうする……」


 ふわりと香るココアの匂いに気がついたのか、レイヤの視線は私のマグカップへ移る。


「レイヤもココア飲む?」

「いいのか?」

「うん、ちょっと待っててね」


 彼の分のココアを準備し、しばらくして出来上がったホットココアの入ったマグカップをレイヤに渡すと彼は律儀にお礼を言ってくれた。


「……そういえば、気づいたんだけどこの間ティラミス作ってくれただろ? あれ、ココアパウダー使ってるよな?」

「うん」

「このココアもそうだけど、カカオって希少価値が高いのにわざわざ買ったのか?」

「え……? ……あ! そうだ。話してなかったよね。実はあのココアパウダーはアドがくれたの」


 レイヤの言う通り、チョコレートやココアパウダーの原料となるカカオはコストがかかるし、流通も少ないのでとてもお高い。

 チョコレートやココアは貴族の嗜好品なのもありレイヤの疑問ももっともである。


「アド……って確か魔族の?」

「うん。あの日はデジール達が来た日で、そのときにアドから『こちらがあればレパートリーが増えますよね?』ってココアパウダーをプレゼントしてくれたの」

「それも魔界産なのか?」

「そうみたい。カカオの量産に成功した所は太っ腹だよね」


 レイヤとプニーは戦闘訓練所に行ってたからいなかったけど、その日はあの魔族二人組が来ていた。






 訪問してすぐにアドラシオンは私にココアパウダーの入った瓶を差し入れしてくれたのだけど、あまりにも高価で貴重な物を理由に私はつい断ってしまう。

 しかし、アドラシオンはそんなことは気にせず、にこやかに微笑みながらココアを持つ手は引くことはなかった。


「魔界ではチョコレートと同じくココアも安価で手に入りますのでお気になさらず」


 今もまだアイテムバッグの中に残っている沢山頂いたチョコレートのことを思い出すが、あれらを安価で手に入るなんて到底思えない。

 もしかしたら魔界でいう安価とこちらの安価は違うのかもしれないとぐるぐる考えてしまう。


「いつも我儘デジール様がお世話になっていますのでそのお礼と思っていただけると嬉しいです。本当ならばもっと高価な物をお贈りしたいのですが、イルさんは以前ココアパウダーが欲しいなと呟いてらしたのでご用意させていただきました」

「おい、こら! 誰が我儘だ!」

「自覚がないのもどうかと思いますが。それでも魔界を統べる王なんですか?」

「ぐぬぬっ……!」


 ……と、そんな感じのいつもの二人を見守りながらそこまで言うのならじゃあ……と受け取った。

 リリーフもいないから今回のデジールはふんぞり返るかなと身構えていたけど、思っていたよりも我儘は言わなかったので安心した日でもある。






「……まぁ、厚意ならいいけど、あの男どこか胡散臭い感じがするんだよな……」

「そう? デジールに対しては辛辣だけど、物腰は穏やかでいい人だと思うけど」

「表面上はそうかもしれない。魔王の側近だし、腹の中は何を考えてるかわからないしな」


 どこか心配している様子のレイヤだけど、アドラシオンはそんなふうに見えてしまうのか。

 でも、確かにあの二人のことをよく知らないし、魔族のイメージはあまり良くないもんね。

 いまだに謎が多い二人だから、もっと彼女達のことを知れたらいいんだけど。






 その頃、魔界の王の執務室にて、真面目な表情をしたデジールが側近に向けて静かに一言呟いた。


「イルを余の専属パティシエにするのはどうだろうか?」

「……」


 本人にとっては凄く重要な会議に等しいほどの発言をしたつもりだった。しかし、アドラシオンは黙ったままで何も答えないため、デジールはだらだらと冷や汗を流す。


「ア、アド? 聞いておるのか?」

「失礼致しました。デジール様にしてはあまりにも良いアイデアだったため、驚きのあまり放心してしまいました」

「だから貴様は一言多い!」


 バン! と己のデスクを力一杯叩くもアドラシオンは物怖じせず、すぐに口を開いた。


「しかし、デジール様。人間が魔界へ通うのはなかなかにハードかと思われます。それに民達の目もある。人間が簡単に魔界へ出入りするのはいかがなものかと口にする者も多いでしょう」

「フン。そんなもの簡単だ。通うのではなく、余の城に住み込んでもらえば良かろう」


 自信満々に答えるデジールにアドラシオンはまた驚いたのか、ワンテンポ会話に遅れてしまう。


「……デジール様、本当にどうしたんですか? あなた様にしてはいい案ですよ」

「貴様、余を馬鹿にしすぎだろうっ!」

「事実を述べたまでです。では早速その方向へ契約してもらえるように報酬など考えましょうか」

「お、おぉ。アドも賛成してくれるのだな?」

「わざわざ人間の地へ向かうのも大変ですし、デジール様の職務が滞ることがなくなるならとても有難いことなので」


 にっこりと笑いながらアドラシオンは「早くその手を止めてる業務を再開させろ」と無言の圧力をデジールに向けたので、それを察知した魔王様は慌てて羽根ペンを取り、山のように積み上げられた書類と向き合うことにした。


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