ドーナツとかりんとうと帰り道
目的のエルフ生産の食材は手に入ったし、村長にレシピ提供も終えたので私達はスタービレへと帰ることにした。
「沢山甘味のレシピを提供してくれてありがとうな。さすがイストワール様が選んだお人じゃ。またいつでも遊びに来ておくれ」
「あ、ああああの、また、き、きっ、来て……くだひゃい……!」
村長とシャイ、そしてなぜか他のエルフ達から見送られながら私とレイヤはエルフの村を出た。
村を出て気づいたのだけど、レイヤが迷うことなくエルフの村に辿り着けた理由の神聖な気配というのがなんとなくわかったような気がした。
確かにあの村には女神イストワール様と初めて会ったときのような神秘的な何かを感じたし、温かく優しい結界のようなものが張られていると思う。
きっと、エルフの村そのものがイストワール様の恩恵を受けているのかもしれない。
聞けばエルフの村はあちこちにあるらしく、それぞれ力を入れて生産している食材が違うので、風の妖精の力を借りて村同士で食材を交換してるそうだ。
ちなみに私達がお邪魔したエルフの村は主にもち米を育てているとのこと。
そのためか、数キロ分もち米をサービスしてもらった。
もち米以外にも小豆、抹茶などの予定していた物も購入出来たのでこれでしばらくは和菓子作りに困らないはず。
もし、また購入したいときはひと月に一度、風の妖精を遣いに出してくれるそうなので妖精に言付けておけば届けてくれるそうだ。エルフの村までは距離があるからこれはとても有難い。
服飾が盛んな町に戻るとすでに日は暮れていた。またこの町でお世話になろうと宿を探すもなぜか行くところ行くところ満室である。
「うーん……満室ばかりだね」
『今日は外で寝るのー? のー?』
「どうかなー。見つからなかったら野宿になるかも」
「……今日は冒険者が多く見受けられるな。外部からの人が多いんだろう」
レイヤの言う通り周りは町の人に混じって冒険者達がゴロゴロいる。強そうな人達があっちにもこっちにも。しかし、こんなに人数がいるのはなかなか見ない。
まぁ、今はそんなことより寝所を探さなければ。この町はスタービレよりも大きくて、ブティックなど有名所もあるから旅行者も多いので宿泊施設はまだあるはず。
気を取り直して次の宿屋へと向かうのだが……。
「申し訳ございません。本日は生憎満室となっています」
「そう、ですか……」
すでに四軒目。さすがにしょぼんとしてしまった。前に泊まりに来たときはこんなに探し回らなくて良かったはずなのに。
「すみません、なんで今日はこんなにどこも満室なんですか?」
さすがに理由が知りたいと思ったのか、レイヤが宿屋の看板娘に尋ねてみる。
「確か、ギルドから討伐隊を募っていまして、それで集まった方々がこちらで一泊して明朝出発されるそうなんです」
「随分と人が多いように見えますが……」
「大掛かりな討伐隊を組んでいるので恐らくドラゴン級の魔物退治かもしれません」
なるほど。私も詳しくないけど、年に数回くらい大型ドラゴン退治のためにあちこちの冒険者を募って討伐隊を編成するということは聞いたことがある。
スタービレにいたらレスペクトの力を借りたいとギルドから依頼されていたかもしれない。
……良かった、留守にしてて。私は冒険者として活動をしたいわけじゃないもの。
とにかく宿が満室になっている理由はわかったけど、早く次を探さなければ野宿になる可能性が極めて高くなる。
出来れば野宿は避けたいので急いで次の宿屋へと向かった。
「本日、あと一部屋だけでしたら空きがございます」
それから何軒か回ってようやく空き室がある宿屋へと辿り着いたのだが……どうやら一部屋だけのようだ。
「一部屋……相部屋、ってことですか?」
「はい」
「そうか。……イル。俺は別の宿を探すからイルはここで休むといい」
「えっ。でも、さすがにもう遅いからレイヤも一緒に泊まろうよ」
「いや……さすがにそれは……」
やはり抵抗があるだろうか。同居しているとはいえ、部屋は別だから成り立っているのであって、同じ部屋はやっぱり気遣うかもしれない。
でも、やっとの思いで見つけたのに次も見つかるとは限らないし、そろそろ夜も遅い時間でもある。
「ちゃんと部屋で休まなきゃ」
「……イルは抵抗ないのか?」
「男女が寝室を共にすることに?」
「あぁ」
「知らない人だと抵抗はあるけど、レイヤだから大丈夫だよ。レイヤは抵抗があるの?」
「そりゃあ……気にはするだろう」
「レイヤが気にしないように気をつけるから。だから一緒に休もうっ」
「そういうんじゃなくて……あー……いや、イルがそれでいいならいいけど……」
必死に引き留めようとしたのだけど、なんだか呆れられてしまったように見える。
貞操観念が低いと思われただろうか? いやいや、でもレイヤは淡白な所あるし、信じてるから何も心配はないし。
「うん。大丈夫。私とレイヤは友達だから」
「まぁ、そうだな。イルが気にしないなら俺も気にしないけど……」
そういうわけでレイヤとプニーと一緒の部屋で休むことになった。
夕飯は宿屋で提供された物をいただき、有難いことにベッドは二台あるから、ひとつのベッドを共有するということはない。
着替えのときは互いに後ろを向き合って着替えたらいいので不便はなかった。
「そういえばここの宿屋は朝ご飯は提供していないけど、キッチンは借りることが出来るんだって。朝ご飯になるスイーツとか作ってみようかなって思ってるんだけどどうかな?」
宿泊客のほとんどが討伐隊のメンバーなため朝早くから出発するから、私達が起きて朝ご飯を作るときには貸切状態だと女将さんから聞いた。
「朝ご飯になるスイーツって……あるのか?」
「フレンチトーストとかホットケーキみたいな……まぁ、この二つはすでに作ったことがあるんだけどね」
「あぁ、なるほど。それなら確かに朝食にもなるな。そうなると他はワッフルかマフィンとか……? だが、さすがに道具がないし……」
確かに。材料はエルフの村でスイーツを作るため多く持って来ているし、足りなければこの町で購入出来るけど製菓道具はそういうわけにはいかない。
探せばあるのかもしれないけど、私としてはやはりアッシュさんに作製してもらいたい。
「あー……そうだ。ドーナツならどうだ?」
「ドーナツ! それならいいかもっ」
早速レシピブックを開いてドーナツのレシピを確認する。材料も作る手順も問題なさそうだ。よし、これならいける。
「でも、レイヤは和菓子の方が好きでしょ? 朝食になりそうな物はないの?」
「いや……和菓子は朝ご飯って気にならないな……」
「そっかぁ……」
せっかくだからレイヤの好物もじゃんじゃん作りたいけど、さすがに朝食向きじゃないのかぁ。
「じゃあ、朝ご飯じゃなくてもおやつとして簡単に食べられる物も一緒に作っとく?」
『ビスコッティなの? の?』
「ビスコッティは家に帰ってから沢山作るから、それまでは違うのでもいいかな?」
『甘いのならいいよー。よー』
プニーは甘い物ならなんでもいいのだろう。それでも反抗することなく素直にお願いを聞いてくれるので、ありがとうとお礼を伝え、よしよしとひんやり冷たいスライムの頭部? と思わしき場所を撫でてやる。
「簡単に食べられるおやつか……パッと思い浮かんだのはかりんとうだろうか」
「かりんとう?」
恐らく和菓子のひとつなんだろうなということだけは理解する。
そして、かりんとうと呟いたことにより、開いていたレシピブックは勝手にページを捲り、かりんとうのレシピを開いてくれた。
そのページに目を落とし、材料を確認するのだけど、また聞き覚えのない材料が書かれていることに気がつく。
「黒糖……って、砂糖の仲間、かな? でも、黒糖は材料にないし……これは出来ないかも」
「あぁ、黒糖ならエルフの村にあったからそれも購入した」
なんと。黒糖もエルフ産でしたか。レイヤってば本当にエルフ産の食材を抜け目なく手に入れてるようだ。
「じゃあ、作れるね!」
「あぁ……でも、イルは負担にならないのか?」
「全然っ。むしろ新しいスイーツを作れるのは楽しいし、不運を解消するスキルか魔法も覚えるかもしれないし!」
今日だって宿屋を探すのにあちこち回りまくったし、何もない所で転んだし、階段に躓いたし。小さいとはいえツイてないことばかりは日常茶飯事だ。
でも、そろそろ大きな不運がやって来そうで怖いんだけどね……。
ジャイアントボアみたいな予定外の魔物との遭遇や魔王に監視されたりとか……そんなトラブルみたいなのが起きないことを願いたい。
そう祈りながら就寝し、翌朝レイヤとプニーと共にキッチンへと向かえば本当に誰もいなくて貸切状態であった。
どうやら討伐隊はすでに出発したあとなので女将さんの言う通りだ。
では、早速朝食用のドーナツとおやつ用のかりんとう作りを開始します。
ドーナツの材料は軟質小麦粉、膨らまし粉、卵、砂糖、牛乳、バター。
かりんとうの材料は軟質小麦粉、膨らまし粉、砂糖、牛乳、黒糖、水。
最初はドーナツ作りから。バターはヒートで温めて溶かし、ボウルに卵を溶き、溶かしバター、砂糖、牛乳を入れて混ぜる。
続いてボウルに軟質小麦粉と膨らまし粉をふるいにかけてから混ぜて生地を纏めていく。
防乾燥シートで生地を包んで冷蔵庫に生地を休ませて、その間にかりんとう作りだ。
軟質小麦粉と膨らまし粉をふるいにかけて、砂糖と牛乳を入れて生地を一纏めにするように混ぜていく。
ドーナツ生地と同じようにかりんとう生地も防乾燥シートで包んで冷蔵庫に寝かせる。
最初に休ませたドーナツ生地を取り出し、台に打ち粉をふって麺棒で生地を伸ばし、コップなどで型を抜いて、真ん中は手で穴を作る。
あとは熱した油でこんがりと色づくまで揚げて、最後はお好みで粉砂糖をかけたらドーナツの出来上がり。
かりんとう生地も冷蔵庫から取り出し、台の上に打ち粉をしてから生地を薄く伸ばす。
摘んで食べるため細長く生地を切っていけば油で狐色になるまでしっかり揚げていく。
揚げ終えたらフライパンに黒糖と水を加え煮詰めていき、揚げたかりんとうを投入。
しっかり黒糖を絡ませたらバットなどでかりんとうを広げて冷ませばかりんとうの完成!
一気に二種類を作るのはなかなかに大変だったけど、作り方的にはどちらも似ているんだよね。どちらも揚げスイーツ。
「出来たよー」
『いい匂いー! いー!』
「プニーの口に合うといいなぁ」
(スライムにも嗅覚はあるのか……)
キッチンから部屋まで戻り、いよいよ朝ご飯を食べる。
いただきますとみんなで声にしてからドーナツをひとつ手に取る。
まだ温かいドーナツを一口食べると、外は軽くサクッとし、中はふんわりとした食感で唸るくらい美味しかった。
揚げているからだろうか、満足度が高くてすぐにお腹いっぱいになりそうだ。
『おいしー! しー!』
「ん。揚げたてのドーナツは初めてだけど、こんなに美味いんだな」
「うん。私も出来たてのドーナツは初めてだよ。温かくて美味しいね」
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レベルアップしました。ウォーターキャノンを覚えました。
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出た出た。レベルアップ画面。しかし、ウォーターキャノンってもう言わずもがな攻撃魔法だよね……。
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・ウォーターキャノン
水の砲撃を放つことが出来る。
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水大砲……ということかな。勢いありそうでさらに痛そうに思える。
それに攻撃範囲も広そうだからあまり撃ちたくないなぁ派手な感じで目立ちそう……。
「あ、そうだ。おやつ用に作ったかりんとうも今一個ずつ食べてみる?」
『食べるー! るー!』
「一個なら俺も」
このままかりんとうも食べて、今のうちにもうひとつレベルアップしておこう。そう思ってレイヤとプニーにも聞いてかりんとうを用意し、黒糖を纏い冷めたかりんとうを頬張った。
香ばしくカリッとして、黒糖の味がしっかり生地に染みているので甘くて美味しい。
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レベルアップしました。エクスプロージョンを覚えました。
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ピロンと本日二度目のレベルアップ画面が現れる。しかし、その覚えた魔法を見て固まってしまった。
何かの間違いではないかと、震える指で魔法の詳細を調べる。
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・エクスプロージョン
爆発を起こすことが出来る。
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「いやいやいやいや……」
爆発させるって火魔法では結構上級魔法のはず。とうとうそんな危ない魔法まで覚えてしまったというのか。これは迂闊にエクスプロージョンなんて唱えちゃいけないやつだ……。
「……凄そうな魔法を覚えたな」
「宝の持ち腐れだよ……」
『イル強いのー? のー?』
プニーが興奮するようにぴょんぴょんと激しく跳ねるのだけど、その姿はまるでヒーローを前にした子どものようだった。
しかし、勘違いされては困るので必死に首を横に振る。
「違う違うっ! 私自身は弱いよっ! ほんと、全然ダメだからね! 戦いに向いてないくらいだからね!」
例え強力な魔法を得ようとも私には身に余るものでしかないので早く運が上がるようなスキルを得ることが出来ないものかと、心の中で盛大な溜め息を吐き捨てた。




