表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/221

あられと村長の孫娘

 レシピブックを開き、もち米を使ったスイーツは何を作ろうかと考えた私はすぐにあられを作ることに決めた。

 材料はもち米、粉糖。お好みで塩や抹茶、ストロベリーなどの色つきパウダーも使用可とのこと。


「村長さん、抹茶入りも出来るみたいですけど、どうしますか?」

「ほう? それは気になるのぅ。用意してこよう」


 そう答えると村長は抹茶を用意してくれた。つまり、こちらを使う許可もいただけたようなものだ。有難く使わせてもらおう。


 熱したフライパンに油を入れて火にかける。

 最近になって気づいたんだけど、レベルが上がったおかげなのか、ファイアサーチを使うと熱の温度までわかるようになった。

 前までは色でなんとなく温度がわかったのだけど、今はちゃんと数字までわかるようになっている。なのでファイアサーチで温度を確かめてからもち米を投入し、数回に分けて揚げていく。

 もち米が弾けだしたらすくって新聞紙の上に置き、軽くウィンドを使って冷ます。

 今回は三種類の味を作るため、あられを分けておく。

 粉糖、塩、そして粉糖と混ぜ合わせた抹茶の三種類をあられの上にかけて、スプーンやフォーク、または袋に入れてよく混ぜ合わせる。これであられは完成だ。


「出来ました! こちらが粉糖、塩、抹茶と粉糖を合わせたものになります」


 村長の前に三種類のあられを並べる。粉糖と塩は見た目も似てるからわかりづらいかもしれないけど、しっかりお皿に分けて説明した。


「抹茶は見た目からしてわかりやすいな。では、まずはこちらの砂糖のみの物からいただこう」


 手が汚れるかなと思ってスプーンを用意したのだけど、それを手に取ると村長は粉糖のあられを一口。ゆっくり噛み締めるように食べてから抹茶、塩の順番に食べていく。


「……うん。美味い! もち米がこうなるとは思わんかったわい。塩っけのあるのもいいしのぉ」

「本当ですかっ? 良かったです!」

(あられをスプーンで……)

「さぁ、ワシだけ食うわけにはいかんし、そちらも能力アップのために食わねばならんのだろう? 食べておきなさい」

「あ、はい。それでは……」


 村長の許しを得たので私もスプーンを持ち、抹茶味のあられを食べてみる。小さくてポリポリした食感で甘い抹茶もちゃんと感じるし匂いもする。

 ふと、レイヤの方へ目を向けると彼は指で摘んで食べていた。……もしかしてあれが正しい食べ方なんだろうか。


「俺はこうしてるだけだから好きに食べるといい」


 そんな私の視線に気づいたレイヤがこちらの考えがわかったのかそう言ってくれた。ちょっと安心した私はそのままスプーンで食べさせてもらう。


========================================


レベルアップしました。シャドウウォークを覚えました。


========================================


 塩味のあられを食べたところでレベルアップ画面が表示された。

 シャドウウォーク……ということは闇魔法? しかし、名前を聞いてもピンとこない。どんな魔法なんだろう。

 そう思っていつものように詳細を確認した。


========================================


・シャドウウォーク

影の中に入って移動することが出来る。


========================================


 ……どういうこと? 影の中に入るって? しかも移動が出来るってどんな感じ? ううん……さすが闇魔法。よくわからない。

 まぁ、魔力に余裕があるときにでも試すとしよう。闇魔法だから今試しても沢山の魔力が消費するだろうし、魔力切れを起こしたら大変だ。


「レイヤ殿、イル殿。本日はぜひうちで休んでいくといい。初めてこのような甘味をいただいたのだから礼としてこの家を宿代わりに使ってほしくてのぅ」

「えっ? で、でもいいんですか?」

「もちろんだとも」


 確かにそろそろ夕暮れの時間だ。泊まらせてくれるのは願ってもないことなので有難く宿泊させてもらうことにしよう。


「ありがとうございます!」

「すみません、お世話になります」

「あぁ、構わん構わん。ちょっと部屋の準備をしてくるから時間をもらうので少し待っててくれ」


 村長の言葉にうんうん頷きながら待つこと三十分。来客用の部屋へと案内される。もちろんレイヤとは別室だが、お隣さんだ。

 夕飯もご馳走してくれるとのことで、その間はしばらく部屋で休ませてもらった。

 そして夕飯の準備が出来たと村長が呼びに来てくれたので、リビングに向かうと、そこには村長の家族がすでに待ち構えていたのだった。

 孫娘と思われる少女とその両親だろうか。お母さんと思わしき人が優しく微笑みながら「どうぞ座ってください」と言うので遠慮しながらも椅子に座った。


「ワシの娘家族だ。二人ならば孫娘のシャイと歳が近いじゃろうな。ほれ、シャイ。挨拶をせんか」

「あ、ぅ……シャ、イ……です」


 紹介されたシャイと呼ばれる少女は十代後半くらいの見た目で翠玉色の瞳と髪色をしたボブで、ピンク色の花飾りを身につけている。

 とても可愛らしい女の子なのだけど、声は小さくてなかなか聞き取りづらい。

 私達に怯えているのかと思ったが、顔を真っ赤にしているので恐らく極度の緊張状態なのだろう。そんな内気な彼女は頑張って挨拶をするのでこちらもそれに応えなければ。


「初めまして、イルです」

「レイヤです」


 少しでも心を許してくれたら嬉しいなと思いながら笑顔で対応するけど、シャイは一杯一杯だったのか、それ以上は何も言えなさそうで赤くした顔は下へと向けられてしまった。


「あぁ、すまんのぉ。シャイは恥ずかしがり屋でいつもこの調子でな」

「いえいえ! それも個性なので気にしないでください」

「そう言ってもらえるなら助かるよ。やはり恩寵を授かった者は心が広いんじゃのぅ」


 恩寵がなくともこのくらいなら多数の人間は心が広いと思う。……まぁ、人間そのものを敵視してるので仕方ないことだけど。


「さぁ、そろそろ食事にするか。レイヤ殿もイル殿も遠慮せず沢山食べるといい」


 村長の言葉により、村長家族と共に夕飯をご馳走になった。

 サラダには抹茶ドレッシングがかかっていたり、もち米と小豆、さらに栗が入った赤飯と呼ばれる物、芋煮や焼き魚などを食べたのだけど、素朴な家庭の味がなんだかお母さんの手料理を思い出す。

 あぁ、お母さんの料理もっと食べたかったなぁと、しんみりしながらも懐かしく記憶を掘り起こした。


「ところでイル殿。そちらのレシピ本は門外不出だったりせんか?」

「? いえ、特にそんなことはないですよ」

「ならば少しでいいので先程作った物や他のレシピを私達に教えてもらいたいんじゃが……」


 聞けばエルフ族はあまりスイーツを口にする機会がないらしい。

 エルフにとっての甘い物といえば果物やパンにかける蜂蜜、メープルシロップ、ジャム、クッキーなどが主である。

 ケーキといった生菓子などは風の噂では知っているものの、どういう物かまではよくわかっていないようだった。

 エルフの村にずっと住んでいるのならよその国の食事情なんて簡単には把握出来ないので納得だ。

 では、その風の噂とやらの情報源はどこからなのかというと、エルフの村を出て人間の国で暮らすエルフからである。

 たまに好奇心の旺盛のエルフが人間の国に住みたいと言って出て行く者がいるらしいが、やはりエルフ族からすると快く思わない人が大半。

 とはいえ、出て行ったエルフが里帰りすることもよくあるのでそのときに人間の生活などを聞いているそうだ。


「はい、大丈夫です。美味しい物は色んな人に伝えて食べてもらいたいので」

「おぉ、そうかそうか。ありがとう。では、夕飯が終わり次第メモを取らせていただこう」


 その言葉通り夕飯を終えると、リビングに滞在したまま村長にスイーツのレシピを伝えた。

 ほとんど和菓子のレシピではあるけど、あとは村長が気になった洋菓子などもピックアップされる。

 和菓子については私は詳しくないので、レイヤに補足などしてもらいながら村長は自身の体力が続くまでレシピを書き写した。エルフ族みんなが美味しい物を食べて喜んでもらうために。


「ふー……さすがにこれだけの量のレシピを書き写すのは骨が折れるわい」

「お疲れ様です。続きは明日にしますか?」

「そうじゃな。イル殿、レイヤ殿、申し訳ないが明日も付き合っていただけるかね?」

「はいっ」

「俺も大丈夫です」

「よし。じゃあ、続きは明日ということで……。シャイ、お前さんも気になる甘味があれば今の内言うておくんじゃよ。ワシが明日書き写すからの」


 村長がレシピを写している間、ずっと落ち着かない様子で彼の後ろに立っていたシャイ。

 恐らく初めて見る甘味に興味津々なのだろうと村長は言っていた。だから彼女に気になる物はないか尋ねたようだ。


「あ、私、は……その……」


 やはりまだ私達に慣れないのだろうか。私やレイヤを気にしているように見える。


「えっと……あの……レイヤさんの、オススメは……ありますか……?」

「……俺?」

「は、はい」


 まさかのレイヤにご指名がきた。レイヤもオススメを聞かれるなんて思ってなかったのだろう、少し考え始める。


「俺のオススメ、か。……和菓子はなんでもオススメなんだがな。抹茶を使ったやつとか」

「そう、ですか……あ、ありがとう、ございます……」


 赤くしていた顔がさらに赤くなったシャイはぺこりと頭を下げ、自分の部屋に戻ろうとしたのか私達の前から走り去って行った。

 ……もしかして、もしかして? シャイはレイヤに気があるとか? すぐに断言出来ないけど、そんな感じに見えなくないんだよね。

 レイヤの様子を窺ってみるが、不思議そうな表情をしていたのでまだ脈アリとは到底言えなかった。

 まぁ、私には尋ねないところを見ると、やはりレイヤのことが好きなんじゃないだろうか。

 レイヤも気があるというなら協力したいところではあるのだけど、この様子ではまだそういう気持ちにはなっていない可能性が高い。

 シャイはもう少し頑張らないといけないようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ