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プリンと生活に便利な魔法

 チラシ配りの収入を得たので、クラフトさんとリリーフのお店に行くため、帰宅する前にそのままベーカリー・リーベへと足を運ぶ。


 チリンチリン。


「いらっしゃいませー……って、イルじゃない。仕事は終わったの?」

「うん。さっき終わったところー」

「お? イルか。いらっしゃい!」

「クラフトさん、こんばんは! 今日は収入が入ったのでパンを購入させていただきます」

「そうかそうか。ゆっくり見てってくれ」

「はいっ」


 ひょこっと奥から出て来たクラフトさんに挨拶をすると、彼はまた奥へと引っ込んだ。パンを作っている最中なのだろうか。


「あれから特にドジしてない?」

「してないしてない。お給料もちゃんと貰ったよ」

「それならいいんだけどね。はい、トングとトレー」

「ありがとう。何にしようかなぁ」


 ザッと見回すと夕方時ということもあり、種類は少なめ。それでも目に入ったくるみのパンをひとつ取り、トレーの上に乗せた。


「もう少しでミルクパンも出来る上がる頃だと思うけど」

「ほんと? じゃあ、待ってる!」


 出来たてのパンが買えるなら、と待つこと数分。クラフトさんが出来たてのミルクパンを持って奥の調理場から出て来た。


「ん? イル、待ってたのか? 悪いなぁ、待たせちまって。ほら、出来たてだぞ」

「わあぁぁ……出来たてほかほかのふかふかで美味しそう~!」


 湯気が立つミルクパンは牛乳の甘い香りと愛らしい丸い形でベーカリー・リーベの中でも上位に入る人気のパン。

 焼きたてのミルクパンに出会えて、思わず目が輝いてしまう。

 早速ひとつ取り、レジに立つリリーフに会計をしてもらった。

 対価を払って品物を受け取るこの当たり前の行為が出来て嬉しい私は出来たてのミルクパンを頬張りながら急いで家に戻る。

 途中で転んでしまったけど、パンは無事だったので結果オーライ。




「さて。早速プリンを作ってみよう!」


 材料を用意し、エプロンを身につけて準備万端。レシピブックを開いて手順を確認しする。

 プリンを作るためのプリン容器はないので、代わりになりそうな耐熱容器のマグカップでも代用出来るとのことなのでマグカップを用意した。

 予め別のカップ一杯分のお湯を沸かしておく。最初に作るカラメルソースで使うため。

 小さな鍋に砂糖と水を入れて魔道具である焜炉に火をつけようとしたとき、あることを思い出し手を止めた。


「あ、そうだ。私、火が出せるんだった」


 ファイアを覚えたのだからわざわざ魔道具の力を使わなくてもすむのかもしれない。

 ファイアは生活魔法の一つであり、使えることが出来れば魔法石を節約出来るので便利なはず。


 魔法石とは魔道具を使うための魔力が込められた石。焜炉や冷蔵庫、電気、お風呂、生活に関わるもの全てが魔法石の力のおかげで日々の暮らしやすい生活が送れるのだ。

 もちろん使えば使うほど消費するし、エネルギーである魔力が枯渇すると新しい魔法石を購入しなければならないので生活には必ず必要不可欠な代物。

 それが少しでも節約出来るなら魔法が使えるのは有難いことである。

 なので試しにと、一度鍋を焜炉の上から退かして、その焜炉に向けて手のひらをかざしてみる。

 種火程度とはいえ、強火から弱火くらいまでの威力調整は出来るらしいので中火くらいをイメージして呪文を口にする。


「……ファイア」


 ボッ、と焜炉の上に火が灯る。火加減も問題なさそうなので鍋をもう一度焜炉の上に置いた。

 暫くしてこんがりと茶色に色づいてきたら、最初に沸かしておいてたお湯を少しだけ入れてみる。するとソースが勢いよく跳ね始めたので火傷をするのではと危険を察知し、思わず距離を取ってしまった。

 大人しくなったのを見計らってカラメルソースをマグカップに入れて、今度はプリンの元になる液体作り。

 一度つけた種火の火力は変えられるだろうか? 試しに鍋の火元に手を近づけて弱火をイメージすると火力が自分の欲しい強さに切り変わった。

 駄目だったら一度消そうかと思っていたので、簡単に火力を変えられることが出来たのは嬉しい。

 鍋に牛乳と砂糖を投入し、沸騰させない人の体温くらいの温度で温めていく。

 それが出来たら次はボウルに卵を溶かし、牛乳を少しづつ混ぜながら入れる。液体を漉す作業が必要らしく、振るいを使ってカラメルソースの入ったマグカップに注いだ。

 厚手の鍋を用意してマグカップのプリンを入れてから容器の半分以下ほどに浸すようお湯を入れて火をかける。

 沸騰したら手拭いで巻いた鍋蓋をする。こうするとプリンに水滴が落ちないそうだ。そのあとは弱火から中火で十分から十五分。


「……弱火なのか中火なのかはっきりしてほしいな」


 そんなふうに書かれてしまうと迷ってしまう。でも、あくまでも目安だから仕方ないのだろうなぁ。しかし、こちらとしては材料を無駄にはさせたくはない一発勝負である。

 とりあえず弱火で十分過ぎた頃に一度火を止めて、竹串を使って液体がしっかり固まっているかを確認する。


「……大丈夫そう、かな?」


 ひとつのプリンに刺してから引き抜き、液状の物が穴から出てこないのでしっかり固まっている様子。あとは冷やしたら完成とのこと。

 少し冷ましてから冷蔵庫に入れて暫くそのまま。あとは片付けをして、くるみパンを食べてからお風呂に入り、そのあといよいよプリンとのご対面である。

 冷蔵庫を開けて四つ作っておいたプリンのうちひとつを取り出した。

 スプーンを用意して、マグカップのプリンをまずは一口。


「!」


 優しい甘さで、つるんとした滑らかな舌触りに感動を覚える。材料は少ないのにこんな美味しい甘味が出来るなんて知らなかった。

 じーん、と涙を流しながら食べ進めると、底にあるカラメルソースが姿を現す。


「そういえば、ソースがあったんだった」


 じゃあ、今度はソースと一緒に食べてみようと思ったところで、ピロンッという音とメッセージ画面が出てきた。


========================================


レベルアップしました。ウォーターを覚えました。


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「これは……! 水魔法!」


 新しく覚えた魔法は見てわかる通り水魔法だ。急いで詳細を確認しようと魔法一覧からウォーターについて調べてみる。


========================================


・ウォーター

水を呼び出すことが出来る。


========================================


「嬉しいー!」


 火魔法に続いて水魔法だなんてありがたい! これで水の節約にもなるから生活が少し楽になるだろうなぁ~。

 ひとまず、どんな感じか確かめようと、一旦プリンを置いて流し台に向かう。


「ウォーター」


 両手を器のように構え、魔法を唱えると、両手のひらから水が湧き出した。


「ほんとに出た!」


 ファイアのように強弱をつけられるのか、試してみる。

 どうやら蛇口やシャワーくらいまでの強弱なら可能みたいだ。


「これは便利な魔法だな~。よし、プリンの続きだっ」


 気分が良くなり、食べかけのプリンに再び手をつける。今度はプリンに絡ませた赤褐色のソースと共に口に入れた。


「! 美味しい!」


 とろっとした甘いカラメルソースはプリンとはよく合っている。そういえばソースを作っていたとき、ぶわっと香る甘い匂いを思い出した。


「スイーツって贅沢品だと思ってたけど、少ない材料でも作れちゃうんだ……」


 元々、甘い物を食べることは少なかった。お家が貧乏だったということもあるので、誕生日ケーキというものも口にしたことがない。

 それでも数少ないとはいえ、口にしていたスイーツといえば母の作ったクッキーやケーキ代わりに買ってくれたプリンとか……他には何があったかな。とりあえず思い出せるのはそのくらいだ。

 お母さんのクッキーは素朴で、あったかくて、美味しかったなぁ。


「そうだ。次はクッキーに挑戦してみようかな」


 母が作っていたくらいなのでクッキーの材料も賄えるはず。

 ただ、焼く際に必要なオーブンなのだけど、都会住みや富裕層の人は温度の調節が簡単に出来る電気オーブンが主流らしいが、私の家は石窯である。

 スタービレの町でも電気オーブンを使っている人は少ないと思う。ベーカリーショップのリーベも石窯だし。

 田舎町というほど小さい町ではないんだけど、都会ほど発展はしていない。電気オーブンはまだまだ高価なものだから人によっては石窯でも問題ないのだ。

 もちろん家庭によっては石窯も持たない所もある。私の家は元々石窯がついていた中古のお家なのでラッキーといえばラッキーだろう。

 しかし、そんな石窯も主に使っていた母が亡くなってから一年以上使われていなかった。使い方がわからないわけではない。私も多少は扱えるけど、どうしても母ほど石窯を使うような凝った料理を作る気が起きなかった。……母の姿を思い出してしまうので。

 でも、ずっと引きずるわけにはいかないので、そろそろ使ってみてもいいのかもしれない。


「あ……薪がないのか」


 石窯を開けて中の状態を確認したり、薪の在庫を見てみるが圧倒的に薪の量が足らなかった。

 このままではクッキー作りではないので、明日にでも薪を調達してみよう。


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