帰ってきた青年とエルフの村の話
レイヤにシェアの魔法をかけてあげて、言語理解を得る私のスキルを共有し、レスペクトの言葉を聞き取れるようにした。
それから私とレスペクトが従魔契約した経緯を説明する。でも、レイヤの場合はカトブレパスがどんな魔物なのかという所から話をしなければならない。
「……つまり、最初は生クリームを手に入れるため邪視の能力を持ったカトブレパスを探してたんだな? 一人でか?」
「うん」
「よくそんな危険なことを……。スライムとはわけが違うだろ?」
「言語理解のおかげで言葉はわかるからなんとかなるかなって……」
『私でなければ問答無用で邪視を食らってた可能性はあるがな』
「ま、まぁ、結果的にはなんとかなったし、討伐依頼が出たときは焦ったけど、従魔契約のおかげで解決したし、今はレスペクトのおかげでお得意様にミルクを売ることが出来るようになったから生活的には潤ってるんだよっ」
「無事なら良かったけど無茶するとリリーフが怒るぞ」
……うん、もうすでに怒られたあとでした。しかも、レスペクトはカトブレパスの中でもかなり強い魔物だと伝えるとレイヤは難色を示す表情を見せた。
「もう少し危機感を持つべきじゃないのか?」
「あはは……私もそうだとは知らなくて……」
「……レスペクト。友人の俺からもお礼を言わせてくれ。色々と彼女を助けてくれてありがとう」
『お前から礼を言われるようなことはしていない。従者の面倒を見るのが主の役目だ』
「そ、そうか」
「そうだ、レイヤ。エルフの村に行くって手紙が来てたからずっと気になってたんだよ。どうだった?」
レイヤは和菓子というジャンルのスイーツ材料を手に入れるため王都へ行ったのだけど、王都には彼の欲する材料が見つからなかったとのこと。
王都の市場といえば定番の食材から田舎にある物珍しい食材まで揃っているというのに何一つ見つからないのだから伝説級の食材なのだろうかと思ったんだけど、彼の聞き込みの結果、他種族が独自で生産している食材があるということなのでそれを探しにまずエルフのいる村に行くと手紙に書かれてから連絡はなかった。
「あー……それが、色々あって。実はイルの力を借りたいんだ」
「私の力?」
レイヤは王都で生活資金を稼ぎながら情報収集をし、他種族の食材を調べようとするも魔族もエルフ族も住処を公にはしていないので、どこへどう向かえばいいのかわからなかった。
魔族に至っては海の遥か向こうが領地で、今は誰も足を踏み入れることはしないため、そこへ向かう船なんてない。
エルフ族は魔物の少ない森を住処にしているという話を聞き、エルフの方が見つかる可能性が高いため、レイヤはあちこちの森へと赴くことにした。
とはいえ、道中魔物を相手にしなければならないことばかりだったレイヤは、前に私が貸していた父の短剣で何度も戦闘をこなしていたらしい。そのためレベルなど上がったのだとか。
そしてやっとエルフ族が住む森へと辿り着いたレイヤだったが人嫌いで有名なエルフ族からは悪意のある視線や不審な目で見られたりしていて居心地がとても悪かった。
それでもエルフの人に話を伺おうとしても悪態つかれてしまい、まともに取り合ってくれず、そして村の長まで現れたのだ。
レイヤは追い出されるのかと思ったが、彼を見た村長は驚きながらこう口にした。
『この者はイストワール様のご加護を受けておる!』
その瞬間、エルフ達はざわついた。話によるとエルフ達は女神イストワール様を強く信仰しているらしい。
各地のエルフが住む森はイストワール様によって与えてくれたという言い伝えがあったから。
そしてその長となる者は代々女神の加護を与えた人を認識出来る力が受け継がれるという。
女神イストワールが言うには「私の加護を受けた人が困っていたら助けてあげてね」と残し、数百年に一度の割合で女神の加護を受けた者が現れ、彼女の意思に従い何度も助けてあげたそうだ。
「じゃあ、レイヤもエルフ達に協力してもらえたんだよね? 目当ての食材はあった?」
「あるにはあったんだが、エルフ達は丹精込めて作った食材を村の外に持ち出してほしくないらしくてな」
どうやら話はまだ続くらしい。レイヤは今までの女神様の加護を持った人が訪れたときと同様に村長から「困ってることがあれば協力しよう」と言ってくれたそうだ。
それでエルフが生産している食材を教えてもらい、譲って欲しいことを伝えた。
村長が理由を尋ねるとレイヤは素直に同じ女神の加護持ちである私がスイーツを作るためと説明したのだが、村の長は悩みながらも首を縦には振らなかった。
『疑ってしまって申し訳ないが、その者も連れて来て実際に作ってほしい』
と言われたらしい。エルフが作っている食材はあくまでも主食用で甘味になるとは思えなくて、もしかしたらエルフ産の食材が人間によって高値で流通されるのではと危惧しているのだと。
レイヤが疑われているというより、騙されていると心配されたそうだ。
「そういうことなんだ……」
『エルフは小心者だからな。奴ら独自で生み出した技術や文化を村の外には出したくないのだろう』
「エルフの村には和菓子に必要な材料もあったからきっと彼らから譲ってもらわないと手に入らないんだ。イル、勝手なことだと思うが、一緒にエルフの村に行ってくれないか? それでエルフ達の前でスイーツを作ってほしい」
私の力を貸してほしいという理由がわかり、私は何も躊躇うことなくすぐに頷いた。
「うん、任せて。私のスイーツのレパートリーのためにも、レイヤが和菓子を食べるためにも私エルフの村に行くよ」
「ありがとう。ここからだと馬車で三日か四日くらいかかると思うけど、いつ出発しようか」
「うーん。そうだね、あと一週間ちょいで収穫祭があるからそれが終わってからでもいいかな?」
そう。もうすぐ秋の収穫祭があり、初めての料理大会が控えている。もしかしたらそれまでに間に合わないかもしれないので、せめて祭りが終わってからの方が急ぐこともなく気楽にエルフの村へと向かえるだろう。
「あぁ、それは構わない」
「良かったー。待たせちゃうけど、ごめんね? レイヤも早く和菓子が食べたいのに……」
そこでふとレイヤについて思い出したことがあった。
「そういえば、レイヤの住んでた村では和菓子は有名だって言ってたよね? でも、その和菓子に必要な材料はエルフの作った食材で、よそには流通していないって話だから……レイヤはどうやってその材料を集めて和菓子を食べたの?」
「!」
なんとなく感じた疑問をレイヤにぶつけると彼は目を丸くして驚いていた。
「あ、あー……どう、だろうな? 俺の村ではよく似た別の食材を使っていたのかもしれないし……」
「レイヤ、確か地図に載らないような小さな村に住んでたって言ってたけど……もしかして、エルフの村だったり?」
少し冗談っぽく言ってみたけど、この推理当たってるのでは? レイヤが世間に疎いのも、地図に載らない村出身で帰る村がどこかわからないのも、エルフ産の食材ばかりでしか手に入らない和菓子を口にしたことがあるのも、全部彼がエルフの村出身だからといえば辻褄が合う!
でもそうだとしたらレイヤはエルフになるわけだけど……どう見ても人間だしなぁ。ハーフエルフなのかな?
「……イル。色々と想像を膨らませているところ悪いけど、俺はエルフの村の者じゃないからな? そもそも彼らは和菓子も知らなさそうだったし」
「違ったかぁ……」
『フン……自分の出身もわからないとはな。怪しい人間に間違いないだろう』
「うっ……」
「レスペクト、そんなことないよ。レイヤはいい人だよ」
レイヤをフォローするもレスペクトは不機嫌そうに鼻を鳴らして顔を背けた。どうやら彼もリリーフと同じようにレイヤを怪しんでいる。なんでだろう? 彼、そんなに怪しいかなぁ?
「でも、戻って来てくれて良かったぁ。もしかしたら、もっと居心地のいい場所を見つけたのかもしれないって思っちゃったから」
「他にあてもないし、今はここが俺にとっての居心地のいい場所だ」
「それじゃあ、早速いつもの部屋で休んでて。今日はレイヤが帰って来たお祝いしなきゃ! 明日にはリリーフにもクラフトさんにも報告しないとね」
『待て、イル。その男ここに住むのか?』
「うん。レイヤは帰る所がわからないからね。前も一ヶ月くらい住んでたから心配ないよ」
『……』
(目、見えないけどすげー睨まれてる気がする……)
ただでさえ人が煩わしいと思っているからだろうか、従者の私以外の人間が近くで生活しているのが嫌なのかもしれない。
レスペクトが不機嫌オーラを漂わせているので、気を紛らわせようと「生クリーム準備するからねっ? ねっ?」と言ったらわざとらしい溜め息をついて……
『クリームで私が大人しくすると思わないことだ』
と、凄んでくる。確かにそう思ってたんだけど、正直には言えず小さく「……はい」と返すしか出来なかった。
『レイヤとか言ったな。貴様、私の縄張りの中でおかしな行動をしてみろ。すぐにその身体を動けなくさせてやるからな』
「は、はい……肝に銘じます……」
どうやらレスペクトは反対しなかった。……態度で示してはいたけども。
レイヤはリリーフといい、なんだか信用されていなくて可哀想である。だから今日はご馳走を用意してあげよう。
あとレイヤと別れてから色んな魔法やスキルを覚えたし、スイーツも作ったし、レイヤのためにいくつかスイーツをアイテムバッグで保管もしているから食べてもらおう。
久しぶりに会えた友人と積もる話もあるので私はウキウキしながらレイヤを連れて、久しぶりの共同生活を再開することになった。




