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商業ギルドとお仕事探し

 ラスクを食べてやる気が出た私は夕方に再び町に戻った。

 町を見てまわり、もしかしたら店前に求人募集の貼り紙があるかも知れないと考えて。

 本当ならばギルドの方が仕事の依頼は沢山ある。

 商業ギルドか冒険者ギルドになるのだけど、冒険者ギルドで仕事を貰うには冒険者登録をしなければならないし、仕事の依頼はモンスター退治が殆ど。

 モンスターとは戦えないただの町人にとっては縁のないものなので、危険性のない普通の就職先を探さねばならない。

 しかし、店前の求人募集は私の持っていないスキルを求めているものばかり。

 料理人、鍛冶屋、服飾などなど。さすがに私レベルでは難しい仕事である。


「……やっぱり、商業ギルドに行かなきゃいけないかな」


 商業ギルド。製造販売などを登録する所でもあるが、仕事を斡旋する場でもある。

 すぐに人手が欲しければ商業ギルドに依頼する方が、店前に求人募集の貼り紙を貼るよりかは効率的。

 そもそも店前に貼り紙をしてる人は、条件が合えば来て欲しいくらいの気持ちなのでそこまで強く必要とはしていない所も多い。


 でも、私は商業ギルドを避けていた。

 何故ならば両親はそこで半ば無理やりお願いされた仕事を受けて亡くなったから。

 仕事内容は『薬草採取』

 内容としてはとても簡単なものなのだが、その日は緊急を要していたらしく、普通の薬草採取よりかは少し高めの報酬金を提示していた。

 しかし、大雨だったのと、高めに設定していたとはいえ、他に美味しい仕事があったため、誰も手に取らなかったその仕事。

 この町の貴族からの依頼だったのか、どうしても当日中に欲しかったらしく、ギルド職員が来る人来る人にお願いをしていたらしい。

 そこで捕まったのが私の両親。父も母も最初は土砂崩れや落石が心配なため断ったのだけど、ギルド職員に頭を下げられたため、世話になっているのもあるので、それを受けることにした。

 そして、心配していたことが現実となってしまう。土砂降りの雨の中、切り立った崖下に生えている薬草を採取していた時、両親は落石に見舞われた。

 その後、商業ギルド職員が謝罪に来たけど、心が晴れるわけがない。せめてあんな雨の日じゃなければこんなことにはならなかったのに。

 だから、商業ギルドには一度も行ったことがなかった。


「……」


 あれから一年以上。この間墓参りにも行ったばかり。

 ……そろそろ前を向かなければならないのかもしれない。

 リリーフも気を遣って商業ギルドへ行くことをあえて言わなかったし、私も甘えていた。

 仕事を得るためには商業ギルドへ、なんて子供でもわかる当たり前のことだ。

 ぱちん、と両頬を叩いて自分を鼓舞する。


 行こう。商業ギルドへ。いつまでもギリギリの生活なんてしていられないのだから。






「すみませーん……」


 緊張しながら商業ギルドの扉を開ける。中は思っていたよりも人が少ない。

 多分あと一時間ほどしたら、仕事を終えて報告に来る人達でごった返すことになると思う。


「こんばんは。商業ギルドが初めての方はこちらへ」


 中をキョロキョロする私に商業ギルドが初めてだと気づいたのは、ボブでダークブルーの髪色をした女性。その人が受付にて手を挙げてくれた。

 椅子に座って待つ彼女のいるカウンターへいそいそと向かい、私も椅子に座って用件を伝える。


「あの、お仕事を探していまして……」

「求職ですね。それでしたらまずはギルドカードの作成を致します。こちらの用紙に必要事項をご記入ください」


 差し出された用紙には氏名と住所などを書き込む欄があり、ペン立てからペンを取り、サラサラと書き込んでいく。


「お願いします」

「それではお預かりします。イルさんですね。住所は……あっ」


 何かに気づいたような声が聞こえた。何だろう、もしかして町外れに住んでいるのがまずいのかな。

 おろおろしながら女性の言葉を待っていると、いきなり立ち上がり、そのまま深く頭を下げ始めた。


「本当に! 申し訳ございませんでした!」

「えっ、えっ?」


 何故謝罪をされたのかわからず、先程まで冷静な様子だった彼女は何度も謝罪の言葉を告げる。


「あの、なんで謝るんですかっ! 顔を上げてくださいっ」


 他のギルド職員や利用する人達の視線がいっせいに集まり、私は慌てて彼女に顔を上げてもらおうと声をかけた。

 ようやく顔を上げた女性は本当に申し訳なさそうに眉を下げていて、ぽつりとその理由を口にする。


「……実は、イルさんのご両親に薬草採取をお願いしたのは私なんです」

「あ……」


 そういうことだったのか。思わず私の表情も曇る。


「その日、依頼をして来た方も至急にとのことで私達も必死に仕事を受けていただける方を探していたんです。でも生憎の天気でしたので、なかなか見つからず……イルさんのご両親にも何度もお願いをさせてもらい何とか受けていただけました。謝罪しても、し足りないのは承知しております。ご両親のお二方も、イルさんにも大変申し訳ないことを致しました。求職者の安全を軽んじてしまったことを深く反省しております」


 よく覚えていないけど、もしかしたらこの人も謝罪をしに来ていたのかもしれない。

 あの時は気が動転していたのと、信じたくない気持ちでいっぱいだったため、謝罪に来た商業ギルドの人達の顔が思い出せなかった。

 しかし、あれから一年も経っているというのに住所を見ただけで両親のことを思い出してくれるなんて。


「……両親のこと、覚えていただきありがとうございます。確かに、ギルドの方々が安全を考慮し、緊急依頼の仕事を一日でも待っていただけたらこんなことにはならなかったと考える日もあります……でも、もうこの運命はどう足掻いても変えられませんし、仕事を受けたのは両親ですので全てが貴方の責任ではありません」

「イルさん……」

「ですので、そんな思いつめた顔をしないでください」

「申し訳ございません……お辛いのはイルさんだと言うのに……」

「もう、一年経ちました。ずっとうじうじなんて出来ません。それこそお父さんもお母さんも望んでいないと思いますので」

「ありがとうございます……」


 再び頭を深く下げられる。本当はもう気にしないでください、と言えたらいいのだけど、そう言ってしまうと両親のことを忘れられそうで言えなかった。

 謝罪の際に受け取った慰謝料とは別に薬草採取の報酬金として支払われた千ゴールド。それは二人の肉親を奪われるにはあまりにも安い金額だと思った。

 しかし、彼女も仕事に一生懸命だったのだろう。一生懸命過ぎて安全面を考慮出来なかった。その罪は重いけど、それが切っ掛けで求職者の安全面をしっかり考えるようになったという話は噂で聞いている。


「すみません……ギルドカード作成の続きをお願い出来ますか?」

「あっ、申し訳ございません! 早速作成させていただきますのでこちらの魔道具に手をかざしてください」


 魔道具と呼ばれた真っ黒な鉱石が目の前に出される。大きさは手のひらより大き目でオブジェにも見えるが、よく見ると人の手の形に加工されているのか窪みがあった。


「こちらでイルさんのステータスを記憶させて、ギルドカードに情報を移します」

「わかりました」


 言われた通りに手のひらを手の形に合わせるように当てる。窪みより小さい自分の手を重ねてから暫くすると、青白く石が光った。

 職員の女性が何やら真っ白なカードを、記憶を読み取っている最中である鉱石に押し付ける。

 呪文めいたものも呟くが、小声すぎて何を言っているのかわからなかった。

 暫くすると青白い光は治まり、代わりに白いカードが同じ光を纏ったのちに少しずつ消えた。


「お待たせしました。こちらがイルさんの商業ギルドカードです」


 受け取ったカードには商業ギルド会員という文字に、自分の名前、発行所と書かれた欄にはこの町の名前であるスタービレ商業ギルドと印字されていた。

 お父さんもお母さんも商業ギルドカードは持っていたけど、実際に見たことはなかったので初めて手にする。


「商業ギルドは冒険ギルドのようにランク付けはございません。製造販売される場合はこちらのカードを持っていただきますと製造者と販売者を印字させていただきます」


 なるほど、この一枚で商業に関わる情報は全て入るんだ。


「もし、無くされた場合は速やかに報告ください。手数料が千ゴールドかかりますが、新たにカードを発行致します。あとは受付したにも関わらず無断欠勤や依頼主に損害を与えた場合はペナルティーがございます」

「ペナルティー?」

「主に違約金のお支払いですね。こちらのデータにも残り、職歴にも載ります」

「なるほど……気をつけます」

「それと、ご自分の名前を指でなぞっていただけますか?」

「? はい」


 女性職員に言われて、ギルドカードに書かれた自分の名前を指でなぞる。

 すると、カードの表面が切り替わり、自分のステータスが表示された。それに加えて職歴の項目がある。


「わぁ……あ、職歴ってここで受けた仕事とか、さっきのペナルティーもここに載るんですか?」

「その通りです。求人募集をする方にもたまに審査が必要なときがありますので、応募した方の職歴を見て雇うかどうかを決めます。仕事をこなした回数や内容、勤続年数、ペナルティーなどが表示されますので信頼出来るかどうかの判断にもなります」

「凄い……便利ですね。因みにお仕事を探す時はどうすれば?」

「あちらに掲示板がありますので、そちらに募集している業務が記載された用紙を貼り付けてあります。求職者の方はご自分のスキルや求めるものに合う業務が見つかりましたら、用紙を持ってこちらに来ていただければ受付致します」

「わかりました」

「こちらの説明は以上となりますが、お仕事を開始されるのでしたら朝の方が沢山張り出されていますよ」


 そう言われて大きな掲示板をちらりと見てみると、数枚ほどしか貼っておらず、確かに数は多くなさそうであった。


「今の時間帯ですと夜の酒場の募集が大半になります」

「そうなんですね」

「因みに商業ギルドの営業時間は朝の七時から夜の九時まででして、求人募集が営業時間より早ければ前日に募集をしています。そして、営業時間外に仕事を終わられた場合の報告や報酬金の支払いは翌日の営業時間にお願いします」

「はい。色々とありがとうございます」

「いえ、こちらこそありがとうございました」


 お互いにぺこりと頭を下げて、私は商業ギルドを後にした。


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