ベニエと届いた手紙
毎朝、ポストを開けて手紙などが届いていないかの確認をする。とはいえ、私宛の手紙なんて届くことはない。届いてもダイレクトメールくらいだ。しかし、しっかり確認して取らないとポストがパンパンになってしまう。
今日もどこかのお店のダイレクトメールが届いたらしく、その手紙を取り出してどこから来たのか確認してみたら……青い封筒の差出人の名前がレイヤと書かれていて思わず二度見した。
「レイヤ!?」
まさかのレイヤからの手紙に驚くも、すぐに歓喜へと変わった。
王都で食材探しのため、レイヤが出て行ってからもうかれこれ二週間は経っただろうか。
いつ帰ってくるかなとか、箱入り育ちらしいから一人でもちゃんとやっていけてるかなとか、色々身を案じていたけど手紙を出してくれているなら少なからず無事なんだろうと思う。
問題はその内容なんだけどね。王都には馬車で何度か乗り継いで早くても三日。遅くても一週間以内には到着するんだけど、未だに帰って来ないから目的の食材は見つからなかったのか、それとももうここには帰ってこないとかなのか。
後者だったら仕方ないとはいえちょっと寂しいかな。でも、絶対帰ってくるって言ってたし。とりあえず中身を読んでみなきゃ始まらない。
「えっと、なになに……」
手紙にはレイヤの字でこう綴られていた。
イルへ、連絡が遅くなって悪い。王都なら材料が見つかると思ったんだけど全然何一つ見つからなくてずっと情報収集に勤しんでいた。
さすがに手ぶらでは帰りたくないし、俺も意地になって調べた結果、魔族かエルフ族の住処なら独自で生産している食材があるはずという話を聞いて、一先ずエルフのいる村に向かうことに決めたから帰るのはまだ時間がかかりそうだ。
また何かわかったら手紙を書くよ。もし、心配させたらごめん。レイヤより。
「とりあえず無事なのは確かかな」
それなら安心したけど、レイヤは本当に大丈夫だろうか。目当ての食材があったとしても、エルフにしろ魔族にしろ、そう簡単には食材を分けてくれるとは思えない。
しかし、私の住所しか書いてないので返事すら出せないのがもどかしいなぁ。もうエルフの村に向かっているからなんだろうけど。
……よし、レイヤも頑張ってくれてるから私も新しいスイーツを作って運の数値を少しでも上げなきゃ。
気合を入れて私はレイヤの手紙を手にしたまま町へ、スタービレのベーカリー・リーベへと向かった。
レイヤから手紙が届いたことの報告と、新しく作るスイーツの材料についてクラフトさんに相談したいから。
「見て見て、レイヤから手紙が届いたの!」
早速、看板娘のリリーフに自慢すると、彼女はあからさまに嫌な顔を見せる。
リリーフは相変わらずレイヤのことを信用していないのか、手紙を読むと眉間に皺を寄せた。綺麗な顔が台無しである。
「……相変わらず胡散臭い奴ね。悪いことでもしてんじゃないの?」
「もー。リリーフはレイヤのこと信用しなさすぎだよ」
「あんたが信用しすぎなのよ」
別に私は誰彼構わず信用しているわけじゃないんだけどな。リリーフは心配性だよ。
「それにしてもエルフの村だなんてよく行こうと思うわね。あそこ警戒心が凄く高いらしいし、余所者は追い出されるか狩られるかされるわよ」
「……そういえば聞いたことある気がする」
エルフは自分の種族が何より大事で他種族との関わりを好まない。そのため人から離れた所に住んでいる。でも、エルフみんながそうではなく、人好きなエルフや好奇心旺盛なエルフは王都に住んだりしてるとか。
「生きて帰るといいわね」
「なんでそんな企み顔で言うのっ!?」
うう……レイヤ、無事に帰って来てほしいな。とにかく彼を信じてまた手紙が届くのを待とう。
「そうだ、リリーフ。クラフトさんに相談事があるんだけど、少しお話出来るかな?」
「パパに相談? 珍しいわね、変なことじゃないでしょうね?」
「変なことじゃないよ! 食材について聞きたくて……」
「おう! なんだ? わかる範囲なら答えられるぞ!」
そこへ、自分の話がされていると気がついたのか、店の奥からクラフトさんが出て来て、思わず肩が跳ねる。
「ク、クラフトさん!」
「よう、イル。何か聞きたいことがあるって聞こえてきたからよ」
わ、私のためにわざわざ顔を出してくれたなんて……! と、顔に出ていたのがリリーフに気づかれたようで「深い意味ないわよ」と胸をグサリと刺す一言を告げる。ひ、酷い。
「あ、あの、クラフトさん。イーストについてお尋ねしたくって。次に作るスイーツにイーストが必要なんですけど、私パン作りとかもしたことなくてどこで入手するのかわからないんです」
「なんだ、そういうことか。イーストは普通に小麦とかの粉類が売ってる所に置いてるぜ」
「あ、そうなんですね! 思ったよりも簡単に手に入るんですか。もっと専門材料かと思ってました」
「ははっ! パン作りをしないとそう思っちまうかもな。まぁ、確かに普段の料理にゃ使うことはねぇな」
すぐに手に入るならこちらとしても有難い。そういうことなら早速……。
「イーストが欲しいならうちのを分けてやるぜ」
「え、ええっ?」
「いつもリリーフ共々世話になってるからよ」
「世話してるのはこっちだけど」
うぐ、リリーフの言葉はごもっともである。でも、なんだか悪い気がするなぁ……。
「凄く有難いですけど購入出来るものならわざわざ分けて頂くほどじゃないですよっ」
「別に大量に使うわけじゃねぇだろ?」
「えっと、三グラムくらいですかね」
「それくらいなら構わねぇ構わねぇ。用意するから待ってな」
「え、でも、クラフトさんっ」
呼び止めようとしても彼は店の奥へと戻って行ってしまった。いいのだろうか、とリリーフに目で訴えると彼女は軽く溜め息を吐いて頷く。
「パパがああ言ってるならいいでしょ。まぁ、普段パンを作らないのなら購入しても余らせる人が多いし、使いたい分を分けてくれるならいいんじゃない?」
「そう……? それならお言葉に甘えようかな」
「そうしなさい」
「イル、聞くのを忘れたんだが、イーストはドライイーストか?」
「え? あ、はい!」
ひょこっと顔を出したクラフトさんはイーストの種類を聞いて再び奥へと戻った。顔を出したクラフトさんは少し可愛くてなんだかくすりと笑ってしまう。
「ねぇ、リリーフ。イーストって種類があるの?」
「生とかドライとかあるわよ。パンによって使い分けるの」
「へー。イーストに種類があるなんて知らなかったなぁ」
イーストって一種類だけなんだと思ってたけど、パンによって使うものを分けてるのは驚きだ。パン屋さんって大変なんだなぁ……そういえば天然酵母? ってのもあるんだっけ? ……奥が深い。
「イル、用意出来たぞ。ほれ」
クラフトさんが小さな瓶に詰めたイーストを持って私に手渡してくれた。それを大事にアイテムバッグに入れる。
「ありがとうございます、クラフトさん」
「いいってことよ。菓子作り頑張れよ!」
「はいっ」
「……」
クラフトさんからの声援に思わずやる気が出る。リリーフには父を変な目で見るなと言わんばかりの視線を受けてしまったが……。
ベーカリー・リーベでミルクパンとバケットを購入した私は急いで家に帰った。
レシピブックを出して、目当てのスイーツのレシピを開くため、検索機能がついている本にスイーツの名前を口にした。
「ベニエ」
パラパラと捲れる本は次第にゆっくりとした動きになり、探していたスイーツのレシピのページを開いてくれた。
口にした通り本日はベニエを作ることに決めていたので、材料の一つであるイーストを先程まで探し求めていたのだ。
材料は硬質小麦、牛乳、卵、砂糖、塩、粉砂糖、ドライイースト、水。
少しだけ温めた牛乳にドライイーストを入れて混ぜてから、ボウルに硬質小麦、卵、砂糖、塩、水を入れてからドライイースト入りの牛乳を合わせて捏ねる。
防乾燥シートをボウルの上にしっかり被せて包み、しばらく時間を置いて発酵させると、膨らんできた生地を見て少し興奮してしまった。
そのあとは麺棒で生地を伸ばし、生地が温まってしまったらクーリングで生地を冷やして作業を再開。
生地を正方形に切ったら油で両面が狐色になるまで揚げていく。揚がったベニエの油を切ったら粉砂糖をかけて完成。
「凄く美味しそうー」
出来たてで熱々のベニエを早速食べてみようと指で摘むが「あちっ!」と熱々なのをわかっていながら火傷をしてしまった。
ヒールをかけてヒリヒリしていた火傷を治し、今度は火傷しないように手にヒートレジスタンスをかけてベニエを二つに割る。
湯気が出ている所を見るとやはり中まで熱々のようだ。ふっくらと膨らんでいるその中は空洞。
これがイーストの力なのかどうなのかはわからないけど、この空洞は凄く膨らんでいる証拠なのだろう。
「では、いただきます」
二つに割ったうちのひとつを口に入れる。熱々だけどふわっともちっとしていて、揚げているのに軽い感じ。美味しいー。
レシピでは粉砂糖じゃなくてもメープルシロップやジャムでも美味しいらしいから全部試したくなっちゃうなぁ。今は出来ないけど。
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レベルアップしました。フリーズを覚えました。
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もう半分のベニエを口に入れると、いつものウィンドウ画面が表示される。
フリーズってこれはつまりあれではないだろうか?
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・フリーズ
凍らせることが出来る。
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「やった! 瞬間冷凍が出来る!」
これさえあればすぐに冷凍させたい物を凍らせることが出来るわけだ。クーリングも威力最大でやれば凍ってたけど、魔力もその分使うしこっちの方が手っ取り早いかも。
ベニエを頬張りながら新しく覚えた魔法の便利さにニコニコしながら、ふと考えた。
「そういえばカトブレパスは生クリームの使わなかったベニエも食べられるかな?」
明日辺りにでもオルールの森に行ってみようと、沢山作ったベニエをリリーフ達とは別にカトブレパスの分も取って置くことにした。
呪術にかかり苦しむ男がいた。彼はオルールの森でもがき苦しんでいる所をとある冒険者のパーティーに発見され、医者に診てもらうと呪術をかけられてると診断を受け、治癒士に任せるも呪いが強力なためなかなか解くことが出来なかった。
病院に勤める治癒士総出で解呪を試みるも成功はしなかった。そのため、男は自宅で待機となるが男は歩くこともままならず、ただひたすらベッドの上で幻覚、幻聴に襲われる日々。
永遠と恐怖を与えられ続け、現実なのか幻なのかわからない死の神がずっと男の傍に立っている。
しかし、しばらくして彼の家に腕のある治癒士が派遣され、ようやく呪いに苦しむ男を助けることが出来た。
一体オルールの森で何があったんだと問われると、恐怖と憎しみを合わせた顔で男は言った。
「カトブレパスだ……ただのカトブレパスじゃねぇ! あれは相当やべぇ奴だ……。早く、早く討伐してくれぇ!」
日数にして五日ほど男はカトブレパスの邪視に苦しめられた。五日とはいえそれは気が狂うような日数。
あと二、三日遅かったら死んでいたとも言われる。仮に生き長らえたとしても身体は酷く衰弱している上に場合よっては精神に異常をきたしたり、後遺症があったり、それ故に過度なストレスを抱えて髪は白髪に変わったりする。
男の様子からして危険度が高いと考えた治癒士はすぐさま冒険者ギルドへと報告しに走った。




