6作目室内、ストランゲージ30番地
見慣れたアパートの一室は午後の風が這うようにのっそりと流れている
明るい日差しはカーテンレースに遮られ、
昼下がりの浴室のような湿った静けさが溢れている
塗装の剥げかけた白い扉は、今にもぎぃぎぃと軋み声を上げ、
一瞬で灰へ化してしまいそうな程おぼろげに佇んでいる
この扉は、確かににここに存在しているのだろうか
私の見た幻想の一部に過ぎないのではないか
白い扉の先には、延々と白い扉が続いた
その先にも白い扉が同じように口を開け、
ひっそりとしたアパートの一室が息を潜めている
その扉の先にはまた扉が続く
やはりこれは存在しないものではないのだろうか
扉をくぐり続けながら延々と前へと進んでいく
いくつ扉をくぐっただろうか
不思議と疲れはなかったが、
私は足を止めて壁際にぴったりと体をくっつけ無言で小休止した
扉の付近に止まろうとしたが、すでに先客がいるみたいだ
女性が背を向けたまま、壁に寄り添っている
今まで何度と扉をくぐったが、初めて気が付いた
この女性も私と同じように幾度と扉をくぐり、ここで力尽きたのだろうか
こんな所にいては駄目だ、前へ進まないといけない
そうしないと私も
彼女と同じようにこの国の一部になってしまいそうで怖かった
再び扉の先へと進んでいく
ここでふと好奇心が湧き、私は自身の進んだ道を躊躇なく振り返ったのだ
振り返ると今までくぐり抜けた扉が延々と連なっていた
そしてその扉の先には
私を見つめる無数の私がこちらをうかがっているのであった
全員、生気がない顔でこちらを覗いている
私は、無言で向き直ると再び扉をくぐり始めた
私がこの扉をくぐらないといけない理由は全てそこにあり、
そしてこれからも進まないといけない理由もそこにあった
私の後ろには無数の私の目が見つめている
作業を終えぬよう無数の私が見守っている