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薬師と悪魔と  作者: 雉虎 悠雨
第三章
23/24

23 なるようになるさ!

 フォレストにはさらなる疑問が湧き起こった。


「でも今は二体とも使役してるんだろう、前はドラゴンの七分の二でもそれほどだったのに。その上俺達も。どうやってるんだ」


 案内され出逢い、ゆっくりとグレンを使役することに慣れようとしたマクリルは文字通り血反吐を吐きながら一匹のドラゴンと向き合う日々があった。

 それ以前の幼い頃何も考えず修行に没頭していた日々から長く時間が経ち、マクリルは無意識に自分のしていることに心のどこかで疑問を持っていた。

 けれどそんなものが見て見ぬふりを続けていたのがちょうどその頃。自分の中にある違和感の正体に目を瞑って生きていたカジュに竜との出会いは衝撃を与えたからこそ、そんな苦痛を耐え抜くことができた。

 そしてわずかだけ、自分を捉えているものを振り切り、変わろうとしてみた。

 自分を変えているその矢先もう一体のドラゴンの襲撃が来る。

 そしてマクリルは自分で道を切り開く決断をして、行動に移した。


 いろんな意味で吹っ切れたマクリルは竜達の戦いを止めるため、様々な術を駆使し掛けられた暗示も国からの呪縛もそれぞれの竜から解き放った。すると今度は正気に戻った白竜はフォームタ国で術を掛けられたことに怒り、見境なく人間を襲い始めた。

 ただお互い戦いあった竜たちは疲弊していたし、人間達も竜たちとまともに戦えずとも必死の形相でやり合うので被害だけが大きくなり決着が付かない。


 そこでマクリルは間に立った。

 噂ではマクリルはこのハディスの森までドラゴンたちを追い詰め、この地で仕留めたとされていた。


「嘘なのか?」

「その辺はな、事実と虚構を織り交ぜて、国が作ったシナリオだ」


 軍部には体裁も必要であり、国王には国民に大魔道士マクリルに過剰な恐怖を抱かせることは避けたい思惑があった。

 マクリルの強大な力が証明され畏怖されるようになると、国に対する印象もそれに引き摺られて不信感や不安感が高まる懸念がある。さらに、反逆の気持ちがある者にはその恐怖は逆に期待になりマクリルを担ぎ上げ、実際にマクリルがそんなことをしなくても疑惑が流れるだけで、国が揺らぎかねない。

 マクリルは国王の完全なる味方でいて、正義であり、そして国民に安心感を与える存在でなければならなかった。

 そのための印象操作など、当然に行われている。


「実際暴走はさせてないんだな?」

「俺はな、ただ上手いことコントロールできてたかと言われればギリギリできてたような、できてなかったような」

「なんだそれは。結局どっちなんだ」

「レッドドラゴンを術暴走させたりはしなかったけど、本人が暴れるのは止められなかった」

「同じことではないか」


 止める気もなかったのが本当だが、実際止めようとしてもできなかったとカジュは思っている。


「いやいや、七分の一だか七分の二だかを受け持つってのができなかったんだよ。中途半端で逆にやり辛かったみたいな。それに他人が作った俺的には効率悪い術を維持するってのがまた面倒な作業で難しかったなー」

「お前ってやつは……それで今はどうなんだ?」


 心底呆れた声の出たフォレストもいい加減慣れてきてすぐに立ち直る。

 するとカジュも悪魔のくせに律儀に聞いてもらえるものだから、話しに少しだけ熱が籠もる。


「それがさー、気の持ちようって大事っていうかオレ自分でも気付いてなかったんだけど、もともとアイツを開放したかったから無意識が抵抗してたのもあって軍に従うのがしんどかったんだな。いろんなもん取っ払ったら案外平気っていうか、むしろ余裕。ドラゴンたちの協力もあるしな」


 白竜が暴れている間にマクリルはグレンに話を持ちかけ、グレンはマクリルの話に耳を貸してくれた。少しの間眠って力を回復させてから里に行ってみたり、好きにしてみてはどうかとマクリルは言ったのだ。

 どうやって眠るのだと問うグレンにマクリルは自分が使役して自作の亜空間に繋ぐからそこでなら何事にも囚われず眠れるだろうと提案すると、頷きが返事として返ってきた。

 白竜は憂さ晴らしに暴れているのに少々手を焼いたマクリルだったが、話をすれば単純にグレンと同じ場所にいられればそれで良いと何ともあっさり頷いた。

 竜たちわざわざ使役したのはそうすることで繋がりが強固なものになり、亜空間に長時間いてもマクリルのエネルギーに癒着したり自我を失ったりせずに眠っていられるからだった。一般の魔道士が召喚魔などを持つときに使う方法の一つだ。

 呼び出すときに力を要するが、眠り続けている場合、維持することは困難でもない、マクリルの力ならば。ましてや竜は自らそこで眠っているのだから、一般に逃れようと機会を狙っている魔物たちを役してるより随分マシではないかとマクリルは思った。


「それでもその上で俺達を使役するのは簡単じゃないはずだ」


 カジュの説明を受けても素直に納得しないのがフォレストだ。


「そうにきまってるだろー、だからヤダって言ってただろう」

「やはり難しいか……」


 そこだけやけにあっさり受け入れるので、カジュは少しだけ慌てて付け加えた。


「いやいや心配すんな、ただバランスとるのが難しいだけだ。時間が経ちゃ慣れる」

「バランスとはなんだ」

「あー、感覚的なもんだからな説明してわかるかどうか」

「それでも言え」


 威圧的なフォレストの様に、これも癖のようになってきているが、カジュは溜息を一つ吐くと滑らかに説明を始めた。


「使役するってのは簡単に言うと、魔物の力を自分のものにするって感覚に近い。だから力の強い魔物を使役するには、魔道士にそれを受け入れる器が必要だ。実際はもっと複雑な相性とか属性とかいろいろあるんだが、あくまでも簡単に言えばだ、ここまでは分かるな?」

「ああ」

「それが俺の場合少し違う、一般の魔道士が魔力の入る器一つで自分のも使役魔のも全てを受け止めていて、オレはその器自体を幾つも持ってるって感じだ。数もそうだし形も大きさも違うのをいーっぱい。だから使役するなら器を自分の中にもう一つ作るような感じってこと。これもあくまでイメージってだけなんだけど」

「それとバランスはどう関係してくるんだ」

「自分自身の力の器とお前達の力の器をこう天秤にかけてる様な感じ? 重さっていうかー、うーん、なんて言うかなー」


 ボーっと聞いているのか聞いていないのか分からないリリーが再び疑問を口にした。


「それってリリーたちの器ってのが勝ったらどうなるの?」


 それに答えたのはフォレストだった。


「それが暴走ってヤツだろう、こいつも俺達もどうなるかわからん」


 そのフォレストの答えにカジュは受け流すように軽く手を左右にパタパタさせて否定した。


「いやいや、力の暴走なんて起こらんよ。あれは言わば器の決壊みたいなもんだから。どうなるかというと、単純にお前達が疲れんじゃないか」

「は?」

「お前達の力を自分のモノとして使っちまうって事だ」

「おい! それでは意味がないだろう!」

「だからちゃんと使わないようにしてんだろ、だからバランスだよ。完全にお前達の力を無視すると、お前ら休眠してるような状態になるんだ。だからお前達にも力を供給して、その上で俺は俺の力だけを使う。そのバランスが難しいってことだ」

「普通に使役してる奴らはその辺どうやってるんだ」

「同じ器に自分のも使役者のも入ってるんだから気にする必要はない。むしろできないんだろうな、力の区別ができないんだから」


 つまり元が違うということだ。

 フォレストはそれを思うと、もう二の句が継げなくなった。自分の常識はもうカジュにはいろんな意味で通じないのだと思い知らされ、さらに悪魔に疑われる常識を持つカジュはどこ吹く風で気にも留めていない。

 

 それまでいつも通り能天気な顔で話半分そうだったリリーが、急に真面目な表情をした。


「カジュが、リリー達を仲間にするのは難しくないってこと?」

「簡単に言うとそうだ」

「じゃあどうして?」

「どうって?」

「どうして嫌だったの? リリー達仲間にするの嫌だって」

「あー、それな」


 フォレストとはいくらでも会話できるカジュだが、リリーとはやはりスラスラとはいかない。言いたくないわけじゃないが、言葉にするのが気恥ずかしいと思う部分があるからだ。


「もう嫌じゃない?」


 リリーにははっきり言わないとしつこいのからと、カジュはへらりと笑った。


「嫌ちゃ嫌だな」

「えっ、リリー達また」

「おい!」

「あはは、大丈夫だ、大丈夫。ちゃんと覚悟した」

「覚悟?」

「魔物と近くに暮らす覚悟だな」


 大切なものを守る覚悟。

 ドラゴンは隠すことで守れたが、二人の場合はそうはいかないことがカジュを迷わせた。


「俺はまだマクリルとしての仕事を捨ててない。それにお前たちを巻き込むことにかなり抵抗があったからな」

「巻き込むつもりか」


フォレストの問いには、首を横に振って答えた。


「よく考えれば、今まで一人でできない事なんかなかったんだから、これからだってそうすればいいんだって。お前たちはただのお供だな」

「連れては行くんだな」

「どうだろうな。置いていくほうが面倒だと思えば連れて行くこともあるかもな」

「曖昧だな」

「その方が臨機応変にできるんだよ」


 カジュは笑って答えた。

 二人を使役する覚悟をしたのは、深刻に考えすぎるのをやめたから。

 自分の気持ちに素直になるなら、したいようにするべきだと思ったのだ。


「リリーもお仕事する?」

「お前は何もするな」

「ええ! やるのに」

 

 リリーはふっくりと頬を膨らました。




お読みいただきありがとうございます!

次で終わる予定です。

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