11 客人
今回、短いです。
「招かれざる客がやってきたな」
森で薬草探しをしている最中、森に張り巡らせている結界の反応でカジュはそれを察知した。それはカジュが目的でやってきた者の侵入を知らせるものだが、カジュがここにいると知っているものは皆無に等しい。薬師としても当然魔道士としてもカジュがここに住んでいると公になどしていない。もともと人が住むことはおろか、通行さえできないと言われている森だからということもあるが、カジュ自身が隠しているからである。
そこにカジュが目的で来る者があったとき、それはカジュの過去を知っており尚且つその力を頼りたいという者だけだ。
そしてそういった者を排除するためカジュが仕掛けた術を掻い潜り森に入ってこられる者。カジュが知る限りではただ一人だった。
「頼みたいことがあってやってきた」
家の前で待っていた相手はカジュを見るなりそう言った。
特に感情がこもっているわけでもなく、かと言って冷淡というわけでもない。
しかし彼女はここで二時間以上は待たされていたことになるだろう。
カジュは気配を察知しても薬草摘みを切り上げたりはせず、いつもどおり納得いくまで森の中にいた。
相手が従者も連れずたった一人でいるだろうことも重々分かっていたが、カジュは気にしない。
そして彼女もそれは理解していた。
だから怒りもせず、カジュの家の前でじっと待っていた。カジュの家に鍵なんてものはない。それも知っているが勝手に入ったりもしない。
彼女がここに来るときはいつもそうだった。
カジュは彼女の前を素通りし家に入る。すると彼女もカジュのあとについて入り、ダイニングのイスに座る。いつものように。
カジュが摘みたての薬草の処理を終えるまで彼女は再びじっと待つ。
そうしてやっとカジュが彼女の前のイスにつくと再度同じ事をいった。
「頼みたいことがあってやってきた」
敵地に乗り込む時ほどではないが、彼女は武装している。
軍人だからだ。
彼女が乗ってきた馬も、カジュはわざわざ見もしなかったが家の近くに繋がれているはずだ。
そして彼女の軍服の胸には大将クラスの者のみがつけることを許される勲章が輝いている。国中でもその顔を知らぬものがいないほど実績と地位のある相手だ。
浮世人のカジュでもそれくらいは知っているはいるが、カジュには大したことではない。
思い切りイスの背に体重を預けて、しばらく天井を睨み、それから今度はテーブルに頬杖をついて彼女を憎憎しげに見つめた。
カジュは態度に気持ちが現れて、表情で言いたことが分かりそうなほどだった。
「あんたがそれ以外でやってくることなんてないだろう」
しかし彼女はそれも気にしない。
「それ以外でもいれてもらえるのか?」
カジュとは逆に感情など読み取ろうとすら思えない、むしろ感情というものはない雰囲気だが過去に付き合いのあるカジュには幾ばくかはそれが分かる。
嫌味半分、期待半分。彼女はそんな言い方だった。
分かりはするが受け入れはしない。
「それは分からん」
そう言いつつ、入れる気はさらさらない。しかし彼女が本気になれば入れないこともないと分かっている。
「私もこれでなかなか忙しいんだ、許してくれ」
「はいはい、で? 頼みたいことって何?」
大よその検討は付いていたのでさっさと本題にいざなった。
「悪魔討伐だ」
予想はしていたが、言われた瞬間嫌な予感がカジュの脳裏をよぎった。
「断る。って言ったらどうなる?」
「分かっているだろう、断ることはできない。国王直々の命だ」
「それでも断ったら、いつもみたいにこの森処分するって言うんだろう? 俺と全面戦争したらそっちも結構の打撃だっていつも言うじゃないか。いつか本気になるとか思わないのか?」
「君の性格をよく分かっているからね、それにいつもきっちりと問題を解消してくれている。実績からも君に依頼が行くのは仕方がないことだよ」
「仕方ないって言えばすむと思ってんのかよ」
「分かってほしい、我々も出来る限りのことはやってからの依頼なんだ」
「それが本当じゃないってのは分かってるんだけど」
「どういう意味かな?」
「あんたらだけでも遂行できないことじゃないが、出る被害が惜しい。だから俺を借り出して損失を少なくしたいんだろう?」
「傷つく人が一人でも減れば良いと思うのは当然なことだと思うが?」
「偽善だなー」
「そんなことはない」
「あんたはな」
この女軍人は良くも悪くもまっすぐな性格で嘘をつく事がない。心底そう思っていて、そして世の中には嘘が満ちていることも知ってはいるが、彼女にはそれを許さないだけの力も地位も頭脳あった。微笑めば少しは武器になりそうな容姿も持っていたが、そこには全く頓着せず人を救うことに全てを捧げていた。
だからカジュはこのアスーロズ・アリアという女が苦手で弱い。そして自分がアリアの要請を拒んだ場合その案件がどうなるのかも把握している。だからこそ尚更断れない。
カジュは他の誰でもなくアリアの要請だから承諾する。決して男女の仲ではないが、アリアは自分の正義を外れないことならばカジュの援護も厭わずしてくれる軍や国家には珍しい存在なのでアリアが無駄に追い詰められるようなことは避けたい想いがあるからだった。
「ったく、いつもそれだ。わかったよ、誰を倒せばいいんだ?」
「フォレスト・ドゥークとリリー・ラーの二人だ」
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