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きっと何処かで行われたであろう異世界召喚。

読み易さに重きを置いた習作。


評価、ポイント希望。




 突然、空から一条の眩い光が降り注ぎ、

 それが途切れると景色はガラリと様変わりしていた。


 鉛色の雲が垂れ込める昼間の空から、

 雲一つ無い夜闇の空へと変わり、

 そこここに瞬く星々はこれまでに見た事も無い星図を形取る。


 そして頭上には、星と呼ぶには大きく月と呼ぶには小さい、

 白く瞬くそれが地を見下ろしていた。



 ここは…何処だ――?



 周囲を見渡せば、遥か彼方に山脈の影、

 夜闇に浮かび上がる木々の頭、

 規則正しく並ぶ幾本もの石柱、

 揺らめく篝火、どよめく全身鎧、取り囲む紫紺のローブ、

 そして足元の石床には既知にない文様の魔術陣。


 どうやらここは、森の奥深くにでも隠された遺跡か何かだろう。


「世界が混迷を極めし時代――。

 新月の夜、天上に我等が守護星閃きし刻、

 大いなる我等が主へと祈りを捧げ給わん。


 祈り聞き届けられし時、その喚び掛けに応え、

 主の力の欠片を携えし救国の英雄をお導き下さるであろう……」


 謳うように朗々と唱え、

 数人の全身鎧の男に護られるように豪奢な衣服を身に纏い、

 頭に冠を戴く初老の男が進み出る。


「よくぞ参られた。

 我等が救世主よ」


 自分の倍程の背丈のある相手を見上げながら、

 男はそう言葉を紡いだ。



 なるほど――。



 奇しくも異世界の儀式召喚とやらに捕まってしまったらしい。


 しかし、

 この者が言うような主とやらの介入が無かった事から、

 人の創り出した半端に高度な召喚儀式を

 神の奇跡等と体良く偽っているのか、

 単に騙されているのか、その辺りだろう。


 辺りに目をやると全身鎧共の纏う闘気は並程度。


 紫紺のローブ共の宿す魔力は、

 せいぜいが並の上か良くても上の下。


 どれもこれも身の丈も低く、

 大きくとも胸の高さ程もない。


 束になって掛かってこられようとも相手にすらならない。


「どうか悪逆なる魔王の軍勢を討ち滅ぼす為、

 我等に力を貸してはくれまいか?」


 こちらをじっと見つめたまま、

 訥々と語り掛けて来る。



 どうやらこの世界にも魔王と呼ばれる存在が居るらしい――。



「もしかして……

 余の言葉が理解出来ぬのか?」


 男の目に躊躇いの色が過ぎ、

 さざなみのような静かな動揺が、

 漣のように静かに広がる。


「貴様は何者だ――」


 男が再び口を開く前に問い掛ける。

 途端、周囲がにわかに色めき立つが、

 男が手をかざしそれを抑える。


「余はイクストーマ=フリザリオ=エル=オルスタインⅧ世。

 このオルスタイン王国の国王である。

 其方の名をお教え願えぬだろうか」


「貴様等は魔王を殺す為に英雄とやらを喚び出した……

 相違ないな?」


 国王を名乗る男の隣に控えていた全身鎧の男が

 腰にいた剣の柄に手を掛けるが、

 王がそれを手で遮り首を振る。


「如何にも。

 彼奴は封ぜられし最果ての地の奥底より這い出すと、

 強大な力を以ってその地に棲まう魔族や亜人共を併呑し、

 瞬く間に周辺の村や街、果ては国までをも蹂躪しては、

 その地に住まう民草達を虐殺してしまった……」


 王がこの世界の魔王が如何に非道で卑劣で悪辣であるか、

 それに以下に対抗し民草を護ってきたかを語り始めた。


 が、

 そんな一方向からの偏った主張には興味は無い。


 流れるように宣う王を見据えたまま、

 体内魔力オドを細く細く紡ぎ周囲へと張り巡らせ

 探知の魔法を展開する。


 大気魔力マナの密度が薄いのは儀式召喚に使用したからだろうか。

 体内魔力と大気魔力の親和性から魔法は問題なく使えるようだ。


 しかし、

 この世界の大気魔力の密度が儀式召喚のせいではなく、

 この程度が本来の密度であった場合、

 魔法の威力は2〜3割低くなると見積もっておく必要がありそうだ。


 そしてこの場にいる連中は、

 やはり全身鎧共は並と一人だけ並の上。

 紫紺のローブ共は並の上と三人が上の下。


 仮にも王と名乗る男が居合わせているのだから、

 恐らくこれが精鋭であるのだろう。


 ならば王の側には特記戦力と呼べる者は居らず、

 魔王側には魔王自身を含め一人か多くとも四〜五人。


 何方どちらにも与しない第三勢力には少なくとも二〜三人。


 大気魔力の密度が高ければ変わってくるだろうが、

 現状この程度の試算が妥当か。


 戦いようによってはそこそこ楽しめそうだ。


「……どうか救国の英雄よ。

 我等人類の為、

 先頭に立ち戦ってはくれぬだろうか?」


「それは出来ぬ相談だな」


 祈るように懇願する老いた王の表情が、

 その一言を耳にして僅かばかり歪もうとして無理矢理堪える。


「無論、

 我等に出来うる可能な限りの願いは叶えよう。

 それでも出来ぬと申すか?」


「出来ぬな」


 今度こそはっきりとしわ深い顔に渋面が浮かんだ。

 人の上に立つ者がその程度で顔色を悟られてどうする。


 周囲に意識を向ければ、

 そこここから怒気とも殺気とも付かぬ気配が漏れ出している。


「其方は力無き我等に主が遣わした救世主では無いのか?

 何故なにゆえ、我が願い…

 いや、我等が願いをそう無碍に切り捨てるのだ?」


「それは……」


 そこで一度言葉を切り、

 背から黒赤こくしゃくに輝く光の翼を、

 両の手から内に内にと猛り狂う獄炎の塊を生み出す。


「我は貴様が宣う救世主等ではなく、

 世界を灼き尽くす紅蓮の魔王であるからだ」


 その言葉が最後に耳に届いたかどうか。


 周りにいた全ての者は

 断末魔の悲鳴を上げるいとまもなく

 その尽くが炭化した。


「愚かしくも我をこのような世界へと喚び出したのだ。

 精々楽しませてくれよな」


 そう何処に居るとも解らぬ

 まだ見ぬ強者に向かって呟いた。




 その日――。

 儀式の塔を内に抱えた聖域の森は消滅し、

 オルスタイン王国は三日と経たず滅亡した。


 その後、

 二体の魔王が幾度となく激突し世界中が焦土と化すのは、

 そう遠くない未来の話であった。




読了感謝。

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